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chapter17 想い合い

 予期せぬ事態に動きが止まる契約主。

 そのタイミングを使って炎が渦上に取り囲む。そしてその中心にいる契約主へ熱を送り込む。

 「あっ……!く――」

 「!」

 メリッサがすぐさま駆け寄って水を振りかけ、鎮火する。契約主は腕に火傷を既に負っていた。

 ファイが二人の前に立つ。その目は今まで以上に怒りに震えていた。

 しかしそれにも与する事なくメリッサが捨て台詞を吐く。

 「凄まじいチカラ――それがあんたの本来の姿。だからって勝った気になったら大間違いよ!こちらには切り札がちゃんと残っているんだから!」

 「お父様……!」

 「そうそう、このあたしを怒らせた事、後悔するがいいわ」

 霞のように二人の姿が薄くなる。

 移動魔法を使っているのだと気付いたファイが炎を纏った拳を突き出した。

 あと数ミリで触れると言う所で二人の姿は消え失せた。逃げられたのだ。

 「くそっ……!」


 今日の所は解散と言う事で、帰宅路へ着いた瑠衣。しかし顔色はそれほどよくない。疲れたのもあるだろう。でも、それだけじゃなく、何かが引っ掛かっているような――

 ぼうっとしていると足取りがふらついていたらしい。ファイに後ろから頭を小突かれる。

 「お前、歩きながら寝てるんじゃねえの?」

 「失礼な!ただ、ちょっと疲れただけよ」

 ふうっと息を着いて瑠衣は歩き出す。空は既に蒼闇になりつつあった。

 「……今日は本当に不甲斐なかった。お前を危険な目にあわせるわ結局悠の親父の奪還は出来なかったわ」

 いつもここまで深刻に落ち込む性質ではないのに、そうとう思い詰めているらしい。

 「ファイばっかりが気に病む必要はないと思うよ。――ほら、家に着くから姿隠して」

 「ああ」

 ふっと頬を緩めた様子を見ると一応慰めにはなったようだ。

 玄関を開けて家に入る。

 と、丁度部屋に入ろうとしていた祖母と目が合った。一瞬の間を置いて血相を変えてこちらへとやって来る。

 「どうしたの、その傷!?服も何だか濡れているようだし……」

 「ああ、ちょっとね」

 「何か危険な事でもやらかしているんじゃないでしょうね!?おじいさんみたいに――」

 言いかけた祖母がはっと口を押さえた。

 「お祖母ちゃん?」

 「……いいや、何でもないよ。それより、いいね?危険な事をしているのなら今すぐやめなさい。巻き込まれているのなら、相談くらいしなさい」

 「大丈夫。心配しないで」

 踵を返し、二階の自分の部屋に入る。階段を上り終わるまで祖母の視線を感じていたので怪しまれないようにゆっくり上るのに精神力を使ってしまった。ぐったりと前のめりに伸びをする。

 「何だかあの人、俺の事知っているような感じだったな」

 「一瞬えっ?て思っちゃったよ」

 「まあ一時期お前のじいちゃんと色々あったからなぁ」

 「……へっ?」

 新たな新事実を口にしたファイに思わず勢い良く立ち上がり、テーブルに膝をぶつける。あまりの痛さにちょっと涙を浮かべながらファイに続きを急かす。

 「いやあ、本来ならまだ目覚める時じゃなかったのにあのじいちゃん特殊な方法使って無理やり俺を呼び寄せてしまった事があったんだ。そうだな、今から5年前くらいかな」

 「そんな事があったんだ〜……」

 「まあ瑠衣に起こされる寸前にも無理やり起こされたけど」

 「えっ、何したの!?」

 「……まだ話すべきタイミングじゃないな」

 ファイが何処か遠くを見ているようだった。

 「あの人が言った時が来たら、ちゃんと話すさ」

 「約束だよ?」

 「二つ目の約束だな」

 今はまだだと言うのなら、その時を待てばいい。

 然るべき時が来れば分かるのなら無理やり聞き出す必要もない。そういう手段を取って関係が崩れるくらいなら尚更だ。

 内容が気になるものの、問い詰めようとは瑠衣はしなかった。

 ――やっぱりあの人の孫だな。深く問いただそうとはしない。その優しさが一緒だ……

 この優しさに包まれている事を感じられる今なら言えるかも知れない。ここ最近何となく感じ始めていたこの気持ちを。言い分によれば前代未聞だと言えるこの気持ちを。

 意を決して口を開く。

 「あ、あのさ」

 「ん?」

 きょとんと瑠衣が首を傾げる。

 一度だけ感じた事のある、この胸の高鳴りを意識しつつもファイは言葉を紡ごうとする。

 「お、俺……、主としてじゃなく、お前が――」

 言いかけたその時だった。

 瑠衣の携帯が突然鳴り始めたのだ。その音にびっくりしてファイは硬直、そのままズッコケる。

 当然だが瑠衣は携帯を手に取り、いじり始める。全くこのような便利な機械に邪魔されてしまうとは、こちらにとっては不憫なものだ。

 「誰?」

 「あ〜、織音だった。ちゃんと家に着けたって」

 「あ、そう」

 特に気に留めなかった。

 思わぬチカラを発揮してしまっただけに、肉体的疲労が重くのしかかっていた。そのままファイは壁にもたれて意識を手放した。

 すうすうと寝始めたファイの姿を確認して瑠衣が再び携帯の画面に目を向ける。

 映し出されていたメールの送り主は織音ではなく――悠だった。内容は外を色々案内してもらいたいとの事だった。

 しかし案内に託けて本当の狙いは恐らく。

 「……デートなんかに誘われた事、一回も無いし」

 もしメールの主が悠だと言ったらまた機嫌を損ねるに違いないと瑠衣はわざと嘘をついたのだ。

 紳士でルックスもそこそこいい悠。折角想ってくれているのなら、その気持ちに応えてもいいのではないかと思う。

 ――でもなぁ

 ファイの事を思うとその判断をする事が出来ない。いつもは喧嘩ばかりして嫌な奴だと思うが、誠心誠意で自分を護ろうとしてくれる頼れる人物だ。そんな頼もしいファイの姿も思い浮かぶので悩んでしまうのだ。

 曖昧な態度を取れば傷つくのはきっと悠だ。近いうちにその答えを見いださなければならないのかも知れない。

 とりあえずデートの件に関してはOKを出す。そうそう、マナーモードにしておかないとファイの眠りを妨げる。

 メールを送ってすぐに返事が届いた。音じゃなく振動なのでこれなら睡眠の邪魔にならなくて済むし、怪しまれない。

 返って来た返事は喜びの一言と、日時場所の知らせだった。明日の八時、悠の家で待ち合わせだ。

 ――やっぱり、ファイには気付かれないように出なきゃね

 きっと怒るだろうなとか思いつつ、瑠衣は部屋を出るのであった。


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