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座敷童  作者: 二階堂
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隣人:能見 その2

水のはてな顔が目に飛び込んできた。そもそもこの問題の起きたタイミングを考えると避けては通れないため、いつかは水には話をするつもりであったが、この顔を見て今すぐ真実を伝えることを決めた。手を洗っている時、今の自分がしようとしていることを振り返り少し眉をひそめ水の元に向かった。


正直にすべてを打ち明けるつもりだったが不安がTを囲った。俺がこのベールを脱ぐことがこれからにどう響くか予想ができていない。正直、水との距離は少しづつ近づいてきていると思うがそれが善なのかもしくは悪なのかそこがはっきりしない現状で自ずから裸になるのは危険な行為だ。彼女が言っていた「害はない」という言葉もその前後に散りばめられた言葉で、まるでスイカに塩をかけスイカ自体の甘みを強くするように信用性を与えているが実際は眉唾物だ。彼女の人としての奥底は計り知れない、その信用性すら掌の上である可能性だって十分考えられる。


やはり、この弱みはいったん腹蔵としよう。しかし、この問題はやはりいつか水とエンカウントする。いま何も言わないことは悪手だし、すべての面について嘘をつくのも恐らく同じだろう。ここは真実を話し、自分が真に隠したいほんの1部分だけ嘘で覆い隠す「ピエロ面してナイフを隠す」一番強固な嘘のつき方をしよう。


そう決めるとTは水の近くに座り、まるで新しい母ができることをまだ幼い娘に伝えるように目を見つめ、しかし、職を失ったことを家族に伝える大黒柱のように暗いベールで覆いながら能見についてのことを話し始める。


「ドアを強く締めてビックリしたろ、悪いな。今話してたのはお隣さんの能見って人で、あの人には普段からよくしてもらってるんだ。さっきもちょっとした身の上話してたんだ。」「隣人に声をかけられた動揺には見えなかったがな。」「そりゃあちょっと前に霊が家に住みだしたんだぞ。魑魅魍魎がマンションの廊下に住み着いててもおかしくない。神羅万象に対して神経過敏になって当然じゃないか。」とTが作り笑いを浮かべると、少女は怪訝な面持ちになった。少女に対する不満を皮肉的に混ぜ反駁し、その成功を表情から読み取った喜びの念と少女に対する大人げなさによる自責の念がTの内側で一騎打ちを行う。「魑魅魍魎とは失礼じゃないか?前もいったが仲間にはであったことはない、魑魅魍魎ってのはのは恐ろしい妖怪、ことを指すのだろう。Tには私がそういう風に見えるということなのか?」水は怒りあらわにした。この反応はTの予想したところではななかったが、確かに水の不満は正しいと思い自分の軽率な行動を自覚し誠心誠意謝った。


水が時折見せるいまのような少女の部分の中にある、純粋という言葉をさらに絞ったかのような透明さを見るたび、Tは水のことが知りたくなった。だが、それは、水が普段見せる大人の部分の中にある底の見えない大穴に映る闇によって阻止されるのだった。


Tが謝罪で半ば強引に話題を切りその場から離れたことで、水の疑問は払しょくできないまま話題が終わった。水はなにか言いたげだったが、それを一旦あきらめざるを得なかった。


飯をどうするか聞くと、少女は朝と同じように「いらない」とだけ答えた。


Tは無性に肉が食いたい気分だったので、冷蔵庫にあった牛肉を焼き、レンジでチンしたご飯と一緒に食べた。この日のTの食事風景は落ち着いていた。肉を食したいという欲望が原動力とは思えない、静かに、そして丁寧な食べ方だった。


風呂を沸かし、昨日と同じく服を持って行って風呂に入ったあと布団を敷き寝ころがりながらスマホとテレビを行ったり来たりした。別に目的があったわけではなく、気まずさから逃れる手段だったためそれらから流れてくる情報はTからこぼれ床を濡らした。この気まずさは初日の気まずさとは違い、本質的には一歩前進している、喧嘩ができるようにはなったのだから。これをTが理解したのは朝になってからの話だった。


ところで座敷童とは幸運を運ぶらしいが世界にもそのような存在は多いのではないか。日本にもいらっしゃる赤い服着た髭面のおじさんもノルウェーの幸運を運ぶ存在だと言える。青い鳥だって「幸せを運ぶ」だろう。この幸福を運ぶ対象が現実にはっきりと存在するのとそうでないのでは意味が大きく違う。もしかしたら夢に見るほど幸せに飢えていた人が作り出した幻想こそがサンタクロースや座敷童といったそういうものなのかもしれない。


閑話休題






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