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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
69/130

「14話-舞踏-(中編)」

声に自信を持ち始めた暁さん。

気持ちを打ち明け、彼が向き合い始めたのは……!?

そして、彼にとっての"舞踊"とは。


※約21,000字です。

4年前 2014年10月5日 朝

藍竜組 総長室兼副総長室 暁のベッドルーム

青龍暁(せいりゅう あかつき)



――この文は、文章苦手な俺の為。兄である藍竜司が代筆してる。――



「声の事――喜ぶ顔見られる?」

ベッドルームは別で防音だから、好きなだけ独りで話せる。


 今まで散々自分からも司からも隠れていたこの声。

それを当たり前だと思っていた。



 それでも、ほんの少しだけ希望を持って良いのなら。

司と音楽が出来るなら。


・・・


 そもそも何で音楽なのか。

それは…………自分の声を音に乗せて誰かに届けた時、受け取った知らない人同士が仲良くなるきっかけを作れたら嬉しいから。

自分のように悩んでいたり、無になってしまったりしている人たちの生気になりたいから。


 今まではこんな事考えもしなかったけど、龍勢と神崎が変えてくれたんだ。


 歌った事も無く、何も演奏出来ないけど、何か出来る事はあると信じたい。

司はきっと分かってくれる。

音楽を1人で極めているから、一緒に高みを目指せたら嬉しいと思うから。


・・・



 それから身支度を整え、ベッドルームを後にすると司は既にデスクの上に置かれた資料を睨んでいた。

「……おはよう」

集中してそうだから遠慮がちに声を掛けると、司は凛とした目のまま小さく頷いた。


「何かありそうな顔だな」

司は表情から何か汲み取ったのか、資料やパソコンを閉じて席を立った。


 そのままベッドルームの扉の前に立つ俺の前まで来ると、

「悩み事?」

数秒見つめただけで見事に言い当てられたので、小さく頷いて俯いた。


 毎日何百人もの隊員が行き交う場所を歩いているのだから、表情で分かる事も多くなっただろう。

それにしても、ここまで分かるのも恐ろしい。


「声のこと……その――話したい!」

俺は大きく息を吸って司を吹き飛ばすように言うと、間髪入れずに龍勢と神崎の話を始めた。


 司はその(かん)、微笑みながら頷く等好意的な態度を取っていたのだが、神崎に言われた言葉――

"綺麗な声してるけど、音楽やってるのか?"――その一言で、司の態度は一変した。


 そのうえ、話し終えた後も司が何かを言う前に、

「一緒に音楽、やりたい!」

と、半ば叫ぶように言うと、司は目を逸らしゆっくりと視線を地面に這わせた。


 どうしたの。

歌った事無いから?


「それはまた今度。だけど、音楽を一緒にやりたいなら――そうだな。バックバンドとして入ってくれないか?」

司は顎に手を当てて数分悩んだ後、聞きなれない単語を発していた。

その表情には苦悶で埋め尽くされていたが、どこか諦めすら感じるものがあった。


 バックバンドって何?

音楽は音楽っていうジャンルなんじゃないの?


 バックバンドは司と一緒に歌えるの?

俺の心の中に浮かんだ障害物は、パステルカラーの照明を徐々に覆い隠していき、終に暗闇に戻ってしまったのだった。


 とどのつまり、音楽について無知過ぎたから、一緒に歌いたくないから頷かなかったのだ。



 今日の演目も暗闇と血で舞台は埋まっても、観客は司だけなのだろうか。



4年前 2014年10月5日 朝

藍竜組 総長室兼副総長室

青龍暁(せいりゅう あかつき)



「それはまた今度。だけど、音楽を一緒にやりたいなら――そうだな。バックバンドとして入ってくれないか?」



 どうして。

だけどたった1つでも、司から貰ったヒントだとしたら?


 バックバンド――司の発言からして、歌っている人の後ろで楽器を弾く人たち?

普段音楽も聴かず、テレビも見ないから、あくまでも俺の推測。

つまり、推測通りであれば司の後ろで何かしら楽器をやる事になる。


 それなら俺の声を理由に、遠ざけているようにしか感じない。

それでも――1人でアコースティックギターを弾いて、鼻歌を歌っている司は好きだった。


 それと同時に、どうして世に出ないのか不思議だった。

夢を追わずに総長として隊員の夢を叶えているのが、ずっと疑問だった。



 だから今はきっとチャンスなのかもしれない。

ポジティブな自分がそう言い聞かせる。



 でも司は"いい子"で居たいだけだ。



「――っ!!」

白くなるまで握りしめていた拳を自分の腿に打ち付け、出て行くことしかできなかった。


「暁!!」

扉を大きく開け放った時に聞こえた司の声は、後悔の念に押し潰されて弱った"あのとき"の司そのものだった。



 俺から逃げた癖に今更!!


 だけどここで変われなかったら、いつまでも俺はこのままだ。

声の事で母親からも司からも縛られ続ける人形。


 それでほんとうにいいの?


「待ってくれ!」

藍竜組の門の前で男に腕を引かれた。

忍者装束に着替える前だったから、藍色の長袖のタートルネックに黒いパンツ、そして健康なのにマスク。


 俺が誰なのか、隊員なら不審者だと思っても仕方がない状況だ。


「……」

俺が顔も見ずに腕を払い、煙玉でも投げようかとポケットに伸ばした手を、男は迅速かつ丁寧に掴んだ。


「暁」

よく聞いたら声に聞き覚えがある。


「…………ぁ」

締まった喉の隙間から出したようなか細い声に、男改め冷泉湊(れいぜい みなと)は笑顔で頷いた。

司と仲の良い人で、罪の無い善良なターゲットを殺し屋から護っている。


「事情は何となく察していますよ。これから藍竜さんに会う所だったので――」

冷泉がそこまで言いかけたところで、俺は無意識に頭を下げていた。


「兄さんとの約束……ごめん!!」

5つか6つ程年下の冷泉に対し、何故俺がこんな行動を取ったのかは未だに分かっていない。

だけど、約束を自分のせいで台無しにしてしまったと思うと申し訳無さが募るから。


「全然気にしてませんよ。よかったら、何があったか聞かせてもらえませんか? 力になれるかもしれませんし」

冷泉は徐々に頭を上げる俺に対し、心底心配そうに眉を下げていた。


「……」

唇を噛んで悩んだ。

冷泉には何度か司の件で相談していて、今もそれとなく一緒に居られるのだって冷泉のおかげでもある。



 熟考の末、俺は冷泉に音楽や声の事を一から話した。

たどたどしくて拙い俺の言葉に、冷泉はいつものように柔らかい笑顔で頷いてくれた。


 やがて話し終え、冷泉はどう思うかと訊いてみると、冷泉は満面の笑みでこう言ったのだ。


「楽器屋に行きましょう」

と。



・・・



 俺は呆気に取られたまま、流されるがままに街に出てきてしまった。

その間に話してくれたが、冷泉はピアノが弾けるそうだ。

本人は大した事は無いと謙遜するが、そう言う人は真の実力者である事が多い。


「……」

外では声を発する事が極限に少なくなる俺に、冷泉は飽きさせないよう話し掛け続けてくれた。

そのうえ、俺が頷くなり首を横に振るなりで会話が成立するように気遣ってくれている。


 司は絶対にやってくれない。

自分が主役で、脇役である俺がどう思っているのか、自分に好意的な意見を持っているか気になるから。


「ねぇねぇあの人、格好良くない?」

ふと自分のすぐ隣で聞こえてきた女性の言葉。

怖くて振り向けないが、恐らく冷泉の事だろう。


「背高い方の人でしょ? 絶対マスク外した方が格好良いって! もったいないなぁ~!」

女性の隣に居た友人と思われる人が、視界の端で俺を指差すのが見えた。


「……」

冷泉が折角話しかけてくれているのに、俺は周囲の目が怖くて俯いてしまった。

見た目は母親に似たから、明るそうで元気そうに見える――所謂派手な顔立ちをしている。



 その容姿で喋らないことからミステリアスで格好良いという理由で、話した事も無い同級生から愛の言葉を言われた。 

そうして何度も首を横に振る度、俺の中で女性は周囲の目の中でも特に恐ろしいものに変わっていった。



 だから今でも、自分の容姿で何か言われるのは好きではない。

どうして中身を見ようとしないのか。

どうして声も知らない人を、褒めるのだろうか。



「すみません、彼は風邪引いてるんですよ」

気付けば湊が、俺に話し掛けようとした女性に断りを入れてくれていた。


「……」

冷泉に向かって会釈をして感謝の意を伝えると、首を横に振り笑みを見せた。


「もうすぐ着きま――あれはもしかして」

冷泉は数十m先を反対側から歩いて来る人影に目を凝らし、

「裾野くん?」

と、隊員の名を口にしたので注視してみれば、ギターケースは背負っているものの裾野に似ていた。


 裾野も楽器をやっているのか。

それなら彼に意見を求めても良いかもしれない。


 そのまま裾野と思われる人物が楽器屋に入ったのを見届けた俺達は、すぐさま後を追った。


・・・



 初めて楽器屋の自動ドアを潜ったが、忍者道具専門店とはまた違う専門の匂いがした。

所狭しとガラスケースの内側に並べられた楽器の数々、ワイヤーのようなものや譜面台らしきもの、そして譜面の本が積み上がっている。

この光景に、楽器をやっている人たちは胸が高鳴るのだろうか。


 俺は専門店なら例外なく興奮する質だから、狭い空間に並べられた物全体を見渡すだけでも楽しい。

「……」

どうやら俺が見惚れている隙に裾野らしき人物を捕まえてくれたようで、俺の前に連れて来てくれた。


 やはりギターケースを背負った裾野聖だ。

彼は21歳でも殺し屋歴は15年程なので、藍竜組の立派な稼ぎ頭だ。

ただ、楽器をやっているのは意外な発見。


「副総長、楽器をお探しとお聞きしましたがご希望はございますか?」

裾野は俺と然程背丈が変わらないから、話している時の姿勢が1番楽だ。


「……?」

俺は裾野に訊かれて初めて、自分が何の楽器をやりたいのか決めていない事に気付いた。

冷泉は気を遣って聞かなかったと思われる上に、司は何をやって欲しい等指示を出していない。


 そもそもバックバンドって、何の楽器があるのだろう?


「申し訳ございません、いきなり聞かれても困りますよね。それなら、手を見せていただけませんか?」

裾野は申し訳なさそうに俺の手を見下すと、照明で影にならない場所に少しだけ移動した。


「……どうぞ」

ぎこちなく甲を上にして差し出す両手を裾野はじっくりと観察し、指の腹や手首を触ったり、指を限界まで開いてみたりしていた。


 その時に丁度楽器屋の男性店員が挨拶をしながら来たが、裾野の様子を見て一歩引いた。

裾野の馴染みの店なのだろうか。


「店長、ベースとギターで今試しに弾けるものってありますか」

しばらくすると振り向かずに真後ろに控えていた店員改め店長に話しかけた。

それに対し、店長は腕で大きく丸のサインを出してバックヤードへと消えていったのだ。


「ありがとうございます。少々お待ちくださいね」

裾野は俺の手をそっと戻すと、おにぎりの形をした小さい破片が綺麗に並んでいるコーナーに向かおうとしたので、

「今のは?」

と、呼びかけると裾野は冷泉と目を合わせてから微笑んだ。


「楽器適正検査です。副総長は手首の可動域がそこまで広くないのですが、指が長くある程度開く。そのうえ、指の腹は硬く器用そうな印象を受けたのでベースかギターかと」

裾野は自分の手を見せながら言うと、「それと」と、かなり言いにくそうに苦笑いを浮かべ、

「性格的なものですが、副総長はバックバンドの基礎を大事にしつつも空気を読むのが上手いので、ベースが1番向いている気はしますけどね」

と、後頭部を撫でながら言うので、思わず口元を押さえて笑ってしまうと冷泉も釣られていた。


「俺も手自体大きくて繊細そうな雰囲気があるから、ギターかベースかなと思っていたよ」

冷泉は裾野に向かって小さく数回頷きながら言っていたが、俺の心の中はある1つの疑問によって支配され始めていた。


「2人とも」

談笑する2人に一歩近づき、途切れたところで声を掛け、

「ベース、ギター……何が違う?」

と、真剣に訊くと、裾野と冷泉は何か大事な物を思い出したかのようにハッとした表情になった。


「それでは、まだ時間がありそうなので簡単に説明致しますね」

それから裾野はバックヤードを一瞥し、ベースとギターの売り場へと移動しようとしたところで店長が戻って来た。


 両手にはほぼ同じ見た目のギターが握られている。

このうち、どちらかはベースなのだろうか。

色以外の違いが見つけられない。


 だけど、1つの方の首? のような部分の所には桜が描かれている。

それに色も桜の木のような控えめな色で、光の角度によっては燃える暁のようにも見える。

目を凝らしてみると線は5本で、もう1つのものよりも縦に長い。


「ベースとギターの違いから諸々掻い摘んで説明するから、そこの椅子に座ってくれるかな」

店長はいつの間にか用意していた茶皮張りの椅子を顎で指すと、

「裾野くんとお連れさんも座って」

と、2人にも座るように言ったのだ。



 これが俺と楽器の初めての出逢いで、音楽の世界に足を踏み入れたきっかけでもあった。

そして良くも悪くも運命を変える日にもなったのだ。



4年前 2014年10月5日 午前中

某楽器店

青龍暁(せいりゅう あかつき)



 そうは言っても、運命を変える日なんて本当に来てよかったのだろうか。

楽器を弾きながら、司の側で歌っても良いのだろうか。

顔は出さないとはいえ、仕事に影響は出ないのだろうか。



 そんな迷いを抱えつつも、俺は楽器店の店長の説明に耳を傾けていた。


「まず、ギターは弦の数が6本、だけどベースは4本――あちゃ~これ5弦だったか~」

店長はギターとベースを両肩に掛けると、近くにあったテーブルを引きずりながら言った。


 その様子を見た裾野は楽器を預かり、冷泉は店長と一緒にテーブルを押した。

「テーブル、用意していなくてすみません」

裾野は手慣れたように楽器をテーブルに置くと、店長は胸の前で軽く手を振った。


「君もありがとうね!」

それから冷泉に対し、自然な笑みで礼を述べると、冷泉は微笑みながら会釈をした。


「よし、気を取り直してっと。弦の数についてだけど、ベースは4弦が基本なんだ。だけど今は音楽の幅が広がってきたから、5弦も"変態"じゃなくなってきたよね?」

店長は弦を指差しながら説明すると、裾野の方を見て意味深な笑みを見せた。


 "変態"って?


 裾野は店長のフリに対し苦笑いをすると、

「あぁ……5弦以上は"多い""弦"と書いて多弦ベースというのですが、ひと昔前は特定のジャンルしか使わなかったものですから……ね」

少し言い辛そうに視線を泳がせた。


 店長は気まずくなった空気を手を叩いて引き締めると、

「それで、弦の太さを見て欲しいんだけど、ギターは1番細い弦とベースの弦を見比べてみて」

席を立つように促し、それぞれの楽器の弦を指差した。


 ベースと並べているせいか、ギターの弦が頼りなく見えてくる。

それにしても、裾野が背中に背負っている楽器は、一体どっちなのだろうか。


「あ、裾野くんの楽器気になる? 彼はギターを弾いているんだよ」

無意識にじっと見てしまっていたようで、店長は置いてあったギターを裾野に手渡した。


「せっかくだから軽く弾いてみて。お店の中だからアンプ繋げないけどね」

店長は俺達の横を通り過ぎ、おにぎりの形をした小さなプラスチック片のようなものを裾野に渡した。


「いえいえ、構いませんよ」

裾野は背負っていたギターを壁に立てかけると、ベルトを調節しながらギターを構えた。


 ギターに触れて長いのだろうか。

自分の楽器ではない筈なのに、絵になるといえば良いのか、しっくり来ていると言えば良いのか。

他の楽器では駄目……そう思わせる何かが、裾野にはあった。



 それから何回か色んな弦を弾いては上の方にある突起を弄っていたが、何をしているのだろう?


「これはチューニング。正しい音程が出ているか、調整しているんですよ」

俺はどうやら言葉を発せない分、無意識に近づいてしまうようで裾野も遠慮がちに一歩引いていた。


「裾野くんは絶対音感があるから、チューニング早いんだよね~。普通の人なら機械を使ってやるんだよ」

店長は裏に行きながら言うと、黒い四角の電卓程の機械を持ってきた。


「……」

俺は機械を両手で慎重に持ちあげると、裾野の前に出した。

絶対音感は言葉として聞いたことがある程度で、実際に能力として見聞きしたことはない。

そもそも能力なのかも分からない。


 裾野は俺の無言の圧に気付いたようで、一度目を伏せて微笑み、

「自信ありますよ」

と、1本ずつ弾いて見せた。


 するとどれも真ん中――正しい音程を示す緑色のランプが灯るではないか!

やはりこれは能力なのか!?


「裾野君、凄いね。絶対音感はどうやって鍛えたんだ?」

冷泉は俺に気を遣って代わりに疑問を投げかけてくれた。


「絶対音感は幼少期からヴァイオリンやピアノ、サックスを習っていたので自然と鍛えられたんです。名家なら楽器が出来て当然の世界ですから……」

裾野はギターから手を離し、俯きながら呟いた。

最名家と名高い後鳥羽家の出身であることを、彼は誇りに思っていないから。


「おっと重い話になる前に! って、俺ベース弾けないんだよね~。裾野くん、弾けたりしない?」

店長は裾野の肩をトンと叩いてからひょいとギターとプラスチック片を取り上げてしまうと、ベースを差し出した。


「いえ、すみません。他には何点違いがあるのですか?」

裾野は壁に立てかけてあったギターを再び背負って言った。


 楽器が大事なんだろう。

ということは5年以上? 年数の問題でもないのか?


「他にはね~……4つにしとこう! 大丈夫、簡単に言うからね」

店長は腕を組んで悩んでから言ったが、裾野が訝し気な表情をしたのを見て苦笑いをしていた。

恐らく、何かと多忙な俺や冷泉に気を遣っているのだろう。


「1つ、演奏できる音域が違う。ギターとベースで全く同じ音を演奏すると、ベースの方が1オクターブ低くなるんだよ」

店長は鍵盤ハーモニカを売り場から持ってくると、

「それで、ギターはこうやって和音を弾いたりするんだけど、ベースは低いから聞き取りづらい。だから単音で演奏していくんだ」

実際に弾いて違いを分かりやすく見せてくれた。


「なるほど、勉強になります」

冷泉はメモを取りながら呟いていて、店長は嬉しそうに歯を見せた。


「2つ、バンドでの役割の違い。ギターは所謂バンドの花形で、伴奏の中でも響きとリズムを伝えたり、エフェクターっていう音色を変える機械で彩を添えたりするんだ」

店長はギターの弦を触りながら言うと、

「あとはね、裾野くんもバリバリやってるけど、曲の間奏にあるソロとかで目立ちまくるよ!」

にんまりとした表情を浮かべてウィンクをするので、俺は思わず後退ってしまった。


 目立つなんてとてもじゃない、と。

それならベース……なのかな?


 あれ、そもそもバンドとバックバンドって違うのかな?

それとも略して言っているだけ?



「さて、ベースはねバンドの中で最も低い音を出すことから、ボトムを支える役目を担っているよ。それとドラムと一緒にテンポやリズムをキープしたりもする」

そこまで言い終えた店長は再び口の端を歪めると、

「ライブ会場では、床や壁を振動させるほどの存在感があって実は1番目立つし、特有の派手な演奏方法もあるんだよ」

エアベースのつもりなのか、親指で弦を弾いて格好つけていた。


「スラップですよね。茂がやっているのを何度も見ていますが、クールでスタイリッシュなイメージになりますよね」

裾野は「ギターではやらないんですけどね」と、羨ましそうな笑みを浮かべながら言った。



 まだまだ俺の知らない世界があるのか。

とても綺麗で輝いているように見えるが、本当に飛び込んでも良いのか?

まだ不安がある。



「3つ、本体のサイズ! 音域が違う話と似ているんだけど、見てわかる通りギターは25インチに対し、ベースは34インチと約10インチ違うんだ」

店長はジェスチャーで長さの違いを見せると、

「最後に、弾き方の違い。ギターはこのおにぎりみたいな物で弦を弾くんだ。ちなみにこれはピックっていうんだ」

ギターの弦を実際に弾いてみせて言うと、俺の掌にピックと呼ばれるものを乗せてくれた。


 小さくて頼りなさそうに見えたけど、意外と硬くてしっかりしている。

これで弦を何回も力強く、優しく弾くんだ。


「それで、ギターは単音で弾く場合と一気に振り下ろして弦全部を弾く、所謂ストロークという弾き方をするよ。これはベースではやらない奏法なんだ」

店長はピックが無い為、弦の上を指でなぞりながら説明をしてくれた。

その間も冷泉は図を描きながらメモを取っている。

 後で見せてもらおうかな。



「ちなみに、ベースはピックで弾く奏法と指で弾く奏法の2通りあるよ。あくまでも体感だけど、指弾きの方が多いかな」

店長がベースの弦の張り具合を確かめながら言うと、

「同じメンバーの茂はヴァイオリンを嗜んでいることもあって、指弾きですね。彼の場合は、それ以外にも柔らかくもキレのある音を出したいからという理由ですけどね」

と、裾野が微笑ましそうに言った。


「なるほど。ピックと指弾きは、サウンドも違ってくるんですか?」

冷泉は、うっすら埃を被っているベースを拭いている店長に声を掛けた。


「そうだね。ピックはロック、パンク、メタルとか激しい系のジャンルに多くて、一定の音を速いテンポで繰り返し弾き続けられるんだよ。それと、アタック感のあるハッキリした音が出せるから、音色も硬くなるんだよ」

店長は拭き終えた布巾を置きにバックヤードに行きながら言うと、何回か指を滑らせて埃が付いていないか確かめていた。


「ありがとうございます。ということは、指弾きは蒼谷さんのようにソフトな音色ということですか?」

冷泉はメモを取りながら顔を上げて訊くと、店長は大きく頷いた。



「さてさてそこのお兄さん、どっちか決まった? それともドラムとキーボードも見る?」

店長はギターも近くにあった布巾で拭くと、マスクをしたままの俺に微笑みかけてくれた。


「…………」

バックバンドなら正直どっちでも良いのだろうか。

だけどもし、司のすぐ側で弾く事になったら…………ギターは裾野がやってるらしいソロを皆の前でやる事になる。


 どうしてだろう?

音楽に全く興味が無くて、今まで司の鼻歌しか聴いた事がない俺が側で弾ける訳がない。

後ろの方で弾くので十分だ。


・・・


「性格的なものですが、副総長はバックバンドの基礎を大事にしつつも空気を読むのが上手いので、ベースが1番向いている気はしますけどね」


・・・


 裾野が掛けてくれた言葉。

音楽に真摯に向き合っている人の生の声だから、信じてみても良いのかな。


「……」

笑顔の店長を見ると、どうしても言葉が出ない。

だけど声を出さないと、誰かに言ってもらったら違う。


 自分の声で、音楽に向き合いたい気持ちを言わないと。

ここから変わらないと。



「ベース、やりたい!! ……です」

初対面の他人に向かって初めて自分の気持ちをぶつけられた。


 変わりたい気持ちや龍勢や神崎の笑顔が後押ししてくれたのか、声も震えていなかった。


 店長は俺の声を聴いて数秒固まった後、

「お兄さん、めちゃくちゃ良い声してんね! これは歌ったら化けるよ! 約束する!!」

と、何故か握手を求められたので応じていると、裾野も冷泉も嬉しそうに微笑んでいた。


「……ありがとう、ございます」

俺が礼を言っている間に、店長は早々に俺の肩にベースを掛け、ベルトを調節してしまった。


「これ、ちょっと高いから売れてなかったんだけど、本当は3年後に発売される商品を先行販売させてもらっていたんだ」

掛けた後も弦を確かめたり、どこか緩んでいる箇所が無いかメンテナンスしてくれていたので、俺は気を付けの姿勢で待っていた。


「Bacchusっていう本国のメーカーのベースで、"本桜"っていう名前が付いているんだ。ほら、弦のところに桜があるでしょ?」

そう言われ、弦を支える木材部分に描かれた桜を間近で見てみると、本心から美しいと思える装飾だった。


 俺が誘っている桜よりも美しくて、華やかで力強い。


「あとは光の当たる角度で色が変わるし、個性的で希少な木材を使用していたり、桜材も使っているから……その、1本しか無くてね」

店長は気まずそうに裾野や冷泉の方を見ているが、値段がどうであれこのベースを買うつもりでいる。


 桜は俺自身でもあるから。

春という季節だけ皆の前で着飾り、他の季節ではひっそりと皆を見守っている。


「買う、決まってる」

俺は少し語気を強めて言ってしまったが、店長は心底ほっとした表情をした。


「208,000円なり~……大丈夫?」

それから調子よく値段を発表していたが、眉1つ動かさない俺に眉を下げてしまった。


「無問題……です」

俺が黒いカードを差し出して言うと、店長は地面に付きそうな程頭を下げていた。


 勿論自分のカードだが、裾野や冷泉は自分も持っているだろうから驚きもしなかった。


「裾野くんの仲間か~君も!」

それどころか晴れやかな笑顔で顔を上げたので、今度は俺が驚く番だった。


「それならピックもケースも、予備の弦もおまけで付けるよ。あとは、ベースを教えてくれる人が居れば――」

と、支払いをしながら店長が独り言のように呟くと、裾野がスマフォの画面を店長に見せた。


「それなら茂が快諾してくれました」

その一言に、冷泉は感心した様子で俺に至っては目を丸くするばかりだった。


 気が利くというか、仕事が早いというか。

今に始まったことではないが、色々頭が上がらない。


「おぉ~、あの蒼谷くんがね! よかったね~」

カードを返却される時に再び握手を求められて応じていると、冷泉は柔和な微笑みを俺に向けていた。


「とはいえ彼は片桐の情報屋ですから、下手なことをしないように俺が同席しますよ」

裾野は本当にマメだ。普通なら自分が弾けない楽器のましてや練習風景の見学なんて、飽きてしまいそうなイメージだ。

俺は無知だから本当は違うのかもしれないけど、それにしても脱帽ものだ。


「……」

何だか気恥ずかしく、目を逸らしながら会釈をしてしまうと、裾野はやんわりと顔を綻ばせた。


「それなら俺も時々行ってもいいか?」

俺が裾野に手伝ってもらいながらケースを背負っていると、冷泉が顔を覗き込んできた。


「……勿論!」

自然と出てしまった笑みで答えると、冷泉は同じように笑みを滲ませた。


 まだ音楽をやっていないけど、心が躍っている。

こんな気持ちが集まって、世に溢れている音楽が出来ているのだろうか?


 昔、司と見たマジックショーのように観客も皆笑顔になれるのだろうか?

今度は俺が誰かの心を躍らせるのか?


 バックバンドでも歌うのはきっと司だから、手助けができるということ?

そう言えば、鼻歌しか聴いたことがないけどどんな声をしているのだろうか?


 そして、俺はどんな歌声をしているのだろうか?



 いくつも疑問が浮かんでは、変わりゆく自分の姿が踊る舞台には強い光が当たっていった。

観客はもう司だけじゃない。

俺は、皆に司が届ける心の踊りを見聞きしてもらいたい。



・・・



「ベースにして正解でしたよ――あれは?」

楽器店を後にすると、裾野が声を掛けてくれたが知り合いでも見つけたのか目を凝らした。


「颯雅!」

裾野を一瞥すると、冷泉が先に神崎の名を呼んだ。

振り向いた神崎はどこか買物にでも行っていたのか、いくつか紙袋を抱えていた。


「悪い、これから用事があるんだ。今日はありがとう。後は裾野に任せる」

冷泉は腕時計を見るや否や、慌てたように立ち去ってしまったが神崎は特に気にする様子も無かった。


「任されました。――颯雅、奇遇だな」

裾野は幼馴染に会えた嬉しさから、満面の笑みを浮かべている。


「おう。暁さんもお疲れ様」

神崎は一礼して言うと、歩き始めた俺達と一緒に歩を進めた。


 そう言えば、神崎に声を褒められた日に如月に楽器をやってみればって言われていたような。

あれから何か始めたのかな。


「あ、俺は何も楽器やってないんだけど、湊から暁さんの練習に行くけどどうって連絡来てたし……俺もいいか?」

神崎は何かを察したように話してくれ、裾野も親指を立てて快諾していた。


 その後すぐにスマフォを取り出し、しばらくすると神崎が目を見張った。


「早! グループの招待ありがとな」

そう言われ、俺もスマフォを確認すると招待が来ていた。


 バックバンド。

冷泉はピアノが弾けると言っていた。

ピアノも良いなら、一緒に出来ないかな。

 先程は自分の事で頭が一杯だったけど、誘ってみるのも有りかな。


「……バックバンド、冷泉一緒にやりたいかな」

気持ちが溢れたのか、ふと言葉を零してしまうと、神崎は好意的な目で見ている女性たちを一瞥しつつこう言ってくれた。


「言ってみるか? 俺からどう思ってるか訊いてみるぜ」

と。


 俺は心の中に玉露を注がれているような、温かい気持ちになっていくのを肌で感じた。

それは冷えきった人生で(かじか)んだ俺の心には熱くて、あまりの嬉しさに満面の笑みになって頷いてしまっていた。


 その時、こちらを見ていた女性グループから黄色い声があがったが、それはきっと神崎の優しさだろう。

或いは裾野の見た目か。

この業界は、普通にしている分にはモテる人が多いから。


「ありがとう、助かる。颯雅から言ってもらった方が良さそうだからな」

裾野はギターケースを背負い直しながら言うと、俺にも笑みを分けてくれた。


「分かった。任せとけ」

神崎は俺の変化に胸打たれたのか、真剣な顔をしてくれた。



 音楽に出会った事は、良くも悪くも運命を変えたと思う。

だけど少なくても俺が楽器を始めるまでに関わって、今でも気にかけてくれている人達が居ると気付けた事は間違っていないと信じられる。


 舞台が光で満たされる。

観客に龍勢、店長や裾野、神崎、そして冷泉が増えた。


 障害物や棘も少しずつ浄化されていく。

あともう少し、もう少し光に近づきたい。


 あともう一歩だけ。



2014年10月11日 9時頃

某スタジオ

青龍暁(せいりゅう あかつき)



 日曜日に楽器を購入してから6日後のこと、裾野の尽力もあって冷泉、神崎、裾野、そして師匠との顔合わせが実現した。


 裾野と師匠こと蒼谷は、Coloursというバンドのメンバーでもあるから親交がある。

冷泉も以前会った事があるらしく、道中では懐かしんでいる様子だった。


 だが神崎と俺は写真やデータでは見たことがあっても初対面だ。

とはいえ、神崎はどこか楽しそうにしている。

初めての人と会うのが、そんなに面白い事なのだろうか。



 そして俺達は今、蒼谷に指定されたビル内のスタジオの重厚な扉の前に居る。

そこには、いかにも重そうで俺よりも20cmは高いであろう扉が聳え立つ。



「初めてのスタジオって緊張しますよね」

裾野は扉を凝視している俺に声を掛けてくれたが、返事が出来る程の余裕はない。


 というのも、心臓が今にも胸を突き破って扉を破壊しそうだからだ。

まさかこの歳になってここまで緊張する日が来るとは。


 音楽で誰かの心を躍らせる前に、この緊張を何とかしないと難しそうだ。


「……」

ここは教えを乞う俺が開けるべきなのだろうが、ノブに手を掛けたまま動けないでいる。


 この状況に冷泉と神崎も気を遣って待っていてくれているが、司ならどうしただろう?

「何やってんだ暁? 開けないなら俺が開ける~」とでも言って開けるのだろうか。


 時々、いやここぞという時だけ司に似る機能が欲しい。

すると扉の向こうからノブを捻られ、壁を突き破るように扉が開かれた。


「こんなところで何分待たせる気ですか!? 5分も待っていますよ!?」

ふわりと揺れた長い前髪から顔を出す黒縁眼鏡をクイと上げ、堅物そうな声色で捲し立ててきたこの男性。

なるほど、この人が蒼谷茂という人物なんだ。


 データには今日現在の顔や声色が載っている訳ではないから、データは数年前のものかもしれない。

俺が思わずデジタルから飛び出してきた人物に感心していると、蒼谷は眉を潜めた。


「貴方が青龍暁副総長ですね。本日はエレキベースを教わりに来たのですよね? 邪魔なので早くお入りください」

それから俺を見上げてピシャリと言い放つと、扉を開け放って俺達を迎え入れてくれた。


「茂、今日はありがとう」

裾野が俺に続いて部屋に入る時に声を掛けると、蒼谷は「別に、暇だったので構いません」と、僅かに頬を緩ませた。

その後神崎と軽く挨拶を済ましていたが、どうやったら軽い挨拶が出来るのだろう。


 そう言えば片桐組同期でバンドメンバーだから、裾野とは話しやすいのかな。

ということは、司にもそんな人が居たのかな?


「こんなに機材があるのか……もしかして、ここって全部蒼谷の物か?」

神崎は教室程はある広さのスタジオを見回して言った。


「そうですよ。機材にも、当たり前ですが(わたくし)の楽器にも触らないでください」

蒼谷はインディゴブルーの骨格の見えるピアノと、スタンドに立てかけられた同じような色のベースを指差して言った。


 その後ろには、外側が真っ赤で面が透明のお皿が沢山並んだ楽器? のようなものがあった。

金色の蓋もいくつか並んでいるが、どうやって演奏するのだろうか?


「あぁ、分かった」

神崎は手を後ろに回し、小さく頷いた。


「青龍さん、早速ですが楽器を見せて頂いてもよろしいです?」

蒼谷は右奥の部屋から背もたれつきの椅子を人数分持ってくると、座るように促した。


 俺が慎重に楽器を肩から下して蒼谷に手渡すと、椅子に腰かけてから楽器を取り出した。


「Bacchusの5弦ですか。質実剛健な貴方に丁度良いベースですね」

慣れたようにベルトを肩に掛け、ケースからピックを取り出すと裾野の名を呼んだ。


「いつものだな」

裾野は蒼谷が出す音1つ1つの高低を的確に伝えているようだったが、俺にはサッパリ分からなかった。


 しばらくすると音が合ったのか、蒼谷は再びケースを探っている。

何か足りない物でもあったのだろうか?


「ありがとうございます。はて、エフェクターは持ってきていないんですか?」

かなり苛立った面立ちの蒼谷は、俺を睨み上げている。

そうは言われても、エフェクターはギターには使うとは聞いていたがベースにも使うのだろうか。


「……?」

本当に分からない事なので首を傾げてしまうと、蒼谷は小声で裾野を呼び出した。


 一体部屋の隅で何を話しているのかは不明だが、俺がエフェクターというものを買い忘れた事を怒っているのか。

そうだとしたら、俺が悪い筈だ。


「エフェクターってなんだ?」

神崎は隣に座る冷泉に聞いていたが、冷泉も「ギターには使うって聞いたんだけどな」と、悩んでいる様子だった。



 やがて2人が戻ってくると、蒼谷はわざとらしく溜息をついた。

「エフェクターは、貴方独自のサウンドを作る大事な機械です。次回は選んで差し上げますから買いに行きましょう」

とはいえ、言っている事はかなり優しく感じる。

もしかして、裾野が上手く言ってくれた?


「茂、悪いな。ありがとう」

裾野は何かをしただろうに、申し訳なさそうに手を合わせて言っている。


「いいです。アンプもお貸ししますから、繋いでください」

蒼谷は俺にベースを返すと、アンプと呼ばれる黒い箱のようなものを持って来た。


 俺の腰ぐらいはあるからかなり大きい物だが、これは何に使うのだろう?


「ぼうっとしないでください。アンプが無いといくら演奏しても観客に届きませんよ? ……ですから、要するに拡声器です」

蒼谷はケースから黒いコードを取り出すと、俺のベースとアンプを繋いだ。

その時に理解してなさそうな顔をしていたのか、分かりやすく言い直してくれた。


「……ありがとう」

俺は色々やってもらっている申し訳なさからも感謝をしたのだが、蒼谷は眼鏡をクイと上げるだけで返事はしなかった。


 すると隣に座っている裾野が俺の肩に軽く触れ、

「茂が人に教えるのって、実は初めてなんですよ」

と、耳打ちしてきたので、点と線が繋がった。


 初めて人に教えるから、褒められると照れてしまうのだろう。


 蒼谷は裾野が引いたタイミングで俺の名を呼ぶと、

「ここからよく聞いてください。アンプと楽器を繋いだ後は、音量のつまみを最小にしてから電源を入れてください」

指を差しながらゆっくり言ってくれたので、ズボンのポケットに入れてきたメモ用紙に書き込んだ。

 ついでだから今日習った事を全部書いておこう。


 その間に神崎は席を立ち、一旦アンプの電源を切った。

「逆にしたらどうなんだ?」

と、音量のつまみを最大にしようとしたので、蒼谷はすぐにその手を掴んだ。


「それは絶対に止めてください。アンプが壊れます!!」

蒼谷の気迫すら感じる叫びに、メモを取っていた俺が驚かされてしまった。

対する神崎は何も表情を浮かべていなかったが、好奇心でやったとは思えない。


 ということは俺が絶対に間違えないように、教えようとしてくれたのか?


「ごめんな。直しておくよ」

と、つまみを最小にして電源を付けて言う姿は、面倒見の良い兄のように見えた。


 司は俺の為にこんな事をしてくれるのかな。

今まではしてくれなかったけど、バックバンドで一緒に演奏できたら変わる?


「青龍さん。音量の調節はしておきましたから、左手は弦に触れずに1番手前の弦を弾いてみてください」

考え事をしていた俺を1段階大きい声で呼ぶと、掌でベースを差した。


「……」

緊張気味に小さく頷いた俺は、ピックを使い手前の弦を弾いてみた。


 だが音が出ない。

何かを掠ったような、空しい音が自分の周りにだけ響いた。

もしかして間違っていたのだろうか?


「何を慌てているのですか。性格はデータで熟知していたつもりでしたが、慎重に弾きすぎです。思ったよりも強く弾いてみてください」

蒼谷は自分の楽器を持ってくると、アンプには繋がずにその場で弦を弾いてみせた。


 かなり強くやっている。

それとも普段は指弾きだから、ピックは不慣れなのだろうか。


「ほら、強く弾く癖がつけば、弱くするのが楽になるでしょう。それに、楽器は奏でる人間の心を映す鏡です。そんな自信の無い音を出すバンドなんて聴きたくありませんよ」

蒼谷は無意識に震えていた俺の手を指差すと、腕を組んで目を閉じた。


 楽器は奏でる人間の心を映す鏡。

だから司のアコースティックギターの音色は、空虚ではあるけど楽しそうなのかな。

誰かと一緒にやりたいって、思ってくれているのかな。


 それなら俺とやってよ!

いつまでも司の事を嫌いな俺で居たくないよ!!

お願いだから、こんな俺に気付いてよ!!


 その想いを弦にぶつけると、自分でも驚く程の音量と棘のある音色がスタジオに響き渡った。


「……っ!! なんですか……その悲痛な運命を泣き叫んでいる1人の青年の、痛くもあり心に響く音色は」

アンプの側で立っていた蒼谷は、呆然と俯いている俺を見下している。


「直アンプでこの音色、ですか」

裾野はガクガクと震える俺の肩を軽く抱き寄せ、背中を擦った。


 俺は裾野の温かさで自分の世界から片足を出せたが、楽器やそれで奏でて作られる音楽は凶器にもなるのかな。

というのも、たった一音でこんなに震えてしまうのも、蒼谷の言った通り俺の心に応えてくれる楽器も恐ろしいからだ。


 だけど、とても心が躍った。


「音楽の事は分からねぇけど、暁さんらしい綺麗なだけじゃない音色だな」

神崎は組んでいた脚を下すと、何回か頷いた。


「それよりも大丈夫? 少し休憩しようか?」

冷泉は楽器に気を遣いながら裾野に寄り掛かる俺を、心配そうに眉を下げて言った。


「……」

俺は首を横に振り、冷泉と裾野に礼を言った。


「左様でございますか。それなら私のは4弦ですけど、基本同じなので基礎からお教えします」

蒼谷は自分の楽器もアンプに繋ぐと、裾野にチューニングをお願いしながらも俺の目を射るように見た。


 その表情は、どこか俺に対して恐れを抱いているような、意外性を感じているような何とも言えないものだった。



・・・



 それから数回土日に集まり、司にバレないようにこっそり練習もしていた甲斐もあってか上達はしてきた気がする。

これも師匠である蒼谷のおかげなのだろうが、毎回練習に来てくれる冷泉と裾野にも感謝したい。

 それにしてもエフェクターを購入した時に、演奏しながら足で操作すると言われた時はかなりたまげた。


 さて、今回は10月最後の練習日。

裾野と冷泉も来てくれるとのことなので、集合時間10分前にスタジオ前で待っていると蒼谷が歩み寄って来た。


「お疲れ様です、今日は早いですね」

蒼谷がベースを背負っている所を初めて見た俺は、自分とほぼ同じ大きさの楽器を背負っている事に何故か感動してしまった。

いつもは先にスタジオに入っていて、練習をしている所しか見ていないから。


「楽しみ……かも」

俺は感動といつも感じる緊張とが混じってしまい、とんでもない発言をしてしまうと蒼谷は噴き出した。


「かもって何ですか。ベースは面白いですよ。ただ、1つ訊きたいのでよろしいです?」

と、遠慮がちに訊いてくる蒼谷は、「中で話しましょうか」と、俺をスタジオに招き入れた。



 スタジオに入ると、蒼谷はいつものように人数分の椅子を用意して俺の向かいに座った。

「つかぬ事を御聞きしますが、私や裾野らが組んでいるようなバンドはやらないのですか?」


 俺は蒼谷からの言葉に、しばらく何も言えなくなってしまった。

Coloursのようなバンドと、バックバンドって何が違うのだろうか。

ギターは目立つとか、ベースは実は目立つとか……そういった事と何かが違う気がする。


「すみません。忘れてください」

蒼谷は黙り込んでしまった俺を気遣い、質問を取り下げてくれたがどうも釈然としなかった。

すぐにでも訊きたいのに、言葉にできない。

昔から割に言葉選びが遅いのだが、どうして治らないのだろう。



「おはようございます」

すると、裾野と冷泉がスタジオに入ってきた。


「裾野……」

俺は席を立ち、蒼谷と話そうとした彼を引き止め、

「バンド、バックバンドって……」

と、話し始めると裾野は目を丸くした。


「大きな違いは、バンドはメンバー全員で音を作りますが、一方でソロの後ろで楽器を奏でるバックバンドは、ソロの方ほぼ1人で音を作るという点ですね」

裾野は「この定義に当てはめると、Coloursはバンドという事になります」と、蒼谷の口調を真似て教えてくれた。


 ということは、バックバンドは司が作った音を演奏する。

だけどバンドなら、司含めて他の楽器の人たちも一緒に音を作る。


 それなら俺がやりたいのは、バンドの方……かもしれない。


「バンドならボーカルと一緒に歌ったりするから、今の暁にはいいんじゃないかな。でも何かあったらいつでも言ってね」

冷泉も声に自信を持ち始めた俺の背中を押してくれている。


「そうですね。貴方の音色は、バックバンドで収まるモノじゃありませんよ」

蒼谷は短い間でも俺に向き合ってくれたようで、少し自慢げに言っていた。


「右に同じですね。蒼谷同様バンドの事は詳しい方だと思うので、お気軽に何でも訊いてくださいね」

裾野は柔らかい微笑みを向けて言った。



「それなら……詳しく、知りたい」

俺はここまで褒められる事も少ないから口籠ってしまっていたが、3人にしっかり伝えられた。



 俺の言葉を聞いた3人は顔を見合わせて表情を和らげると、メモを用意するようにジェスチャーをした。

その日は彼らのジェスチャー通り、用意してきたメモ用紙を使い切る程音楽やバンドについての知識を教えてくれた。


 また1本舞台に光が差し、蒼谷も観客席に着く。


 あとは司にバンドをやりたいって言うだけ。

たった一言――ベースをやらせてくださいって言う。

お願いだから、貴方が作る音楽を一緒に、"隣"で奏でさせて。


 一緒に心躍らせようよ……いつまでも貴方の事を"司"と呼びたくないから。



2014年11月3日 16時頃

藍竜組 総長室兼副総長室

青龍暁(せいりゅう あかつき)



 蒼谷に選んで貰った機材にベースを繋ぎ、ヘッドフォンをして自主練に励む。

最初こそ指の皮が痛かったものの、今は元から硬かったせいかそこまで気にならない。


 少しでも上手くなれば、司は喜んでくれる。

バックバンドじゃなくてバンド組もうか! なんて言ってくれるかもしれない。


 ここまで司を受け入れ始めているということは、俺も変わってきたのだろう。

そうしたら後は司の気持ち次第、かな。


 でも司ならきっと、兄さんと呼んではしゃいでいた頃の俺に戻してくれる筈。

あの頃みたいに兄さんを置いてはしゃぎはしなくても、一緒に杯を交わしてみたい。


 お酒、飲めないけど。



「――!!」

目を閉じ、只管に運指を頭に叩き込んでいく。

基礎は見なくても弾ける状態でないと、見栄えがしないからって蒼谷が言っていたから。


「――!!!!」

ふと目を開けると、今にも鼻が触れそうな距離に眉を潜めて叫ぶ司の顔があった。


 俺は慌ててヘッドフォンを毟るように取り、機材の電源を落とした。

司はまだ取引先での会議があった筈だけど、予定よりも2時間早く終わったって事かな?

……早すぎる。これではかなり印象が悪い。


「早い。司、ごめん」

キャスター付きの椅子を滑らせて距離を取って言うと、司はゆっくりと目線を落とした。


「……暁にさ、連絡してなかったんだよ」

それから蚊の鳴くような声で呟くので、俺は首を大きく横に振った。


「それで? そのベースって事は、もしかしてバックバンドの話受けてくれるのか!?」

司は許して貰えたと思うと一気にテンションを戻す。

同じO型獅子座の菅野もそういう所あるから、性格の傾向として一緒なのかな。


 今日は司に伝える日だ。

バックバンドじゃなくて隣で弾かせてって言わないと、司には絶対に伝わらない。



 俺はベースを強く抱きしめて立ち上がり、

「司……ベース、隣で弾かせて!」

と、ベースと機材を繋ぐコードも抜いて半ば叫ぶように言った。


 これで駄目だと言われたら、諦めよう。

でも納得いかない理由なら話し合わないと。


「なるほど、バックバンドじゃなくてバンドを組みたいって事か。湊から聞いたけど、蒼谷に教わってるんだって?」

司は腕を組んで何度か頷いて言うと、背を向けて俺のデスクに腰かけた。


「そう。バンド、皆歌う事も聞いたよ」

俺はベースを持ったまま司の正面に回り込むと、司は肺の空気を捨てきる程の大きな溜息を吐いた。


「皆で歌うだけじゃない。ソロで歌いながら弾く事もあるし、俺が作る曲をバンド編成にするなら勿論あるよ」

それからベースを大事そうに抱える俺を見上げた司の表情は、訝し気でもあり何だか諦めて欲しそうでもあった。


「暁は、何千、何万と出来るかもしれないファンの前で歌える? それは練習したから出来る訳じゃ――」

続けて司の口をついて出た言葉は、変わろうとしている俺にとっては追い詰めるナイフでしか無かった。


 目を伏せ、諦めさせようと次々とナイフを投げる司に俺は、

「司は俺から……!! また、逃げるの!?」

生まれて初めて両肩を掴んで強く揺さぶった。

自分でも嫌になる程の大声で叫んだ。


 どうしていつも逃げるの? 俺と向き合ってくれないの?

司は観客じゃなくて、一緒に舞台に上がって欲しい。


 隊員を引っ張っているのに、どうして俺は……いつも置いていくの?


「逃げてない! 逃げてない……が、バンドをやる事を両親に言えば、母親は俺を見に来る。そこに顔出ししていないとはいえ、暁が居ればどうなるか分かるだろ?」

司は俺がどう思うかじゃなくて、母親がどう思うかが大事なのだろう。

眉を下げて言っていても、内心は自分が母親にどう言われるか気にしている。


「練習の進捗は湊からよく聞いているし、バックバンドならCD等の音源の収録で弾いてもらうから……隣に居られるだろ」

そして顔を背けて言う司は、やはり俺から逃げている。

俺は母親を前にしても弾けるくらいの覚悟はしているのに。


「……」

俺はベースを一旦デスクに置くと、言葉に出来ない気持ちを伝えたくて歯ぎしりをしながら無言で詰め寄った。


 人を傷つけるかもしれない言葉を、上手く選んで話せない。

母親に"嫌いだ"と言われた声で伝える事が、どうしても怖い。


 お願い、伝わって。


「はっきり言わないと俺は分からないよ。だがバンドを組むなら、湊あたりにキーボード頼んでドラム、ギターとベースはどうするかな」

だけど願いは空しく風に流されていったから、俺はそっと司の側を離れた。

むしろ、俺の申し出等無かったかのようにベースを探そうとしている。


 俺は一緒にやりたい。

そうすれば、司も俺から逃げずに向き合ってくれると思うから。

違うならハッキリ言って欲しいのに、どうしていつもすれ違うんだろう。



 初めてベースの弦を弾いた頃を思い出す。

蒼谷の音しか聴いた事が無かったけど、楽器があそこまで自分の心を映すとは思わなかった。



「……暁? 俺はお前の事を思って言っているんだよ。折角の才能を、折角始めたベースを――」

司は俯いたまま言葉を発しない俺の顔を覗き込み、両腕にそっと触れて諭すように話し掛けてきた。


 もう限界。

どうしていつも"いい子"で居たがるんだ!!


 司の腕を払い、その言葉をぐっと腹の底に押し込んで出てきた言葉は、

「どうして、自分隠すの!?」

という棘の短い言葉だった。


 俺自身もこうして正面から言葉を言わないから、司に伝わってないんだろう。

こっちが一緒にやりたいんだから、ほら一緒にやってよ! とでも言えれば楽なのだが。


「…………」

散々に言い返してくるだろうという俺の予想とは裏腹に、珍しく司が黙った。

目を伏せた彼は、悔しそうに唇を噛んで涙を堪えているように見えた。


 どうして言いたい事があるのに、言ってくれないの。

今まで平気な顔して俺を傷つけてきたのに、どうして。



 "綺麗な声ですね"

自信をくれた龍勢や神崎の顔が思い浮かぶ。

楽器店の店長も、歌ったら化けるなんて身に余る言葉を掛けてくれた。


 裾野は何も言わないけど、それはきっと俺が声を気にしているのを知っているからだ。

彼は誰よりも待つのが得意だと思うから。



 それなのにどうして。



「……」

俺は一旦頭を冷やそうと思い、司に声を掛けないまま部屋を後にした。



 が、疲れきった顔で扉を開けた俺を出迎えたのは、冷泉、神崎そして龍勢だった。

「暁さん、待ってください」

龍勢は声を落としてしっとりとした声で言うと、

「藍竜と今話せますか?」

部屋の中を覗きながら言うので、司の1日の予定を思い出しながら頷いた。


「……?」

俺の返答を聞いた冷泉の様子が変だと思ったのか、神崎が首を傾げたその時。


 冷泉は俺の横を大股で通り過ぎ、項垂れている司の目の前で歩を止め、

「お前いい加減にしろよ! 暁がどんな思いで楽器を始めたと思ってんだよ!」

と、胸倉を掴んで叱るので、普段の穏やかな冷泉しか知らなかった俺はギャップに驚いてしまった。


 言う時は言ってくれる皆のお兄さん、というイメージは変わらないけど、手を出すなんて。

そこまで想ってくれているのかな。


「司……っ!!」

そのせいか、俺は部屋に戻るなり2人きりの時しか呼んでいない方で彼の名を呼んでしまっていた。


 一応、兄弟で経営しているから外面(そとづら)は気を付けていたのに。

認めたくなくても、昔のように兄さんって呼べていたのに。


「暁!! 恋人みたいに……!! 名前で呼ぶな!!」

案の定、司の稲妻が脳天に刺さる。

その表情は、嫌悪の色で塗り潰されていた。


 嫌だったなら言ってくれれば良いのに、高校生くらいから名前で呼び始めた時なんて嬉しそうにしていたよね。

本当は隠していたの? だったら最初に怒ってくれれば良かったのに!!


「そんなことで怒れる程、お前は偉くなったのか!?」

そんな俺の気持ちを代弁するかのように、冷泉は眉を吊り上げた。

だが冷泉の怒り方には、親友である司を信頼しているからこその愛が見える。


「……」

またしても司は口を噤んだ。

どうしよう。その姿があまりにも俺に似ていて、この人と兄弟である事を認識してしまう。



 そんな姿を見ていられなかった俺が腕を擦っていると、冷泉は俺の腕を優しく掴んで部屋の外へと連れ出した。

それにしても、親友を叱っている時でも俺を気遣える優しさはあるんだ。

……司は怒っていたり、苛立っていたりすると俺に強く当たるのが日常茶飯事だから。


 司の事や自分の悩みを冷泉にしておいて良かった。

ここまで司を叱れる人は、立場もあってか誰も居ないと思うから。


 そうして俺を部屋の外に連れ出した後、龍勢が心配そうに中の様子を窺いながら、

「暁さんは藍竜の為にやってるんやで」

と、遠慮がちに声を掛けた。


 すると様子を見ていた神崎が、「行こう」と、龍勢の肩を抱いて去って行った。

その後、俺と司の心の距離を具現化したように扉は音も立てずに空間を隔てた。


・・・


 司は今、何を考えているのかな。

言われた事を整理しているのか。


 俺は今、何を考えているのかな。

司を受け入れたい気持ちも、言いたい事も言ってもらった。

俺の遠回しの言葉と、冷泉たちの真っ直ぐな言葉が線になって繋がれば良いと思っている?



 バンドを組みたいと思っている?

声にもっと自信が持てたと思っている?


 それなら司ともう1回向き合って、自分の言葉で話さないと分からないよね。

今度は冷泉たちの言葉が染みた状態だから、話し合えるだろう。


 結局、俺は司の事を想いながら扉を見遣ってしまっている。

だけどそれは、たった1人の兄だからではなく藍竜組総長だから。


 でもこれからは違う。

司に踊らされてばかりじゃなくて、今度は俺が司の心を躍らせるから。

ここまでの読了、ありがとうございます。

作者の趙雲です。


4週に亘って投稿していた中編を、11月4日(月)に纏めました。


次回投稿日は、11月9日(土)or 10日(日)です。

それでは良い1週間を!!


作者 趙雲

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