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座敷童  作者: 二階堂
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隣人:能見 その1

Tは残業もなく仕事が終わり、取っ手を掴もうとするとき、「こんばんは。」と右後ろから声で肩を掴まれた。


昨日の出来事があったのからどんな奇怪な化け物に出会ってもおかしくないと思慮し、恐る恐る声のほうを向くと、それが隣に住む能見だとわかり、無毒の蛇に噛まれた時のように嫌な安心をした。「こんばんは。」「どうも、こうやって話すのもお久しぶりですね。昨日夜遅く叫び声が聞こえましたが大丈夫ですか?」「ええ大丈夫です、ちょっと大きな虫がいましてね。」Tは水のことを隠し気遣いに対し表面だけ感謝した。


「大きな虫ですか、虫とか苦手だったんですね?」と勘繰る表情で質問してくる能見の顔を見て、Tは前から持っていた能見に対する嫌悪感に対して思いをはせていた。この男は、能見はどこかで人のことを下に見ている気がする。時々やいてくるおせっかいも恩を売るためのようにしか思えないし、ひとの個人的な領域に踏み込んでこようとするのもムカつくんだ、と思いながら「虫は昔から大嫌いですよ」とできる限りの笑顔で答える。


「そうでしたか。しれにしても夜遅くにビックリしましたよ。無事で何よりです。」「申し訳ないです。虫が大の苦手でね。理性ではなく本能で嫌ってるんでしょう。こんな怯懦は百害あって一利ありていどのもなんですね。ともかく迷惑かけてすいませんでした。次は気を付けます。」「虫って気持ち悪いのもそうだけど、ウザくない?人の家を我が物顔で使ったり、血を吸ったり人様をなめてるとおもうんですよ。。周りをウロチョロされるのもイライラしますしね。」


Tはすこしの滑稽、ぞっとしたが、話を終えてくれなかったので「確かによく考えたらムカつきますね。」と心を無にして言うと「そうですよね。今回の件で怒ってるわけではないのでお気になさらず。」と言って手を振った後能見は帰った。


すこし違和感を覚えたが男はことが一段落したことに胸をなでおろし、ドアを開けるとやはりそこには水の姿があった。なぜか玄関前で座っている少女と目があってしまい、何を言おうか言葉を選んだあと、ドアを開けたままTは「ただいま」と声をかけると、声が返ってきたのは恐ろしき方角からだった。「やっぱり誰かいるんだ、彼女でも連れてるんですか?」見ていなくてもにやけ顔が映る声が聞こえる。Tは力任せにドアを勢いよく閉めた。


男は心の中で猛烈に非難した。能見ではなく自分を。思えばこの状況を回避する方法はいくらでもあった。そもそも昨日、ドアを開けたまま喋ってたのだからこの最低なゲス男がそれを聞いていないわけがない。そういうのが好きなこいつがそれをおくびにもださない時点でおかしかったのだ。そしてこいつがそれに触れず、「大きな虫がいた」だなんていうインスタントの嘘で納得しで切り上げることもおかしかった。本当のことを言わないなら、どんな手でも使う。あいつが興味のある事柄に近づこうとしていろいろ面倒を起こしてたことは俺も知っていたのに。そして、俺はあいつが本当に帰っていないことになんとなく気付いておきながら警戒を怠ったのだ。反吐が出る。


男が内省しているとそれを能見は気にもとめず意気揚々と続けた。「彼女さんなんですか?昨日話してるのがちょっと聞こえましてね。いや、だましたのは申し訳ないと思ってますよ?でも直接「昨日の声は誰なんですか?」なんてきいたらごまかされちゃうでしょ?確証を得たかったんで、あなたに嘘をついてもらう必要がったんですよ。で、誰なんですか?その家にいる方は?隣人のよしみで教えてくださいよ。」「えぇ、まああなたが私を騙したのは許しますよ。」全く許すつもりなどなく、怒りに燃え上がっていたし、この腐った匂いのする男といち早く離れるためについた二つ目の嘘だった。


Tは葛藤した。座敷童がいるというべきか否か。そもそも信じてもらえるのだろうか。このゲス男に座敷童の存在を信じてもらって何があるというのか。もし座敷童の話を信じられたら、「妖怪大捜索」ということになるだろう。それは絶対に回避したい。座敷童は家主以外に見えないという話もある。座敷童がいる、という回答はこの時点でTの中から消えた。嘘をつくとして、どうこたえるかもこれからを左右する大きなものだったが、どう答えても能見を無に帰すことは出来ないと判断し現実的かつ一番逃げ道をつくれる付き合っている彼女が家に来た、という設定に決めた。


「彼女が今家に来てましてね。人見知りなんで顔は見せたがらないんですよ。」「そうなんですか。初めて見ました。いつから付き合っていたんですか?教えてくれればよかったのに。」「二か月前から付き合い始めました。お話する機会がなかったんでね。」Tは苦笑いで答えた。相手が絶対に間違っていることでも自分が間違ってるという結論にしてその場をうまく収めようとした。Tはそれが出きる男だった。そして、もう一方の面としてそういう決断をする自分に一番怒りを燃やせる男でもあった。能見は案の定彼女の顔を見ようと試行錯誤して四方八方から攻めてきたが、Tはかろうじてそれをいなすことに成功した。


最後に能見が「彼女さんに僕のこと話しておいてください。彼氏のお隣さんなんで次来たときは顔見せてください、ともね。」と言い帰っていったのを、Tは獲物を狙いすますハイエナのような目で果てまで見届け、更に一瞥した後取っ手を極限まで強く握りドアを開け部屋に入り光すら入れない速さでドアを閉めた。




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