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chapter21 仲間

 「さあ、宴を始めようじゃないカ!」

 先制攻撃を始めるメリッサに戸惑いの色を隠せないままファイとマリアナが戦闘体制に入る。

 目の前で繰り広げられる激しい戦いなど目に入っていなかった。無残な姿になった悠とカシオをただただ見つめていた。

 ――自分一人で立ち向かっていったんだ……。本当の気持ちに付き従って!

 瑠衣の言った事を鵜呑みにし、悠は行動を起こした。その結果がこれだ。

 気持ちに嘘をつかないのが正しい訳ではなかった。時には嘘をついてでも護るべきものがあったはずなのに。

 こんな酷い目に合わせたのは他でも無い。

 「私の……せいだ」

 無数の滴が頬を滴り落ちる。

 「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 「瑠衣、落ち着いて――」

 泣き叫ぶ瑠衣を織音が宥める。織音も泣いていた。必死に堪えようと震えていた。

 そんな二人に罵声が飛んだ。

 「何勝手に諦めてるんだよ!」

 一瞬の隙も命取りなのに、それでもメリッサの猛攻を何とか防ぎながらファイが叫ぶ。

 「まだ可能性が残ってるだろ!泣き言は、現実を目じゃなく手で実感してから言いやがれ!」

 そうだ。青白い顔をしているから全てが終わっているとも限らない。僅かな命の鼓動を今も尚して苦しんでいるのならば尚更だ。

 織音を押し退けるように瑠衣は立ち上がるとそのまま悠に向かって駆け出す。無防備な背中が露になる。

 「しめた!」

 大チャンスを逃すわけがなく、メリッサが瑠衣に向かって水を凍らせた刃を投げる。

 「瑠衣!」

 ファイが反応して庇おうと向かうが、刃の速度の方が速い。瑠衣を貫いてしまうと思った時だった。

 刃が何かに引き寄せられるように逆方向へと向きを変えた。突然の事に動揺し、まともにメリッサは自分の作り出した刃に傷つけられた。

 唇の端から血が流れ、メリッサは奥歯を噛み締めてカシオを睨みつけた。

 「まだそんなチカラが残っていたなんて……!」

 どうやらカシオが巻き起こした風の流れによって助かったようだ。

 ほっとしたのもつかの間、瑠衣の前に契約主が立ちはだかる。

 「君は自分と一緒にダンスでもしていようねぇ〜!」

 「謹んでお断りさせてもらいます!」

 とは言ったものの、運動神経の鈍い方に当たる瑠衣がこの契約主を交わすのは難しい。あまり手間取っているとメリッサも手出ししてくるだろう。

 『目を閉じて、束縛を念じるの』

 何処からともなく声が聞こえた。過去に聞いたことのある声だった。

 とにかく切羽詰った状況である以上迷っている暇はなく、瑠衣は声のとおり目を閉じた。そして目の前にいる契約主の束縛を願った。

 こちらへと伸びてくる手の気配を感じ、カッと目を見開いた。

 その途端、契約主の笑みが引きつった。ピタリと動きを止めたまま動かない。

 「なっ……何だこれ……は」

 訳を考えるのは後回しにして、先を急いだ。

 悠の閉じ込められた水に触れると押しつぶされそうな圧力が手にかかり、その痛みに瑠衣は嗚咽を漏らした。

 ここで尻込みをしては駄目だ。

 意を決して手を伸ばす。あの圧力が襲ってくる――と思いきや、手には圧力どころか水すら纏わりついていなかった。

 そのまま悠の足を引っ張り出す。水が弾ける。

 びしょ濡れで冷たい悠の身体を瑠衣は包み込んだ。微かだが、脈を感じ取れる。

 かはっと悠が咳き込んだ。呼吸も止まっていたのだ。ずっと水で浸されていたのに突然呼吸が出来るようになったらむせ込むに決まってる。

 紫に変色した唇を震わせながら悠がうっすらと目を開けた。

 「……瑠衣さん?」

 「良かった、良かったぁ!」

 そのまま瑠衣が悠に抱きつく。

 「ごめんね!ごめんなさい!私が悪かったの!本当に、ごめんなさい――」

 「瑠衣さんは何も悪くない」

 ふいに悠の顔が近づく。唇に少し冷たいけど柔らかい感触。

 キスされたと気付いたのは既に悠が顔を離してやんわりとした微笑みを浮かべた時だった。

 勿論、この状況は全て見られていた訳で――。

 ズゴゴゴゴと地響きが響き渡る。ファイとマリアナの様子が一変する。

 その殺気の矛先はこちらではなく、メリッサだ。さすがのメリッサもただならぬ殺気に冷や汗を浮かべる。

 「んのやろぉ!ふざけんなぁぁぁ!」

 「こんなの私は認めませんよぉぉぉ!」

 炎と土が混ざり合って凄まじい威力で衝突する。

 「ぎゃんっ!」

 落下するメリッサをスライディングで受け止めたのは意外にも契約主だった。

 ちょっといい雰囲気なのを余所にファイとマリアナが目を吊り上げて悠と瑠衣に説教を始めていた。

 「舐めてやがんのか!いいか!こいつは俺んだ!気安く手を出していい奴じゃねぇんだよぉぉ!」

 「そうです!何いいとこ取りしてるんですか!」

 彼らの尋常じゃないオーラに悠はたじろぐ。瑠衣もびっくりで開いた口が閉まらない。

 しかし怖いのはそれだけじゃなかった。

 突如カシオを捕らえていた水の球が破裂した。中から出てきたカシオは息つく間もなく後ろから二人分の後ろ首を掴み、きゅうきゅうと絞める。

 口元は笑みを湛えているものの、目はギョロリと睨んでいた。意外とこの中での裏ボスは彼なのかも知れないとつくづく思う瑠衣だった。

 「さあて、俺を放ったらかしにして、挙句の果てに約束違反した落とし前はしっかり払ってもらうからな」

 「ううっ……」

 先程までの勢いは一体何だったのか。

 思わずふっと瑠衣は噴き出した。それを合図に織音が大笑いし始めた。悠も笑みを浮かべた。

 周りの空気が少し和んだのもつかの間だった。

 「……何だよ」

 顔が悔しそうに歪んでいた。

 「何で、そんな楽しそうなんだよ……」

 ギリッと奥歯を噛み締める音。強く握り締めすぎて掌から血が流れていた。

 「お前達はただ一時休戦を結んでるだけの一時的な同志なんだろ!?だったらどうせ捨てるんだろ!?それなのに何故馴れ馴れしく出来るんだよ!」

 「は?使い捨てる?何それ。人をモノみたいな言い方して」

 「所詮は単なる駒にしか過ぎねぇだろ?都合いいように使って、使いまくって、用済みになったらさっさと縁切って。何感情移入してんだよォ。そんな事したら名残惜しくなるだけなのにさァ?」

 強気な言葉とは裏腹に目が少し潤んでいるように思えるのは気のせいだろうか。

 「じゃあ、貴方がメリッサを側に置くのは何故?」

 瑠衣の声が響き渡った。

 「さっき、メリッサの事、スライディングしてまで護ってたよね?それって精霊に余計な感情移入してるんじゃないの?」

 返す言葉が見つからず、契約主は怯む。

 「何があったのかは知らないけど、私には貴方が捨てられた子供のように見えて仕方がない」

 「!」

 図星を言われ、契約主はムキになった。

 「五月蝿い!黙れ!」

 契約主は瑠衣の胸ぐらを掴んだ。そのまま壁に向かって放り出された。

 背中を強打し、瑠衣の意識が数瞬吹っ飛んだ。頭を打ってしまったらしい。

 「俺はねぇ、そんな偽りのごっこにはもう飽き飽きしてるんだヨ。見ているだけでムカつくね」

 後ろに居るメリッサの目が一瞬悲しみの色を見せたような気がした。


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