chapter34 再来
学校が始まったので、スローペースの更新になると思います。
出来るだけ早めにアップ出来るよう努めますので、よろしくお願いします。
天気予報によると、しばらくは雨が続くらしい。
放課後。部活のない瑠衣や織音などは帰る時間だ。まあ絶対に帰らなければならない訳ではないのだが。
浮かない空を見て気分も落ち込んだ瑠衣に追い討ちをかけるように織音が話す。
「雷とか落ちないよね?ねえ?」
「大荒れって言ってたから……保障は出来ないかな?」
「んもうっ、嘘でもいいから落ちないって言ってよ〜!」
涙目で訴える織音。
でも先程瑠衣が言った通り、保障は出来ないのだ。普通なら気休めとして言えるのだが、そうも言えない事態だ。
最後の精霊であるクートは雷の使い手である。こんな時には彼のチカラも増すだろう。襲い掛かってくる確率は断然に高くなる。
もう巻き込まないと決めたのだ。
「ごめん織音。ちょっと私、残ろうと思うから先帰ってて」
「え〜!?ちょっと、瑠衣!?」
足早に校舎へと戻る。織音はついて来ない。彼女の性質だ。何か理由があるのだろうとさくっと割り切ってくれているのだ。
この戦いが終わってからでも、二人の仲は取り戻せるだろう。
でも、奪われてしまったモノは取り返し様がない。例えば、命とか――。
整然と並ぶ靴箱の列。隠れるようにしてファイは靴箱の影に居た。
「それで、いいのか」
「私はもう迷わない。二言を言わせないで」
「……そうか」
ファイを見て、瑠衣は微笑んだ。
「信じてるよ、ファイ。私を絶対護ってくれるって」
「ああ、その信頼に応えて全力でお前を護る」
二人は屋上へと向かう。屋上はドア付近以外は屋根がないので、ファイにとっては今近づきたくない場所だろう。
我儘を言っているのは自分なのだ。
あの精霊を――クートを早急に止めなければ。じゃなければ、彼は。
授業中にふと今朝見た夢が思い出されてきた。あれがリンゼの記憶であり、真実を述べているのだとしたら……。
――止めないと、彼は失ってしまう……大切なモノを!
傘もささずに屋上に立つ。降り続く雨が服を、身体を濡らしていく。
暗い雲を睨み、瑠衣は待った。彼がやって来るのを。
そう時間の経たないうちに、空に変化があった。空が明るく光り始める。雷の予兆だ。
ファイが叫んだ。
「後ろへ退け!」
指示通り、後ろへと退く。背中をファイが受け止める。
次の瞬間、瑠衣の立っていたあたりに凄まじい光の塊が振り落ちた。
ドオオオン
来た。
「自ら精霊を差し出す気になったのかい?」
クートは嬉しそうに笑みを浮かべた。
そんな彼に対して瑠衣はきっぱり否定した。
「誰がそんな事、言ったのよ?」
「まあ、許可なんて貰えなくとも……」
再び空が光り、クートの背後に雷が落ちる。
稲光の影となり、見えにくくはあったが彼が不気味に笑う姿が確認出来た。
「願いのために、核はいただいていく!」
襲い掛かるクートの前にファイが立ちはだかる。
ファイは掌に炎を生み出し、それをクートへと放つ。クートは炎をまともに受け止める。炎の威力が降り注ぐ雨によって弱められているのだ。ましてや発火作用のある電気を扱う彼にとっては威力の弱い炎など相手じゃない。
「ちっ」
舌打ちするファイにクートが迫る。
「危ない!」
「その身体に痛いほど感じさせてやるよ!」
ピシャアアアン!
「うわあああああ!」
彼の絶叫。
膝を折り、その場へ伏せるファイ。その背中にクートの足が乗る。
足に力が入り、ファイは意に沿わず伏せ込む。
「ファイ!」
「こんな苦しみから解放されたいだろう?だったら素直に言うとおりにするんだな」
「ううっ、くっ……!」
苦しい。
でも譲れない、護りたいものがある。
重みのある足などもろともせず、ファイは立ち上がろうとした。するとファイの背中からクートの足がずれ落ちた。
今だ。
そう思い、勢い良く立ち上がった刹那、今度は襟首を掴まれた。
「せっかく答えまで聞いてあげたのに、残念だ」
冷ややかな声。
クートがファイの胸へと手を伸ばす。
「駄目ぇ!」
瑠衣は走った。
そのままクートを突き飛ばそうとした。
勿論、クートも雷のチカラを使い、応戦しようとしていた。勝ち目なんてない。そう本能的に分かっていても、止まるわけには行かない……!
次の瞬間、辺りが光に包まれた。あまりの眩さに瑠衣は目を閉じた。クートのチカラを受けたのだろう。身体中がビリビリしていた。
閉じた目を開き、倒れていた身体を持ち上げる。隣にはファイの姿が。よくよく見れば、右手が握られたままだ。
「馬鹿な契約主を護るために自らを犠牲にするとは」
――まさか、ファイは、私を護るために!
そう、あの瞬間ファイは必死でクートを振り払い、瑠衣を護ろうと盾になった。その時に右手を掴んで、回避しようとしたのだ。だが、間に合わず、彼はもろにチカラを受けてしまった。
試しに揺さぶってみるも、彼の返事は無かった。
腹の底から溢れ出す何かを感じて、瑠衣は思わず自分の肩を掴む。
感情が、抑えきれない――!
「やあああああぁぁぁ!」
瑠衣は叫んだ。
彼女の異変にクートも動きを止めた。
黒いオーラが彼女を中心に溢れ出していた。とても正気とは思えない。
ゆらりと瑠衣は立ち上がる。髪がたなびく。
「……!」
クートは彼女にリンゼの面影を見た。
しかし目は輝きを失っている。明らかにおかしい。
「許さない……!」
黒いオーラが薔薇の茨を形取って、クートに襲い掛かる。茨の棘が刺さり、クートは身動きが取れなくなる。
そのまま茨が彼を包み込む。棘がクートの身体のあちこちに食い込む。
――このチカラは、確かにあの人のものだ!でも何故、ただの人間が……!?