chapter38 存在の大きさ
すいません、つい最近に間違いに気付き、修正させていただきました。
どうして居ない筈のキャラクターの名が出ていたのか……恥ずかしい思い間違いでした。
「えっ!?」
「明日には帰る、だって!?」
「おう」
悠の家に全員集合させて、明日帰る事を告げたファイ。悠、蓮斗、瑠衣は互いに顔を見合わせ、表情を歪ませた。
メリッサは大粒の涙を流しながら蓮斗に抱きついた。
呆れたようにカシオとクートは壁にもたれて冷静に話を聞いていた。
「何で、そんな急に……!」
「さっさと人間になりたいって事だ。お前と過ごした日々の中で、俺の願いは更に強くなった。だから早く天帝の元へ行きたいって思っただけさ」
「ほうほう、天帝の元へと帰るのか」
話に割って入ってきたのは悠の父親だ。
ファイはどうもよくは思っていないらしい。怪訝そうに眉を顰めた。
彼は瑠衣の肩に手を置く。
「それは好都合だ。いっその事、今日に予定を早めたらどうかな?」
「ご忠告をどうも」
見えない火花が散っていた。
ごく自然な動作で悠の父親の手を解く。
「もう危険な事は何一つないんで、安心ですよ」
「……」
「父さん、そういう事で、別れを惜しむくらいはさせてもらうよ」
「どうぞ、ご勝手に」
踵を返し、父親はリビングを出る。去り際ぼそりと告げる。
「どうせ忘れる事になるだろうに……」
妙に変なムードになっている室内に、突如パンパンと手を叩く音が響いた。数名、驚いて肩をびくりと震わせた。
「さあ、今日は思いっきり楽しんで、お別れの会にしようじゃないか!」
「そうだそうだ!盛り上がっていこうゼ♪」
「……ぐすっ。まあ蓮斗がそう言うならいっちょぱあ〜っとやりますか!」
「そうと決まれば準備準備〜!」
慌しくなった室内。準備作業をそれぞれに手伝う一行。ただ一人、クートだけを除いて。
そんな彼の姿を見咎めた瑠衣がクートに近づいた。
瑠衣の気配がこちらへ来るのを分かっていながら顔を上げようとしないクート。
「クートも、ほら」
「……オレは、ダメなんだ。華やかな事に参加して、楽しんでいたら。サラの事を考えると、とてもそんな気にはなれない」
「そんな事ないよ。むしろ、楽しむ方が、彼女も喜ぶと思うよ」
強引に彼の手を引き、輪の中へと入れる。
今度はファイがクートに腕をかけた。
「ほら、お別れ会ぐらい、ぱ〜っとやれよ」
「……」
少し怪訝そうにしながらも手伝いを始めたクート。
皆して準備をしてから三十分後。別れの会が執り行われた。
悠が用意してくれた(実際にはメイドに作らせた)料理や飲み物をつまみ、個人個人に時を楽しんだ。
何故かジュースに混じってしまった酒のせいで、カシオとクートは酔ってしまい、奇妙な踊りを始めた。その様子を見た瑠衣、悠、メリッサ、蓮斗、ファイはけらけらと笑った。
何せ頭の硬い彼が酒に酔うだけでこんなに可笑しい行動を取るとは皆思ってもなかったからだ。
蓮斗は普通にジュースを飲み干した。メリッサも平気なようで、蓮斗に続いてグラスを空にした。瑠衣と悠は少し飲んだだけでそれ以上は全く口にはしなかった。ファイは臭いが気に入らなかったようで、一口も口にする事はなかった。
ボードゲームで盛り上がる中、瑠衣にファイが耳打ちした。
「出るぞ」
「えっ?」
熱中しているため、皆瑠衣とファイが離脱した事には気付かなかった。
外の空気は肌寒く、瑠衣が少し身震いした。
と、突然生温い風が吹く。寒さが少し和らいだ。すぐにファイの仕業であると気付く。
「その……」
「?」
ぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとうな」
ただ純粋にそう言われただけでこんなにもときめいている自分はおかしいのだろうか。
何とも意識した事なんてなかったのに、今は過剰と言えるほど意識している。
この温もりが、愛しい。そう思い始めた途端にするりと彼の身体が離れた。
そのまま彼は歩いていく。
何処へ行くの?
嫌な予感が走った。
「待って……!」
ファイは立ち止まる。くるりと振り返った顔は今までに見せた事がない苦々しい表情になっていた。
でも首を振り、笑みを浮かべた。
慌てて瑠衣は駆けた。手を掴もうとしたが、彼の手はすり抜けた。
空中に浮き、瞬時にファイは姿を消した。
直接脳に響く声。
「お前と出会えて、本当に良かった……」
ただ白い雲に覆われた空を見上げていた。
彼の姿は何処にも見当たらない。
何故。
そのまま膝から崩れ落ちた。
彼は一足先に別れを告げたのだ。もう、戻ってくるつもりはない。見送りすら、させてくれないのだ。
数々の思い出が脳裏をよぎった。迫り来る危険の数々、我が身を省みずに立ち向かう彼の後姿。口は悪くても、本当は優しく想ってくれていた。
『精霊だとか人間とか関係ない。一度好きになってしまったらそう簡単に割り切れるものじゃないよ』
メリッサの言葉が浮かんだ。
そうだ。
精霊だとか、人間だとか、種族の隔たりなんて関係ない。
ただ純粋に彼は想ってくれた。そして、それにようやく愛しさを見いだした。
自分にとって、ファイと言う存在は――誰よりも大切なモノだ。
でも、今更気付いてどうだと言うのか。既に彼は自分の前から姿を消してしまった。
どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのか。
彼がこんな形で姿を消す理由なんて、分かりきっているくせに。
別れが、辛いからだ。
大切な想い人との別れが。
「私だって、気付いたからには……辛いんだから!」
このままで終われる訳がない。
立ち上がり、踵を返してリビングに飛び込んだ。
「あれ?瑠衣、外に出てたの?」
「ファイの姿も見当たらないようだが……」
「皆、お願い」
切羽詰った彼女の声音に只ならぬ事態を察した精霊達が反応する。
「私を――……」