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chapter25 嫉妬

 「ええっ!ファイ君、大丈夫なの!?」

 「まあこれでも生命力の塊だからな、放っておいても大丈夫だろう」

 「でも、これも、メリッサの、せいじゃない、ですか!」

 「何よマリアナ、あたしとヤル気な訳!?」

 「ちょっと、そんなピリピリしなくてもいいじゃないか。病人の前で五月蝿くしたら迷惑だよ。ね?」

 「うん、悠……だけだよ、ちゃんと空気読めているの。あとは皆KYだよ?」

 ようやくお喋りの嵐が止み、悠と瑠衣、そしてファイはほっと胸を撫で下ろした。

 金曜日の放課後。今日は全員瑠衣の家に集合している。ただし、蓮斗は来なかったが。

 それにしても、悠が来た時の家族の反応には驚いた。皆彼氏だと勘違いしていつも以上に丁重にもてなそうとするのでまだそんな関係ではないと弁明しなければならなかったのが大変だった。

 その後は後で、悠がまだ彼氏とは言えないのかといじけ始めるし。

 まあ一応恋人らしい行為はしたし、お互い好き合っているのだから付き合っていると言ってもおかしくはないのだが。

 「それよりも、最後の一人については?」

 「ああ、皆気配を探してくれているんだけど、見つからなくて……風のチカラが使えるカシオでもお手上げみたい」

 「それで、最後の精霊って一体何のチカラを使うの?」

 「雷を、使います」

 雷と聞いたら何だかその精霊も気性が荒いのではないだろうかと不安になる。

 「まあクート相手じゃあたしの出る幕じゃないわよね」

 精霊の名はクートと言うらしい。

 確かに電気と水は相性が悪い。メリッサが苦手とする相手だとしても不思議ではない。現にファイもあまりメリッサとは相性がよくないようだから。

 「そうなれば、私の、出番、です」

 「基本はそうだな。土は電気を吸収して特にダメージを受けないからな」

 有利なのは土のチカラを宿すマリアナだ。対抗するなら彼女こそ切り札になり得る存在だ。

 「俺も今回はゆっくり休ませてもらうぞ……」

 一瞬だけ、瑠衣とファイの目が合う。しかしファイは睨みつける様に目を細めて背中を向けた。

 その行為に瑠衣も思わず眉をひそめた。

 ――誰が面倒見てあげてると思ってるのやら。迷惑被ってるこっちの気持ちを少しは分かってもらいたいものだよ

 立ち上がった瑠衣はお手洗いに行くと部屋を出て行った。

 その途端、悠以外が目を闇の中で標的を見つけた猫のように目を光らせた。次の瞬間、皆悠を取り囲み、ニヤニヤしながら問い詰め始めた。

 「それで?瑠衣とは上手くいってるの〜?」

 「えっ」

 「逃げようとしたって、無駄です!ちゃんと、話して、もらいますよ!」

 「あんな子の何処がいいのか興味深いわ」

 「あ、あんな子って……」

 メリッサを遠慮気味に睨み、悠は顔を赤らめつつ話す。

 「今にも心が壊れそうだった僕を助けてくれた存在だから……。彼女の持つ屈託のない心に惹かれた……かな」

 「まあまあ」

 恋の話となればテンションがこんなに上がるものなのか。それとも単なるからかいに過ぎないのか。

 楽しそうに話を進めていく一行。しかしマリアナが一人その中から離脱した。何処へ行くのかと問おうとしたが、あっという間に壁に吸い込まれて消えてしまった。

 なおも話題を振ってくる彼らのペースに乗せられ、悠は身動きが取れなかった。


 「ふう……」

 軽く伸びをして気分を切り替える。

 先程のファイの行動は腹が立つものの、それを何時までも引きずっていてもしょうがない。

 自分の部屋に戻ろうとした瑠衣の目の前に突如壁をすり抜けてマリアナが現れた。黄土色の目が潤んでいるように思えるのは気のせいだろうか。

 「どうかしたの、マリアナ?」

 びくっと肩を震わせ、とうとう我慢ならなくなったのか、顔を俯かせて涙を零し始めた。突然の事で瑠衣はいまいち何が起こったのか把握出来ていなかった。

 とりあえず持っていたハンカチを差し出す。受け取ったマリアナは嗚咽を漏らしながらも話し始める。

 「私は、もう、耐えられません……!心が、潰れて、しまいそう、です!」

 「な、何があったの?」

 事の深刻さを察して瑠衣が問う。

 「まだ、気付いて、ないのです、か?」

 「え?」

 「どうして、気付いて、あげられないん、ですか?あんなに、苦しんで、いるのに……」

 「……マリアナ、一体何の事を言っているのか私には分からないわ。ファイは病気だからもう三日も看病しているのよ?あんなに苦しそうにしてるのに、それに気付いていない訳が――」

 「心にですよ!」

 それを聞いた時、何故か身体が震えた。

 この先を聞いてしまえば何かが大きく変わってしまうような、そんな感じがした。思わず耳を手で塞ごうとする。しかしマリアナが両手首を掴んだのでそれは叶わなかった。

 「ファイが……、ファイが貴方の事を主としてではなく、恋愛対象としてみている事を!」

 珍しく歯切れよいテンポで放たれた言葉に思考が一旦停止した。

 どういう反応を見せればいいのか分からず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。

 彼女の言う事が本当ならば先程のファイの様子にも説明がつくし、今までの異常な嫉妬も理由がつけられる。

 だとしたら、随分前から彼の気持ちを気付かずに踏み躙っていた事になる。おまけに好きな男と両想いでくっ付いたとなれば悔しいに決まってる。目の前で堂々と見せ付けられれば苛立ちも募るだろう。

 一番側に居ながら、そんな彼の気持ちをマリアナに言われるまで全然分かっていなかった。

 「責めて、ファイの気持ちを、考えた、行動を、とって、下さい!」

 久しぶりに怒りを込めた瞳で睨みつけ、マリアナは姿を眩ました。その途端、瑠衣の膝から力が抜けた。

 彼はいつだって一生懸命だった。側に居た。言われてみれば、恋愛感情が生まれたっておかしくはない環境だったのだ。しかしその可能性を全否定してきた。彼もきっと悩んだだろう。

 どうすればいいのか、分からない……。自分の気持ちが、分からない。

 悠の事は好きだ。ファイの事も、大切に想っている。どちらの気持ちの方が強いのか、瑠衣には分からなかった。今まで比べると言う概念が全くなかったからだ。

 ぎゅっと拳を握り締める。長く伸びている爪が皮膚に食い込む。痛みを発していたが、こんな痛み、ファイの受けた心の痛みに比べればどうって事ないだろう。更に力を込めて握ると親指を血が伝った。

 どうすればいい?

 二人の想いに挟み込まれ、濁流に飲み込まれている。そんな状況の中に瑠衣は陥ったのだった。

 そして、運命の神は残酷で。

 階段には何とか野次馬をすり抜けて部屋を出てきた悠の姿があった。しっかりとマリアナとの会話を聞いて。


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