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chapter27 病弱な少女

 織音は瑠衣の家からの帰り道、マリアナと共に帰路を歩いていた。

 突然悠がファイの身体に障るという事で解散をしたのだが、何だか様子がおかしかったように思えた。

 案の定、先程別れる時に悠は本音を呟いた。

 「僕は瑠衣さんの事が好きだけど、好きだけじゃ駄目なのかな……」

 それを聞いたマリアナが聞いていたのだと知り、事情を織音に洗いざらい吐いたのだ。

 ファイが瑠衣の事を主としてではなく恋愛対象としてみている事も。

 「まあ私は最初からそんな感じがしてたんだけどね〜」

 「知ってたん、ですか!?」

 「知ってたと言うより、行動ですぐ分かっちゃうんだもん。あの二人――瑠衣と言いファイ君と言いすぐ行動に出るから」

 「……そう、ですね」

 余計な事になってしまったとマリアナは後悔した。

 「どのみち答えは出さなければならないでしょ。どちらを選ぶのか。私には手に取るように何となく分かるような気がする……」

 常に側に居て、彼女を護るファイ。純粋に想ってくれる悠。

 どちらも大切な存在になっているだろうが、選ぶとしたら――。

 頭の中でごちゃごちゃ考えていると、前から一人の少女が歩いてくるのが目に見えた。

 その少女は自分とそう変わらない年齢のようだったが、格好が少し変だった。カーディガンを羽織っているものの、下から覗いているのは赤いチェックの上下――どう見てもパジャマだ。サンダルを履いているが、同じ年頃の子が履くとは思えないダサい茶色の物だった。

 訝しげに見ているとその少女と視線が合った。

 と、次の瞬間突然大声が響いた。

 「居ました!」

 バッと少女が振り向くと看護士ら数名がこちらへと走ってきていた。

 その少女は織音の方に駆け寄ると、肩を持ち盾の様に構えた。

 「サラ・リンドウ!病院へ戻りますよ!」

 少女も負けじと声を張り上げた。

 「NO!」

 発音の良さからして、彼女は英語が母国語らしい。

 なおも長々と喋る少女だが、英語の成績はいまいち悪い織音には意味がさっぱり分からない。

 あげくの果てには看護士達も同じようにして喋り出す。周りで宇宙の交信でも行っているようで顔がひきつる。

 とうとう少女は看護士達に捕まり、しょぼしょぼと元来た道を歩き出した。

 「すみません、巻き込んでしまって……」

 「い、いえ。あの、彼女は病院を抜け出してきたんですか?」

 「ええ、最近になって無断外出が多くて。毎日のように駆け巡らなければならないので大変ですよ」

 ペコリと頭を下げて帰って行った看護士の背中を織音は見送った。そして再び歩き出す。

 と、マリアナがついて来ないので立ち止まって振り返る。

 「……」

 「どうかしたの?」

 「明日、皆に、報告、しなければ、なりませんね……」

 それ以上詳しく語ろうとはしなかった。




 次の日。今日は廃墟ビルの地下――メリッサ達のアジトとなっていた場所に集合していた。今回は蓮斗も一緒だ。メリッサに家を教えてもらうと、実は瑠衣の家のすぐ裏の隣に住んでいた事が判明した。

 「わざわざ別の場所に招き入れていたのはそのためよ。近所に住んでいる事が知れたら隙がなくなるからって蓮斗が」

 「それくらいの頭はあるんだけどネ」

 そんな事を聞かされると背筋がゾッとした。

 そんでもって、集合をかけたのは意外にも織音――マリアナだった。

 「早急に、もう一人の、精霊を、探さなければ、ならない、事態に、なりました」

 「?別に焦らなくても向こうから来てくれるんじゃない?」

 「そうじゃない、のです!」

 「さっさと話してくれ」

 病み上がりであまり体調が優れないファイが急かした。今日も休んでおいた方がいいと言ったのだが、言う事を聞かなかった。ある種腹いせじゃないかと瑠衣は渋々連れて来たのだが。

 「契約による、代償で、人間は、もう、あまり、時間が、残されて、いないんです!」

 「何でそんな事が分かったんだい?接触でもしたカ?」

 「そうです、たぶんあの子が、恐らく……」

 「あの子って、あの病院脱走して来た子の事!?」

 織音も詳しい内容を知らされていなかったらしい。信じられないと素っ頓狂な声を上げた。

 「僅かですけど、最後の、精霊――クートの、気配が、感じられ、ました」

 「知ってしまった以上、見殺しには出来ないだろ」

 「普通の人間ならば代償として払う体力はそれほど障害とならない。でもそれが病人ならば話は別だ。病気の重さにもよるが、それほど耐えてはいられないだろう」

 蓮斗が俯いた。メリッサも伏目がちになる。自分達の犯した罪を思い出しているのだろう。

 全員の思いは一緒だ。誰一人命を落として欲しくない。他人を傷つけようとした日々もあった。けど、ただ傷つけるだけでは何も得る事など出来ないとここに居る皆は知った。だからこそ、その契約主も救いたい。

 「奴が無理をしないうちに探し出さないと。雷は一番チカラを使う属性だ」

 「契約主との接触も図る?」

 「確かに、会った方がいいかも知れないね」

 昨日から悠は瑠衣と少し距離を置いていた。

 会話をしようとして瑠衣は口を開こうとしたが、何も話す言葉がなかった。それに今また仲良く喋るとファイが……。

 結局声をかけられずに蓮斗の方が新しく話を切り出す。

 「んで、その契約主の事は何か分かってるんだろうネ?」

 「えっと……珍しい髪と目の色してたから、外国人だと思う。名前は、確か……サラ・リンドウ」

 「あ」

 蓮斗が声を出した。

 「そいつ、確か兄貴の働いている病院で見た事があるヨ。明日にでもちょっくら会いに行きますカ」

 「へえ、蓮斗って兄さんが居るんだ〜。ちょっと意外かも」

 その二人だけは周りの少し異常な空気とはかけ離れていた。


 「う、うう……」

 静寂の中で聞こえる呻き声。

 呼吸を荒げているのは一人の少女。額にはびっしりと汗が浮かんでいる。

 そんな彼女の手を握っている者が居た。

 看護士が額に濡れタオルをかける。彼の存在には全く気付かずに部屋を出て行く。

 それを確認して精霊クートは立ち上がった。

 契約主である彼女――いや、愛する少女のために、自分は成すべき事をしなければならない。

 外では雨雲が少しずつ発達していた。やがて雨が降り出し、時折雷が落ち始めた。

 そんな天気の中、クートは窓ガラスをすり抜けて外へとくりだして行った。


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