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chapter14 人質

 「父さんが偽者だった!?」

 コーヒーの入ったカップを乱暴に置き、悠が叫んだ。

 カシオがすまし顔でそうでしたと話す。

 「でもこれで、実の父親がああやって悠を追い詰めていた訳じゃ無いって分かっただろ。つまり、あれだよ」

 「解放されたって事だよ。外に出てもいいって事!縛られなくてもういいんだよ!」

 瑠衣が嬉しそうに言う。本人より喜んでいる瑠衣を見てファイはけっと呆れるのだった。

 「じゃあ本物の父さんは何処に居る……?」

 「恐らく、あの使いを送ってきた精霊の元に居るのだと思われます。人質、とでも言えるでしょう」

 呑気に喜んでいられる状況でもないのだ。本物の父親が捕らわれているのならば次はその命を賭けて取引をしようとするだろう。

 更にこちらにそれほど対抗し得る戦力がない。それでは押しかけていってもやられてしまうのがオチだ。

 一番相性がいいのは雷の精霊だが、生憎まだ接触はしていないため、力を貸してもらう事は難しい。

 「どうするべきか……」

 「何もなしで殺す事はしないだろう。このまま一旦様子を見る事を薦める」

 「それは私も賛成。下手に動くより、あちらから動いてもらう方がやりやすいでしょうし」

 カシオの提案に織音も賛同した。知能派の二人がこう言うのだ。従った方が得策だ。

 「ところで……マリアナは?」

 先程からマリアナの姿が見えない。一体何処へ行ってしまったのだろうか。

 「さあ……」

 「リリーが怖いからって出て行ったきりだよ」

 と、突然何処からとも無くマリアナが黒髪を振り乱して現れた。その模様はまるで都市伝説の貞子のようだったので瑠衣は思わす短い悲鳴を上げた。

 ただならぬマリアナの様子に織音がどうしたのかと尋ねる。

 「こ、これを」

 手にしていたのは今日発行の新聞だった。この地域ではよく購読されている地域新聞だった。

 一面に大きく取り上げられている記事に添えられた写真を見て全員が息を呑んだ。

 それは男の死体を写したものだった。白目を剥き、気絶しているかのように死んでいる姿。

 記事にはその男が外傷もなく、そして薬物を使用した痕跡もなくどうして死んでいるのかと書かれていた。確かに不思議な死に様だ。まるで死神に魂を奪われたようだ。

 ファイとカシオが顔を見合わせて呟く。

 「魂狩り(ソウル・ハンティング)……」

 「何それ?」

 「魂を狩るのさ。その魂を取り込めば、少しずつ確実に精霊の力は高まっていく」

 「それじゃあこれって精霊の仕業なの!?」

 今まで人が死ぬような戦いこそなかった。だがそれはあくまで奇跡的で本来ならいつ誰が巻き込まれ死んでもおかしくはない。

 「天帝から厳しく魂狩り(ソウル・ハンティング)については戒められたっつーのに」

 「彼女は力を求める手段を選ばないからな。人をそこまで重んじて見ていない。精霊の手にかかればあっという間に息の根を止められる弱々しい生き物としか見ていない」

 「メリッサ、ですね」

 どうやらこんな荒業を成し遂げたのはメリッサの名を持つ精霊らしい。

 しかしよくも簡単に人を殺せるものだ。その精神が分からない。分かろうとも思わないが。

 ――だったら今度こそ危ないかも……

 今まで散々言われ、覚悟してきたつもりでも、突きつけられた恐怖に打ち勝つ術などなかった。顔を青ざめ、小さく震える。

 そんな瑠衣の様子をいち早く察した悠がそっと手を握る。

 「大丈夫です。彼らを信じましょう」

 温かい温もりが肌を通して伝わってくる。

 恐怖に凍りついた身体がほぐれていく。何とか笑みを浮かべることが出来、もう大丈夫だと悠に伝える事が出来た。

 「俺は負けるつもりはねえぞ」

 力強くファイは言った。

 「意地でも護ってみせるから、その時はちゃんと恩を返せよ」

 「……恩ってね」

 一体何をして欲しいのやら。

 しかし今は頼るしかない。いくら戦いで負った傷が完全に癒えてなくとも相手はお構いなしなのだから。

 マリアナだってまだ本調子ではないらしい。

 「万全の体制で臨まなければなりませんね」

 「そうね、それまで出来るだけまとまって居た方がいいかもね」

 最もな提案が出され、瑠衣は賛同した。

 「そう言えばあまり外出してなかったんでしょ?ちょっとお買い物にでも行かない!?」

 「えっ」

 「いいね〜織音!行こう行こう!」

 きゃっきゃとテンションが上がっている二人を止める事など誰にも出来なかった。


 とりあえず一旦瑠衣と織音は家に戻って支度をして街の大きなショッピングモールで待ち合わせをする事になった。

 瑠衣が慌てて待ち合わせ場所へと走る。既に瑠衣とファイ以外の皆は全員揃っている。

 「だからさっさと準備しないと待たせるって言ったのによぅ」

 「仕方無いでしょ!」

 「あまり着ないようなお洒落着をタンスの奥から引っ張ってくるからだ」

 「ううっ、だって……」

 ――意識するようになった人の前で、気合を入れてお洒落をしたかったから

 なんて言えば快く思っていないファイはまた激怒するに違いないので言葉を飲み込んだ。

 織音がこちらに気付いて名を呼び手を振っている。瑠衣もそれに答えて手を振りながら走る。

 ようやく皆と合流出来た頃には瑠衣はぜえぜえと荒い呼吸を繰り返し、しばらくそのまま動けなかった。

 「ごめっ……待った、よね?」

 「まあちょっとね」

 「でもそこまで無理して走らなくても大丈夫でしたよ」

 呼吸が整った所でショッピングが始まった。

 上の階から順番に店を回っていく。主には可愛い雑貨店や洋服店だ。

 マリアナも興味津々で瑠衣と織音と一緒に品物を見ていた。

 一方の男性グループは暇そうに店の前で待ちぼうけをくらっていた。カシオとファイが飽き飽きしていたのに対し、悠は幾分嬉しそうだった。

 「瑠衣さん、さすがは年頃の女の子ですね。ああ、あのアクセサリーなんてお似合いですね」

 「……」

 一通りの品物を買って女性陣が店から出てきた。

 瑠衣がファイに荷物を突き出す。

 「ちょっとお手洗い行って来るから持ってて」

 「なっ、俺はそんなのヤ……って人の話を聞けよ!」

 強引に荷物を持たせ、そのまま瑠衣は走っていってしまった。

 お手洗いに入ると一人の女性がトイレの個室の前で立っていた。並んでいるのかと思ったのだが、空室が幾つかある。

 考え事でもして気付いていないのかと思い、女性に声をかけた。

 「あの、入らないんですか?」

 「え?ああ、大丈夫です」

 ウェービーの金髪に深い蒼の瞳をしている彼女は何処かの有名なお人形をイメージさせた。

 しかし愛らしく整った唇の端がつりあがって妖しげな笑みを作った。

 「私がここに居るのは……」

 突然大量の水が呼吸器を満たした。呼吸できない苦しさに意識が遠くなる。

 「貴方を捕まえるためだから!」

 危険を知らせたくともなす術がなく、そのまま瑠衣は意識を失った。


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