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chapter44 歩き出す者達

これで最終回となります。

 「瑠衣、私は、貴方に会えて、本当に、良かった、です」

 「それは私もよマリアナ」

 「自分の、意思を、これからも、大事に、して、いきます」

 抱き合い、別れの挨拶をする瑠衣とマリアナ。

 「我が契約主にもよろしく頼む」

 「分かったわ」

 カシオは最後の最後まで主人思いなものだ。

 「蓮斗にも言っておいて!人間になれたら絶対蓮斗のお嫁になるからって!それまでは浮気しちゃだめってね!」

 「きっとそれは言わなくても大丈夫だと思うよ。そこまで蓮斗、軽い人じゃないと思うけど」

 あれだけ強い絆があれば大丈夫だろう。それに、メリッサを怒らせたら怖い。

 「まあせいぜい人間の生活に苦労しな」

 「なんだよ!まるで俺が柔軟性がないみたいな言い方……!」

 「違っているのか?」

 遠まわしな挨拶に思わず瑠衣は吹き出した。

 皆、精霊も契約主達も根は優しかった。それぞれに個性があって、いつの間にか居て当然だと思っていたけど、こうして別れる時が訪れている。別れは辛い。でも、不思議と思うほど寂しくはなかった。

 離れていても、この絆は消えない。そう思えた。

 「準備はいいか?」

 頃合いを見計らって天帝が立ち上がる。

 いざその時だと思うと胸の奥がズキッと痛んだ。

 神殿の奥に巨大なため池があった。天帝が手を上げる。透明な水に変化が起こった。水色がかった色が七色に変わる。異次元の道が開いたのだ。

 「ここを下っていけば自動的に帰れる。行くがいい。それと、ここの存在は口外しないように」

 「分かってます」

 池の前に立ち、振り返る。

 温かい目で見送ってくれている彼ら。マリアナは既に瞳が潤んでいる。

 口の端を持ち上げ、満面の笑顔を作る。

 「ばいばい!」

 それが精一杯だった。

 踵を返し、そのまま池に飛び込む。着水する直前、

 「ばいばい!瑠衣!」

 「さよならは言わないさ!」

 答えが返って来た。

 振り返りはせず、瑠衣は手をひらひら振った。

 瑠衣の姿は完全に池の中へと消えていった。

 すかさずファイが

 「また何処かで!」

 そう叫んで池に飛び込む。

 やがて彼らの姿は七色の空間に消え去り、異空間への道が閉ざされ、池の水面はただただ水色帯びた透明に戻った。

 込み上げてくる様々な思いを押し止め、皆天帝の前に跪いた。

 だいぶチカラを使ったせいか、天帝の額にはうっすらと脂汗が滲んでいた。

 それでもなお、自分にはするべき事があると言わんばかりに見据える。

 「お前達にはまた新たな使命を与えようと思う――」


 周りの景色があまり変わらない中、落ちていく感覚だけがあった。

 ここではぐれてしまっては元も子もないと、二人は手を握っていた。自分は一人ではないのだと唯一確認できる手段でもあった。

 ――何処まで落ちればいいんだろう?

 果てのないように感じた。

 「あっ……」

 僅かにファイが身を震わせた。

 「どうかしたの?」

 「何だか、身体が……あつ……」

 突如、彼の身体に変化が訪れた。特徴的だった長い耳が丸みを帯びて、人間の耳になる。髪と目の色も濃さが薄れる。

 いつの間にか、足が地面についていた。バランスを崩しかけつつも瑠衣は地面を踏みしめた。

 目の前には見慣れた景色が広がっていた。学校に通う道だ。そして、家の前の通りでもある。長い間離れて暮らしていたかのように懐かしかった。

 とんっと同じくファイが着地した。

 閉じていた目を開け、自分の姿を暫し眺める。

 都合のいい事にカーブミラーがあったので、そこで確認する。変化した耳をみて思わずファイは喜びの歓声を上げた。

 「やったあ!俺は、人間になれたんだ……!」

 きっと髪や目の色が変わったのは人間らしさを上げるためだ。赤毛で黄色の目をした人間は少なくとも見た事がない。そのためにほぼ茶色と呼べる色の髪にし、目も琥珀のような色にしたのだ。

 彼は確かに自分と同じ人間になったのだ。

 「なあ、瑠衣」

 「……」

 「泣いているのか?全く本当に泣き虫だな、お前は」

 「五月蝿い〜!」

 ファイに出会ってから、色々あって泣く事が確かに多くなった。悲しい事もあったけど、今は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 失いかけて、初めて知ったこの気持ち。

 出会った時には有り得ないと勝手に決め付けていた事。

 今なら――否、今こそ、伝えなければ。

 「ファイ」

 ぼろぼろと涙を流しながら瑠衣は初めての告白に挑んだ。


 「私は、ファイの事が好きだよ……。もう精霊じゃないから、別れなんて来ないよね?私、ファイが別れを切り出した時は、奈落の底に突き落とされたくらい悲しくて悲しくて仕方がなかった!でもそれで初めていつの間にか大切な存在であったのだと気が付いたの!だから、護ってくれなくてもいいから、側に居て欲しいの……!」


 暫しの沈黙。

 そっと指が頬を伝う涙に触れた。

 「俺は、会った時からリンゼの姿と重ね見てお前に惹かれてた。人に他人のイメージを重ねて思いを寄せる俺は最低だと思った。でも、瑠衣は瑠衣でリンゼとは違うのだと知った時、自分は本質的に瑠衣に惹かれていたのだと気付かされたんだ。この想いは届かずとも、お前だけは絶対護ると心に誓って戦ってきたけど――」

 ふいにファイの腕が瑠衣の身体を引き寄せた。そのまま抱きしめられる。

 「もう何にも遠慮しない、しなくてもいいんだ――。俺も、お前が好きだ。精霊としてのチカラはもう使えないけど、それでもお前は俺が一生護ってやる!」

 「……うん――!」

 二つの影が重なった。




 時が過ぎていく。

 変わらない日々。でもその中に幸せがある。

 ある交差点ではウェービーの金髪の少女が向かいの通りに居る自分の彼氏――メッシュをかけたお洒落な少年に手を振っていた。彼らは歩行者信号が青になった途端駆け出し、互いに抱きつく。どう見ても、お似合いのカップルだった。二人は都会の喧騒の中に仲良く消えていった。

 公園では一人音楽プレーヤーを聞きながら颯爽と歩く少年が居た。その少年に、人懐っこい幼き少女が纏わり付く。既にこの世には居ない彼女の面影を感じながら、少年は少女に引っ張られるがまま公園の遊具広場へと行くのだった。

 住宅街の一角にある豪邸の中で、久々の制服に身を包み、少年が学校へと登校しようとしていた。門の前には年頃が同じほどの使いが居た。不安な気持ちを押し退け、彼と共に集いの場へと向かう。

 そして……。

 「おい、瑠衣!織音達も来たぞ!」

 「ええっ!?ちょっと待って〜!」

 ドタバタと階段を駆け下り、靴を履いて雪崩のように飛び出る。

 そこにはファイ――今は藍と名乗っている――と織音、マリアナ――彼女もまた、真里と名乗っている――が待ちくたびれていた。

 「毎度毎度の事だけど、遅刻しちゃうから走るよ!」

 「もう、瑠衣の馬鹿、です!」

 「全く同感だ」

 「そこまで言わなくたっていいじゃない!」

 文句を言いつつも笑っている一向。

 ――皆、幸せになれますように……

 何処からか聞いた事のある、祈り声が聞こえた気がした。立ち止まり辺りを見回すが無論、彼女の姿はない。

 「何してんだよ、急ぐぞ」

 「――うん」

 その後ろ姿を銀髪の持ち主である天帝が瑠衣の家の屋根から見送る。見届けた後は幻のように掻き消えた。

 大切な人が側に居て、当たり前のように一緒に居られる。

 そんな日々が、ずっとずっと、続いていきますように――。


 <完>


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