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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
58/130

「12話-解放-(序章)」

今回は藍竜司総長。

彼のターンでは裏の戦いを描くので、序章→前編→中編→後編という4部構成に致します。


隊員目線では描かれなかった、もう1つの戦いとは。


※約3,300字です。

 人柱の桜が創り出す鮮やかな紫色の色素は、血液や五臓六腑から出来ているという。

それは究極の応用能力にして、命を捨ててまで救いたい熱情が無ければ発動出来ない。

だが能力使用によって、"桜を誘う"能力を持つ者は最期――桜と同色になり養分を吸い取られ続け朽ちていく。


 それを止める為に必ず親族に授かる能力が、"あらゆるものから解放する"能力。

怪我や骨折等の物理的負傷は勿論のこと、メンタルケアの意味での解放も可能な能力で、側に居るだけでも多少の効果がある。

 俺は今までこの能力で様々な人を救ってきたが、救えなかった人も居る。

とはいえ、救えなかった事でかえって強くなった者も居る。

その人は藍竜組の試験を受けに来ていたが、拉致され片桐組のエンジニアとして働いている大崎月光(おおさき るこう)だ。

彼にとっての幸せは、今までマジックをステージでやる事だと思っていた。


 しかしメンテナンス技術や毒弾の開発の功績、それを大崎自身が嫌だと思っていない事を風の噂で聞いた。

もしかしたら、マジシャンという職業を離れたおかげで見つけた幸せなのかもしれない。


 俺には彼にまた会えたら、どうしても訊いてみたい事が1つある。



2018年4月1日 早朝(事件当日)

片桐組 総長室

藍竜組総長(あいりゅう) 藍竜司(つかさ)



 "BLACK"の当日、俺と冷泉湊(れいぜい みなと)、そして弟で副総長の青龍暁(せいりゅう あかつき)と共に片桐組の総長室に通されていた。

目的は"BLACK"の永久の開催放棄。

これまでも数か月に亘り互いの総長室にて議論を交わしてきたが、どう話し合っても平行線のままだった。


 だからこそ、今回の会議が最後の機会だ。

絶対に止めさせなければならない。

経営層の思惑も知らず、1枚の手紙によって踊らされ死に逝く全国各地の隊員の事を考えれば胸が痛む。

だが目の前でふんぞり返っている片桐組総長の片桐湊冴(かたぎり そうご)の眼中には、自分の組の隊員ですら映っていない。


 その証拠に副総長である片桐湊司(かたぎり そうじ)ですら自分の隣には座らせず、ソファの右後方に立たせている。

俺は同じ場で議論するのだから、2人共座らせているというのに。


「本日はお時間を取っていただいて、ありがとうございます」

と、形だけの挨拶をすると、片桐総長は鼻で笑い脚を組んだ。

「私たち藍竜組の主張は変わりませんが、本日は"BLACK"当日ですのであるデータを持ってきました」

俺は暁に目配せをすると、暁はタブレットを起動させて俺に手渡した。


 それを机に置き、とあるデータを拡大させて指を差すと、

「片桐組と藍竜組の隊員数を母数とした依頼成功数とパーセンテージ、除隊率、評価制度の満足度をまとめたデータです」

と、感情に出さないよう淡々と話し始めると、片桐総長の目の色が若干曇った。

なるほど、やはりここは耳の痛い話になるか。

今まで避けてきた方法ではあるが、湊の読み通り話を遮ってこなくなった。



「片桐総長。貴方の組は全国的にも有名で、殺し屋組織といえば片桐を挙げる志願者は多いです。ただ、片桐組が弊会に勝っている点が1つも無い」

俺は1つずつグラフや数値を見せながらビジネススマイルを浮かべると、

「1万人以上の隊員をまとめる貴方程の方なら、この理由……説明できますよね?」

と、追い討ちをかけるように言うと、片桐総長は数秒程驚愕から目を見開いたかと思えば、抱腹絶倒したのだ。

それに釣られて副総長である湊司も笑い出し、呆れ顔を浮かべていると、片桐総長はふと真剣な表情を見せた。


「じゃあ何故、お前の組は俺の組を超えない? 片桐組より待遇も良く、除隊率も0%、そのうえ評価制度の満足度も100%じゃないか」

片桐総長は画面をタップしながら値を1つ1つ見て言うが、たしかにその通りだ。

ブランディングでは確実に片桐組に負けている上に、広告宣伝費では片桐の10分の1程度しか掛けられていない。


 要するに、良い組なのに知られていないが為に片桐組を超す程の殺し屋組織になれない、ということだ。


「それは宣伝力とブランディングが片桐より劣っているからですが、それなら尚更片桐は何故待遇を良くしないんです?」

と、除隊率70%、評価制度の満足度0%の数値を拡大して言うと、片桐総長は眉を潜めた。


「誰も悪の組織に憧憬を抱いて殺し屋組織に入らないからだ。志願者ってやつらの思考は、殺し屋になる事こそが正義のヒーローなんだよ。分かるか?」

それから放たれた言葉に、俺は思わず拍手をしそうになったがぐっと堪えた。


 藍竜組の宣伝文句を見ているとは、片桐総長は隊員こそ見ていないが競合は念入りに調べるタイプか?

いや、それこそただの会話の引き出しだろう。


「たしかに。ダークヒーローと言われているような隊員も弊会に居ます。ですが――皆が皆、1年目からマネジメントすることや挑戦する事に寛容な部分を気に入っていますし、依頼主からの評価も常に9割以上を創業からキープし続けています」

と、裾野の顔を思い浮かべながら言うと、片桐総長も同じ人物を思い浮かべたのか、目を伏せて再びふんぞり返った。


「その通り。リーダー研修も何も無い我が組とは大違いだ。だが、エースや役員のレベルは圧倒的に違うし、正義のヒーローになるには苦労をするってことを――」

と、片桐総長が途中まで言いかけると、副総長がソファの背もたれ部分を軽く蹴り、

「それは言わない方が」

と、やや不満げな表情で見下して言った。


 なるほど。洗脳しているのか。

それに気付き、失望した者が抜ける。

それなら逆に除隊率は減る筈だが、もしかしてこの男……わざと隊員に言ってどうするか決めさせているのか?


「あぁそうだな。さて、そろそろこちらの話をさせてもらおう」

片桐総長が両手を大きく広げながら言うと、湊が手で制した。

流石。

話したがっている相手に我慢させる手筈を心得ているな。


「承知致しました。それでは、議論を円滑に進める為に片桐組側の主張をお聞かせ願えますか?」

そしてタブレットを数回タップし、メモ帳パッドモードにすると、タッチペンを手渡した。


「ほう。箇条書きで書けと」

片桐総長は少々面倒そうな表情こそしたが、渋々箇条書きで主張を書き出した。


 そこには今まで通り、

①殺し屋の母数を減らして経費を減らす

②少数精鋭でより効率良く依頼を稼ぐ

③全組を同じ人数にし、片桐組がいかに素晴らしい組か布教する


――という俺からしたら有り得ない事項が書き出されていた。

経費が掛かりすぎるのは、経理部を総長決済という理由で黙らせて自分や役員たちの為に使っているからだ。

次の項目も、気に入った隊員だけを集めて言う事を聞かせたいから。

最後はただの自己満足。

反吐が出る。


 だが議論でないと解決できない。

残り2時間で3点も着地点を見つけられるか。

アナウンスをさせる時には、片桐総長に"BLACK"の開催を一切放棄すると言わせなければならない。


 白くなる程唇を噛みしめ、この先の議論を見通そうとしていると、暁の手が肩に置かれた。

「……大丈夫」

暁は俺にしか聞こえないよう呟きながら大きく頷き、

「ひとりじゃない」

と、湊は相手を見据えながら呟いた。


 そうだ。

俺――だけではなく、暁と湊の役目は、全国の殺し屋組織の隊員の為に、戦わずして戦争を終わらせること。

目を閉じれば裾野や菅野、鳩村、騅といった藍竜組を担う隊員の姿が思い浮かぶ。

この4人は藍竜組の方針や理念に最も共感し、俺と暁と共に1000人程の隊員を率いてきた。

そのうえ、忙しいのに評価制度の為の隊員との面談もしてもらっている。


 隊員からの評価と信頼が最も高い裾野聖。

相談のしやすさNo.1を誇る菅野海未。

背が高いので、隊員から見つけやすい評価者No.1の騅。

そして、不思議ちゃんキャラと評価コメントがいつも隊員の未知の領域を言い当てるギャップが評判の鳩村涼輔。


 絶対に、せめてこの4人だけは生きて帰さなければならない。

その心意気で臨めば、他の隊員の事も必然的に考えられる。



「まず1点目ですが――」

俺は4人の笑顔を思い浮かべつつ、暁と顔を見合わせて議論を切り出した。



 隊員からは見えない持久戦が、今始まる――

ここまでの読了、ありがとうございます。

作者の趙雲です。



ついに裏の戦いを描く時が来ました。

少々長くなりますし、バトルシーンも無くほぼ会議のみなので動きも少ないですが、

お付き合いいただけますと幸甚でございます。


次回投稿日は、3月16日(土)or 17日(日)でございます。


それでは、良い1週間を!!


作者 趙雲

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