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chapter7 新たな刺客と契約

 「どうも、すみませんでした〜……」

 ようやく説教から解放され、ふうっと瑠衣は安堵のため息を着いた。

 朝っぱらから転校生を殴り飛ばした女としてのヤジは凄いものだった。いくら反射的で、知っている相手だったとは言え、許される行動ではない。それくらい、瑠衣も十分分かっている。

 ――全くあいつのせいでとんだ目に会ったわ!家に帰ったらとっちめてやる!

 怒りは勿論ファイへと向けられていた。

 時刻は昼。まだ弁当も食べていないのに、昼休み終了のチャイムが鳴った。ぐうっと低くお腹が唸った。

 「最悪!」

 瑠衣の気分はひどくムシャクシャしていた。


 授業が終わり、下校時間。

 大抵部活に入っている生徒が多いが、瑠衣はあえて部活には入っていない。その代わり、習い事をしているからだ。

 「瑠衣〜今日は久しぶりに行こうよ〜!」

 「う〜ん……、今日は気分が優れないから明日でいい?」

 「そう?まあもし気が向いたらいつものところで待っているから!」

 「分かった!じゃあね!」

 織音と別れ、瑠衣は歩き出す。後ろからこそこそとついて来ている鬱陶しい奴を引き連れて。

 上空からはマリアナが降りてくる。

 「どうか、したんですか?」

 「どうかしたもこうも……一体どういうつもりなのよ!」

 「人間の集いの場である学校で人間とはどんな生き物なのか実際触れて知るべきだと、マリアナが五月蝿いから……」

 殴ったのは悪い。だが。

 「考えが軽率過ぎるのよ!貴方達、校長とかに何かチカラを使ったでしょ!しっかり記憶を操作して!」

 「そうでもしないと入れてくれないじゃないか」

 「そんな事をしたら駄目なの!」

 これはいつもの喧嘩とは訳が違うとファイも薄々感じていた。

 「いい?人には人の生活があるの!それらをいくらチカラがあるからって操作したりしちゃ駄目なの!関係ない人を巻き込んで、自分の意思さえ貫ければそれでいいなんておかしいじゃない!人はチカラを持たない純粋な生き物なの!」

 長い論説を聞かされ、ううっと唸るファイ。

 それでもまだ足りぬと瑠衣は更に言葉を重ねる。

 「人を知ろうとするのはあんたの勝手。私には関係ない。そもそも契約だのそんなのに巻き込まれて一番迷惑しているのは私なの!他の人にまで迷惑をかけないで」

 彼女が言わんとしている事が何となく分かった。

 「……いい?別に過去を変えたいとかそんなのは言わない。契約者になってしまった以上は最後まで面倒を見る。だから周りを引き込もうとするのはやめて」

 自分の意思を貫こうと全てを捻じ曲げてはいけない。彼女はそう言っているのだ。

 ファイは唸るように返事をした。すると

 「ちゃんと返事くらいしなさい!」

 と髪の毛を引っ張られ、渋々ちゃんと返事をせざるを得なかった。

 ――ちゃんと分かってくれたみたいだし、もういいよね

 今まで憤りを感じていた心がすうっと穏やかに晴れていくようだった。やはり、言いたい事は率直に言う方が気持ちがいい。

 さっぱりした瑠衣の表情にはもうわだかまりなど一欠けらも無かった。

 気分転換の早いやつだとファイはつい笑みを浮かべた。そこからまた痴話喧嘩が始まってしまうのだが。

 会話にはほとんど参加していないマリアナだったが、彼らの様子を見ているだけで十分だった。

 安心した気分に浸っていたのだが、殺気を帯びた気配を感じてマリアナは咄嗟に振り返った。そこには人影があったものの、すぐに走り去ってしまった。

 確かに殺気立った、同じ精霊同士の気配だった。しかし、あの影はどう見てもただの人間であるように感じた。

 「どうした?マリアナ」

 「何でもない、です」

 「……?」

 彼女はあえて言わなかった。

 折角安心感を取り戻したのに、また緊迫した状況に引き戻してしまうのが嫌だったから。

 しかし、この二人を思いやっての行動が裏目に出てしまう事など、まだ知るよしもなかった。




 ファイが学校に転校してきて三日が経過した。

 彼は一時の人気者となり、何処の出身かや趣味などを沢山質問されていたが、今はそれもだいぶ落ち着いた。

 精霊が襲ってくる事もなく、平和だと思えてきた今日この頃に事件は起こる。

 それは下校時間。織音とファイと三人で帰り道を歩いている時だった。マリアナは上空から監視を続けていた。

 「ん?」

 突如、夕日の光が淡くなったかと思えば、そこに一つの影が。

 次の瞬間、マリアナはチカラに吹き飛ばされていた。勢いをつけて落下していく。その先には三人の姿が。

 彼女が落下してきている事に最初に気付いたのはファイだった。

 「危ない!」

 瑠衣と織音を押し出した。

 「きゃあ!」

 弾き飛ばされた二人は尻餅をつく。ファイが背中に庇うようにして立つ。

 背中を強打したマリアナが横たわっている姿を見て瑠衣が飛び出した。

 「マリアナ!」

 「え?誰それ?」

 織音の問いにも答えず、見えている土の精霊を抱きかかえる。

 「大丈夫!?マリアナ!」

 「平気、です……」

 マリアナが目を細めて睨む方向には宙に浮いた精霊の姿が。空気の渦がその精霊を取り巻いていた。

 腰まであると思われる銀髪を無造作にたなびかせ、灰色の目が瑠衣を見下していた。

 ファイがぼそりと精霊の名を呼ぶ。

 「カシオ……」

 「やあ、久しぶりだね。って言っても、人間からすればかなり長い時会っていない事になるだろうけど」

 低い声で瑠衣は初めてこの精霊が男だと気付いた。あまりにも美しい美貌の持ち主だったのでてっきり女だと思っていた。

 「ね、ねえ。二人とも、誰と喋っているの?」

 恐ろしいものを見ているかのように織音の顔は青ざめていた。

 ――あ……

 彼女が心の境界線を引いていくのが目に見えるようだった。

 否定したかった。自分が非常識になってしまった事を。しかし瑠衣はぎっと奥歯を噛み締め、何も言わなかった。

 マリアナが震える身体で何とか立ち上がった。精霊と対峙するのかと思いきや、織音の元へと歩み寄り始める。

 姿を露にしたのか、織音には見えているようだった。突如現れた存在に目を丸くしている。

 「人間、貴方は、助けて、欲しい?」

 「え?」

 「私の契約者となるのならば、私は貴方を命を懸けて守る。このままでは、ここで果てるだけ」

 いつの間にやらあのおどおどした口調ではなくなっていた。

 伸ばされた手に、織音は困惑しながらも応じた。手を取る。

 「私を、受け入れて。貴方のためにも、そしてここに居るファイ、瑠衣のためにも」

 そう言われれば断る彼女ではない。瑠衣は確信した。この契約は成就されると。

 瑠衣の予想通り、契約の契りを織音は迷う事なく受け入れた。


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