出会い4
二日目
朝起きると、少女がクローゼットの前で座っているのが見える。Tが目を覚ましたことに気が付き横目で確認しているようだ。少女は大分前に目を覚ました様子だった。「」「」Tは意識がはっきりしだすと、昨夜浮かんだ雲を掴むために少女に声をかけた。「あんた、食事なんかどうするんだ?」「わからない。お腹が減るって感覚はないし今まで食べてこなかった。」「ふむ、じゃあ服装は?きのうからずっと同じ着物だし窮屈だろ。着替えたらどうだ?」「窮屈じゃないんだ。この着物は私の一部なんだ。人がなにかに究極の愛着を持つとき、時として「私そのもの、私の一部」だとか言うが、私の場合はその意味と共に物理的にもそうなんだ。着ている感覚がない。これも彼も何かわからない。昨日もいったが私に与えられた感覚というものは私が幸運を運ぶ座敷童という一点のみだけだ。」
Tはもっと根本に踏み込みたかった。あんたが食事を必要としないならなんであんたは睡眠を必要とするんだ?着物含めた食事をとらないあんたの体はどうなっているのか。そこに実態があるのか?それとも緑に囲まれた小川のせせらぎのように透き通っているのか?いくらでも質問したいことはある!しかし「勘当だ!家から追い出す!」となるかもしれない!そもそもそういう質問攻めみたいなものはジェントルマン的ではないし、霊が実在する!って叫んでるやつと霊なんか絶対存在しえない!って叫んでるやつが二人でいるとしたら霊に襲われるのは後者ってのが心霊現象のお約束じゃないか!こう現実的だとどうも嫌でたまらないな!しかし、家に入った方法ぐらいは聞いてもいいだろ、これは正当な権利ってやつだぜ。もしこれで俺が絶望のどん底に落とされようものならその時は不公平ってやつに命を懸けて立ち向かってやる!文字通り「命を懸けて」だ!
「君はどうやって昨日家に入ったんだ?」「家に入ったというより、前からそこにいると錯覚してしまうぐらい違和感なく、気づいたらここにいたんだ。」「瞬間移動ってやつか、ますますわからないな」「瞬間移動ではない、感覚的な話をすると移動はしてないんだ。昔からそこにいるって感じで、私自身ここにいるってことに対して違和感はない。あるのは変化のみだ」変化と違和感が乖離してるこの状況と彼女の言い分からしておそらく嘘はついていないだろう。「多分この現象は人間の範囲じゃ説明できないだろうから、あんたの言うことに嘘はないのだろう。それで自分のことを納得させる。そうなると俺らはこれから同居人ってわけになるな。そうなると俺はあんたのことを:あんた:と呼ぶわけにいかなくなるから、ぜひ名前を教えてほしい。」というと、少女は「私のことは水と呼んでくれ。」と、答え、そのまま「お前のことを何と呼べばいい?」と続けたので、「Tと呼んでくれ」と言うと、水はゆっくり表情を暗くし、生返事で応対した。
Tはシャワーを浴びた後、食事の準備を始め、パンをトースターで焼いている間、沈黙か続いた。その沈黙を引き裂くようにトースターが鳴り響き、焼けたパンにバターを塗っている最中、Tは時間が迫っていることに気づき焦ってパンを頬張った。水の視線がやや気になったが、急いで食べ終わると、すぐさま服に着替え準備を終えた。
家を出る直前、男は彼女のいまだに萎えている姿を見て「テレビでも見るか?」と気を利かすと「見る。」と答えたので、テレビをつけリモコンの使い方を確認すると、少女が少し楽しそうにテレビを見始め、その姿を見てTは安心して少し蕩けそうになる。
「いってくる。」「いってらっしゃい」とほんの一言交わし、取っ手をしっかりと持ち玄関を開けると、空は晴れていたが、雨が降っていた。