出会い3
緊張が幅を利かせていた逼塞感のあった部屋が崩れ去りくだらない冗談に笑い声が出た。笑っている間、Tは少女の微笑に近くいように見えてどこか遠いとところに連れていかれそうになった。「全てを捨て去り光に溺れて身を焼いてほしい。」
ギリギリのところで指が自分の背広を掴み、しがみついて離さなかった。
もし離していれば骨抜きにされ反抗する力を吸い取られた後、その弱った自分にこの女は愛を知らない小国家の独裁者のように傍若無人の限りを尽くしただろう。そのような状況になった時点で自分の敗北が決定する。絶対にそうなってはいけないという硬い意志と、これとはまた別の奇妙なプライドが、宙に舞う彼の指先に力を賦与した。
家にはベッドが置いてあり、二人が寝るためには押し入れから布団を押し入れから出す必要があった。Tが布団を出している最中、座敷童なんだからここで寝れるだろ、と改めて思ったがここでそれを口に出すのはジェントルマンでないことをTは心得ていたし、こういうのが積もりに積って面倒ごとが起きるのをわきまえていたのだ。
少女がベッドで、自分が布団で寝るのが常識だし、それをTは理解していないわけではなかったが、どう結論付けるか迷っていた。こんないきなり来た女が俺のベッドを占領しやがって、という感情と、自分の中の常識かつ単純に幼い彼女に対する思いやりが交錯し、結局流れに背かなかった。
できることなら、布団をドアを挟んだ玄関近くに敷きたかったが、熱帯夜が増えてきて今日も暑かったので、冷房が効かないところで寝るのは厳しいと判断し、Tはしぶしぶリビングに布団を敷いた。彼はこういう、長く続く事柄は最初が肝心だということをこれまでの経験で嫌というほど思い知らされてきたが、背に腹は代えられないことも、彼はこれまでの経験で嫌というほど思い知らされてきたものだった。
Tが「ベッドで寝てくれ、俺は布団で寝る」と恩着せがましく少女に伝えると、「ありがとう」と言い少女は布団に入った。
風呂には入っていないが朝シャワーを浴びればいいと考え、スーツを脱ぎ寝間に着替えた後歯を磨いている時、鏡に映った自分の顔に宿る異様な疲れにTは少し狼狽した。驚きで疲れが飛んでいたが、自分の疲れを認識したことで、それがどっと押し寄せてきた。布団に入った後15分ほど少女のほうを警戒していたが、何も起きないことがわかると、頭の中に疑問や解決すべき事案が浮かんできた。頭の中に浮かぶ雲を、どうやって掴もうか考えてい大分時間がたち答えが固まってきたところで、改めて少女がぐっすり眠っているのを確認し、眠りについた。
Tは朝顔の蕾で眠る。すべてを照らしつくす太陽が静かに昇ろうとしていた。もう二度とないはずだった朝がそこまで来ている。
薔薇の花びらで少女は静かに眠る。