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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
90/130

「16話-希求-(終編)<後・始>」

"始まり"の決意とは!!


※約6,600字です。

※2つのお話をくっつけました。

2018年5月13日 10時頃

しげちゃんのスタジオ

あことし



 俺達が集まる場所といえば、しげちゃんのスタジオくらいしかないんだけどね。

だけど時間だけ決めて集まってみたら皆ここに来たんだから、俺達って凄いのかな。 

それだけ一緒に居るって事でもあるんだよね。


「あことし、早くしてください」

しげちゃんが呆れた顔で1つ空いた席を指差す。


 椅子のセッティングまでしてもらっちゃって、俺相当ぼーっとしてたんだね。

しかも円形にしてくれてる。


「ごめんごめん、なんだっけ?」

俺が苦笑いしながら駆け寄ると、しげちゃんは咳払いをした。


「本日はColoursの決起集会をしようと思いまして。ただ、その前に……昨日はすみませんでした」

そう言い終えたしげちゃんは、立ち上がって深く頭を下げた。


「Coloursの決起集会なのに、私も居ていいんですか……?」

周りを見回した淳ちゃんは、不安そうに質問してくれた。


 どうしよう。

誰も何も言わない。

ここは皆を支える俺が何か言わなきゃ!


「え~? いいよ! "表の世界"も一緒なんだなって思えたし」

って、脚を組み直してどちらにも返事をすると、ゆーひょんが俺を指差しながら何度も頷いてくれた。


「でしょ!! 嫌になるくらい一緒よね。別に逃げたくてこっちもやってる訳じゃないけど」

ゆーひょんは俯き加減で寂しそうに言うと、淳ちゃんが肩に手を置いて「世の中と書いて、理不尽と読む! やな」って、苦笑いしながら言った。


「どういう意味? 順序立てて説明して?」

佐藤はスマフォを取り出してメモを取る体勢に入っちゃってるけど、淳ちゃんにそこまで深い意味は無いんじゃないかな。


「そう言えば、朝に茂のお兄様から電話を貰ったのだが」

すそのんのんが顎に手の甲を当てて言うと、しげちゃんは面白いくらいに顔が真っ赤になった。


 話題を変えてくれたすそのんのんに心から感謝したいけど、佐藤はちょっと納得いってなさそうだった。

そのうち、まぁいいやって佐藤ならなってくれると思うけどね。


「なんですって!? 兄は何と!?」

しかもすそのんのんに掴みかかって揺すりながら言ってるから、しげちゃん何か隠してるのかな?


「落ち着いて欲しい」

すそのんのんはしげちゃんの腕を掴んでピッチリ揃えさせると、

「お兄様は、『貴方もよく知っている方から連絡があり、世間に公表する事にしました。まさか、背中を押してもらえるとは思いませんでした』と、仰っていた」

って、焦りの色が見えるしげちゃんの目を真っ直ぐに見て言った。


「は……? それはもしかして神崎さんから連絡があったという事でしょうか」

どうやらしげちゃんが思ったのと違った事を言われたみたいで、なんだか拍子抜けって感じだった。


「そうだが? 茂は一体何を心配していたんだ?」

すそのんのんは口の端をちょっと上げて言うと、目を細めた。


「いえ……わざわざ貴方に言う事でもありませんから、気にしないでください」

しげちゃんは口元を覆って顔を背けると、耳まで真っ赤なのが見てとれた。


 もしかして、しげちゃん昨日玄関で寝ちゃったとか!?

あ! 後頭部にかわいく跳ねた寝癖があるし、耳の近くになんかの跡がついてる!


 ていうか、これをすそのんのんにチクられると思ってたんだ。

しげちゃん、めっちゃ真面目だなぁ。知ってたけど。


「まぁ……颯雅さんが助けてくれたんだね」

俺が笑いを堪えながら言うと、ゆーひょんは首を傾げて、

「そうなるわね? まぁ私はどっちでも良かったけど」

って、肩をすくめて言った。


 すると佐藤が手鏡を椅子の背もたれ近くに置いて、

「美しいものを探した方がいい。視野が狭い」

ゆーひょんをじっと見ながら言った。


 やっぱ、佐藤って菅野くんみたいにオーラが見えるんじゃないかな?

たま~に思うんだけど、人の気持ちに敏感な時があるっていうか。


「そうね。汚職、隠蔽が日常茶飯事の世の中がおかしいんだから――」

ゆーひょんが何もかも諦めた顔で言いかけると、

「もっと長い目で。今日の決起集会は、これからずっと頑張ろうって意味じゃない?」

佐藤は首を横に振って、真剣な表情で重ねた。


 あれ? 佐藤がここまで真剣に言うって事は、ゆーひょんが何か考えすぎてる?

「そうだったわね。ごめんなさい」

ゆーひょんは眉を下げて言うと、心配そうな顔をする俺を見て申し訳無さそうに視線を逸らした。


「1人で抱えないで」

淳ちゃんがゆーひょんに寄り添って言うと、ゆーひょんはちょっとだけホッとした顔をした。


 それを見届けたしげちゃんは急に立ち上がると、

「……それでは私達の"始まりに"――」

って、拳を突き上げて言うから、

「カンパーイ!!」

って、続けてみると、しげちゃんは眉を吊り上げた。


「はぁ!? 飲み物も何もありませんよ!?」

しかも八つ当たりに近い感じで滅茶苦茶怒ってきた。


「ん~……じゃあ、えいえいおー!」

俺が少し考えてから言うと、しげちゃんは一旦目を閉じて息を吐き、

「違います。遮らないでもらえますか?」

って、すっかり落ち着いた声で言った。


 俺はそれがすっごく面白くて、

「えぇ~……いいよ!」

って、ニカッと笑顔を見せて言うと、

「あ、いいのね」

ゆーひょんが半分呆れた顔でツッコんでくれて、淳ちゃんも一緒に笑ってくれたんだ。


「改めまして、私達の"始まり"に虹を掛け、進む先は光と信じ、これからもお客様に音楽という名の価値を与えながら歩んでいく!! その名は!?」

しげちゃんがさっきと同じく拳を突き上げて言ってくれたけど、おっとこれ何か言わなきゃいけない感じなのかな。


 怖くなって一応CAINを見たけど何も来てないし、すそのんのんを見ても困った顔をしている。

「どうしたんだ? CAINは集合時間の連絡以来動いていないようだが」

すそのんのんが代表して訊いてくれたけど、しげちゃんは恥ずかしさからしゃがんで椅子に突っ伏している。


「あはは……ねぇ、茂のスマフォ見せてくれない?」

ゆーひょんが苦笑いを浮かべてしげちゃんの背中を叩くと、しげちゃんは尻ポケットからスマフォを取り出した。


「いえ、自分で見ます。ですが今朝確かに――」

しげちゃんは顔を上げてCAINを開くと、急に口を噤んだ。


「ん? あ~」

ゆーひょんはひょこっと画面を見ると、

「送信できてなかったみたいよ」

俺達の方を振り返って小声で言ってくれた。


 な~んだ。

しげちゃんがおかしくなっちゃったものだと思ってたから、なんか安心しちゃったな。


「たまにあるから気にしないで欲しい」

すそのんのんが微笑みながら言うと、

「私もよくありますよ~」

って、淳ちゃんも共感してくれて、

「美しい言葉だった。それで、続きは何て?」

と、佐藤が立ち上がって手を広げて言う。


「あ! 最後はね――なるほどね。ちょっとダサくていいじゃない」

ゆーひょんはイタズラ笑顔を見せると、しげちゃんの肩を突いた。


「ダサい、ですか」

しげちゃんは淡々と言葉を口にすると、椅子に座り直した。


「ちょっとよ。ちょっと」

ゆーひょんは人差し指と親指でジェスチャーを見せると、からかうように目を細めた。


「……ではでは!!」

淳ちゃんが緩んだ空気をガラッと変えると、しげちゃんはまた立ち上がって、

「その名は!?」

って、拳を突き上げて言った。


 今度はもう大丈夫。

ちゃんと皆で目配せも出来たし、ここは思い切って言おう!


「Colours!!」


 皆の声がスタジオに響いた瞬間、俺達の"始まり"の声がまた虹の道を作ったんだと確信したんだ。



2018年5月17日 18時頃(前編から3時間経過……)

後鳥羽家 すそのんのんの部屋

あことし



 全てを話し終えた俺からは、思わず笑みが零れてしまった。

"始まり"のスタートラインまでの道のりがこんなに遠かったのかと。

こんなに回り道してたんだと、呆れちゃったのかもしれない。


 だけど、遠回りしていなかったら俺達はきっとどこかでバラバラになっていた。

必要だったんだ。


 皆が同じ方向を向くには……絶対に。


「……ていう感じなんだけど、どうかな」

俺がおそるおそる言ってみると、右隣に居たしげちゃんが微笑んでいる。


「大丈夫です、間違ってませんよ。やはり貴方に任せてよかったですね」

しげちゃんが膝の上に乗せていた手で顎を擦って言うと、すそのんのんも深く頷いた。


「そうだな。あことしはこの業界では珍しく純粋な感性を持っている」

すそのんのんが透理さんをチラッと見て言うと、透理さんは緩みそうになる口元にすっごく力を入れて頷いた。


 すそのんのんのお兄さんでもあるし、ありがたいことにColoursのファンなんだもんね!

活動休止の理由から葛藤まで聞けたら嬉しい、かな?


「ホントそれよ。殺し屋業界で純粋な人なんてレアキャラよ」

ゆーひょんは背もたれにふんぞり返って肩を竦める。


「美しい心だ」

佐藤はスマフォにタッチペンで何か描きながら言った。


「あ! 佐藤が私達の前で初めて怒ったのってこの時じゃない?」

ゆーひょんがガバッと起き上がって指差すと、佐藤は首を傾げてから小さく頷いた。


「マイスウィートハニーを困らせたから。腹が立った」

佐藤が無表情で言って退けると、菅野くんは胃が痛そうな顔をした。


「ありがとな」

すそのんのんが苦笑いを浮かべてお礼を言うと、佐藤はガラッと笑顔に戻った。


「結局救ってくれた1人にいつも淳ちゃんが居たよね! ありがと!」

俺が話題を変えようと口を挟むと、菅野くんは安心しきった顔で手を合わせた。


「それ、旦那としてめっちゃ嬉しい。淳、凄いやん」

菅野くんは左隣で微笑む鳩村さんと目を見合わせて言うと、淳ちゃんに満面の笑みを見せた。


「も~、褒めても何も出ないですよ~」

淳ちゃんが照れながら言うと、菅野くんは膝を叩きながら笑った。


 恋人が出来たらこんな感じなのかな。

ちょっと悪くないかも。

それにしても、2人がこうして笑ってくれてよかった。


 すると鳩村さんがすそのんのんの腕を引いて、

「ちょっと相談してもいいかな」

って、小声で言うと、すそのんのんは微笑みで応えた。


 鳩村さんって、たしかすそのんのんの前だと吃音にならないんだよね!

しげちゃんから聞いた事あるんだ。


「少し出てくる」

すそのんのんが軽く手を挙げて言うと、菅野くんは口を尖らせて不満そうな顔をした。


「内緒話かぁ……何話すんやろ? 俺は今の話聞いてバンドもええなぁってちょっと思ったけど」

菅野くんが遠慮がちに俺達を見ながら言うと、淳ちゃんはパッと明るい笑顔になって、

「ええやんええやん! はとやんも菅野もやってみたらええんちゃうん?」

って、胸の前で指を組んで言ってくれた。


「うん! ちょっと考えてみるわ」

菅野くんは向日葵みたいな笑顔になると、淳ちゃんの頭をポンポンと撫でた。


 う~ん? 自分で研究してるようには見えないし、今のってすそのんのんから教わってるのかな?

すそのんのんはだって――ね?



 それからしばらく談笑していると、すそのんのんと鳩村さんがにこやかな雰囲気で戻って来た。

その様子に菅野くんは首を傾げてて――気のせいかもしれないけど――ちょっと嫉妬している感じがあった。


「何話してたん?」

菅野くんが腕を組んで挑戦的に言うと、鳩村さんは一歩後退りをして、

「……が、楽器、につい、て……か、かな」

と、俯き加減で言った。


 すそのんのんは庇うように鳩村さんの半歩前に出ると、

「補足すると、バンドの楽器編成についてだ。鳩村はゲーム音楽が好きだから、ヴァイオリンが使えるか知りたかったようだ」

って、笑顔の裏に何か隠してそうな顔で言った。


「う、うん! ちょ、ちょっと……気に、なって……」

鳩村さんが右肘を強く握って言うと、しげちゃんがスッと立ち上がって、

「プレイヤーに興味は無いんですか?」

と、皆が気になっていたであろう事を訊いてくれたんだ。


 だってめっちゃ気にならない!?

ヴァイオリンが使えるかどうか訊くんなら、自分が弾きたいか誰か誘いたいって思うよね!?


「えっ……」

だけど鳩村さんは、唖然としちゃっている。


「あ! 鳩村はん貴族ならヴァイオリン出来るやろ?」

菅野くんはすそのんのん越しに鳩村さんに向かって身を乗り出すと、鳩村さんは更に一歩引いちゃった。


 鳩村さんはガツガツ来られるのが好きじゃないっぽいなぁ。

見た目からして骨くらい細くて頼りなさそうだから、菅野くんが物理的に怖いのかもしれないけどね!


「本人の前で言いづらいが、鳩村は元貴族で今は一般宅と変わらないと思った方が良い。それと、得意なのはピアノだ」

すそのんのんは片手を腰に当てて呆れ顔で言うと、菅野くんはバツが悪そうな顔をした。


 あれ? たしか没落貴族じゃなかったっけ?

しげちゃんがそんな事を――もしかして、すそのんのんが気を遣ってくれてるのかな。


「はとやん声ええから、ボーカルやってみたら?」

淳ちゃんがふと話し掛けると、鳩村さんは大きく首を横に振った。


 だけど今にも消えちゃいそうなくらい細い声なのに、どうしてボーカル?

かといって他の楽器だともっと大変かもしれないけどね。


「うわっ! ごめん! でもピアノ出来るの凄いやん!!」

菅野くんは控えめにすそのんのんの隣に並んだ鳩村さんに声を掛けると、鳩村さんは小さく頷いた。


「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ……ぼ、僕達はこれで……」

鳩村さんは俺達に一礼すると、淳ちゃんと菅野くんも同じように頭を下げた。


「そうだな。菅野、鳩村、淳も遅くまでありがとう」

すそのんのんが目を細めて言うと、俺達も続けてお礼を言った。


 そして3人が部屋を出た後には、

「透理兄さんもありがとうございました」

と、丁寧に頭を下げて言うから、俺達もなるべく丁寧に続けてみた。


「じゃあ、またライブで」

透理さんは小さく手を振ると、優雅に部屋を出て行った。



「よし! 今日はすそのんのんのお家にお泊り!」

俺が透理さんの足音が遠ざかったのを見計らって言うと、すそのんのんは嬉しそうに頷いて、

「歓迎する。茂、ゆーひょん、佐藤はどうする?」

って、3人を順番に見ながら言った。


「いえ、流石に悪いですよ」

しげちゃんが俯き加減で首を横に振った。


「私もパスね。ちょっと心配な患者さんが居るの」

ゆーひょんは眉を下げて言った。


「起こしたいデザインがある」

佐藤はさっきスマフォで描いてた絵が出来たみたいで、うずうずしてるように見えた。


「分かった。ではまた」

すそのんのんが3人を見送ると、俺の頭を慎重に撫でて、

「夕飯は俺が作るから、少し待っていてほしい」

って、言うとすぐに部屋を出て行っちゃった。


 ほら! 今の!!

菅野くんも真似してたやつ!

まぁいいや、今日は疲れちゃったし。



・・・


 こうして最後まで諦めないで希求し続ける事が、必ずしも良い結果になるとは限らない。

だけど、1人じゃなくて皆とならもっと良い方法が見つけられるんだって、やっぱ俺思ったよ。


 それは俺が1人じゃ本当に何も出来ないから思うんだろうけど、だからこそ皆を支えたいんだもん。

その為に頑張りたいって思うんだよ。


 だから、これから菅野くんや鳩村さんにも音楽じゃなくたってそんな出来事があったら嬉しい。

俺やColoursに出来る事があったら協力したいな。


 ここまで言うのは、出て行く時に鳩村さんも菅野くんも目がキラキラしていたから。

それにバンドに興味を持ってくれた顔してたから、これからが楽しみ。


 2人共頼ってくれるかな?

まぁ……リゾゼラ頼っちゃうかもしれないけど、それはそれで嬉しい!


 俺、頭良くないから変な事言うけど、希求するには行動して皆頼って自分で決めるのが大事なんだよね。

なんだろう、すっごくむずがゆいけど……これからも皆を支える人でありたい!! 終わり!

ここまでの読了、ありがとうございました!

次回は16話を話し終えたColours達のお話になります。


次回投稿日は、1月23日(土) or 1月24日(日)です。

それでは良い1週間を!


作者 趙雲

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