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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
53/130

「10話-影人-(前編)」

影人である増田梓<マスタング>による敵視点のお話。

彼女には大事な親友が居るようで……?


※約4,400字です。

2018年4月1日 14時30分(事件当日)

片桐組 鷹階3階 階段前

増田梓<マスタング>



 大好きな色で化粧された隊服に身を包み、誰かの影を踏みながら靴を鳴らして歩く。

赤い靴のソリチュードパレード。

逃げきれた人たちも、大声を上げる警察官や刑事たちに捕まる鈍い音が聞こえる。


 刑事部長の紅里慶介(こうさと けいすけ)と、藍竜組の筆頭役員である裾野聖は幼馴染。

情報譲渡されていても、何にも可笑しくない。


――キーンコーンカーンコーン……



 制限時間を知らせる鐘が鳴る。

その音が普段の片桐組の授業の終わりのチャイムと一緒の為、皆が皆拍子抜けしてしまっている。

ということは、他の組もこの音を使っているのだろう。


 私は増田梓(ますた あずさ)、2~30代の黒髪をポニテにした女性、影があれば自在に動ける能力を存分に使わせて頂いているわ。

ちなみに人が持つ影は勿論、夢を見ていれば夢枕にも立てちゃうし夢にだって登場出来る。

普段の移動手段は、影移動といえば伝わりやすいかしら。

人の影をはしごして移動するイメージ。


 で、私の弱点は光。

だから誰も触れていなかったけど、私が行くであろう場所全ての窓の遮光カーテンは閉め切られているの。

……まぁ、光に当てられても2回だけ復活出来ちゃうし、1回目の復活では光が弱点じゃなくて血を浴びる事に変わる。

2回目は光も血も問題無くなるが、完全なる闇に身を置くと存在が消える。



 カーテンを全部の窓に付ける程大事にされている私のポジションは、片桐組総長室の部下無し室長。

簡単に言うと、エースクラスや役員よりも上、だから藤堂からすや黒河月道よりも上。

上司は総長と副総長。

 入ったきっかけ……話すと長いからまとめると、フリーランスだった10代後半の私が総長の影に入り込んで勝負を挑んだの。

ただ、思いっきり惨敗した。

それでも能力の面白みを買ってくれた為内密入隊し、藤堂からすに素知らぬ振りをして近づき結婚。

 ざっくり言うとこんなもんかしら。

これ以前の事を訊くのは野暮よ。



 さて、お話を戻しましょう。

制限時間が過ぎたってことは、私のお時間。

私のこの返り血だらけの服でお察し頂けると思うけど、制限時間後は逃げ切れなかった子羊狩りを任されているの。

そもそも"BLACK"は、我が片桐総長の都合の悪い人物を消すために開催されているもの。


――藤堂からすも、黒河月道も、裾野聖も……俺の実力を超えかねない人物だから消せ。

お前なら分かっているだろうが、裾野聖を消す前に菅野海未だ。

あいつは裾野聖のメンタルを握っている。



 もちろん、総長の言う事は絶対。

例えそれが旦那であっても、親友の夫であっても、私じゃ敵わないような大物でも。


 私の親友である恋ちゃんとは、保健室で恋ちゃんが恋愛相談をしていた時に出会ったの。

何を言っても的確に答えてくれたり、人にはなかなか話しづらい相談も一生懸命のってくれて。

それまでは情報屋は全員冷たいものだと思っていたから、他の人にはない魅力を感じたの。


 だから絶対に守りたい親友なんだけど……


 ごめんね、恋ちゃん。

子羊狩りが終わったら私、貴女の夫の影に移動して……殺さなきゃいけない。

本当にごめんね。


 その後、私を殺しても構わないから。


・・・


 話が逸れたわね。

今、その親友の背後の影に移動したところなんだけど……気付く気配が無いのよね。

皆して最上階の扉を前に会議中ってとこ?


――違う!!


「私の背後はよした方が良いってこと、貴女が1番知ってるんじゃなかった?」

恋ちゃんは防御壁で私をサンドイッチのように挟むと、ゆっくりと振り向き殺気の籠った目で見上げた。

……そうだ、誰もがこの子の存在を忘れるのは――影の薄さだけじゃない!!


「そうだったわね。ただの本好きティーンにしか見えない、部外者になりすます影の薄さ……」

と、圧迫されている苦しさから時折言葉を詰まらせながら言うと、恋ちゃんはあっさり拘束を解いた。

「はいはいありがとう、だから影が薄いって得なんだよね~」

恋ちゃんはタブレットを操作しながら言うと、

「子羊狩りは、当たり前だけど私たちも対象……だよね?」

と、メガネを上げながら覚悟を決めた口調で言うので、私は苦笑いしながら胸の前で手を振った。



――私情を挟むと怒られるけど、恋ちゃんには死んで欲しくないの。

だから私の権限で出来る事、させてもらったから。



「へ?」

恋ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、ずり落ちたメガネを両手でクイと直した。

「制限時間までに最上階まで来た人には、後鳥羽の人たちが相手してくれるのよ。後鳥羽紅夜さん、透理さん、橋本執事長、新田執事長、滝本執事長、利佳子さん……だったかしら」

と、返り血だらけの隊服の裾を軽く指で弄りながら言うと、

「なるほど、総長としては私たちをそこで消そうという算段ですか。……片桐組総長室長の言動は、総長の言葉と同じですから」

と、蒼谷さんが意外にも物分かりの良いことを言うので、私はほっと胸を撫で下ろした。


――それなら、あんたたちをハメやすいのよ!!

恋ちゃんはハメるつもりないけど!


 私の本当の役割は、子羊狩り。だけど、恋ちゃんを傷つけたくないから無理矢理後鳥羽に動いてもらっただけ……。

だからせめて私じゃない人に消してもらいたかった。



 ズルいけど、精神攻撃でもしとくぐらいしか無くて。

仕方が無かったのよ。

何もしないとそれはそれで怒られるから。


 さて、私は総長室長。

総長の言葉を、しかと聞け!!



 私はまず蒼谷さんの正面に回り込むと、

「あことしさん、ゆーひょんさんは菅野さんと神崎さんに惨敗。ゆーひょんさんに至っては言葉を失っているわ」

と、耳元で気がかりになるような情報を囁き、

「総長は貴方に2人の処理命令を出す予定よ。何せ、総長が期待していた動きをしなかったのだから」

と、追加で嘘の情報を流した。まぁ真っ赤な嘘って訳でもないんだけどね。

ウチは実力主義だし、遅かれ早かれ出るだろうから。


「そうですか。ご丁寧にどうも」

蒼谷さんは一見涼しい顔をして聞き流しているように見えるが、目の奥が揺れている。

2人を殺す事でも想像しちゃっている?

……ちょっとどころじゃない程愉快だわ!

失礼、ブラック梓が出たわね。


 さて、次はメンタルの弱そうな佐藤永吉さんかな。

この人は元相棒の黒河月道さんの事さえ言えば、基本は向こうから自滅する。

「黒河月道さんが気になる?」

私はゆっくりと佐藤さんに近づいて囁くと、幼子のように無垢な目線を向けて頷いた。


「彼は満身創痍だけど生きているわ。ただ……この後、私が葬りに行くの。総長の指示で」

と、希望を打ち砕く気持ちを先行させて言うと、佐藤さんの大きな瞳がぐらりと揺れ、

「ふざけんな!!」

と、殴り掛かってきたので、彼の腕の影から背後へと伸びる影に移動した。

「貴方じゃ私に勝てないかな」

ウィンクをしながら言うと、私は影を移動し後鳥羽竜馬さんの目の前にぬっと出た。


 そのことに彼は何の反応も示さなかったけど、恋ちゃんが佐藤さんと蒼谷さんに事情を聞いている辺り、早めに事を済ませないと。

「残念だけど、貴方は実の兄を殺せない。だって、これから戦うであろう2人には恨みが無いから。……そうでしょう?」

私は恋ちゃんを横目で見ながら彼を見上げると、竜馬さんは傘をひと振りしてから無言で小さく頷いた。


「恨みは無い訳でもない。何と言うか、どこかで兄貴を信じているところがある」

と、驚く程冷静に言って退けると、背を向け傘を肩にトントンと当て、

「あと、指示を出してくれるあの人に命を預けたから」

と、首だけ振り返って言う姿は、心から恋ちゃんを信じてくれているように見えた。


 はぁ……これだけやれば良いわよね。

頑張ったけど逃がしたとか、代わりに精神攻撃をしておきましたとか……とにかく報告をあげておこう。

などと腕を組んで考えていると、恋ちゃんが私の元に静かな怒りを携えてやってきた。


「マスタングがぶっつけの精神攻撃をするってことは、総長の本当の指示は違ったんだね? まぁ背いてくれたのは嬉しいけど、そのストレスを別ルートチームにぶつけ過ぎないようにね」

とはいえ、至って穏やかな口調で言う辺り、親友を心配してくれてはいるようだ。

そのことについつい笑いが込み上げてしまった私であったが、微笑んでいる恋ちゃんを失望させる趣味は無い。

「ありがとう」

私は恋ちゃんに握手を求めると、力いっぱい骨の辺りをぐりぐりとしながら握ってきたので、

「ごめん」

と、45度できっかり頭を下げると、優しく離してくれた。


 ちなみにこのストレスは、菅野海未さんが居るであろう別ルートチームにぶつけることにしたが。

まぁ総長の指示だから……って、これ本当に都合が良いわね!



「最後に……」

私は1番片桐組において不利益な人物である龍勢淳を睨み、声のトーンを落とすと、

「貴女の義兄である如月龍也さんの夢枕に立ち、"貴方が柘榴である"と伝えた。……よく考えることね」

と、わざと最後まで言わずに影移動をして姿を消すと、密かに龍勢淳の影へと移動した。

夢に入り込めたのは、あくまでも偶然だけどね。


 そのときに感じた一縷の冷たさに思わず振り返ると、

「影に入るの止めてくれませんか?」

と、少々殺気を漂わせて牽制する龍勢淳の姿があった。

その表情は冷たいものの微笑んでおり、平和主義らしい胡散臭い笑みは一切見受けられなかった。


 だが電話を掛けようとスマフォを取り出したときにはもう、裏の顔とも取れる彼女の姿は無く――話し始めたときには出会う前の彼女の表情に戻っていたのだ。


「……実はさっき、颯雅と少し連絡を取ったんですけど、蒼谷さんに言っていた情報の一部は嘘みたいです。あことしさんとゆーひょんの殺害命令の件ですが」

と、龍勢淳は別ルートに居る誰かと連絡を取ったのか、颯雅の情報をスラスラと言い出したのだ。

「なるほど、やはりそうでしたか」

蒼谷さんは納得したように頷くと、恋ちゃんを見遣り僅かに頬を緩ませた。


「貴女の兄妹間の意思疎通力には感動致しました。おかげさまで少々ですが、それぞれに希望が持てましたよ」

加えて安心したように話す蒼谷さんに、龍勢淳も笑顔で大きく頷き、

「私の自慢の兄ですから」

と、胸を張って言うと、全員に落ち着いたかどうか聞きまわったり励ましたりしていた。


 だから龍勢淳はもっと早く消しておくべきだったんだけど、総長が"BLACK"で消すと聞かなくて。

そうは言っても、室長の立場だから仕方ないけど。


「あと、えいきっちゃんの情報。黒河さんが居る場所はそう簡単に行ける場所とちゃうから、安心してええよ」

と、佐藤さんに対しても安心させるような情報を言っていたが、一体どこへやったのやら。



 さてはて、そろそろ私は別ルートチームに攻撃を吹っ掛けに行かないと。

そう思い、ふとカーテンに目を遣るとかなり日が傾いていた。

片桐組の夜明けまであと少し。

影人はせっせと総長の為に動かないと。


 そう決意し、龍勢淳の影を出ると恋ちゃんが目の前に防御壁を張り、

「さっきタロットカード引いてみたんだけど、相方と殺し方を考えた方が良いってさ」

と、私の旦那のようにへらへら笑いながら言うと、

「またどこかで」

と、手を軽く挙げてさらっと言うので、

「こちらこそ」

と、背を向けたまま言葉を捨てた。


 貴女はきっと生きて帰って来られないのに。

この時は心からそう信じて疑わなかった。


 最後に笑うのは、片桐組全員なんだと。

ここまでの読了ありがとうございます。

作者の趙雲です。


敵視点はどこかで入れたかったので満足なのですが、

次回以降は味方陣営視点の予定です。

またどこかで入れたいですね。


次回投稿日は、1月19日(土)または1月20日(日)でございます。

それでは良い1週間を!!


作者 趙雲

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