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chapter40 先にあるモノ

 本来ならば魔法を使って更にテンポ良く行ける道なのだが、人間である瑠衣には移動手段が徒歩しかない。

 仕方なく一行は瑠衣に合わせて歩く事にした。しかし歩くのは容易くない。体力を消耗するものだ。

 そのため、一定の時間になれば、

 「疲れた〜!休憩〜!」

 とメリッサの号令でちょくちょく休みを取る。余計に時間がかかってしまうので、これでは人間界での換算で二日はかかってしまいそうだ。

 しかし先に進むごとに瑠衣は身体に異変を感じていた。

 「瑠衣?」

 少しの異変もファイは見逃さない。

 彼が心配するのは分かっていた。だが平気だと貫いた。

 だがそれもしばらくして限界にきてしまい、瑠衣はとうとうその場に崩れ落ちた。

 「瑠衣!」

 ファイを筆頭に皆が駆け寄る。自力で起き上がれないほど瑠衣の身体は弱り果てていた。

 ただの疲労によるものではないと瑠衣は悟っていた。何か別の、得体の知れないチカラが働いているのだ。そして、自分だけでなく内に居るリンゼも苦しめられているのだと直感していた。

 瑠衣の意識はブツリと糸が切れたように闇へと呑みこまれていった。


 『やはり、そう簡単には行かせてもらえないと言う事ね……』

 淡い光に包まれて、彼女は姿を現した。

 『貴方は無理やりここに連れ込まれた。今度こそ、私を消滅させるためにね』

 ――そんな!

 『更に、私と同じ事を繰り返そうとするファイにも容赦はしないでしょう』

 ――同じ、事?

 『ええ、精霊の姿のまま天帝に捧げると言う行為よ』

 一度見た事のある夢が過去の記憶であると決定付けられた瞬間だった。

 そして知ってしまった。彼が最後の最後で自分を退けようとした理由を。

 リンゼと関係のある自分を巻き込んでしまうに違いないと思ったからだ。天帝と言う存在はどんなものか知らないが、彼女が自分と一体化して生きている事くらい知れているだろう。仕留め損ねたものを野放しにするほど緩い者など居ない。

 つまり、自分はまた進んで危険な場所へと踏み入れてしまったのだ。それも、ファイの思いを踏み躙って。

 ――本当に、私は全然分かってない……

 『……過去を後悔しても、どうにもならないわ。何とかするわ、いいえ、何とかしてみせる。ファイも貴方も私が――』

 それはどうかな。

 突如轟いた声にリンゼが震え上がった。

 闇の中から大きな掌が伸びてきた。ただならぬ殺気を感じて瑠衣は悲鳴を上げた。

 「いやああああぁぁぁ!」

 「瑠衣!」

 ファイの声で急に視界が開けた。

 心臓が破裂しそうなほど脈打っていた。呼吸も荒く、苦しい。

 ――今のは、夢だったのね……

 ただの夢なら気にするまでもないのだが、とてもただの夢には思えない。これから現実で、何かが起ころうとしている。そしてそれを阻止するためにリンゼは、自らの消滅を覚悟している。それほどの一大事が降りかかると言う事だ。

 「おい、大丈夫か?」

 まともにファイの顔を見る事が出来ない。

 「……ただ悪夢にうなされただけよ。大丈夫」

 と、突如グラリと景色が歪み、意識が闇に閉ざされた。

 眩い光を放ち、瑠衣の姿が一変した。

 ブロンズの髪が伸びて色素を失い、淡い緑の髪となる。

 「り、リンゼ!?」

 カシオとメリッサが裏返った声で言った。

 びっくりするのも当然だろう。彼女は一応消滅した事になっていたのだから。

 一方のクートはあらかた察しが付いていたようだ。瑠衣が人間には持ち得ないチカラを暴走させたが、あれは樹を司るリンゼのチカラそのものだったからだろう。

 『久しいですね。メリッサ、カシオ、クート……聞こえているでしょう、マリアナも』

 クートが思わず自分の胸を押さえた。

 あの時会うのはこれで最後だと彼女は言っていた。なのに姿を現した――ましてや体力を使ってまで。それには理由があるはずだ。急を要する理由が。

 案の定、リンゼは語り始めた。

 『落ち着いて聞いてください。天帝は、私もろとも、瑠衣さんまでをも消滅させるつもりです。染み渡るチカラは確実に瑠衣さんを――私も蝕んでいます』

 全身が強張る。

 『そして、ファイも――』

 リンゼが咳き込む。口から血を吐き出す。

 駆け寄ろうとしたファイとメリッサを手で制するリンゼ。残された気力を振り絞って伝えなければならない。

 『お願い、ファイ……。天帝に彼女を殺させないで。必ず、護りきって……。そして、貴方も、死なないで――』

 その場に倒れこむリンゼ。

 彼女の髪がみるみるうちにブロンズのセミロングヘアに変わった。瑠衣に入れ替わったようだ。

 やはり天帝は全てを悟り、仁王立ちして待っているのか……。

 今更逃げることも出来ない。ましてや、彼女をこのままこちらの世界で彷徨わせるなんて出来るはずがない。

 「皆……」

 「そう、だったよね。リンゼもこんな形で天帝の元へ行って、それで……。ファイも、ただで済むはずがないよ!」

 「こうなると覚悟はしていただろうが、瑠衣がこのような状態になってしまうとは予想外だっただろう」

 「早くしないとその子の体力が持たない。だが、元の世界へ返すには天帝のチカラが必要不可欠。とても説得がつくような状態でもない」

 「それでも俺は諦めないさ!ここでがたがたと泣き言を言っていれば瑠衣がこのまま力尽きるだけだ!俺は約束したんだ!こいつを、護ってみせるとな!」

 抱きかかえた彼女の身体は前に抱いた時よりも軽く感じた。

 顔色はなおも良くない。

 「まあ協力はしてやるさ」

 あまり積極的に物事に関わろうとはしなかったクートの発言にファイははっと顔を上げた。

 「当たり前だ。色々と世話になったからな」

 「あたしも色々あったしね。一緒に天帝殴りにいってもいいわよ?」

 「……それで後悔するなよ!」

 これも彼女の人徳のおかげなのだろうとファイは思った。

 もしこの場にマリアナが居たのならば、彼女もきっとおしみなく協力してくれただろう。

 そう言えばリンゼもこうして皆を惹き付ける人徳に長けていた。全く魂の共有者だけあって、似ているものだ。

 「俺とメリッサ、お前のチカラがあれば何とか移動出来るだろう?」

 「そうね。私の水をベースに風があれば」

 単体の魔法では生身の精霊と人間を運ぶのは至難の業だ。だがコラボレーションした協力魔法なら何とか行けるだろう。

 カシオが出した魔方陣にメリッサが水のチカラを送り込む。水は風を受けることによって移動力を持つ。それを上手く活かした移動魔法だ。

 「行くぞ!」

 勢い良く水が噴き出し、周りの景色を変えた。

 見事光差す天帝の住まう天空神殿へと移動出来たようだ。純白の柱が雲の上に立っていた。

 「お帰り」

 天空神殿の主が姿を見せた。


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