「16話-希求-(終編)<後・希>」
しげちゃんの浮かない顔の正体とは?
※約8,200字です。
※2つのお話をくっつけました。
2018年5月12日 20時頃
武堂館 楽屋
あことし
「しげちゃん?」
なんとなく心配で顔を覗き込むと、しげちゃんは前髪でちょっと隠れた目を大きく見開いた。
「いえ……ちょっといいですか」
しげちゃんは俺からすぐ目を逸らすと、皆に視線を遣った。
やがて皆が集まると、しげちゃんはしばらく目をぎゅっと瞑って考え込んで、
「ライブ中に私の担当患者が亡くなりました」
って、息をするのも辛そうな声で言ったんだ。
俺はライブの記憶すら曖昧だったのに、しげちゃんはきっとずっとその患者さんの事も考えていたんだよね?
だからなの? ライブ中に「ただいま」なんて言ったの。
患者さんにも届いて欲しいからだったの?
ごめんね。ベースとドラムは一蓮托生だって教えてくれたのに、気付けなくて。
「本来なら本日私が執刀する予定でしたが、予てから指導していた後輩に託しました」
しげちゃんはポツリと言葉を零すと、悔しそうに膝の上で拳を作って、
「手順通り進めたのなら問題は無かった筈です。ただ、私がその場に居れば問題に対処出来たかもしれません」
って、顎を震わせ呟いた。
これ、誰も悪くないよね?
しげちゃん1人で抱えて良い問題じゃないよね?
俺はそう思いながら皆の顔を見回した。
するとゆーひょんがしげちゃんの背中を擦り、
「誰も茂のせいだなんて思ってないわよ」
と、優しい声で首を横に振って言う。
すそのんのんはしげちゃんの正面にしゃがむと、
「よく話してくれたな」
って、微笑みを見せて言ってくれた。
そうだよ! 今までのしげちゃんだったら、先に帰ってくださいとか言ってさ!
1人で抱え込んでいたんじゃない!?
すごい!! しげちゃんが俺達をもっと信頼してくれたって事だよね!?
「しげちゃんが1人で抱え込まなくなった!!」
俺が口元を覆って言うと、佐藤は一度天井を見上げてから、
「男レベルが上がった」
って、真顔で頷きながら呟いた。
やっぱ佐藤は表現が独特だなぁ。
でも何となく言いたい事は分かる、気がする。
しげちゃんは佐藤の言葉に眉1つ動かさないで、
「ありがとうございます」
って、俺達にお礼を言うと、
「ただ、このままという訳にはいきません。ですから貴方達は先に帰っていただいて構いません。私は今から病院に向かいます」
キリッとした顔をして付け加えたんだ。
その顔はお医者さんの時のしげちゃんって感じがして、ちょっと他人みたいだった。
でも表の世界のしげちゃんはいつもこんな顔してるんだろうなって思うと、珍しい顔が見られてラッキーって思えた。
「分かった。気を付けてね」
俺が微笑みを浮かべて言うと、すそのんのんはしげちゃんを優しく抱きしめて、
「もう1人で抱えるな」
って、背中をぽんぽん叩いて言ってた。
するとしげちゃんはフッと息を漏らして、
「貴方じゃないんですから、自分の限界くらい分かりますよ」
って、口元ゆるゆるの顔で言ったんだ。
多分、すそのんのんには見えてないと思うけどね!
一方でゆーひょんはスマフォの画面を見せながら、
「まだ医師会に報告されてないみたいよ。早く行ってらっしゃい」
って、軽くスマフォを振って言った。
「……」
佐藤はしげちゃんと目が合うと、ゆっくり頷いた。
「ありがとうございます」
しげちゃんは長年の親友達の気遣いが嬉しかったのか、ちょっと目元がキラキラしてた。
だってしげちゃんは、ここで止めたり皆で行くって言ったりしたら怒るもん。
頑固だし、真面目で融通が利かないから。
でも皆、心のどこかで知ってるよ。
しげちゃんが絶対患者さんも病院も見捨てない事。
今は何も出来ないけど、応援してるね。
2018年5月12日 23時頃
蒼谷総合病院 駐車場
あことし
「誰ですか」
暗闇の中、しげちゃんがちょっと焦ってる空気が伝わっていたから物陰から覗くと、誰かと話しているみたいだった。
「何で師匠にすぐ相談しなかったんだ?」
真っ暗でよく見えないけど、聞いた事はある漢らしくも優しい声だった。
師匠?
しげちゃんは1人で頑張ってたイメージだったんだけど、もしかして弓道の師匠?
「……」
しげちゃんは何も答えず、じっとしているように見えた。
「次からは何かあったらすぐ言えよ。これでもお前の先生なんだからさ」
誰かはしげちゃんにそう言うと、もう1人と一緒にどこかへ消えてしまった。
2人の姿が見えなくなると、しげちゃんはこっちを振り返って、
「そこで何をしているんですか」
って、呆れた顔だけど安心した声で話し掛けてくれたんだ。
だって、さっきのしげちゃんすっごく格好良かったもん!
熱意バリバリって感じだったし、あんなしげちゃんを見られるなんてすっごくドキドキした!
今までもこれからも医者としても殺し屋としても、勿論Coloursとしても尊敬してるし!!
よし! じゃ、ここまでに何があったか今から話すね!
・・・
――2時間前。
木田家 ゆーひょんの部屋
あことし
『夜分遅くにすみません。急ぎ、龍勢も連れて蒼谷総合病院に来てもらえませんか。今回の件を説明します』
しげちゃんからColoursのグループトークにこのメッセージが来た時、俺はちょっと嫌な予感がした。
なんだろう、心にザラついた何かが当たった変な感じで違和感が取れないイメージ。
何も出来なくても応援だけはしようと祈っていたけど、しげちゃんが夜遅くにでも説明しなきゃいけないって怖い。
「ごめん。俺、怖いよ」
俺がベッドに大の字で寝転がって言うと、ゆーひょんは「う~ん」と、唸った。
いい加減ホテルに泊まるとか家を買うとかすれば良いんだけど、踏み出せないままゆーひょんの家に居候してるんだ。
電子ドラムも置いてもらってるし、動きづらいんだよね。
ちょっと言い訳。
「知らないままでって手もあるし場合によっては良い時もあるけど、今回はそれじゃ何も解決しないわよ?」
ゆーひょんは俺の左腕をグイと引っ張ると、ベッドから引きずり下ろした。
本気でぼーっとしていたから派手に尻餅ついちゃったけど、
「わっ、分かったよ。俺達が行かなきゃしげちゃん困っちゃうもんね!」
俺が勢いをつけて立ち上がると、ゆーひょんは小さく頷いた。
――1時間後。
蒼谷総合病院 駐車場
あことし
ザ・大病院って感じの病院前の駐車場に車を停めると、ゆーひょんは降りようとする俺の手を掴んだ。
「ん?」
振り返ってみると、ゆーひょんは俯いたままでこう呟いた。
「これからあことしは医者の胸糞悪い一面を見るかもしれないけど、我慢できる?」
ゆーひょんの心に雨が降っていて、表情もどんよりしていた。
でも言葉1つ1つがハッキリ耳に届いて、俺の心にも雲を運んで来た。
何だろう?
しげちゃんは何も悪くないんだよね?
じゃあ誰の胸糞悪い一面なんだろう?
「我慢って、どうして?」
俺が首を傾げて言うと、ゆーひょんは少しだけ顔を上げてくれたけど、すぐにまた俯いて、
「相棒として忠告したいだけよ。医者は綺麗事だけじゃないの。いい?」
何かグッと堪えているような声で言った。
俺には難しい事が分からない。
でもゆーひょんが何かを我慢してまで俺に忠告しているなら、従った方が良いのかな?
今は疑問が多すぎて、何から聞いたら良いのかも……分からない。
「分かった」
俺が無理に作った笑顔で言うと、ゆーひょんはすっごく申し訳無さそうな表情で手を離した。
それからドアを開けた俺の背中に、ゆーひょんは一言何か投げかけてくれた気がする。
だけど俺はこの時全然気付かなくて、ドアを優しく閉じて歩きだしちゃったんだ。
車の鍵を閉めたゆーひょんが俺に追いついて、いつもの笑顔を見せてくれた時は嬉しかった。
それこそ心が少し晴れたけど、ゆーひょんの足取りはちょっと重かった気がしたんだ。
それでロビーに着くと、淳ちゃんも含めて皆待ってくれてたんだ。
う~ん、やっぱ最後ってちょっと気まずいよね。
「ごめんごめん!」
俺が小走りして言うと、皆は笑顔で迎えてくれた。
「構いません。応接室をとってありますので、ついて来てください」
しげちゃんはさっき別れた時と同じ格好だったけど、顔にも声にも辛いっていっぱい書いてあった。
目を離したらフラッと倒れちゃうんじゃないか。
しげちゃんを見ていると時々そんな事を思うんだけど、今日は本当に倒れちゃいそうなくらい辛そう。
ゆーひょんが言ってた事も気になるし、俺の頭じゃ何も考えられないし、う~ってなる!!
もっと勉強しとけばよかった!!
そんな俺の後悔をよそに、皆はどことなく表情が暗くてお葬式みたいだった。
佐藤ですら考え込んだ顔してて、やっぱり頭が良いと何かしら察せるのか、と悲しくなっちゃった。
それでいつの間にかエレベーターが最上階に着いてて、皆から遅れないように応接室に一緒に入った。
席順は適当でいいって言うから、俺は1番入口側で扉が見える席にした。
隣にゆーひょん、淳ちゃん、向かい側にしげちゃん、すそのんのん、佐藤が座った。
「夜分遅くに集まっていただいて、ありがとうございます。今回の件について、院長である私の1番上の兄から聞いた話をお伝えします」
しげちゃんは背筋をピンと伸ばして、膝を揃えて話し始めた。
そうそう、ここの院長ってしげちゃんのお兄さんなんだ。
御両親は南里大学病院の教授さんで、お金すら援助しなかったって聞いたけど本当かな?
もしかしたら、しげちゃんが跳ね除けちゃったのかもしれないけどね!
私達だけでやりますよ! とか言って――駄目だ、今は話に集中しなきゃ。
「まず、手術の手順において私の後輩にミスはありませんでした。ただ、縫合――切った傷口を縫う段階で上手く塞げていなかったようです」
しげちゃんは実際にジェスチャーで縫合の部分を見せながら言うと、
「そのせいで炎症が起きてしまい、体に異変が起きました。不幸な事に、手術等で珍しく医者が出払っており、駆け付けるのに時間が掛かりました」
お腹の部分を押さえて苦しそうに言った。
「救える命を――私が熱意や患者さんへの想いを伝えなかったばかりに――落としたんです」
続けて言うしげちゃんは、言葉に詰まりながら話してくれた。
その姿は自分の体を斬られたんじゃないかってくらい痛々しくて、皆の顔を見てみれば誰もが苦しいって顔をしていた。
「患者さんは独身で両親も亡くされており、親戚とは絶縁状態だそうです。要するに、死を悼む方もこちらのミスを叱咤される方もいらっしゃらないんですよ」
しげちゃんは途中息が浅くなりながらも言い終えると、俯いてじっと何かを考えていた。
俺は何よりも話してくれたしげちゃんに感謝したい。
だけど人が亡くなっているから、話してくれてありがとうなんて変だよね。
俺達殺し屋がそんな事考えるなんてって思うかもしれないけど、ターゲットとか仕事とかじゃなければ感覚フィルターが外れるんだよ。
「以前までの私でしたら抱えていたところですが、とても抱えきれないと判断し、貴方達に連絡した次第です」
しげちゃんは少しだけホッとした顔をして言うと、皆を順番に見てくれた。
淳ちゃんはやるせない表情でじっとしていて、佐藤とすそのんのんは下を見ていて表情が見えない。
ゆーひょんはこの先を聞きたくないって顔をしてたんだ。
その理由は、しげちゃんが応接室の壁掛けテレビのスイッチを入れた事で分かったんだ。
<……本国医師会と蒼谷総合病院の院長による緊急会見の模様をお伝えいたします>
アナウンサーの綺麗な本国語が耳に入り込んでくると、
<一部報道にございました医療ミスの内部告発についてですが、全くの事実無根でございます。当院は適切な処置を行いましたが――>
しげちゃんのお兄さんが立ち上がって情熱的に話し始めたんだ。
ゆーひょんはそこまで言葉を聞くと、急に駆け出したと思ったらテレビのスイッチを消して、
「もう分かってたわよ!! はぁ……ほんっと嫌」
頭を抱えて座り込んじゃったんだ。
これがゆーひょんの言ってた胸糞悪い一面。
無かった事にしちゃうって事だよね?
なんだ……"表の世界"でもあるんだね。
内部告発した人や、悪い人が死ぬって所は違うんだろうけどね。
「内部告発は私の後輩がしたようですが、認めなければ辞めると言い残した事を兄は寂しく思っていました」
しげちゃんがゆーひょんに手を差し伸べると、ゆーひょんはしげちゃんを一瞬睨み上げてから手を取った。
「茂のお兄様はまだ人の心を失ってないのね。それで許す訳でもないけど」
ゆーひょんはしげちゃんに背を向ける時に肩をポンと叩くと、席に戻った。
ゆーひょんってお父さんが政治家で自分も政治家だった時期があるから、色んな汚い所を見てるんだと思う。
優しいからこそ、厳しい? 言い方が合ってるか分からないけど、そんな感じがするんだ。
なんだか空気が重く、どんよりし始めた時にバタバタとこっちまで聞こえるくらいの足音が響いた。
敵襲かと思って俺が身構えると、しげちゃんはゆっくり首を横に振った。
その数秒後、ノックもされず開け放たれた扉の先に居たのは、肩を激しく上下させる若い男性だった。
俺達よりちょっと年下っぽいから、もしかしてしげちゃんの後輩?
今時の若い人って雰囲気だけど、落ち着きが無さそうで思い詰めちゃう感じの人に見えた。
身長はしげちゃんと変わらないのに、なぜか小さく見える。
「あ、蒼谷先生!! ニュース見ましたか!?」
汗だくだくのまま話す後輩は、よく見ると手に白い封筒を握っている。
場所は同じ外科の先生とか看護師さんに聞いたのかな?
白い封筒が気になっちゃうけど、反省文?
「見ましたよ。まずは落ち着いてください」
しげちゃんは後輩を壁に寄り掛からせると、背を向けてゆっくり歩きだす。
すると後輩は慌てた様子で駆け出し、
「俺、今日で医者を辞めます!!!!」
しげちゃんに後ろから掴みかかろうとしたけど、しげちゃんは足払いをして後輩を顔面から転ばせた。
なるほど。白い封筒って、退職届だったんだね。
俺、相変わらず"表の世界"の勉強が足りないなぁ。
「何するんですか!!!!」
後輩は額を打ったみたいで、顔を上げた時に赤くなっているのが見えたけど、しげちゃんを睨んでいる顔からは覇気を感じなかった。
すっごく怒ってるだけ? 失礼かもしれないけど、不満を言ってるだけって雰囲気だったんだ。
しげちゃんはそんな後輩を見下し、
「患者への想いや私の熱意が伝わらなかった事は謝ります。ただ、一度失敗したから、患者様を亡くしたからと理由をつけ、自分の使命から逃げるんじゃありませんよ!」
声を荒げる事もなく、冷静に言葉をぶつけたんだ。
後輩のしげちゃんを見る目が、若干後悔に変わり始めると、
「貴方は今、亡くした患者様の為に他の患者様方を救い続けなければなりません。分かりますか?」
しげちゃんは諭すようにゆっくり話し始めた。
「一度逃げたら、後ろめたさが膨張し続け後悔の気持ちが破裂するんです。……それは私もそうでしたから」
胸に手を当てて話すしげちゃんは、俺達の前で曲が作れなくなった事を告白してくれた時を思い出しているようにも見えた。
あの時がきっかけだったのかな。
もう1人で抱えきれないって思ったのって。
それとも今までも何となく思ってたけど、言い出せなかったのかな?
「貴方には私のようになって欲しくありません!! 医者になった以上、最後まで戦いなさい!!」
しげちゃんは後輩の目を見て、先輩として叱っていたんだ。
そこには後輩からは感じられなかった覇気があって、こっちまで瞬きを忘れちゃうくらいだった。
「――っ!!」
後輩はしげちゃんのあまりの気迫に、何も返事が出来ないままだった。
対照的に汗は顔中をひっきりなしに伝っていたんだ。
そうだよね。きっとしげちゃんは"表の世界"でも本気で怒る事なんて無いと思う。
だけどしげちゃんは普段見せないだけで、熱意はすっごくあるんだよ。
だってしげちゃんは、片桐総長に脅されて1週間で外科医になった人。
なるまでの大変さも、なった後の大変さもよく知ってるんだと思うよ!
しげちゃんは、俺達すらも置いて部屋を出る間際に振り返ると、
「自力で立ち上がりなさい。メスを握り、執刀医として指示を出し、縫合まで施せるのは貴方1人。肝に銘じなさい」
さっきまでとは違って先生みたいに優しい目で言うと、扉を閉めちゃったんだ。
後輩はしばらくぼうっとしていたけど、何かに突き動かされたみたいに立ち上がって、
「見苦しいところを……すみませんでした。失礼します」
俺達に綺麗に礼をすると部屋を後にしたんだ。
「しげちゃん、格好良い……」
俺がふかふかの椅子の背もたれに体を預けて言うと、すそのんのんはふふっと笑みを零して、
「普段から医者の先生方にも、いつものように熱意を見せてくれれば良いんだがな」
って、頬を緩ませて言うから、俺もニコニコしちゃってたんだ。
だってしげちゃんって曲への想いをめっちゃ語ってくれるんだもん。
途中で嫌になっちゃう時もあるけど、5人で演奏したいから頑張って聞いてるし!
でもゆーひょんの表情はちょっと暗くて、心配になった俺が顔を覗き込むとパッと笑顔になって、
「ほら、ヒーローを追うわよ!」
って、両手を大きく振りながら言うと、扉を開けて待ってくれた。
それからロビーに戻ると、しげちゃんが出口の前で待っててくれてたんだ。
するとゆーひょんがふぅっと息を吸って、
「蒼谷先生らしくない、熱い言葉でした」
2オクターブくらい低くして言いだしたんだけど、しげちゃんは口元を緩めて、
「木田先生こそ、私の足払いを止めないとは」
って、よそ行きの口調で言うから、俺はキョトンとしてたんだ。
それに対してすそのんのんと佐藤は呆れた表情で顔を見合わせるだけで、動揺なんかしてなかったんだよ!?
普通ビックリするよ!!
俺は様子が変わってなさそうな淳ちゃんにヘルプの目線を送ると、
「お医者さんとしての2人はいつもあんな感じなんかなぁ?」
って、心を読んでくれたのか、笑顔で言ってくれて俺はめっちゃホッとしたよ。
「終電無くなるから帰る」
佐藤は腕時計を見ながら唐突に言い出すと、片手を挙げて歩きだしちゃった。
「帰ろうか」
すそのんのんは淳ちゃんに声を掛けると、淳ちゃんは小さく頷いて俺達にも一礼した。
「それなら私達も帰りましょうか~!」
ゆーひょんは大きく伸びをすると、さっさと歩いていった。
「そうですね」
しげちゃんは前よりも重い物下したって顔をして言うと、後から続いていった。
「はぁ……」
俺はふと溜息を吐いちゃった。
なんだろう、今日はすっごく楽しかった筈なのにずっとモヤモヤ。
でもライブのドキドキと、しげちゃんの格好良い所は絶対忘れない。
そう思いながら病院を出た。
・・・
そこで最初話した、しげちゃんと師匠の会話を聞いたんだ。
その後ね、しげちゃんに何してるか訊かれたんだけど、俺は物陰から出てあの事を訊いてみたんだ。
「しげちゃんに師匠居たんだ!? 俺、てっきり1人でなったもんだと思ってたよ」
ってね!
そしたらしげちゃんは、ちょっと俯き加減になって、
「如月さんに教わっていましたよ。医術と……いえ、何でもありません」
途中何か言いかけたけど、頬を赤くしながら顔を背けちゃった。
へぇ意外! 龍也さんに教わってたんだね!
ビックリというか、しげちゃんの行動力ってやっぱ凄い!
教えてくれた龍也さんも優しいけどね!
「これからも皆で頑張ろうよ。皆で」
俺が手を差し伸べながら笑顔で言うと、しげちゃんはその手を引いて俺を胸に抱いた。
何も言わないで、ただただ俺が壊れちゃうくらいにキツく抱きしめて、
「貴方が居てくれて良かった。勿論、ゆーひょん、佐藤に裾野も必要なメンバーです。龍勢も様々な場面において、大変お世話になっています。ですが――」
吐息混じりに言ってくれた事に、俺はなんでか笑っちゃったんだ。
「何がおかしいんですか。一応続きを言いますけど……貴方にはいつも救われているんですよ。その、他のメンバーより感情的で純粋なので」
しげちゃんは段々尻すぼみになっちゃってたけど、言い終えると背中をポンポンと叩いてくれた。
「えへへ、ありがと。だってベースとドラムは一蓮托生なんでしょ? 俺、ずっと皆の事支えるから、これからもよろしくね」
俺はしげちゃんの胸を押して距離を取ると、満面の笑みを見せて言った。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
しげちゃんは俯いてるからよく見えないけど、俺の笑顔を見た瞬間すぐ離れたから真っ赤なのかな?
「じゃあ、ゆーひょん待ってるし、おやすみ」
俺が手を振りながら言うと、しげちゃんも恥ずかしがりながら手を振り返した。
・・・
あと残り少しになった希求のお話。
翌日集まった俺達は、"始まり"のある決意を固める。
あけましておめでとうございます!!
ここまでの読了、ありがとうございます!
作者の趙雲です。
次回投稿日は、1月9日(土) or 1月10日(日)です。
それでは良い1週間を!
作者 趙雲




