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プロローグ

ご無沙汰しています。天宮瑞姫です。

亀並み更新になるかも知れませんが、どうぞ宜しくお願いします。

 「うわあ、こんなに沢山……」

 薄暗い地下に背の高い本棚がズラリと立っていた。その膨大な本の量に思わず言葉を失う少女が居た。

 手探りでようやく電気のスイッチを押す。その光に照らされ、無数の本の帯が彼女の翡翠の目に入った。

 恐る恐る通路に入り、大まかにどんな本が置かれているのかを確認する。主にはありとあらゆる伝説や伝記のようだ。

 祖父が実際に存在しないような存在を信じ、探検に出掛けたりしていたそうだ。それもまだ自分が生まれていない、元気な頃にはの話だが。

 つい先日、祖父は八十の齢を数えて静かに息を引き取った。その遺品が地下室に残されているとの事で、どれだけの規模なのか見てきて欲しいと祖母に頼まれて少女はやって来たのだ。

 しかしこれだけの本や本棚などを処分するにはかなりの時間と費用を要するだろう。

 祖父はこれら全てを読みつくしていたのだろうか。今となっては分からない話だ。

 「これじゃあ当分処分に手は付けられないね……」

 数々の本を見て呟く。

 ぱらぱら……と砂埃が何処からとも無く落ちてきた。

 「ひいっ!」

 少女は悲鳴を上げた。長いブロンズヘアが激しく揺れた。

 「もう、びっくりさせないでよ……」

 乱れてしまった髪を手ぐしで直し、目の前の本棚に目をやった。

 そこには他の本と変わった本が一冊だけあった。背帯にタイトルが書かれていない、不思議な本を。

 引きつけられるように少女はその本を手に取った。表紙にさえタイトルが書かれていない。

 「一体何の本なのかしら?」

 ページを捲ってみる。中身すら白紙だった。

 ――これってもしかして、今話題のシークレットペンとかで秘密に書かれたものなのかしら?だったら何が書いてあるのか見えるはずもないし、よほど隠したいものだったのね

 そう思えば中に何が書かれているのか気になってくる。

 「よし!」

 部屋にはまだ買ったばかりのペンライトがある。それを使えばシークレットペンの文字は読めるはずだ。

 彼女は期待に胸を躍らせ、本を握り締めて地下室を後にした。

 地下室を出ると、祖母が声をかけた。

 「どうだったかい?地下は」

 「本が無数に置かれているわ。まるで図書館並みよ。到底片付けられそうに無いわ」

 「そうかい。あの人は地下室に籠もっては必ずそれは存在すると信じて資料を調べていたのかねえ」

 懐かしむように祖母が言った。

 「それで、瑠衣ちゃん、その本は取ってきたのかい?」

 少女、瑠衣はこくりと頷いた。

 「これ、中身が白紙なのよ。もしかしたらおじいちゃんのメッセージが隠されているかも。解読してみるよ」

 「もしそうだったら是非見せておくれ」

 「勿論」

 瑠衣は鼻歌を歌いながら階段を上った。奥にある自室のドアを優雅に開けて、そして閉めた。

 部屋はピンクで統一された家具で女の子らしく飾られていた。学習机に座って本を置き、ペン立てに立ててあったライトを取り出す。

 白紙の1ページ目にライトを当ててみる。予想通り、メッセージが隠されていた。

 『もしわしが死んだ時には、この本を開けてはならない……』

 妙なメッセージだと瑠衣は眉を顰める。

 開けてはならないのなら鍵ぐらいしておいて欲しいものだ。それに現にここで開けているが、何も起こる気配は無い。

 ただの脅しか。

 しかしこれは脅しでは無かった。

 次のページを開くと、真っ白の紙にライトを当てる事無く文字が浮かび上がり出した。それも炎の焦げによって刻まれたように。

 文字が浮かび出しては来たが、自分達の普段使う言葉では無かった。無数の英語のようだ。

 瑠衣は既に中学校に入学し、英語と言う教科を習ってはいたものの、成績はそこそこでスラスラとは読めない。

 解読するには辞書が必要だ。

 そうやって立ち上がろうとしたが、椅子に固定されたかのように動けなかった。更に顔の方向すら変えられない事に気付いた。目がひたすら英語の文を捉える。

 口が、勝手に読み解き始める。

 「この世界を均衡に保つために生まれし、火、水、土、風、雷の精霊達。そして、この本に封印されし炎の使い手よ……――」

 身体のコントロールが効かない以上、止められない。

 この先に何が起こるのかと思うと恐怖心が沸き起こった。異常を知らせたくとも知らせる術はない。

 ――警告を無視したら、どうなるの?

 「今ここに時は来た。姿を現せ、炎の精霊よ!」

 次の瞬間、本から眩い光が放たれた。それと同時に一つの影が飛び出す。

 それが瞬く間に人の姿を形どっていく。

 光が止み、そこに居たのは炎を連想させる真紅の髪をした少年だった。年齢はさほど変わらなさそうな外見だが。

 目が開き、闇すらも照らし映すような黄色の瞳が露になった。

 机の上に着地した少年がじっと瑠衣を見つめていた。瑠衣の方も目を丸くして彼を見ていた。

 「……誰?」

 ようやく口に出せた言葉がそれだった。

 「誰、だと?」

 鋭く睨まれ、瑠衣は肩を縮める。

 「俺を目覚めさせておいて、誰だと?封印の鍵となっていた言葉を解き放っておいて誰は無いだろ」

 「知らない!だって読めない言葉を口が勝手に読んで、そしたらあんたが突然現れたんだから!」

 「……」

 呆れたように少年はため息を着いた。

 「教えてやるよ。俺の名はファイ。五大精霊の一人、炎の精霊だ」

 「精、霊?」

 そんな馬鹿な。御伽話の中でしかその存在を確認出来ないあの精霊だと言うのか。

 「封印を解いたと言う事は、その資格があるとこの本に選ばれたと言う事だ。つまり、俺の契約者にふさわしいって事だ」

 「契約者?何それ」

 「……お前、理解する気ある?」

 「全然無い」

 そう言うと彼は机から降りた。そして掌から突然真っ赤な炎を生み出して見せた。

 おおおっと瑠衣が歓声を上げ、拍手する。

 「凄い!手品の仕掛けどうなってるの?」

 「手品じゃねえ!」

 何処から出してきたのか、ハリセンで思いっきり叩かれる瑠衣。

 「いいか?良く聞け。別に俺は手品師でも科学者でも何でも無い。大昔から自然のチカラを司ってこの世のバランスを保っている精霊様だ!」

 「そう言われましても、俄かには信じられないよ」

 「……あーあ、もう来ちまった」

 「へ?」

 窓の外を眺めながらファイが言った。

 「契約をするかしないかは自由。でも、契約をしない場合は――」

 突然窓ガラスが粉々に砕け散った。凄まじい勢いで何かが部屋に入ってきた。

 床に刺さったのは何と歯わたり20センチはあると思われる包丁だった。さすがに身の危険を感じて血の気が失せた思いだった。

 途切れた言葉を紡ぐ。

 「お前、殺されるぞ」


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