死人
金城さんは俺に近づくと優しく話しかけてきた。
「いやー危ないとこだったよ。今日見えない何かがあんたに話しかけてきただろ?あれ、あんたを連れて行こうとして声をかけてきたんだよ。クロに見張らせておいてよかった。」
俺は金城さんが何を言ってるのか理解できなかった。
(何を言ってるんだこの人は・・・あの手に持っている奇怪な恐ろしい物はなんだ?)
「あんたが今寝ている場所は霊の通り道でね。
今から儀式をするからね。そのためにあんたをこの島に呼び寄せたんだからね。
いやー逃げられなくてよかったよー。ヨウコも悦んでいるよ。」
そう言って金城さんは両手の上の不気味な何かの頭を撫でた。
金城さんが近づいて来た。俺のすぐ横にしゃがみ込んだ。
そして俺の胸の上に恐ろしい化け物を置いた。
そのとたん俺の体温が急激に下がった。
まるでマイナス20度の冷凍庫に放り込まれたように身体が震え出した。
死の直前の痙攣・・・俺の体の中に何かが入って来た。
複数の霊が体の中に入って来る・・・・・
次から次へといろいろな感情と映像が頭に流れ込んで来る。
赤いワンピースを着た長い髪の美しい女性が海に入り死んだ。
とても強い感情、悲しい、くるしい、辛い、許さない!
炭坑から逃げ出し連れ戻されリンチされて殺された男。
目がない。真っ黒な穴。
(ゴガガごぐぐぐ 頭の中を音が意識が映像が感情が・・・・・)
気がつくと俺は白く光り輝く球体の中にいた。
まるで太陽の様な強い光の意識の集合体のようなもの。
音は無い。自分の名前も記憶も全部無くなった。すべての感覚が無くなり時間も止まった。
いや1秒も100年も同じになった。
悲しみも苦しみも無く喜びも楽しみも無い。
何も考える事も出来なくなった。
植物になったみたいだ。
ただ自分の魂だけが存在する。
ここは死んだ者がたどり着く魂の源だ。
どれくらい時間が経ったのだろうか?10時間?100年?1秒?
しばらくするとだんだん意識がはっきりとしてきた。
ああ不意に俺は思い出した。
ここは前に来た事がある・・・・・前に死んだ時だ
前に死んだ? 違う俺はだいぶ前から死んでいたんだ。
俺は 死人 だ