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旅路の果て






 復讐譚は終わった。

 英雄譚は終わった。


 これ以上語られるべき物語は残っていない――はずだった。


 だが、残された少女がいた。

 

 世界と愛するたった一人を天秤にかけて、一人を選べてしまう少女だった。

 自身の愛を貫くためならば、誰だろうとその命を奪える、苛烈な想いを持った少女だった。


 ――――彼女の名は、アザミ・シラヌイ。

 

 その身に異形を宿し悠久を生きる不死者。

 永劫に終わらない贖罪を己に科した罪人。


 かつての四星剣であった者達。

 フルグルは死んだ、リウビアは死んだ、ヴァンは死んだ。

 新たな四星剣となった者達。

 セーラは死んだ、アグノスは死んだ、リベルタは死んだ。

 

 自身を一度は殺し、そして利用しようとした男――ザフィーアは死んだ。


 最愛の兄と結ばれるはずだった女性、ノーチェは死んだ。

 自分が、殺した。兄の拳が彼女を貫いたとしても、そう仕向けたのは自分だ。他に道はないと唆して、ノーチェを殺したのだ。

 

 最愛の兄は、死んだ。

 アザミの思惑を乗り越えて、科せられた罪業を踏み越えて。

 彼の復讐が、何のために成されるべきかに気づいて。

 そして、やり遂げた。


 一度は世界の誰よりも憎悪して。

 その後は、共に世界を守り続けた最愛の相棒――アマネは死んだ。


 もう、あの時代を生きていた者は誰もいない。

 アザミは、異形と化しながら、異形を完全に制御下に置いたことにより、自我を失うことがなくなった。

 通常なら完全に魔物化を終えて、自我を失う程に侵食されているはずなのに。

 彼女の抱えていた特殊な病気と、彼女が宿していた異常なまでの狂愛。

 それらにより、アマネが異形の進行と意志の関係性に気づいて、《想星石メモリア》によって異形化を克服する術を発見する以前から、アザミは完全に異形に適合し、コントロールしていた。

 

 彼女の年齢は、現在百を超えた。

 見た目はずっと、十三歳のままだ。

 それすらも、罰の一部のようだ。

 いつ死ぬことができるのだろうか。それすらもわからない。

 だが、それでいいと思っていた。

 死によって、罪から逃れることなどできない。そんなことは絶対にしない。

 変わらない見た目は、自身に変わることを許さないようだ。

 自身の姿を見る度に思い出してしまう。

 自分とよく似た顔の少女のことを。

 かつて無邪気に、兄のことを想っていた時代のことを。

 しかし、アザミにとって過去を思い出すことは、罪を思い出すことと同義だ。


 ――「本当に……ごめんなさい……あの時のこと……。私のせいで、貴方の母は……それに、貴方の父は……お兄ちゃんだって、私さえ、いなければ…………。私さえいなければ、今だって、みんな生きていたかもしれないのに……馬鹿な私のせいで……みんな……みんな……」


 ――「もう、何度も言っているでしょう。気にしていないって。……でも、これからのことはお願いね。私がいなくても、この世界は大丈夫。でも、少し不安なの……貴方が見守ってくれるなら、私は安心していけるわ」


 あの言葉に、どれだけ救われただろう。

 彼女に、どれだけ救われただろう。


 許されないはずなのに。

 恨んでいるはずなのに。

 彼女は恨み言の一つも言わなかった。こんな自分を受け入れて、信頼してくれて、ずっとずっと許し続けてくれた。

 どこまでも優しく、暖かい、まるで太陽かれのように包み込んでくれる存在だった。


 アマネを見送ったあの日――あれから数年。


 彼女は今も戦い続けている。

 贖罪のために。

 そして、最愛の相棒が、最愛の兄が愛した世界のために。

 今の世界のために散っていった全ての命のために。

 自分一人の頑張りで、世界の全てを守り抜けるとは思わない。

 それでも、手を抜くことなど許されない。

 この身は世界を守るための戦いの中で朽ち果てるべきだ。

 いくら老いもなく、傷も再生出来る体とはいえ、絶対に死なないとも思えない。

 この再生能力がどこまでのものなのか、検証したことはないが、ここまでの人生での戦いが、それと同じ役目を果たしている。

 自分は、大抵のことでは死なない。

 だが、例えば想力が尽き果てれば死んでしまう。

 兄の最後がそうだったように、だ。

 幸い、記憶は到底尽きそうにない。この百年、色々なことがあった。

 アマネ達との思い出は胸の中で今も星のように輝いている。

 残った記憶を全て注ぎ込んでも勝てないような相手が現れる時、それが自身の最後だろう。

 

 ――――ふと、疑問に思う。

 自分はそれを、求めているのだろうか。


 わからない。安易な死による贖罪の終わりを許してはいないが、そうやって納得が出来る終わり方ならばいいと思っているのだろうか。

 もう誰も答えをくれない。

 もう誰も許しをくれない。

 兄も、アマネもいないのだ。全て自分で見つけるしかない。

 もう誰も、アザミ・シラヌイに罰も許しも与えてくれない。

 


 永劫の罪人である少女の姿をしたナニカである彼女は、今日も見果てぬ終わりを求めて戦い続ける。


 ◇


 ――ある日、アザミは異常な魔力反応を感じ取った。


 アザミが四星剣の座を後続の星騎士に譲ったのは、もう随分昔のことになる。

 アマネ達が第一線から退くのに合わせて、アザミも同じく長らく務めていた役目を終えた。

 だが、アマネ達と違って、アザミは年齢によって力が老いることがなかった。

 故に、アマネ達が退いて以降も、裏では様々な任務を続けていた。

 新人育成や、後続の者達の手に余る危険な相手との戦い。アザミの抱える事情が少々複雑故に、表立っての活動は控えていたが、彼女の働きに救われた者は大勢いるだろう。

 星騎士である頃から、表舞台には出ずに、姿を隠して動いていた。アザミの正体を知っているのは極一部の人間だけだ。

 老いない体を持ち、アマネが老いて力が弱まった後の時代では比する者のいない最強の力を持った星騎士。

 そんな存在は、誰が見ても異常だからだ。

 アマネが亡くなってからは、王国から受けていた裏の任務もやめた。

 いくら極秘で、それも自身が納得できる任務しか受けていないとはいえ、それもいつかは歪んでしまうかもしれないからだ。

 いつかは間違ってしまうかもしれない。

 アザミを悪用しようと考える人間が出てくるかもしれない。

 それに、いつまでも自分に頼るようになってしまっては、残された者達の健全な成長を妨げ、可能性を摘み取ってしまうと考えたからだ。

 こうして、現在の世界で最強の星騎士である彼女は、世界から自身を切り離した。

 世界との接点を断ったアザミは、ただその後の世界を見守り続けようと思っていた。

 しかし。

 異常な魔力反応。それも複数。

 かなり強力な相手だ。

 その内一つは恐らくかつての四星剣クラスの実力を持っている可能性があった。

 あり得ないはずだった。

 そこまでの力を持っている者ならば、アザミが知らないはずはない。

 それに出現地点もおかしい。

 その場所に、そんな魔力反応が現れるはずがない。

 いや、そもそも――そこに、人間がいるはずがないのだ。





 そこは《王国指定禁忌領域》。

 立ち入ることを禁止された危険な場所だ。

 




 レーゲングス沿岸から東へ進んだ先。

 洋上に浮かぶ巨大な鋼鉄の島。






 先史時代――その場所はこう呼ばれていた。






 ――――《騎装都市》、と。





 ◇




「……釣れたな」


 闇の中で、男が静かに呟いた。




 ◇


 アザミはすぐに《騎装都市》へ急行した。

 その場所は、アザミの目には奇妙に移る。

 鋼鉄と森林、相容れぬモノが混じり合った場所だった。

 背の高い、見慣れない建物が立ち並び、そこに木々が絡みついている。

 先史時代の技術で舗装された道はひび割れ、その隙間からも緑が芽吹いていた。

 深く残る破壊の痕跡。

 かつてここでは大きな戦いがあったのだろう。

 壊れた兵器の残骸。

 鋼鉄で出来た巨大な蜘蛛を、びっしりと苔が覆っている。

 先史時代の資料で断片的には知っているが、それでもあまりに現在の世界とかけ離れた光景には圧倒される。

 フルグルが扱っていた兵器は、ほんの一部なのだったと思い知らされる。

 

 この場所は、どういう訳か遥か昔の姿を保ったままだ。なにか特殊な術式が今も作用しているのかもしれないが、アザミには到底解き明かせる気がしないし、解き明かそうという気も起こらない。

 この街に大勢の人が溢れていた時代。

 そこに魔物は存在せず、人間と人間が技を競い合っていたということを知った時、アザミは不思議と涙を流してしまった。

 今だってそうだ。この場所にまだ人が溢れていた時代。その時を思うと、存在しないはずの郷愁に胸を締め付けられる。

 もしも。

 もしも――その時代に生まれることができたのなら、どれ程幸せだっただろう。

 魔物に怯えることのない暮らし。

 殺し合いではない、競い合い。

 それはきっと、兄にとっても好ましいものだったはずだ。

 アザミは、届かない遥か過去への憧れを振り切り進む。

 今はこの場所に潜む何者かの正体を突き止めるのが先決だ――、と、そこまで考えた瞬間だった。


 ――突如、何かが飛来した。


 咄嗟に剣を引き抜いて斬り裂こうとするも、その何かは腕に絡みついてしまう。

 粘性のある糸だった。

 剣を握った右腕が、背後の木へと接着される。


 ――動かない。


 魔力を込め、筋力を強化した状態でも、糸から逃れることができない。

 まるで蜘蛛型の巨大種ギガントが扱うような力だ。

 異常な魔力反応の正体は、巨大種ギガントなのだろうか――そう考えた時だった。







任務完了ミッションコンプリートデース! チョロいデスねー。やっぱ私って天才? 最強?」







 軽薄な少女の声だった。

 目深に被ったフードにより、顔は見えないが声以外でも、はみ出た長い金髪や、服の上からでもはっきりとわかる体つきで、女性であることが察せられる。


「オイオイ、ヘイヘイヘイ……なんだよ、オレの出番も取っておいてくれよ。わざわざこんなとこまでピクニックに来たわけじゃねえんだ」


 さらにもう一人。

 こちらも最初の少女と同じく、顔を隠しているが声や体格から察するに少年。


「いいじゃないデスカ、サクっ終わったんデスカラ。それよりちょっとこっち見て回りまショウ~……素敵じゃないデスカ、ファンタジー! 映画の中のようデスネー! どんな感じなんデショウネー? アスガルド? ホグワーツ? タトゥイーン? どんな景色が広がってるか楽しみデース!」


「そいつぁ確かに楽しみだな。SNS映えしそうだが……写真上げたら怒られちまうか? っつーか端末使えんのか?」


「Wi-Fi飛んでもなくても写真は撮れるに決まってマスヨ? 細かいことは帰ってから考えればいいのデース」


 アザミは眉根を寄せる。

 それを見て、少女の方は目を見開いた。


「ハーイ、ハロー? そういえば、言葉、通じてマス? 日本語で平気デスカ? 英語の方がいいデスカー? 翻訳術式は作動してるので関係ないかもデスケド」


「……ええ、通じていますよ。何を言っているのかわかりかねますが」


「ワオ、異世界人と話しちゃいました。異文化コミュニケーションデース。……あー、正確には未来人?」


 アザミは汗が吹き出すのを感じた。

 拘束された状況のせいではない。

 彼女達の正体に関する推測。

 彼女達の言葉から察するに、それは――

 

「……あなた達は、先史時代……過去からこちらへやって来た、ということで間違いありませんか?」

「あ~……それはデスネー……、」


 少女が逡巡していた時だった。






「――正解だ。だが、こちらの事情を君に説明することはない」





 アザミの目の前に、先程の二人とは別の男が現れていた。

 そして、男は拳を振り上げている。


「――ッ!」


 アザミは即座に拘束されていた右手に魔力を通し、炎を燃え上がらせる。

 戒めていた糸が溶け落ち、同時にアザミは大きく後ろへ跳躍。

 男の拳が、アザミがいた空間を通り振り抜かれる。

 凄まじい破砕音が響き、アザミが繋ぎ止められていた木がへし折れ、ゆっくりと倒れていく。


(あの動き……まさか……)


 小刻みなステップ、目にも留まらぬ拳打――男は恐らく、ボクサーだ。

 先史時代の格闘技というやつだ。ヒギリやヴァンも使っていた技術だろう。

 

 アザミは混乱を押しのけて、戦闘に思考を集中する。

 先史時代の人間? 

 過去からやって来た? 

 あまりにも異常な状況だが、今そのことを考えていれば確実に敗北する。

 拳を武器とする男は、残りの二人よりも確実に魔力でも体術でも上。

 残り二人の魔力は、四星剣クラスから一段落ちるが男の魔力は四星剣クラスだ。

 

 ――勝てるだろうか。


 男一人が相手だったとしても、勝てる確証がない。そこにさらに二人。

 状況は最悪。

 だが――


「――ハァッ!」

 

 爆炎加速により男へ肉薄、斬撃を叩きつけるも、男はガントレットで覆われた右手の甲で、剣を外側へ弾いた。

 ほぼ同時、左拳が飛んでくる。

 剣は弾かれたことにより、アザミから見て左へ流されている。右から飛んでくる拳に合わせるのは不可能――だが。

 

 切り返すのは間に合わない。

 ならば、とアザミは刃ではなく、柄頭で拳を弾いた。さらに剣の柄から左手を離し、男の腹へ拳を叩きつける。


「……ぐッ」


 男が僅かに怯む。

 こちらも伊達に百年生きていた訳ではない。

 もうこの世界にヒギリやヴァンのような体術の使い手はいないが、それでもあの領域の者と戦えるように鍛え続けていたのだ。

 先史時代の体術も、学べる範囲で学び、物にしている。


 ――いつか、今この瞬間のような事態が来るかもしれないと思っていたから。


 彼らの目的はわからない。だが、襲いかかって来たということは、友好的な相手ではないだろう。

 彼らのような強力な使い手が現れた時こそ、自分の力を使うべき時だ。

 訪れるかもわからぬいつかに備え、アザミは自身を鍛え続けていた。

 

「――安心するのは早いぜ?」


 刹那、銀色の輝線を描いた蹴撃がアザミを襲う。

 直前でもう一人の気配を察知し、足元を爆破して後方へ。

 

 だが、逃げ切れない。

 距離を取ったつもりが、蹴りを放った少年は既にアザミの目の前に。


(――――速すぎる……ッ!)


 アザミの爆炎加速による移動は、この世界における近距離での動法の中では最高クラスのものだ。

 それに難なく追いついてくる相手のスピードは驚異だった。

 そして、それだけではない。

 連続して繰り出される鮮やかな蹴り技。

 恐らく一撃の威力はヴァン程ではないだろうが、速度と連撃の回転力でなら勝っているかもしれない。

 防戦一方。

 なんとか防いでいるが、それしかできない。反撃しようとすれば、それが隙になる。逃れることもできない。

 攻撃を食らう覚悟で反撃するか、それとも連撃を続けられなくなるのを待つか。これだけの連撃だ、魔力消費も激しいはず――という、アザミの思考は、驚愕により遮られた。


 ――糸。

 蹴りによって弾かれた剣を握り両手に、糸が絡みついて、再び付近の木に固定される。


「ナイスだ、《アラクネ》」


「《タキオン》もナイスデース。やっぱりチームワークは大切デスネー。タイマンなら勝てない相手デスヨー、糸、溶かされちゃいマース」


 ふざけた調子だが、言っている事は真っ当だった。

 糸使いの少女には、一対一でなら相性は悪くない。

 糸の耐熱性が高くない以上は、相手の強みは全て潰せる。

 だが、それでも他の相手と組むと厄介な相手だ。

 現在の拘束も解くことは出来るが、そのために魔力を練っている間は無防備になる。

 連携されると確実に糸を受けてしまい拘束される。

 拘束される時点で、拘束を解くために必要な一動作ワンアクション、それが致命的な隙になる。

 

 ――詰まされた、だろうか?



 いいや、まだやりようはある。


 アザミは、一気に周囲全方向に火炎を放った。

 彼女を拘束していた糸も、糸使いの少女も、足技使いの少年も、全てが火炎により吹き飛ばされる。

 

 ここからは常に距離を取って、まとめて範囲攻撃を仕掛ける。消極的ではあるが、確実だ。 

 見知らぬ相手と正々堂々と勝負をする趣味はない。

 近接での戦いで、その場に釘付けにさえされなければ、糸を受けることもない。

 

 だが――


 アザミが放つ火炎を――拳を武器にする男だけは、難なく潜り抜けてきた。


 男がまだ間合いに入っていないにも関わらず拳を振るう。

 そこからは、激烈な水流が。

 

 リウビアのような鋭さはないが、アザミの火炎を消し去るだけの威力はあった。




(水属性……厄介な……っ!)




 そこでアザミは気づいた。


 この者達は、最初から自分を倒せるように組んできているのだろうか。

 どこから自分の情報を。

 いや、過去から来ているという時点で、そんなことは些事だろう。

 自分の想像も及ばない先史時代に存在する術式を使っているのなら、見当がつくはずがない。



 遠距離からの攻撃で糸使いの少女と、足技の少年は倒せるかもしれない。しかし、それも拳闘を扱う男が水属性ならば頓挫する。こちらの火炎は消しされてしまうのなら、いよいよ手の打ちようがない。



 ――――《終焉神装ラグナロク》さえ、使えれば……。



 アザミの《終焉神装ラグナロク》は、兄への狂愛によって成り立っていた。

 今だって兄への気持ちは失われているが、消えない炎で兄を永劫に囚えたいなどという、狂愛を原動にした願いはもう抱けない。

 故に、アザミはもう《終焉神装ラグナロク》を使えなくなっていた。


「……さて、しばらく眠ってもらおうか」




 気がつけば、男が肉薄し、拳を振り上げていた。



 負けた。

 完全に、敗北した。


 今になって思えば当然だ。

 相手の方が数も上、準備だってしていたのだろう。ならば勝てる道理はない。

 数や事前準備の差は同様のものでしか覆せない。想いでは奇跡は起きない。ましてや今の自分には、戦いに懸ける想いすらかつてよりもずっと中途半端。

 百年経ってもこの程度。

 あの頃の――狂愛で動いていた時の自分の方が、ずっと強かった。

 終わりだ。

 助けは来ない。

 来たところで、目の前の敵には敵わない。

 アザミは現状の世界で最強なのだから、アザミが勝てない以上はもう、この世界で彼らに対抗できる相手はいないのだ。







 ――――刹那、アザミと男の間に、刃が突き立った。







 もうこの世界に、現状を覆せる者などいないのだろう。


 そう、この世界・・・・には。










「女の子一人相手に寄ってたかってか、気に入らねえな」










 拳を振り上げていた男が、突如現れた刃に僅かに驚く。


 刹那、その一瞬の隙に、新たに現れた男が、銀色の拳を振り抜いて、相手を殴り飛ばしていた。




「オイオイ…………何者だテメェ……!?」




 殴り飛ばされた男を見て瞠目した少年の誰何。

 




 現れた男は、銀色の右手で、地面に突き立った剣を引き抜いた。

 




 その剣は、奇妙な形をしていた。

 一つの柄の両端から刃が伸びている。

 まるで時針――――もしくは天秤のような形状。

 燃える炎のような真っ赤な赤い髪。少し目つきは悪いが、強い意志を秘めた赤い瞳。

 





 現れた男は、誰何に応える。










 

「――オレは赫世レンヤ。かつて一つの世界を焼き滅ぼした者だ」









 アザミに襲いかかってきた三人が、息を呑むのがわかった。





「赫世……だと……?」





 現れた男――レンヤは、相手の驚きなど無視して彼らに背を向け、アザミを拘束している糸を斬り裂く。





「……初めまして。……アザミちゃん、だよな? オレは世界を滅ぼしたって言ったけど……今は世界を救うために戦っているんだ……そして――」

 



 アザミに向けて、レンヤは手を差し伸べる。














「――――世界の前に、キミを救う」

 













 あり得ないはずの救いの手。

 



 この出会いが、アザミの運命を変え――そして、新たな物語の始まりとなる。



 新たな物語は、先史時代――今のこの世界よりも遥か昔。


 そこが新たなる戦いの舞台。



 復讐譚は終わった。

 英雄譚は終わった。

 ヒギリの物語は終わった。

 アマネの物語は終わった。


 これ以上語られるべき物語は残っていない――はずだった。


 だが、残された彼女の物語は未だ終わっていない。

 


 世界焦がす復讐鬼の追想譚。

 あるいは、世界照らす少女の英雄譚



 あるいは――――永劫許されぬ少女の贖罪譚。



 永劫に続くはずの贖罪の旅に身を投じた少女。



 彼女の贖罪は――――今より千年前の世界で果たされる。


 


  

 ◇










 ――――――物語は、追想譚メモリアを超えて、逆襲譚ヴァンジャンスへと続く。

 











Azami will return.....アザミはヴァンジャンスで帰ってくる……的な……。

 いや帰ってきて嬉しいか?という感じもあるけど、彼女の今後のお話も、彼女の抱えたもの的に面白い……はず。

ヒギリとかは出てこないの?という疑問もあるかもですが、それはまだ内緒ということで……。あっさり復活したら彼の物語が軽くなっちゃいますし……('、3_ヽ)_


というわけでMCUのエンドロール後に流れるやつ的なのでした。


作者の別作品、『迅雷の逆襲譚』に続きます、読んでくれ~~~~(宣伝)


もうちょい説明すると、最後に出てきたレンヤさんは作者の別作品『キミのためのラグナロク』の主人公です、読んでくれ~~~~(宣伝)



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