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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
74/130

「15話-偏倚-(前後編)」

能力解放の姿を見られてしまった淳ちゃんはどうなるのか!?



※約3,200字です。

2018年5月10日 21時30分頃

後鳥羽家 吸血闘技場

如月龍也(きさらぎ たつや)



 30分ぐらい前から妙な胸騒ぎはしていたが、龍から後鳥羽家に来るように連絡があって合点がいった。

それぞれ外出していた颯雅も湊も無事なら、胸騒ぎの正体は1人しか居ない――義理の妹である淳だ。


 とはいえ、1人で乗り込むよりかは人数が多い方が良いと思い、俺からは颯雅と湊を呼んでおいた。

ちなみに龍からは相棒である竜斗、実の兄で当主の紅夜、そして紅夜の幼馴染で後醍醐家当主の詠飛だ。


 これだけ居ればいざという時にも対処できる。

ただ、後は最悪の状況になっていない事を願うばかりだ。



・・・



 数分もすると全員が後鳥羽家前に集まり、紅夜によれば闘技場に居るとのことなので、紅夜と龍先導のもと先を急いだ。

「透理って、裾野のお兄さんやんな!?」

走っている最中に菅野が声を張り上げると、龍は若干スピードを落として頷いた。

龍は殺し屋界の中で最も俊足だと聞くから、運動神経の良い菅野でも追いつけないのだろう。


「最近闘技場を頻りに見回っていたから気にはしていたが、まさか淳1人の為に使うとはな」

龍は言い終えると同時に段差に気を付けるよう、注意を促した。


「そうなんだよ~。当主になる為の清算ってそうじゃないんだけどね~」

紅夜は詠飛と頷き合いつつ眉を下げる。

即ち、透理は思い込みが激しいか素直になれない性格なのだろう。


「紅夜の言う通りだ。清算はあくまでも友好的な時にしか使わぬのだがな」

詠飛は歩を止めた紅夜にぶつからないよう一歩下がって言うと、後ろ頭を掻いた。


「ここが吸血闘技場。ま、ここは俺たちに任せて~」

紅夜はジェスチャーで全員に下がるよう言うと、扉全体を白色の液体か何かで覆った。

そして1秒もしないうちに扉を固めてしまうと、

「詠飛」

小声で声を掛ける。


 詠飛は大きく頷き扉の前で呼吸音を響かせると、扉が原型を留めない程の大穴をたった一度の正拳突きで開けてしまったのだ。

「やっぱすごいね~」

紅夜は感心したように手を叩くが、竜斗は穴から淳の様子が見えたのか駆けだそうとする。


 それを止めたのは、相棒である龍だ。

「何でや!? 俺が行かんと!!」

竜斗は不服そうな表情で龍の腕を振りほどこうとする。


「淳の為にも先走るな。この戦いはまだ終わっていない」

龍は焦燥感に溺れる竜斗の眼を真っ直ぐ見つめて言うと、竜斗は渋々頷く。


「伴侶を信じろ」

それから紡がれた言葉に、竜斗は目を見開き小さくはあるが納得した表情で頷いた。


 だが淳が能力解放の姿になっていくのが目に飛び込んできた刹那。

湊の呼吸が荒くなっていくのを感じ、肩を叩いて落ち着かせようとしたのだが――


「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

湊はステージに向かって走り出してしまい、俺は使命感からすぐに腕を掴んで止めた。


「離せ!!!!」

殺気で目を爛々と光らせる湊は、俺の腕を振り切ろうとする。

だが俺は絶対に離さない。


 それは淳の為でもあるが、ここで冷静を欠けば相手の思うツボだからだ。

「……」

その間に俺は颯雅と目配せをし、先に淳の元に行ってもらった。


・・・


「おっと? ステージには上がらせ――あ゛い゛つ゛は゛!?」

透理はひょいと颯雅の進路を塞いだが、その視線の先には颯雅ではなく、刀も抜かずに腕を組む龍の姿が映ったのだろう。

周囲を気にしてか声を押し殺してはいるが、4文字の中に何十年分の"嫉妬"を感じ取ることができた。


 その隙に颯雅は淳の元に駆け寄り、治療の為出血の多い左足を診ようとしたが、

「待ってくれ」

と、淳は芯の通った美しくも厳かな声で言う。


「けどこのままじゃ……」

颯雅は足の具合を診て何かを察したのか、首を横に振る。


「大丈夫だ」

それに対し、淳は息を切らしているにも関わらず気丈に振舞う。


「まだ終わってない」

そして淳は凛とした表情で言い、透理を顎で指す。


・・・


「……湊、聞いたか?」

俺が今にも殺しに行きそうな湊の腕を軽く揺すって言うと、

「じゃあどうすればいいんだ……」

湊は頭を垂れ、鼻を啜って声を震わせる。


 俺は湊の肩を叩き、頭を上げてもらうと、

「ここからは俺に任せてくれ」

と、目を細めて諭すように言った。


 すると湊は俺の言葉から強い意志を感じ取ったのか、腕を下ろして一歩下がったのだ。


「ありがとう」

俺が微笑を浮かべて呟くと、湊も同じように微笑んだ。



・・・


 一方その頃、淳と颯雅は今も尚野次を飛ばし続ける観客を見回していた。

「観客の人達を帰らせてくれ」

淳は、嫉妬で我を失っている透理の背中を気にしつつも颯雅に小声で言う。


「分かった」

颯雅はオーディエンスに帰るようジェスチャーで伝えようとするが、煽っていると思われたのか更に野次の声が増す。


「治療するから一旦出てくれ!!」

続けて四方のオーディエンスに向かって叫んでみるが、人々の耳に届いていないのか態度を変えた人物は誰1人として居ない。


「クソ……これじゃあ治療もできねぇ!!」

治療には勿論多量出血の可能性や、外科的治療が必要となれば運び出さなくてはならなくなる。


 それを黙ってやればオーディエンスの違和感に気付き、透理が何をするか分からない。

俺達がすぐに駆け寄る前に、淳を抱えた状態の颯雅で数秒は攻撃を避ける必要があるうえに、また上から刃物でも降ってきたら――



 それが杞憂であるが如く俺の真横を2つの気配が通り過ぎ、凛とした香りと共に一陣の風が頬を撫でる。

「……!!」

そして各々の一家を背負う2つの影は透理を挟む形で真横に立つと、目を合わせる事も無く透理越しに背中を合わせた。



 それから数秒経つと、オーディエンスは自然と静まり返り、そのことで透理も我に返ったようだった。

「え、これって……何?」

その証拠に透理だけは状況を理解出来ていないようだ。


「皆の者、本日は御集り頂き誠に感謝致す。しかしながら、ここからは我ら当主がこの場を取り仕切る事となる故、大変失礼ながら其方(そなた)達は――」

詠飛が会場全体に聞こえるように声を響かせると、

「金輪際……関わらないで頂きたい。良いですね?」

紅夜が1人1人射る勢いすら感じる鋭い声で言う。


「…………」

オーディエンスは2人の当主の言葉を聞くや否や、誰も反論せずに席を立ってそのままゾロゾロと会場を後にし始めたのだ。

それに対し、当主達は目を伏せて事の成り行きを見守っている。


 一方そんな2人に挟まれてる透理は、堂々とした2人に圧倒されてしまい、足が竦んでしまっている。

そのうえ、今こう考えている。


 "ボクはまだ当主になれないんだ"と。

焦燥感を顔だけでなく全身に塗りつけ、心から見える景色すら淀んでいる。


 目指す姿がこの2人であれば、尚更だ。

自分を見失ってやがる。


「それじゃ一生なれっこねぇけどな」

俺は颯雅を手招きながら呟くと、背後と颯雅からも微かに笑い声が聞こえてきた。


「それくらい朝飯前だ」

颯雅は更にニヒルな笑みを浮かべると、両脚を肩幅程に開いて仁王立ちになった。


 これなら大丈夫だ、伝わってる。


 それから颯雅はオーディエンスがまだ1人も出ていない事を確かめ、

「<影燈籠(デラ)残映(シネ)>」

と、一瞬コンタクト越しに目の色を変えて技宣言をした。


 ちなみにこの技は、消したい記憶と記録を探し出して消す技だ。

人数の上限は分からねぇが、オーディエンスくらいなら問題無い。

それと記録を消すと、ノートやスマフォ等メモしたその部分だけ空白になるが、何も覚えてやしない。

記憶も空白の時間が出来るだけで、後は勝手に思い込む等して補填されるだろう。


 これで今日何故後鳥羽家に来たのか、それらしい理由を見つけはするが本当の記憶は誰も分からないまま帰るのだ。

そうすれば、淳の能力解放の姿を見た事も、2人の当主から帰るように言われた事も消える。


 あとは紅夜と詠飛曰く、清算の仕方を間違え淳を消そうと企むこの透理(おとこ)を倒すのみ。

だがそれは俺達がやることじゃねぇ。


 俺は紅夜、詠飛に颯雅がこちらに戻り始めると同時に、淳に向かってこう叫んだ。

「後は任せろ。思いっきり暴れてこい!!!!」


 淳は自分から歩き去る3人が親指を立てたのも見えたのか、俺の声が木霊してる間は静かに笑っていたのだった。

ここまでの読了、ありがとうございます。

作者の趙雲です。

遅刻してしまい、申し訳ございません。


次回投稿日は、2月1日(土) or 2月2日(日)です。

早いものでもう2月ですね……。

新型コロナウイルスやインフルにはお気をつけてくださいね。


それでは良い1週間を!


作者 趙雲

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