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「8話-"BLACK"始動!-」

ついに乗り込むぞ、片桐組へ!!

現在編では、別の場所へと乗り込むことに。


※土日共々予定があり、送れてしまった事お詫び申し上げます。

※約8,000字です。

2018年4月某日 昼頃

藍竜組 正門前



 同行すると言う人を正門で待ち、舞う桜に目を細めては漂う香りに鼻を近づける。

桜の香りは徐々に遠くなり、その代わりに副総長がふわりと桜吹雪が体の周りに舞うと目の前に現れた。

「待たせた」

副総長は"BLACK"以降口数が増え、僕みたいな一般隊員とも言葉を交わしてくださるようになった。

そんな副総長の御召し物は、藍色よりも更に暗めの濃藍の伊国製スーツだ。

メーカー等詳しい事は知らないが、きっと高いものだろう……。

ドレープっぽい艶があって、普段の忍者装束では見えなかった部分がより一層際立っている。

ネクタイは鴇色(ときいろ)で、滑らかな生地を使っているからか違和感がない。

「い、いえ……」

僕は意外と肌白いんだな、と心の中で呟きながら副総長の隣を歩いた。

「……」

黙って歩く副総長の足音が無いので目線を落としてみれば、忍び足をしていることもあり歩き方もかなり独特だ。

それから少しだけ目線を上にあげ足首を見てみると、裾にワンポイントで灰桜色の桜の花びらが刺繍されている。

「あ……」

と、思わず呟きながら歩を止めると、副総長は残り少ない桜の花びらが舞うのを見送りながら僕に目を遣り、

「刺繍?」

と、誰も物真似が出来なさそうなぐらいの鼻にかかる低い声で仰った。

「はい。灰桜色ですが桜の花びら、ですよね?」

僕はしゃがんで裾を持ち上げようとしたのだが、副総長にさらりと躱されてしまった。

「……」

副総長は僕の問いには答えないまま、誠の居る場所とは違う方向に歩き始められた。

「……」

僕も無言で後ろを付いて行くことにしたが、もしかしたら方向をご存知でないかもしれない、と思い不躾ながら左腕の肘あたりを優しく掴み、

「そちらでは……無かった、かな、と……その……えっと――」

4月初旬にも関わらず額に汗を掻きながら俯く僕に、副総長は何度か深呼吸をされてからこう仰った。

「寄りたいところがある……いいか?」

優しい口調で紡がれた言葉にハッと目線を上げると、副総長は僕と目が合った事がお気に召さなかったのか、自然と目線を逸らされてしまった。

……てっきり切れ長だと思っていたが、目尻は優しくアーチを描いている。

鼻筋も通っていて整った顔立ち……総長とは少し違う雰囲気なのはこの部分かもしれない。

「はい!」

大きく掌を広げ手をあげて言うと、副総長は一瞥してから早歩きで歩き出してしまわれた。

「あれ……引かれた?」

と、副総長の御耳には決して入れないぐらいの小声で自問してから歩を進め、ご迷惑にならないよう距離を保っていた。

 今、口を開けばとんでもない事を訊いてしまったり、発言してしまったりしかねない……。

それもこれも……"BLACK"で本当に副総長が変わられた証拠である。

……これからも僕のノンフィクション小説を楽しみにしてくださるなら、是非ともこの理由はお話したい!


 そうして10分ほど歩いただろうか。

舞い落ちた桜の花びらは通行人によって踏みにじられ、既に変色してしまって道路にへばり付いている。

だが副総長がそこを通ると桜は元の色を取り戻し、感情があるかのように彼の周りを舞い、舞踏会のシンデレラになった気分で踊る。

……今更ながら美しい能力だと思う。詳しい事はまだお話出来ないが。

 そして副総長が歩を止めると、桜の花びらたちは近くにあった木の側に寄り添い土を被る。

「綺麗……ですね」

思ったままを口に出してしまった事に気付いたのは、発言した直後……即ち無意識で零れる程の美麗さ。

自然と副総長という人間が創り出した景色に……きっと誰だって感嘆せざるを得ない。

「……付き合わせて、すまない。ここに、寄りたくて」

時間は置いたものの、小さく頷いてから指を差すのは総合病院。

副総長は長らく総長以外と言葉を交わしていないせいか、若干言葉運びが遅い。

それでも綺麗といった僕の言葉に、頷いてくださった喜び。

何物にも代えがたい。

「いえいえ! 行きましょう!」

だからこそ、僕は危険がないよう先導してしまう。

入口前で副総長を振り返ったとき、木の下で制限時間(とき)が来たことを知った花びらたちはそっとまた目を閉じ、皆同じ風に吹かれていった。

「……」

僕はその光景をみて……"BLACK"で起こった事を思い出し涙ぐんだ。

 すると副総長はアイスグリーンのジャケットを着た僕の肩にそっと御手を乗せられ、

「君は何も悪くなかった……そうだろう?」

と、桜色がかった黒目で真っすぐ見られて仰る副総長は、きっと何もかもお分かりで仰っている。

だから……。

「そうですね」

と、心からの笑みを浮かべられるのだ。

僕のその姿に安心したのか、副総長は受付に行き、「藍竜家の親族です」と、名乗っておられた。

 それから部屋番号をお訊きになって、僕に目を遣り付いてくるよう目で指示をすると歩き出された。

「……」

僕は小走りになりながらも何とか追いつき、そっと横目で彼を見下してみた。

身長的には僕が10cm以上高いので、丁寧に後ろで縛った荒れ気味の髪を観察できる。

なるほど、高身長だからこその優越です? と、言うと少しニュアンスが違う。

かといって髪フェチではないので、鼻の下が伸びる訳でもない……強いて言うなら、ギャップを求めて?

よく分からないけど、然程の人は僕より身長が低いので旋毛を見るのがちょっとした楽しみだったり……するかもしれない。


 そうこうしているうちに、親族の方がいらっしゃるであろう810号室に到着し、3回ノックをされる副総長。

中からの返事は無く、僕はてっきり帰るのかと思っていたのだが、副総長はそのまま扉をスライドさせて堂々と入っていかれた。

 僕も続いて部屋に入ると、正面にある高窓は天井まで広がっていて開放感を感じた。

それから手前右に視線を向けると、32型の4Kテレビが患者から見て横向きに置かれ、テレビデッキは薄茶色の落ち着いた雰囲気のもので何冊かアルバムやノートが置かれていた。

そのアルバムのタイトルには、藍竜総長のものしか無く、副総長の名前の入ったものは何故か1冊も無かった。

更にすぐ手前には、自動傾度調整がボタンで出来るベッドがあり、今は検査中なのか本人もご家族もいらっしゃらない。

隣には来客用のパイプ椅子があり、ベッドをぐるりと囲めるカーテンは暁色で落ち着いて眠れそうだ。

「いらっしゃいませんね」

僕が個室であることに驚きながら言うと、ベッドサイドの椅子に腰を下ろしながら副総長はふぅと息をついた。

「……部屋で待ちたかった。一緒に待てるか?」

副総長は入口付近で立っている僕を首だけで振り返り、スーツのジャケットの裾が翻ったときに僕は彼が押し隠している過去の色に気付き、思わずハッとしてしまった。

菅野さんが初めて見るオーラを読むときのあの表情と……似ているような気がしたのだ。

「は、はい……!」

きっと僕は知りたくない事をこれから知ることになるかもしれない。

それが必要な情報であったとしても、可能なら避けたい情報かもしれない。

それでも……向き合わなければならない時が今なら、やるしかないだろう。



2018年4月1日 11時(事件当日)

片桐組 正門前



 集合時間まではまだ30分あるが、早めに着いた方が何かと情報が集まるだろう。

……そう、裾野さんがいつも背中で語っていた。

あの方はいつも行動が早くて、菅野さんは少しギリギリなので出発前のドタバタを見ているのが楽しかった。

でも今は居ないから、僕がしっかりしなきゃ……って、門番さんには睨まれるし、門は閉まっているしで流石に早すぎた。

「なぁ~騅?」

冷や汗を掻く僕の隣には、真ん丸の大きな目をギョロりと動かし睨み上げてくる菅野さんが居る。

朝かなり急かしてしまったから、これは怒られても仕方がない。

だがユーカリへの水やりは忘れなかった。裾野さんとの約束だから。

「ごめんなさ――」

僕の謝罪は菅野さんが胸の前で手を振ったことで遮られ、

「ええのええの! 裾野が早い方が何かと情報が集まる~言うてたのは、ほんまやし……ちょっと懐かしい気持ちになったわ」

と、目を逸らして気恥ずかしそうに言う菅野さんは、僕と目が合うと面白いぐらいに目を泳がせ口元を手で覆った。

「そ、それは……良かったです!」

僕はどう返していいのか分からず、愛想笑いのようなものを浮かべて言うと、菅野さんはムッとした表情になり、

「俺は裾野やないから笑ってスルーせえへんで!? ふざけんのも大概にしいや~」

と、腕を組んで言う様は、やはり一流の殺し屋だ……思わず一歩引いてしまう怖さがある。

それに睨んだ時の僅かな殺気の見せ方が上手いというか、そんなことよりも反省しないと。

「すみません」

何度も頭を下げて謝ると、菅野さんはもっと早くしてみて、と手を叩いた。


 ……しばらく言われた通りにしていたのだけど、何だか首が重たくなってきたような。

あと視線が痛い気がして頭を上げると、

「おっ、今来たんですか? 騅言うんですけど、礼儀正しいヘドバンやんな~?」

って、いつの間にか周りに居た殺し屋たちにも声掛けていた菅野さん。

周りに言われて元の姿勢に戻った僕を一瞥し、

「ごめんごめん、鳩村はんも居たから連れてきたで~」

と、はにかんで手を振られてしまうと、太陽の輝きに圧倒されてしまう。

どうしてだろう? どうして菅野さんの笑顔には、これ程の輝きがあるのだろう?

……七不思議としてメモしておこう。

 対する鳩村さんは、また一段と痩せた気がしてほっそりしている。

それと拭えない陰のオーラが周りの殺し屋からも避けられる程に強い……気のせいだろうか?

「……」

鳩村さんは、話しかけても言葉1つ発することなく、全てスマフォのメモで会話していた。

『ごめんね、2人とも。今日はお話出来そうにないんだ。人が多くて怖い……』

なるほど。たしかに鳩村さんは孤独を好むところがあるから、見知らぬ人が多い今日は精神的に大変かもしれない。

「分かりました、精一杯サポートさせてください!」

僕は両拳を強く握ると励ますように何回か上下させた。

「俺もやるで~!」

菅野さんは一生懸命な僕が面白かったのか、同じ動きをしていた。

『ありがとうね』

鳩村さんは気持ち安らいだ表情を浮かべていたが、背後を振り返ると人の多さに吐きそうになっていた。

それに一緒に振り返ってみれば、同業者の藤堂からすさんが丁度こちらに目を遣っていた為、尚更精神的ダメージが入ったのだろう。

 そのついでに着々と集まってくる殺し屋たちに目を向けていると、どう見ても戦えなさそうな富豪が見えた為、鳩村さんにこっそり訊いてみると、

『名家も対象だよ。予想だけど、片桐組か何かは誰も逆らえない政府を本格的に手玉に取ろうとしているのかも』

と、とても穏やかではない文章が映し出され、僕は危うく気を失いそうになった。

そこまで殺し屋が属する裏社会は拡大していたのか、と。

ふと隣を見ると姿が見えなかった菅野さんは、周りの人たちに声を掛けていて自分なりの方法で情報交換しているようだった。

その中には颯雅さんも居て、かなり慌てた様子で訊いている事から裾野さんの行方を訊いているのだろう。


 やがて11時30分を迎えた片桐組正門は、門番が端に寄ると同時にガタタタ……と重厚な音を立てて徐々に開いた。

そして門番たちにより、爆弾でも仕掛けられてそうな腕時計が配られた。

ちなみに付けると、なかなか取れない……いや違う。完全にくっついている。

 すると4つの棟が対角線上に並ぶ丁度中心地に、「ここで待て」と、赤字で印字された白い看板があった。

殺し屋たちは周囲を警戒しながらも中心に集まり、名家の方々と思われる人たちは執事にしがみついていたり、無事を確かめて来い、と偉そうに指示をする方も居た。

こうして見ていると、自分の職業がつくづく執事じゃなくて良かったと思う。

「何やろな。嘘のオーラは感じへんから、ほんまにここで待っててええとは思うけど……どこかに"誰か"居るんやわ」

菅野さんはホッと胸を撫でおろす僕を不思議そうに見上げながら呟くと、建物の屋上ではなく廊下にあるような小窓を1つ1つ目を凝らして見ていた。

「はぁ……」

僕には何にも感じ取れはしないから、こういう時にオーラの能力を羨ましく思うところはある。

それにしても、周りを見渡すとどこも殺伐としている。

それでも挨拶を忘れていないのは、見慣れた藍色の隊服……藍竜組の隊員だ。

差別なく話しかけ、自分たちも相手も精神状態を良い緊張感程度に保っている所は、本当に藍竜総長の教育のおかげだと思う。

「さっき目、合ったんじゃなかった~っけ?」

回顧し、しみじみとしていたところで急に烏色のもじゃもじゃ頭が目に入り、わっと仰け反ると、

「あ~やっぱりね~。そうそう、本来は敵とか言わないでよ、面倒なんだよそういうの~……俺もよく分かってないし~」

と、烏たちに餌を遣りながら話しているところは、本当に動物的というか気まぐれというか。

中低音の声も、喉に引っかかるような声だから、毎回風邪でも引いているのかと気になってしまう。

……そうじゃなくて、片桐組の役員であるこの人が?

「え、よく知らないんですか!?」

思わず身を乗り出して言うと、藤堂さんは欠伸混じりに頷き、殺し屋たちは僕らの方に目を遣り始めた。

「お気に入りには知らせてないらしいよ。黒河も知らないって言ってたし、狙撃手と情報屋を切るつもりなのかねぇ……」

少しばかり大きめの声で片桐組の役員がそう言うので、周囲の殺し屋はチャンスとばかりに目を輝かせた。

「たしかにね~、世代交代したいなら今かもしれないね~……」

その極めつけのひと言に唇の端を歪める者が増え、藍竜組が柔和ムードにしたのにまた殺伐とし焦燥感が漂い始めた。

……そこまで焦らせて何がしたい?


「貴方の狙いは……?」

僕は烏の羽を撫でる藤堂さんを真正面に捉え、なるべく表情を出さないようにして話しかけると、

「だから知らないって。……危ないかもしれないから下がっておいた方がいいよ~?」

と、藤堂さんが言い終える前に刀を振り下ろした佐藤組の桃色がかった黒い隊服の男の目は、最早ターゲットを殺す時の殺し屋のそれであった。

そして男の刀をふわりと避けてしまうと、烏の足で刃をガッチリと掴ませ、藤堂さんが手を握ると同時に刃はカタカタと不吉な音を立てた。

それからすぐにパキンというあっけない音がし、彼の刀は本来の場所からカラカラと地面へと転がってしまった。

「はっ……!?」

その状況を彼は飲み込めず、たった1羽の烏に刀を折られた悔しさからその場に座り込んでしまった。

彼は何度も折られた刃と柄を見比べては、脂汗を掻き続けて歯をカチカチと鳴らしていた。

周囲はそれを見て、誰も敵討ちをしようとしなかった。

むしろ抜きかけていた各々の武器をしまったのだ。

「……焦りは禁物って習ったんじゃないの~?」

それなのに藤堂さんは、彼に背中を向けて挑発の言葉を述べた。

何だろう……圧倒的な強さ、というよりもメンタルで勝った感じがする……。

「藤堂さん……まだ始まる前ですが……」

色々訊きたい事はあったが、ルール違反で命でも奪われはしないか、という事が気になった。

「大丈夫じゃない? 正当防衛でしょ~?」

藤堂さんは僕の心配に対し、烏の餌を口に咥えて答える余裕を見せた。



 しばらく藤堂さん騒動で焦りと汗の臭いが立ち込めていたが、片桐組専用のアナウンスのスイッチが入ると波はあっという間に引いていった。

「"旧BLACK"はどうでもいい!! これからは、"新BLACK"とさせてもらう!」

と、片桐総長の低音で恐ろしい、威圧感と支配欲に塗れた声が響くと全員の緊張感が増した。

中には、ふざけるな等罵声を浴びせる殺し屋も居たが、恐らく放送室には聞こえていないだろう。

「旧では、騅を殺せば殺し屋としての自由が制限無く与えられたが、5年経っても達成される見込みがない。それなら手っ取り早く、今から3時間で決めてしまえばいい……そうは思わないか?」

続けて語られた言葉に、誰もが俯かざるを得なかった。

騅、即ち僕は今こうして立っていて、どこも怪我はしていない。それは紛れもなく、菅野さんと裾野さん、そして藍竜組の皆のおかげ。

5年という長い時間を掛けても、ピンピンしている僕に痺れを切らした……だが、それは他の殺し屋たちの力量不足とも受け取れるので、誰もぐうの音が出ないのだろう。

「そこでだ……手紙の炙り出しに気付かない阿呆は居ないと思うが、同じ番号同士がチームで辿り着いたチーム順に2回戦に進んでもらう。それで優勝すれば賞金と自由……実に子どもじみているが効率的だ!!」

片桐総長は内心ほくそ笑んでいるのだろう、マイクに下衆な笑みが入っている。

だが周囲には気づかずにここに来た者も居たらしく、慌てて炙り出しをその場でやっている。

……ほんの10人程度だが。

 それでも僕を殺す事で自由になれると思い込んでいて、代替法が子どもじみすぎていると呆れた数人の殺し屋たちが引きかえそうとすると、

「あぁそうだ……出口はそっちではない!!」

と、気迫すら籠った声色で叫ぶと、門に向かって歩いていた殺し屋たちが断末魔をあげて消えてしまった。

「……こうして、順路の指示などに従わないことで特急券を使うことも出来る……あくまでも俺は薦めるぞ?」

片桐総長は爪をカチカチと鳴らし、苛立ちを煽ってきた。

 すると殺し屋であろうと名家だろうと、得策ではないと考え話を聞く姿勢をとった。

特に名家は執事にしがみついている為、少しばかり……これは元名家の僕が言っちゃいけない事だ。

だけど名家は既に賄賂で買収しようとしていたり、番号を大声で叫んでとりあえず脱出させろと懇願していた。

……戦えないなら、そうするしかない。

その考え自体、物凄く嫌いだったから……知恵を貸せばいいのに、とつい思ってしまう。


 そうして辺りを見回していると、黒髪の尻まで伸びるポニーテール姿を見つけた。

カスタムされたSVDを背負っているから、間違いないだろう。

僕は思わずギョッとする菅野さんを連れて駆け寄った。

菅野さんはかなり得意じゃない人物……だからね。

「月道!」

僕は放送が総長の笑い声で止んでいるときに話かけ、白く整った顔を見ると人違いでないことに嬉しくなった。

「騅。15番なんだけど、そっちは?」

月道は中性的な声で冷たく言うと、手紙を見せてくれた。

そこには、『カクナルヒハ、カナラズハレル』と書いてあり、僕は少し首を捻ってから大きく頷き、

「11番だよ!」

と、笑顔で答えた。

菅野さんは、「はぁ?」と、何度も首を捻っていたが月道は完全無視し、

「馬鹿みたいに分かりやすいでしょ。これ、騅の事だから」

と、その場で凍りつきそうな程のひんやりとした声色で言うと、呆れたように放送室の方向と思われる場所を見上げる。

「そう、だよね……」

と、呟く僕の声は片桐総長の高らかな笑い声で掻き消され、

「さぁ、始めよう!!」

と、叫ぶ声により、タイマーが進むような音が聞こえたと思えば、目の前に順路を示す赤文字の白い看板がせり上がってきた。

実際入り口で配られた腕時計の液晶には、残り時間が表示されている。

「じゃあ行くから」

月道は15番同士と思われる藤堂さんと合流し、順路の方角に走っていってしまった。


 だが鳩村さん、いや菅野さんはある違和感に気付いた。

「なぁ、ちょっとこっち来てや」

菅野さんは順路の看板の元に歩いていくと、僕たちを手招きした。

その中には、何かを察した颯雅さんもいらっしゃった。

 そして真下を指差す菅野さんの指を追うと、そこにはせりあがる前には無かった、反対の方角を差す……「順路」の黒い文字。

「……これ、裾野の字や。間違いあらへん」

菅野さんは自信満々に断言すると、

「他の11番さんには悪いけど、こっち行こう」

と、語気を強めて言う菅野さんに、

「はい!」

と、僕は何も疑わずに返事をしたが、鳩村さんは菅野さんに画面を見せては何度か話し合いを重ねた。

やはり記憶頼りになるので、鳩村さんも少なからず不安なのかもしれない。

ただ僕たちは、軍隊のような足音が遠のいていく中、運命を変える道しるべを見つけたのであった。

作者です。


Twitterでも中々お返事できなくてごめんなさい。

投稿がどうしても遅れてしまうので、なるべく書き溜めるように致します。

これからも土日の何れか投稿ですが、もしかしたらもう1日増やすかもしれませんので、ご了承下さいませ。


次回投稿日は、2月3日(土)、4日(日)の何れかになります。

ただ、5日(月)になる可能性もございます。

ご迷惑をお掛け致しますが、何卒よろしくお願い申し上げます。


作者 趙雲


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