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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
83/130

「16話-希求-(終編)<中>」

入隊試練の後にサプライズを仕掛けようとしたあことし達だったが……?


※約8,700字です。

(+1話まとめました)

2018年4月22日 17時過ぎ

藍竜組 グラウンド

あことし



 入隊試練はゆーひょんに書いてもらったけど、ここからはまた俺が書くね。

それでは本編スタート!!


・・・


 藍竜さん、暁さんがその背中を見て微笑みあっている中、颯雅さんはその人物に駆け寄って、

「龍也~!!」

と、嬉しそうに手を振った。


 でもなんで龍也さんがここに居るんだろう?


「絶対的な信頼を持つ医者だ」

藍竜さんが俺達にだけ聞こえるように声を抑えて教えてくれた。


「ん? ……あぁ、颯雅達か!」

龍也さんは颯雅さんと一緒にこっちに歩み寄りながら、

「鳩村さんについては問題ないが、今後は入隊試練を担当させないでほしい」

と、厳しい表情で言うと、「次の患者を診ないと」って、言い残して走って行ったんだ。


「でも今回だけなんだろ?」

颯雅さんが、堂々と立っている藍竜さんをにこやかな顔で振り返って言うと、

「そうだ。報告ありがとう」

藍竜さんは優しい笑顔を向けた。


「さて」

藍竜さんは暁さんに何かを目で訴えると、

「サプライズ?」

と、暁さんが藍竜さんを見下して首を傾げる。


 俺だってたまにあんな仕草をするけど、色気が違うんだよなぁ。

う~ん、あと10年くらいすればあんな大人の余裕が出るのかな。


「もう呼んでるぜ」

颯雅さんがひょいと横に避けると、その後ろにはちょっと屈んでいたすそのんのんが居たのだ。


「制服のサイズを事前に教えてしまったが――」

すそのんのんはちょっと疲れた顔をしてるけど、透明な袋に入った制服を抱えている姿はいつもの彼だった。


「構いませんよ」

しげちゃんはすそのんのんから制服を受け取ると、

「心臓の音、聴かせてください」

左胸に手を当ててじっと目を閉じた。


 流石お医者さん!

だけどしげちゃんって外科医だよね?

心臓の音、とかはゆーひょんの方が詳しそうだけどなぁ。


 しばらくするとすそのんのんの胸から手を離して、

「疲れた顔をしているので気にはなっていましたが、心身共にかなりストレスが掛かっています。明日は大人しくしていてください」

と、軽く肩を叩いて言うしげちゃんは、ちょっと悲しそうな顔をしてた。


「分かった、ありがとう」

すそのんのんはいつもみたいに微笑もうとしているけど、表情が引きつっていた。


 何があったの?

菅野くんの事を何故か話さないことや、知らないみたいな口ぶりしてたのと関係があるの?


 う~ん、どうにかして安心させられないかなぁ。

……そうだ!!


「すそのんのん! 今日一緒に寝よ!」

俺が制服を受け取りながら目を輝かせて言うと、すそのんのんは目を丸くした。


「気持ちは嬉しいが、夜分の外出を申請する訳にはいかないな」

俺の前髪をふんわりと撫でて言うすそのんのんは、困った顔をして顎に手を当てた。


「え~! じゃあゆーひょんも一緒に行く?」

俺はゆーひょんが制服を受け取ったタイミングで背中を突っつくと、ゆーひょんは口に手を当てて吹き出した。


「あんたシングルベッドに何人で寝るつもりよ! 聖が潰れちゃうわよ」

ゆーひょんは制服を肩に掛けると、人差し指でビシッと指しながら言った。


「俺が下に入ろうか?」

佐藤が真剣な顔をして言うから、全員で一斉に吹き出しちゃった。


 うん、すっごいそういう意味じゃない。

俺は安心させたくて言ったんだけどなぁ。


「神聖な病院で性行為なんて破廉恥すぎますよ。大体貴方達は既に別れているでしょう」

しげちゃんが呆れ顔で言うと、すそのんのんは笑いを堪えながら頷いた。


「皆、ありがとう。おかげで元気が出た」

すそのんのんが左腕を抱えて恥ずかしそうに言うと、佐藤は手鏡から目を離して、

「マイスウィートハニーの為なら何でもしよう! さぁ早く着替えないと!」

と、俺達の背中を押しながら言うと、

「更衣室、こっち」

と、暁さんに腕を引っ張られて反対側へと連れて行かれた。



・・・


 藍竜組の隊服は着やすそうだし、装飾も少ないから評判良かったんだけど、実際着てみるともっといい。

何が良いかって、さっきまですそのんのんが袋越しでも抱えていたから、いつもの香水の香りが残っていたんだ。

それにサイズはすそのんのんが選んでくれたこともあって、ちょっと余裕があって良い感じ!


「いい匂い」

俺が腕に鼻を近づけて言うと、ゆーひょんも真似をしてくれた。


「本当ね! 聖の香水って、男っぽいのに嫌じゃない香りよね」

ゆーひょんは何の興味も示さない茂の脇腹を突っついて言う。


 本当にしげちゃんは隊服でも衣装でも、洋服でも着られればいいって感じなんだもん。

もっと着る物に興味持ってほしいなぁ。


「どうせ裾野の香りは消えるんですから、早く行きますよ」

しげちゃんはブーツの紐が緩んでないかチェックしながら言うと、俺達をチラッと横目で見た。



・・・


 真新しい藍色の隊服姿で戻って来た俺達に、すそのんのんは安心しきった顔で何度も頷いてくれた。

「よく似合っているな」

そう声を掛けてくれたすそのんのんに、俺達はそれぞれにお礼を伝えた。


 すそのんのんも隊服を着てるから、5人でお揃いの格好になったんだよね!

やっとここまで来たって感じだなぁ。

長かった、かも?


 藍竜さんは俺達が談笑している中に近づくと、

「話し込んでいる所悪いが、ゆーひょんは役員だから菅野の退院後、頭脳派隊員の評価面談を引き継いでくれ」

って、キリッとした顔で言った。これが総長の時の普段の藍竜さんなんだよね。


「評価面談そのものについては、裾野から説明させる。……頼んだ」

藍竜さんはすそのんのんの肩をポンと叩いて微笑みを見せると、暁さんと颯雅さんをこちらに呼んだ。


「これからは敵同士だな」

颯雅さんが覚悟を決めた顔で言うと、

「そうですね。宜しくお願い申し上げます」

って、しげちゃんが淡々と続いたから、

「こちらこそ、よろしくお願いします~!」

俺が飛び切りの笑顔で手を振ると、

「よろしく。さっきも敵だったよね」

佐藤が手鏡を見ながら言う。


「あれは入隊試練よ!? まぁいいけど。私からもよろしくお願い致します」

ゆーひょんは佐藤にツッコミを入れると、颯雅さんには一礼をした。


「さすが片桐組。教育がなってるな」

藍竜さんが小さく拍手をしながら言うと、

「藍竜組なら驚くよ」

暁さんが眉を下げて心配そうに言う。


「敵同士って言われたら、な。そこは片桐組らしい……喧嘩売られるのにも慣れてる」

藍竜さんが意地悪そうな笑顔を見せて言うと、暁さんは耳をくすぐる髪を掛けて、

「喧嘩売ってない。心配? だよ」

と、流し目で言う。


「俺そこまで血気盛んじゃねぇよ。なぁ、暁さん」

颯雅さんが2人の間に割って入って言う。


「そうだよ?」

暁さんが少し目を吊り上げて言うと、藍竜さんは目を逸らして後ろ頭を掻く。


 藍竜さんって、暁さんにちょっと強く言われると困っちゃうのかな?

それって兄弟だから? だとしたら羨ましいな。

俺って兄弟居ないことにしてるし、実際縁切ったところだし。


「あぁ。悪かった悪かった」

藍竜さんは一度口ごもってしまったけど、

「依頼阻止の件の心配って言いたいんだろう?」

と、颯雅さん越しで暁さんに申し訳なさそうに視線を送った。


「うん。ガイドライン、罰則。変えるから話したいな」

暁さんが微笑むと藍竜さんはいつも通り堂々として、

「頼んだ。片桐みたいな汚い仕事は無しで、ハニトラも今まで通りアウトでいく。それと潜入捜査は一部役員のみだ、いいな?」

水の中に戻してもらった魚みたいにイキイキしていた。


「分かった」

暁さんが言い終わると同時に桜と一緒に姿を消したから、俺達はあまりの綺麗さに目を見張った。


 "桜を誘う"ってやっぱ素敵な能力だよね!

そう思いながら胸を弾ませていると、

「もう、全面的に潜入捜査はさせないでくれ」

颯雅さんは藍竜さんと対峙していた。


「その話は総長室でしよう。……今日はありがとう」

藍竜さんはこっちに向き直って礼を伝えると、足早に総長室に帰っていっちゃった。

颯雅さんもそれに続いていて、なんだか不穏な雰囲気を感じた。



 やがて2人の姿が見えなくなると、しげちゃんがすそのんのんの名を呼んで、

「潜入捜査は貴方が得意とする手法ではありませんか。仕事に影響は出ませんか?」

肩を竦めて言うと、すそのんのんは悩みながらゆっくりと首を横に振った。


 すそのんのんは、誰かになりすまして情報や物を盗る潜入捜査も得意なんだよ!

努力の天才だから基本的に何でも出来ちゃうし、なりきる人の顔さえ皆知ってなければ大丈夫って凄いよね!!


「そろそろ復活ライブに向けて準備していくんでしょ? スケジュールは?」

ゆーひょんが両手を広げながら言うと、しげちゃんはスマフォでカレンダーを見ながら、

「5月5日にライブ本番でいかがです?」

と、皆を見回して言う。


 すると、すそのんのんの表情が分かりやすいぐらいに曇った。

「その日は1日空けて欲しい」

声のトーンも元気が無さそうで、大きな悩みを抱えているみたいだった。


「? 別に構いませんよ。それなら5月12日の土曜日はいかがです?」

しげちゃんは気付いていると思うけど、あえて触れない感じで皆に提案すると皆空いてるって言ってくれたんだ。


「ありがとうございます。本日中にファンへの通知とメディアへの宣伝を打っておきます。文章は事前にグループトークに投げるので、修正点があればお願いします」

しげちゃんは淡々と言ってるつもりだろうけど、時々目が泳いでるから動揺してるんだと思う。


 よし! 流れを変えるのは俺じゃなくっちゃね!


「分かった! ねぇねぇ、ファンから歌詞の応募あった? たくさん来た?」

俺がしげちゃんの腕を突っついて言うと、しげちゃんは専用メールBOXの通知数を見せてくれたんだけど――


 なんとそこには、100と表示されていたのだ!!


「こんなに!?」

俺がスマフォをひったくって皆に見せると、それぞれに感心の声を漏らした。


「でもこれ既読数じゃない。ということは全部目を通したのね」

ゆーひょんが目を細めて言うと、しげちゃんは俯いて耳を赤くしながら頷いた。


「ふ~ん……私達でも次集まった時に目を通しましょうか! 良い作品が埋もれてるかもしれないし」

ゆーひょんは、画面をスクロールしながら件名に書かれたタイトルを目で追っていたんだ。


「そうしよう。次集まるのが楽しみ」

佐藤は片目で手鏡、片目でスマフォを見ながら言うと、前髪をぺたぺた触りだした。


「そうだな。では、そろそろ俺は戻らないと」

すそのんのんは辛そうな笑顔を浮かべると、片手をあげて返事も聞かずにその場を後にした。



「すそのんのん、元気ないね。あ、でも次集まるの明日だよね? それなら、なるべく元気の出る曲を選びたいな」

俺が車の窓から手を振るすそのんのんに手を振り返しながら言うと、3人も静かに頷いた。


「元気の出るかわいい曲、よね!」

ゆーひょんが片足をあげて可愛らしく言うと、しげちゃんは溜息を吐いた。



 すそのんのんに何があったかは分からない。

でも菅野くん関連なのは確かだと思う。

だからこそ、俺達は誰も触れない。


 何でかって? それは――相棒が解決すべき問題だから。


2018年4月23日 15時頃

しげちゃんのスタジオ

あことし



 翌日スタジオに集まった俺達は、スマフォを横にして何かを見てるしげちゃんの背後に回り込んだ。

そこに映し出されていたのは――


≪リゾゼラ復活ライブ大盛況!! Coloursが続くか≫

と、見出しのついたニュース映像だった。


 イヤフォンしているから音声は分からないけど、しげちゃんがメディアに宣伝してくれた成果なのかも。

しかもライブ前の武堂館の映像も流れてきて、俺達も後ろ姿だけど映ってたんだ!!


「うわ! 貴方達、いつからそこに!?」

しげちゃんが俺達に気付いて仰け反ると、俺達は顔を見合わせて笑った。

やっぱりすそのんのん……疲れたって顔してるなぁ。


 でも今日の練習も、当日のライブも――皆が喜んでくれるものにしなきゃ!

俺はそう心の中で誓ったのだった。


・・・


 しばらく笑い合った後、

「ちょっと前からだよ!」

俺がウィンクをして言うと、しげちゃんは呆れ顔で頷いた。


「ほら、歌詞選んじゃいましょ!」

ゆーひょんは待ちきれないのか、今にもしげちゃんのスマフォを取り上げそうだ。


「はいはい……それでは1つ目から」

しげちゃんは100通のメールを1つずつ丁寧にスクロールしながら見せてくれた。



 どれも俺達の事を想って書いてくれたんだろうけど、正直佐藤が歌う映像が出てくる詞が無かった。

やっぱり歌詞ってセンスが出るから、いきなりお願いしちゃった俺達も俺達だけど――


「ねぇ、待って!」

ゆーひょんが、次のメールをタップしようとするしげちゃんの手を叩いて言った。

どうやら次と、あともう1つで終わりみたい。


「は? これですか? "Helloween Magic"……は!?」

しげちゃんは目を丸くし、それから顎を擦って考え込んだ。

1回は見てる筈なんだけど、忘れちゃってたのかな?


「ハロウィンの曲なんでしょうけど、既にかわいい雰囲気出てない!?」

ゆーひょんは、今にも黒目が落っこちそうなくらい潤ませて皆を見回す。


 たしかに、タイトルからかわいらしいけど……俺達で歌える歌詞なのかな?


「見よう? タイトルだけかも」

佐藤は冷静に言い放つと、しげちゃんの腋の下に腕を差し入れて画面をタップした。


「佐藤!! 貴方どこから――」

しげちゃんがギョッとした顔で睨みつけると、佐藤の目線はもう歌詞に注がれていた。


「ふ~ん……合いの手にチャッチャッとか、チュッチュッとかあるけどいいの?」

佐藤はそのまま自分のペースでスクロールをしながら呟く。


 えっと、もしかして女の子でも年齢がちょっと絡んできそうな歌詞ってこと!?

それならゆーひょんと俺とか? すそのんのんとしげちゃんは、どう考えてもキャラじゃない、かも?


「は!? ちょっと貴方のペースで進めないでください!」

しげちゃんは一度スマフォから片手を離して佐藤の腕を退けると、1人で見始めた。


「え~しげちゃ~ん、一緒に見よ~よ~」

俺が後ろから回り込んで言うと、ゆーひょんとすそのんのんも一緒に覗き込んだ。


 歌詞を見た感じ、佐藤が歌ってる映像は頭の中に流れてはくる。

だけど、これしげちゃん怒るだろうなぁ。


「そ、そうだな……可愛らしい合いの手は、ゆーひょんとあことしにやってもらうのはどうだ?」

すそのんのんが苦笑いを浮かべながら言うと、ゆーひょんは「そうねぇ」と頷きながら言う。


「でも佐藤はいいの? きゅんきゅんきゅん♪ とか平気? もし歌詞がアレならもう1回見るわよ?」

ゆーひょんは眉を下げて申し訳なさそうに言った。


「かわいいのも良いかもって思った。ゆーひょん、嬉しそうだし」

佐藤がゆっくり微笑んで言うと、しげちゃんが急に立ち上がって「待ってください!」と、声を荒げた。


「これで決めようと!? こんな――私は絶対歌いませんよ!?」

しげちゃんはスマフォを高速でスクロールして、他の歌詞を見直し始めた。


「こんな、とは何だ。どの歌詞もファンの方が俺達の為に書いてくださったんだぞ? いくら何でも恩知らずではないか?」

すそのんのんはしげちゃんからスマフォを取り上げると、目を吊り上げてキツめに言った。


「申し訳ございません。言い過ぎました。ですが――」

しげちゃんが肩をガックリ落として謝ると、すそのんのんはいつもの無表情に戻ってスマフォを返し、

「それならどうする?」

と、試すようにしげちゃんを見下す。


 しげちゃんはすそのんのんの表情で何か読み取れたのか、長く息を吐くと、

「分かりました。この詞に曲をつけますけど、スタイリッシュにしますからね」

仕方なさそうだけど、目を閉じて宣言してくれた。


「やった! ありがと~し~げ~る~!」

ゆーひょんがしげちゃんに抱き着いて言うと、すそのんのんはふぅと辛そうに溜息を吐いた。


「すそのんのん……大丈夫?」

俺がすそのんのんの腕を突いて言うと、すそのんのんは遠慮がちに俺の肩に寄りかかった。


「ありがとう。少しだけ休ませて欲しい」

すそのんのんは、誰が見ても辛そうだし今にも倒れそう。

だけどそんな時に俺を頼ってくれて、すっごく嬉しかったんだよ!


「あ、皆聞いて?」

佐藤はスマフォ画面を俺達に見せながら言う。


 そこには弟くん――佐藤永吉くんとのCAINのトーク画面が映し出されていた。

そして下まで順々に目を追っていくと――


「はぁ!? 貴方、弟に情報漏洩したんですか!?」

しげちゃんはまだくっついてるゆーひょんを引き剥がすと、画面に釘付けになった。


 ――『Helloween Magicになったの!? それ、俺が作った詞だよ!! やった~ありがと~!! ライブ見に行く~!』

という元気そうな弟くんのメッセージがあったのだ。


「しかもこの詞、貴方の弟が? とんでもないことを――」

しげちゃんが深々と頭を下げて言いかけると、佐藤は「なんで?」と、不思議そうに首を傾げた。


「永吉が喜んでるから、茂が謝る事は無いんじゃない?」

佐藤は手鏡で自分の姿を見ながら言うと、俺の肩に寄り掛かるすそのんのんを見て目の色を変えた。


「マイスウィートハニー? お疲れかい?」

佐藤が立膝をついて言うと、しげちゃんは呆れ顔で首を横に振った。



「あぁ……何か大事な人を忘れている気がする」

すそのんのんが俺に座るようにジェスチャーをしたから、ゆっくり一緒に座り込んだ。


「茶髪で小麦肌の――聖花(みか)という娘さんが居て、あの手の雰囲気だと槍を扱っていて、関西弁の――」

そこまですそのんのんがぽつりぽつりと言葉を零すと、俺達の中でも1人の人物がヒットした。


 というか、その人しか居なかった。

だけど、思い出す努力もしないで俺達が言っちゃっていいのかな。


「その人は、聖の事がとっても大好きよ。だけど私達から名前を教えられないの」

ゆーひょんは、今にも名前を言いそうなしげちゃんを手で制して言った。


「ごめんね、すそのんのん。でも大事な人って分かってるなら、その人との時間も大事にしなきゃだよ」

俺が躊躇いながら言うと、すそのんのんは俺の頭をふわっと撫でた。


「そうだな。5月5日にユーカリが――それまでには思い出す」

すそのんのんは最初以外は口ごもって言うと、俺の肩を撫でた。

多分、「そうだな」の後の言葉は俺にしか聞こえてないみたいで、皆は心配そうにすそのんのんを見てるだけだった。



「……あれ? もう1つある」

佐藤は俺達に気を遣ったのか、しげちゃんのスマフォを盗み見て呟いた。


「そう言えばそうでした。……これ、もしかして」

しげちゃんが何かをタップすると、急に曲が流れ始めた。


 そこには誰かのデモ歌と、詞が一緒に――ということは、作詞作曲してくれた方が居る!?

男性ファンも多いけど、まさかこんな才能がある人も居たなんて驚いちゃった!!

6人目にどうって言いたくなっちゃうな。


「その声――」

すそのんのんは薄く目を開くと、

「あくまでも推測に過ぎないが、颯雅だと思う」

言い終えた瞬間、辛そうにまた目を閉じた。


「すそのんのんに言われると、そう聞こえてきちゃうなぁ」

俺がすそのんのんの頭を撫でて言うと、ゆーひょんは苦笑いして、

「でも本当かもしれないわね。今までリゾゼラで作詞作曲してないから、ノーマークだったわよ」

肩を竦めて言った。


「確かに。ですが、綺麗でいい曲ですよ」

しげちゃんは小さく頷いて言うと、

「ご丁寧にスコアもあるので、この曲も特別枠として入れましょうか」

CAINのグループトークに送ってくれたのか、全員のスマフォが通知音の合唱を奏でた。


「しげちゃん、さっきと違ってすんなりだね~」

俺がちょっとからかって言うと、しげちゃんは耳まで赤くして顔を背けた。


 それからすぐ頬を叩いて気合を入れたしげちゃんが、

「これから30分で各自譜面の読み合わせ、それから1時間音合わせをしてみましょう」

って、いつも通り仕切るから、俺はふふって笑っちゃったんだ。


「貴方はまず裾野を起こして、CAINを見るように言ってくださいよ?」

しげちゃんがビシッと指をさすと、すそのんのんがのっそりと起き上がってスマフォを開いた。


「その心配はない」

すそのんのんは俺に手を差し伸べて言うと、

「ありがとう、大分楽になった」

いつもの微笑みすそのんのんを見せてくれた。


 俺はすそのんのんの手を取って立ち上がると、

「うん! 頼ってくれて嬉しいよ。練習頑張ろ!!」

ファイトポーズをして言った。


 その時に見せてくれた笑顔は、いつもの優しいすそのんのんだった。

だから本当に大分楽になってくれたんだろうと思っていた。


 この時までは。

ここまでの読了、ありがとうございます。

作者の趙雲です。


騅編サイドのお話も大きく関わってきたので、16話もいよいよ大詰めですね!!

次回投稿日は、10月3日(土) or 10月4日(日)です。


それでは良い1週間を!


作者 趙雲



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