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chapter20 無茶

この度、無事受験が終わりましたので更新していきます。

 時が止まったかのように全員動けないでいた。

 数日前から帰っていない。メイドが言う時期から言えば、瑠衣が逃げ帰ったあの後から行方が知れていないという事だ。

 突如、瑠衣がその場にへたり込んだ。

 「瑠衣!?」

 ――私のせいだ。あんな事を言ったからショックを受けて……!

 いくらカシオが憑いていると言えど、一人で何処かをうろついていれば襲われる危険性は高くなる。

 ただでさえメリッサは強力だ。まともに戦って勝てる相手でもない。

 ならば遭遇してしまえばそれが最期――。

 ただならぬ危機が迫っている!

 「どうしよう……彼に何かあったら私のせいだ!」

 頭を抱え込む瑠衣。

 そんな彼女に真っ先に手を差し伸べたのは――ファイだった。

 手首を掴み、力の入らない足で何とか立たせると肩をしっかり支えて言う。

 「ここでどうこう言ってても仕方がねえだろ。ここで嘆いているより、探した方が早い」

 「……でも」

 「でもとか言って躊躇している時間は無駄だって言ってんだよ!」

 久々の怒鳴り声にマリアナもびくっと背筋を強張らせた。

 ふとファイの表情を窺うといつもの強気な目つきをしていた。その目に絶望の文字など映ってはいなかった。

 「さっさと探しにいくぞ!」

 「ひゃっ!」

 「そういう事で、私達探しに行って来ます!悠君が帰ってきたら連絡を!」

 「わ、分かりました。あの、警察には……」

 「もう少し待ってあげて!」

 人通りのない路地へ入るとファイは制服からいつもの服に早変わりすると、マリアナと共に精霊の気配を探し始めた。

 織音と協力して瑠衣もあちこちを探し回る。

 だが、あるのは閑散とした住宅街の様子だけで彼らの姿はこれっぽっちもなかった。

 ――何処?何処に居るの?お願い、無事で居て……!

 その場で天に祈りを捧げて目をぎゅっと閉じた。

 ふいに脳裏に閃光が走った。映像が映りこむ。

 悠とカシオの姿。水の球に閉じ込められ、口から息を吐いている。

 ――このままじゃ死んじゃう!

 手を伸ばしても彼らには届かない。

 と、彼らの後ろには特徴的なオブジェがひっそりと佇んでいた。瑠衣はそれに見覚えがあった。

 それに気をとられていると、背中を叩かれ、瑠衣ははっと目を開けた。振り向くと息を荒げている織音の姿。

 「そっちはどうだった?」

 「……居なかった。織音は」

 「居たら一緒に引き連れてくるわよ……」

 ぶつぶつと言い始めた織音。

 先程の映像は一体何だったのだろうか。ただの自分の空想に過ぎなければいいのだが。否、普通は空想なのだ。だが、万が一それが事実であるとしたら――。

 手掛かりは未だに見つかっていない。ならば、不確かな情報でも可能性が否定しきれないなら行くしかない。

 「織音、心当たりが一つあるんだけど……」

 「えっあるの!?ならさっさと行くよ!それで、何処なの?」

 一呼吸おいて瑠衣は素直に答えた。

 「マリアナと出会った廃墟ビル」



 あの日と同じように黙ってそれは佇んでいた。

 確かにあの時、あったはずだ。あの特徴的な偉人を形取ったオブジェが。

 しかしそのオブジェの姿はなかった。

 「確かにここにあったはずなんだけど……」

 「ああ、そう言えば変なおっさんの形した塊があったよな」

 ファイも同意しているのでここにオブジェがあった事には間違いない。

 ふと振り返るとマリアナの目が何かを捉えている事に気付いた。黄土の目に確証の光が宿っていた。

 彼女が進み出てくるので二人はその場を退いた。

 マリアナは唐突に壁を勢い良く押した。すると、すり抜けるように手が入り込んだ。

 「これは、土ではなく、水の、幻覚、です」

 正体を知られたトラップはあっさりと消えて、浮かび上がったのは地下へと続く階段だった。

 「こんな階段、最初に来た時なかったのに……」

 「俺達がここに来る以前から潜んでいやがったのか?」

 「オブジェで入り口を隠し、更に壁に見せる幻覚まで使って、念入りとしか言いようがない代物ね」

 「でも、どうしますか?敵地に、彼らが、捕まっているとは、言えませんし」

 「いや、居るような気がする」

 ファイが暗闇を睨みつけながら言う。

 「私も、そんな感じがする――」

 織音とマリアナが視線を交差させ、頷く。一向は慎重に足を踏み入れた。

 ファイが炎を生み出して照明代わりにする。かなり長く続いていて、うねりがある。出口が途中で完全に見えなくなる。

 閉じ込められたらそれが運の尽きだろう。

 と思った瞬間、シュルシュルと何かが蠢く音が背後からした。

 「あっ……」

 水のチカラによって出口が塞がれてしまったのだ。

 これはもう先に進んで相手に勝つしか脱出方法はない。

 「急ぐぞ。はぐれるんじゃねえぞ」

 リズムを一段と早くして階段を降りる。

 ようやく段が終わったのはいいが、階段がまだあると思い込んで足を踏み出した瑠衣はよろめいた。

 「ひゃっ」

 そのまま前へズッコケる。

 「あ〜あ、瑠衣大丈夫?全くドジなんだから」

 「だ、大丈夫じゃないかも……」

 何だか顔が濡れている感じがする。泥水だったらきっと顔も悲惨な事になっているだろう。ファイが照らそうとするので慌てて顔を隠した。ハンカチでとりあえずゴシゴシ拭いておいた。

 皆瑠衣の方に視線がいっていたのでまだ気づかなかった。

 事が終わり、全員が正面をみた瞬間。この世界が終わったような気がした。

 白い顔が暗闇の中で浮かび上がっていたのだ。

 「ゆ、幽霊ぃぃぃぃ!」

 マリアナと瑠衣はそれぞれ織音とファイの後ろに隠れた。

 しかしいつもそれほど恐怖を感じない二人も震えていた。ただの幽霊どころではそんな反応を示さないはずだ。

 視力のそれほどよくない目をじっと凝らしてみる。白い顔――でも整った顔立ち。頬に赤みがあればまるで幼い少年のような……。

 「う、嘘……」

 それが悠だと分かった瞬間、明かりが点いた。悠だけでなくカシオの姿も見えるようになる。二人とも、水に包み込まれていた。

 「先にかかった獲物を助けにわざわざ助けに来てくれてありがとう。おかげであたしはもっと強くなれるわ」

 メリッサと契約主が現れる。

 先にかかったと言う事は、彼女達が襲って行った訳じゃない。自ら乗り込んで行ったのだ。

 たった一人で。誰にも相談一つしないで。


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