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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
72/130

「15話-偏倚-(前編)」

1通の手紙が引き起こす、恐ろしくも寂しい復讐劇が幕を開ける。


※約3,300字です。

2018年5月7日 16時

藍竜組 総長室兼副総長室

龍勢淳(たつせじゅん)




 藍竜から電話で呼び出され、藍竜組総長室の扉をノックすると軽快な返事が返ってきた。

態度そのものはいつも通りだが、空気に違和感が漂っている。


 そう思いつつ扉を開けると、応接間のテーブルの上に1通の手紙があった。

「忙しいところ悪い。昨日、とある人物から手紙が届いたから読んでくれ」

藍竜は熱々のお茶を2人分並べながら言い、「誰が出したかは読めば分かる」と、深い溜息をつく。


「ありがとう」

私は藍竜の向かい側に座り、早速手紙を手に取り微笑んだ。


 なるほど。

たしか湊が、透けなくて破れない紙を後鳥羽家で開発したとか言っていたような。

これでだいぶ絞れてきたかな。


 手紙の内容はこうだ。


 3日後の5月10日の夜9時に後鳥羽家正門前に来い。

そうだ、誰にも、告げ口しちゃダメだよ。

それで、後鳥羽家に着いたら執事長が迎えに行くから、必ず従ってね。

約束破ったら、キミの大事な人達に、危害が及んじゃうかもよ?



 できれば会いたくなかった人の声で脳内再生される。

句読点が多い文を書くんやな。

だけど最後の脅迫文が本当なら、行かなかっただけで誰かが傷つくことになる。


「……ありがとう。ほんま助かったわ」

私は一度息を大きく吸い込んでから笑顔を向けて言い、

「今日は早く寝た方がええで!」

と、自分の目元を指して言うと、藍竜は愛想笑いを浮かべて小さく頷いた。


 さすがに良い知らせじゃないことに気づいたかな。

私は軽く挨拶してから部屋を後にすると、3日後の月の満ち欠けを調べた。


 弦月――ちょうど下弦の日。

なぜ満ち欠けを調べるのかと言うと、月の満ち欠けによって使える能力が変わるからだ。


 満月に向かう期間はエネルギーの放出、そして新月に向かう期間はエネルギーを吸収する能力が使える。

それと満月になった瞬間と能力解放時は両の能力が使え、反対に新月の瞬間は能力に使用が不可能になる。

たとえ、このコンタクトを外して能力を解放していたとしても。


 そのうえ天気予報では、悪い予感を助長するかのように12時頃に雷マークが付いている。


 だけどその人物は前戦った時に、満月だと本領発揮できるって言ってたような。

今はとにかく不安しかないけど、誰かになにかあってからじゃ遅いから行かなきゃ!

前の日は早く寝とかんとな!



・・・



――3日後の夜9時前



 手紙の通り、1人で後鳥羽家正門前まで行くと門の向こうに人影が見えた。

「お待ちしておりました。貴女が本日の主役と伺っております、どうぞ」

執事長が言い終えると同時に開いた門は私の何倍も高く、幅も広かった。

それ以外は街灯の光が届かない為、模様等は見えない。


「ありがとうございます」

私はとりあえず手紙の通りに執事に従うことにした。


 というのも、私を呼び出した人物はとんでもなく"嫉妬"に狂った人であるから。


「……」

龍くんも住んでた家で、何年か前には過去の話を聞きに訪れた事もあった。

言うてみれば慣れた筈の道のりなのに、不気味さと血の予感しか心の中に入ってこない。


 その中でも執事長は私に気を遣うことなく歩を進め、家の中へと入って行った。

それから正面の階段を上り、奥にある隠し階段を上ると正面に、クラシックのコンサートホールのような心が引き締まる防音扉が目に飛び込んできた。


「こちら当家自慢の闘技場入口でございます。入ると驚かれると思いますが、見た目はコンサートホールそのもの。設計は主人 御自(おんみずか)ら取り組まれました」

執事長は床も人間の血液により近い色を選んだ事も話しつつ扉を開くと、中には暗闇の空間が広がっている。


 ただ、確実に大勢の人の気配がある。

それも私よりかなり上に。


「お察し頂いていると思いますが、このホールに1階席はございません。それでは、良い夢を」

執事長は暗闇の中を見回す私に一礼すると、わざとらしく大きな音を立てて閉め施錠した。


「……」

やっぱり罠。

だとしたら私1人を消す為に大掛かりなことをしたのか。


 その刹那、空を切って飛んでくる針を反射的に避けると、舞台、2階席、ホール全体の順に照明が灯り、割れんばかりの拍手が響いた。

「そうこなくっちゃね~」

舞台の中心に立つその人物――後鳥羽透理(ごとば とうり)は、左手の掌を下にし右手を被せるようにして拍手をしている。

拍手をする度に揺れるミルクティー色の髪は、前会った時よりも短く切り揃ええられている。


「透理様を怒らせた不届きもの!」

「大怪我を負わせた反逆者!」

「後鳥羽家に取り入ろうとした卑しい女!」

「当主を影で操ろうとした泥棒猫!」


 上から聞こえるオーディエンスの声を辿る。

2階席は舞台を囲むように配置され、身を乗り出さずとも舞台を見られるように傾斜がつけられている。

だから声が上から頭に向かって降ってくる感覚になるのかな。


 うまく言えないけど、この感覚は嫌だ。


「キミ、こんなこと習わなかった?」

透理はウサギみたいでかわいらしい目をギョロりと動かすと、

「消したい相手の1番大事な人のトラウマを体験させると、大事な人であればある程記憶がゲシュタルト崩壊を起こすって」

唇の端を上げ、大きな目を細める。


 その様子は私を脅したいとかじゃなく、1人の人としての好奇心で言ってるように聞こえ寒気がした。

だってそうなら、私を人と思ってないってことだから。


「だから菅野海未(かんの うみ)のことを調べてあげたよ。人さらいのなんとか軍団――名前忘れたけど、今の統領はユミコさんだっけ? 彼女が当時攫ったんだってね」

透理は時折オーディエンスに目を遣りながら話している。

視線の先には、自分の執事長ではなく龍くんの執事長である橋本さんが居る。


「そうですよ」

思わず笑みが零れそうになる程の棒読みだったが、その側に竜馬と利佳子の姿が見え、

「え……」

と、息を漏らしてしまった。


 もしかしなくとも、あの透理が考えることなら。


「どうせ戦いたくないとか言うんだろうけどさ、橋本の能力はこの前教えてあげたでしょ? じゃ、あの2人にも"恐怖を与えて"いいのかな?」

透理は勝ち誇ったような笑みを浮かべると、両手を高々と広げオーディエンスを煽る。


「それは……」

私が口ごもっていると、透理は逆にオーディエンスを手で制して静め、

「今から運命を変えるのは無理だよ。キミには泥臭く戦うしか選択肢が無い」

と、深紅の瞳を爛々と揺らし、血に飢えた白い左手を撫でた。


「……」

透理によって静められたオーディエンスの目線は、回答を求めるかのように私に注がれている。


 この気持ちと記憶は――人間オークションで舞台に上がらされた時の竜斗の気持ち。

菅野海未になる前の彼の、未だに消えない、本人すら受け入れられてない記憶。


 人ではなく、"商品"だと思って自分を見られることへの恐怖と動揺。

考えれば考える程底なし沼の恐怖に襲われ、まるで自分が竜斗の記憶の中に入って経験している気になってくる。


 どうしようもない不安が心を閉ざそうと手を広げる。

だけどその記憶は、竜斗だけの記憶。集中せんと!


 私は記憶の荒波に抗わずむしろ受け流すように目を閉じ、ゲシュタルト崩壊を起こさないよう波の前に壁を作った。

そこからほんの少しだけ漏れ出すのは、竜斗への共感の心。

それだけで十分やな。


「今、やっと、本当の意味で、海未の気持ちが分かった気がする」

私が一言一言噛みしめ、目を開きながら言うと、透理は頷きながら毛先を掠めつつ首を撫でた。

前はそこに毛先があったんやけどな。


 ここじゃ、菅野海未の本名である竜斗の名前は出せない。

それに信頼してる人以外からは隠しているから、自分の能力を出すこともできない。


「キミはまたあの能力を使うのかな? それとも使わないのかな? 後者ならボクも使わないで戦ってあげる」

透理は微笑みながら珍しい提案をするので、更に背筋が粟立ってしまった。


 だって、さっき執事長はこう言っていたから。

"設計は主人御自ら取り組まれました"

と。


 だけど能力を使うかどうか悩むのは満月じゃないから?


「それなら、使わないで戦いませんか」

私はなるべく冷静に言い放つと、透理は大きく頷き再びオークションを煽る。


「たのしみ」

透理は唇の形が分かるぐらいゆっくり言うと、一歩ずつ舞台へと近づく私を微笑ましそうに見守っている。



 左腕の肘から下を失い、義手を使っている透理は今、どんな戦い方をするのか。

本当は戦いたくないけど、大事な人を守る為に私は今、抜刀する。

ここまでの読了、ありがとうございます!

作者の趙雲です。

遅れてしまい申し訳ございません。


次回投稿日は、1月18日(土)or 1月19日(日)です。

それでは良い1週間を!


作者 趙雲

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