表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
67/130

「14話-舞踏-(序章)」

14話を彩り舞い踊るのは、藍竜組副総長である青龍暁さん。

彼はある人に呪縛から解いてもらったようで……?


※約2,200字です。

※騅編 「12話-奴隷-」(後編)のその後のお話。

2018年4月11日 夜

光明寺家付近 貸倉庫

青龍暁(せいりゅう あかつき)



 ――この文は、文章苦手な俺の為。兄である藍竜司が代筆してる。――



 騅の前から姿を消し、司に報告した後の事。

俺と"亡霊を操る"能力を持つ鳩村涼輔(はとむら りょうすけ)は、首を切断した緑澤尊(みどりさわ たける)の魂を回収しに向かった。


 蠍座(さそりざ)AB型で霊のように白い肌を持つ彼は、藍竜組情報課長兼執行役員を務めている。

薄鈍色のボブ程の長さの髪は綺麗に整えられていて、紫縁の楕円型の眼鏡に掛かる前髪は指通りが良さそうだ。


 体型は極度の痩せ型で170cmくらい。裾野と同じ26歳。

薄手で一回り大きい純白のパーカーを羽織っていても分かる程、腕や肩、大胸筋に骨が浮き出てしまっていた。



 魂を回収する際、鳩村は松葉杖でないと歩けない為外出許可を頂いた。

「……あ、ありが、とう」

鳩村は付き添ってくれた龍勢淳(たつせじゅん)と共に、一歩ずつ確かめるように歩いて来た。


 龍勢は獅子座(ししざ)A型の健康的な印象を受ける白い肌だ。

黒髪でセミロング。人を寄せ付ける魅力のある女性だ。


 鳩村と同じ役員の菅野海未と同い年で夫婦関係だ。

血の繋がっていない兄が3人居る。



 今回、付き添い人に龍勢を選んだのは"恩人"である事が起因している。

過去に縛られ、踊らされ続けていた俺を救ってくれたから。



「ええよええよ。離れた方がええかな?」

龍勢は緑澤の遺体の側まで誘導しながら言うと、鳩村に向かって静かに微笑んだ。


「うん」

と、鳩村は松葉杖を龍勢に預けながら言うと、脚を震わせながら膝をついた。


「<地獄へと向かう汚れた御霊、緑澤尊より離れ向かう場所を改めて……"怨霊化(ゴーストリード)">」

それから1つ1つ言葉を噛みしめるように呟くと、俺たちには何も見えなかったがゆっくりと頷いて立ち上がった。


「終わった?」

俺が松葉杖を持ち直す鳩村に歩み寄って言うと、鳩村はぎょっとした。


「……は、はい」

鳩村は酷く俺を警戒――避けているような態度を取る。


「そう、か」

そう思う俺は、吃音や髪の色で差別してきた家族のことで苦労した経緯を知っている。

だからこそ、接し方が分からないのだ。

特に母親で悩みを抱えていたという似た境遇を持つ事と、俺とは違い司と出会うまでは1人で耐えてきたのだ。


 司だって、喧嘩こそ多いが一応俺の兄……だから。


「……」

それにしても亡霊に遺体を処理させている鳩村の表情が、今にも自らの命を絶ってしまいそうな程弱々しく見える。


 俺には何が出来るのだろう。

救ってもらえた俺は、同じように囚われている鳩村を救うべきなのではないだろうか。


 拳を強く握り、痣を隠すように着用しているマスクやマフラーを見遣り、

「実は、母親アルツハイマー……で」

ぽつりと言葉を漏らすと、鳩村は先程よりかは控えめだが引いているようだった。


「父親ずっと、病院に居る。司が週1で見舞い行ってて」

決して話すのが上手くない俺は、言葉を選びながら話していたが2人は急かす事なく相槌を打ってくれた。


「だけど俺……行くと病状悪くする」

黒皮に覆われた手を見下して地面に向かって声を落とすと、鳩村は亡霊たちを見渡して少々苛立った様子でこう言った。


「お、同じ、に、人間、な、なのに……!!」

と。

穏やかで平和主義な鳩村が、苛立って感情を露わにするとは。


「でも騅の小説、龍勢が書いた話。神崎の母親、司に話す母親と同じだった。優しい人は居る」

と、苛立ってしまった事を後悔している鳩村に声を掛けると、溜息を吐いてしまった。


「せやな。私は両親に会ったことないんやけど、優しい人って絶対居るよ」

すると龍勢が鳩村の顔を心配そうに覗き込んで言い、

「それと暁さんにも言ったんやけど、お母さんはお元気やろうから向き合ってみるのもええんとちゃうかな?」

と、物腰柔らかく語り掛けたのだ。


 俺はどうしても話す時に"変な声"、"声が嫌い"と思われるのが怖くて、言葉を選ぶのが遅い。

司が言うには俺の声は唯一無二の素敵な声だと。


 だけど本当なのだろうか。

こんな鼻にかかったチェロぐらいの低さの声、だけど。


「……今日、話そう」

一軒家のような貸倉庫の庭の3人掛けベンチの右端に座ると、龍勢は左端に座り、鳩村は2人の間に立った。


「いや……」

俺は鳩村に座るように勧めると、渋々座ってくれた。


「こんな俺、変えた龍勢との話。母親の見舞い行けるようなった話。してみる」

と、ぽつりぽつりと2人の顔を横目で見ながら言うと、龍勢は大きく頷いた。


 指遊をしてしまうのも足の指を忙しなく交差させてしまうのも、本当はどこか自分に踊らされているのだろうか。


 話せる覚悟はあるのか。

舞う覚悟は。


 未だに司の事を好きになれない。

ずっと一緒に居て欲しいから副総長室も総長室と同室にしたのに。

仕事を終えてしまえば、隊員の元へと行ってしまう。


 踊らされる。


 あの時だってそうだった。

舞うことを強いられた時――司は家から逃げようとした。


 踊らされる。

 

 舞踏会の日々は現在も、今し方起きたように感じる。


 街中で怒鳴りつける人たち、子どもを平気で殴る人たち。

喧嘩をしている人たち、警察に刃向かう人たち。

そして"BLACK"の時の殺し屋たちの生き生きとした顔。


 心に塗りたくった痛み止めが一瞬で剥がれる程の衝撃となる。

舞っていた自分がその刹那、足が(もつ)れて倒れていく。


 どうして?

この疑問に少し前まではただ泣き崩れ、逃げる事しか出来なかった。


 だけど今は、心は痛いがまだ足は動く。

ならば、その足でもう一度鳩村の為に、藍竜組の未来の為に踊るまで。



 もう逃げるな、舞え。

ここまでの読了、ありがとうございます。

13話、14話と誰かが救われていく話が続きます。

救済の連鎖は、悲哀の連鎖を断ち切れるか。


次回投稿日は、8月31日(土) or 9月1日(日)です。

いよいよ8月も終わりますね。

今週からは学校が始まるところも多いのでは……。


今後も通勤・通学、明日から乗り越える為のリラックスタイムのお供に選んで頂けたら幸いです。

それでは良い1週間を!!


作者 趙雲


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ