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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
42/130

「4話-道化-(後編)」

淳とゆーひょんの意外な出会いと、今に至るまでのお話。

ゆーひょんの過去は、悲惨というよりもどこか寂しい色をしています。


※約8,100字です。

数年前……淳が高校2年生の頃。

鳩村公園 夕方

ゆーひょん(木田優飛)



 私と淳がどこで出会ったか気になっちゃうでしょ?

片桐組と藍竜組は協力関係の任務でない限り、外で友好的に会えない。

ましてや武器不携帯で会うなんて、片桐組では処刑に値する。

だから聖とは勿論だけど、無所属の淳とも本当なら会ってはいけない。



  優飛、夕日がきれいだよ!

  夕日がきれいな日は、カレーに目玉焼きを乗っける決まりにした!!


 私よりも笑顔の素敵な兄の事を……どうして今思い出すのかしら。

 両親の居ない時は決まって創作料理をしてくれる兄。優しくて誰よりも面倒見が良くって、だけど頭は悪かった兄。

 それを支えてくれていたもう1人の兄。思慮深くて聡明なのに短気で、すぐに手が出てしまうの。

 

 私はその2人の兄が仲良く話している姿を見たことなんて無かったから、私が繋ぎ役になっていたのが嬉しかったの。

 本当は……皆で仲良く暮らしたかったのに。



「……なんてね」

公園で物騒な武器を立てかけてベンチに座る私が思う事なんかじゃないわね。

「いくらなんでも、ね……」

今日私がここに居るのは、仕事で思い切り失敗しちゃったから。

とはいっても刑罰が出る程じゃないんだけど、相棒のあことしに迷惑を掛けちゃったのよ。

はぁ……カバーさせすぎちゃったの。


 腕をだらんと垂らして溜息をつく私の前に影が1つ。

その影は一度私の足元の辺りに屈むと、腕に付けていた筈のピンクのシュシュを差し出した。

ミスした時に喰らった攻撃で切れ目が入ったのか、影の手の上でへにゃりと形を崩してしまった。

「すみません、これあなたのシュシュですか?」

だけど透き通った声の女性は、そのまま差し出してくれている。

普通なら、「ごめんなさい、直しますね」とか言って、慌ててしまうと思うんだけど。

あどけない顔をしているこの子は、私に判断を任せてくれている。


「ええ、ありがとう」

と、私が受け取りながら言うと、彼女はへにゃりと表情を綻ばせた。

へぇ、そうやって笑うのね。

普段着だから一般人かしら……でもこんな中途半端な時間に女の子が1人で来るものかしら。

まぁいいけどね。

それにしても、関西なのか関東なのかちょっと分かりにくいイントネーションしているわね。

菅野くんみたいにコテコテなら分かりやすいんだけど。

私の淳のイメージって、そんな感じだったかしらね。



 それから数日経った頃、また失敗しちゃって公園で一休みしようとしていたんだけど、そしたらベンチに先客が居たの。

それが淳って分かるまで時間が掛かる程、彼女は身体共に傷を負っていた。

「……」

こんなゴツいハンマー持った私が近づいたら警戒しそうだけど、仕方ないわね。

「ねぇ、あなたあのときの――」

と、夕日に反射した武器を背後に隠しながら言うと、彼女は怯えた顔で武器を召喚させたものの、左脚を怪我しているのか立てなかった。

そのままベンチではなく正面に倒れてしまいそうになっていたので、そっと肩を抱いてあげると淳は私の顔をまじまじと見てハッと我に返った。


「あ……」

それから私と気づいたのか、傷を隠そうとしたので袖を撒くって見せてもらうと、刀傷と打撲傷が見受けられた。

「場所を移動しましょう」

聖と違って応急処置も何も出来ないけど、傷の種類くらいは習うから分かる。

それに公園だと子どもの目もあるかもしれないし、鳩村公園だと殺し屋も普通に入ったりするからね。



 それで移動した場所は河川敷。

適当だったけど、川を見ていると何も思い入れが無いから家族の事を気にかけなくて済みそうなんだもの。

川辺に並んで座ってみると、本当にか弱くてちょっと突いたら壊れちゃいそうな程細かった。

「話したくなったらでいいわ」

私は沈んでいく夕日を見つめながら、今日なら目玉焼き乗っけカレーだったかもしれないと息をつきながら思った。

このときはとても作れる状態じゃなかったんだけど。

また食べたいわね。



「学校で……イジメに……」

私が立ち上がって夕日に向かって石を投げているときに、ボソボソと蚊の鳴くような声で話し始めた彼女。

それが5分も経たなかった頃だったのが、私の1番の驚きかしらね。

「イジメ集団の……イジメが……エスカレートしてて、相談できる人も……居なくって……」

石を投げた格好のまま首だけで振り返る私に、泣きそうになりながらも言葉を零す彼女。

お互いに名前も知らなかったから、余程追い詰められていたのだろうと私もこのとき、聞いてあげることにしたの。

「それが、彼氏と付き合い始めたことがきっかけで……私だけならいいけど、彼氏の相棒の悪口まで言って……」

ここまで聞いたら、流石に彼氏が普通じゃないことくらい分かった。

だけど彼女が話したくないならいいだろうと、また隣に座りながら思っていたときのこと。



 彼女は強い意志の籠った瞳を私に向けて、

「相棒は……黒髪短髪でバイセクシャル、剣技に優れていて料理も上手い、闇を抱えて歩いているような孤独な人で……」

と、あなたなら分かるでしょうと言わんばかりの目線をくれたから、確信が持てた。

「なるほど。あんたが菅野くんの彼女さんね」

と、膝を抱えて優しく言うと、彼女は小さく頷いた。


 片桐組でも噂になっていたのよ。

菅野くんは藍竜組の稼ぎ頭だから、女性関係くらいすぐに話題にあがる。

聖と付き合うに賭けていた人が多かったから尚更ね。

ちなみにあことしは、淳と付き合うに賭けていたのよ。流石よね。


「私、片桐組のゆーひょんって言うんだけど、ウチでもあんたの事噂になっててね。イジメはかなり幅広く、かつ狡猾にやられているって聞いたわよ。そういうイジメはね……」

と、私が殺し屋組織に所属していることを明かしても驚かない辺り、かなり胆の据わった子だと思ったわ。

むしろ、じっと顔を見て話を聞いてくれていたんだもの。


「裾野聖を頼るべきよ。あの子、無感情なところがあって近寄りがたいと思うけど、頭良いし人のコントロールも上手いから」

と、見つめ返しながら言うと、一瞬だけど表情が曇った。

「大丈夫よ。聖が難しいなら、鳩村涼輔に根回ししてもらえばいいんだから。あの人の亡霊は敵に同じ体験させちゃうんだから強いわ」

私がすぐに優しそうな鳩村の名前を挙げると、ほんの少しだけ表情が和らいだ。


「まぁどっちも年上でやりにくいって言うんなら、私で良いわ……って私、今名前挙げた2人と同い年なのよね」

と、頬を掻きながら言うと、淳は少しだけ微笑んでくれた。

「それか~……って、その悩み……話を聞いたりアドバイスをするくらいなら、私が引き受けちゃえばいいわね」

そう言いながら、彼女が握りしめていたスマフォをそっと拝借すると、

「なんかあったら、じゃなくてなんかある前に連絡しなさいね?」

と、自分の連絡先をコードネームと一緒に入れて渡すと、淳に華やかな笑顔が戻った。



 兄さんみたいに笑うんじゃないわよ。

私のせいで2人の人生を狂わせちゃったのに、笑いかけてくれるなんて……優しすぎるのよ。

大好きだけど。



 あと絶対、この子の笑顔を枯らさせる連中……絶対絶対許さないんだからね。

私、嘘言うと言葉失っちゃうからこれも本当よ。



 結局あの後、連絡することを約束して別れたんだけど、そこでやっと気付いたことがあるの。

「あの子、私を見た目で笑ったり、話し方でバカにしたりなかった」

何を今更って思うかもしれないけど、これって私の同期たち以来なの。

聖は自分もバイだからって気にしてなかったし、茂は元から差別なんかしない人で、順夜はそんなことより自分の見た目が大事だし、あことしは賭け事と一緒で自分もそこは平等だと真剣な顔で言ったの。

要するに、皆私をそういう人間なんだと受け入れてくれていたってこと。

これって、とっても心が軽くなるし存在の承認にもなるの。




 そうだった。

そろそろ過去について話さないとね。

「元はといえば……」

そう空に向かって呟きながら、私は自分がここまでに至った過去を思い返していた。



 産まれたとき、私には2人の兄が居た。

3つ上の兄と、2つ上の兄。

その2人はいつも玩具のことで喧嘩ばっかしていたけど、私がよちよち歩きをしたりハイハイしたりするだけで喧嘩を止めた。

それは私が怪我をするからっていうのもあると思うけど、子どもなりに何か感じるものがあったんでしょうね。


 それから5年経ったある日。

8歳と7歳になった兄たちの喧嘩は、ゲームの取り合いやテレビのチャンネルの取り合いに発展していて、私は置いてけぼりだった。

元から興味が無くて、いつも外で走り回っていたり運動している方が楽しかったから。

それで帰りが遅くなった日だった。


 帰って来て、古びた障子を開けたときに見た景色は……血にまみれていた。

縁側に転がる首の見えない長男、それを見て泣きわめく次男。

「え……」

私は何が何だか理解できなくて立ちつくしていた。


 そのときに帰ってきたのは、政治家をしていて毎日忙しくて帰って来られない両親。

着替えを取りに来たぞ、と大声で叫びながら大股でリビングに入って来た2人は、まず私の頬を叩いた。

「ここまでになる前に、どうしてお前が止めなかったんだ!! 役立たずが!!」

ビンタの重みで倒れ込んだ私の腹を踏みつけ、長男の元へ駆け寄る父親。

一緒になって泣きながら次男の事を抱きしめる母親。


 どうしてこの世界に私だけ居ないのかしら。

私って、ただの都合の良い繋ぎ役だったの?



 どうせ……パイプだったんなら、いっそのこと壊れてしまえばいい。

私が居なけりゃこの家族は壊れちゃうんだから。

どうせ殺し屋に選ばれるのは三男だから私だし、それで家を出てってしまえばこっちのもの。

政治家続けられなくなっちゃえばいい。


 皮肉めいた私が出来上がって、能力化したのもこの歳。

まだ5歳のときだった。



 病院に搬送された長男は、何とか意識を取り戻した。

だけど病室に咲き誇る胡蝶蘭と全く同じ表情をしている彼を見て、父親は憤慨し医者と私に当たった。

その様子を見た他の政治家の先生たちは、同情して父親を宥めていた。

その中でも、先生たちは私にこう言ってきたわ。


「お前さえちゃんとしていれば」

「この子は将来政治家になって、首相になるのに!!」

ってね。


 次男は流石にこの状況がおかしいと気づいたのか、こっそり私を呼び出しては慰めてくれた。

「俺が何とかする」

いっつも口癖のように弱々しく言う次男に、私は甘えてしまっていたの。

私にだけは笑顔を崩さなかったから。



 それから2年後。

次男が急に倒れて搬送されたんだけど、そこで鬱病による自殺未遂であると診断され、怒りの矛先はまた私に向いた。

でも殴っても殴っても立ち上がる私を見た父親は、ついにこんな事を言ってきたの。



「10歳になればお前を片桐組に送り出せるが、その前にこの2人の病気を治せ。3年間、家に帰らないから」

所謂無茶振り。

だけど、3年も両親の顔を見ずに済むのはむしろありがたかった。

私なりに色々やってみようと。


「お兄ちゃんの目玉焼き乗っけカレー食べたい」

胡蝶蘭と同じ表情をする兄に感情をぶつけても、何も答えてくれない。

かといって、隣で布団を被る次男に声を掛けても返事をしてくれない。


「お腹空いたよ……」

そう呟いても2人とも返事をしない。


「今日、先生に褒められた!」

逆に明るい事を言っても何も反応を示さない。



 残り1年になって、ときどき父親が病室に来るようになった。

私の存在すら認めたくない父親は、私を睨んできたけど医者は毎日勉強しているんですよ、と声を掛けていた。

だけど成果が出ていないからか、それとも2人に期待していたからか、寂しそうな顔をして5分くらいでいつも帰って行った。


 そのときに目にしたテレビ画面には、"笑う事で病原体を倒せる!?"と、大きな文字で書かれていた。

内容は難しく、当時9歳の私には理解できなかったけど、これに賭けるしかなかった。

それとその番組に出ていた男性が、女性の格好をして女性みたいな話し方をしていて笑いを取っているのも見たから……。


「この格好で話しかけたら、喜んでくれるかな」

高級そうな普段着を全て質に入れて女性ものの服を買い、短パンを履いて女の子らしいフリルの付いた靴下を履き、靴もピンク色にした。

それで街を歩いていると、誰もが指差して笑ってきた。

でもそれでいいの。

私の真の目的は、あなたたちの笑い者になることじゃないから。



 兄たちの笑顔を見たくて、自ら笑い者になることを選んだから。



 これでイジメも受けたわよ。

でもね、強い思いがあればそんな言葉も聞こえてこなくなるの。

愛していることをひたむきに伝えれば、邪魔な声はいつの間にか消えて普通に話せるようになるものよ。

あとは自分から話しかけたことで、警戒を取ろうとしていたこともあるかもしれないわね。

何でも受け身じゃダメ。自分からいかないと、夢も邪魔だと思っていたものも変わっていかない。

 ま、たまには休んだっていいけどね。



 そうして病室に初めて足を踏み入れたとき、胡蝶蘭が首を僅かに動かしたの。

全身ピンク、黄色、白、紫といった女性らしい色合いで包んだ私が居るんだもの。

だけどすぐに戻して、また無表情になってしまう。

それは次男も一緒で、目の光が少しだけ強まって……消えてしまう。


 それなら声と話し方も"それ"だったら?

「だ……だい、すきよ! 2人とも!」

同級生と違って2人は笑わない。

どうしても話し方も声も、ぎこちないものになってしまう。


「……」「……」

当たり前だけど、なりきれていない私を見て2人はきっと「無理しているんだろうな」と、思ってしまっていた。

そうよね。

2人は好きでこんな状況になったんじゃない。

こんなふざけたもので心が休まる訳が無い。


 ましてや笑うなんて。

元から無理だったのよ。

そう思いながら、肩を落として病室を出ようとすると目の前に母親が居た。

「ゆーひょんちゃん、今までごめんね。お父さんには内緒だけど、お母さんたちね……1番政治家に向いているあなたを厳しく育てていたのよ」

そして告げられた厳しい教育の理由に、私は生まれて初めて憤怒という感情を覚えた。


「どうしてそれを兄さんたちの前で言うのよ!! 必死で病気と闘っているのに……!」

私は怒りに任せて女性の口調で怒った。

すると母親は寂しそうに私の頬を撫でた。

「そんな言葉遣い、やめなさい? あなたは政治家になって、お父さんの跡を継ぐの。そしたら今、大輝(だいき)が婚約している人を――」

もう限界だった。


 気に入っている風に扱っていた兄さんたちの婚約者ですら、道具扱いするなんて信じられなかった。

だから政治家って、平気な顔して多額の国債を抱えこめるのよ。

国民何人分の一生涯の給料で賄えますとかなんとか言って!!

それなら、あんたたちも数に入れなさいよ……!



「ふざけないで! 大輝兄さんの目玉焼き乗っけカレーは、将来のお嫁さんに食べさせなきゃいけないんだから! 私がそれまで守らなきゃいけないんだから!」

今までパイプとして一生を終えるのが嫌で、家族を壊そうとばかり考えていた私の意識に変化が起きたのは、ちょうどこのとき。


 それとね、このときはもっともっと感慨深いことが起こったの。

「えへへ……優飛、お、も、し、ろ、い」

胡蝶蘭が水の枯れた声で話したの。

唇もカサカサだったから、話すだけで唇が切れちゃったけど、少しずつ少しずつ口角を上げて頬に皺を刻んでいった。

「悩んでいるのがバカバカしくなった。大輝、ごめん」

次男の海尚(うみひさ)兄さんも、布団から出てきて私と大輝兄さんに歩み寄りながら言ったの。

こっちは最低限の食事は食べているから、多少足がもつれる程度だったけどね。


 海尚兄さんの言葉に、大輝兄さんは微笑むのが精いっぱいだったけど、きっと許してくれるわよ。

パイプ役なんかじゃない私のこの姿を見て、また2人とも笑えたんだから。

もしかしたら、待っていたのかもしれないけどね。

私が……家族のパイプから卒業するのを。

母親は分からないけど、あの寂しそうな顔をしていた父親も、心のどこかでは期待していたんだと思うわ。

そうじゃなければ、1年未満とはいえ私を政治家にしなかったし、嘘を付いて3時間も言葉を発せなくなった私に「笑い者になるな! 帰れ!」なんて注意をしなかったと思う。

それでも「帰れ!」は未だにトラウマワードだけど。



 今では父親とは和解できているし、兄さんたちは"笑い"で人を助けるミッションを持った医者になっているけど、母親の事はよく知らない。

突然政治家を引退したと思ったら、行方をくらませちゃうんだから。

きっと不倫でもしたんじゃないかしら。



 私の昔話を挟んでごめんなさいね。

こうなった経緯を話さなきゃいけなかったから。


あら? ちょうど片桐組前なのに、どうしてかしらね。

驚くほど心が軽い。

笑顔の兄さんたちを思い出したからかしら。

それとも、淳のことを思い出したからかしら?

ま、どっちでもいいわね。


 そう思い、門を開けるように声を掛けようとしたのだが、不意に殺気を感じて振り返った。

するとそこには藍竜組のくノ一たちが居たのだ。

「あら嫌だ。帰宅途中の女性を襲う事件が多いとは聞いていたけど、まさか私とはね」

視認できるだけで10人ね。私は皮肉を言いつつ、軽装備のくノ一たちの動きを目で制した。

「女性とカウントするかはさておき――」

と、くノ一が失礼なことを言い出すので、

「カウントしないなら、聖に言いつけるわよ? あの子、私を女性扱いしてくれるんだから」

と、釘を刺すと、くノ一たちは一斉に口を噤んだ。


「だんまりするなら襲ってこないでちょうだい。報告書が鬼のように溜まっているの」

と、重量級の集まる象階のエースであることを強調すると、くノ一たちはエース打倒の報奨金に目がくらんだのか、

「その首、頂いた!!」

と、叫びながら襲い掛かってきたので、

「あんたも好きねぇ……自分の血を見るの」

と、頭上から武器を振り下ろしながら言うと、避けきれなかったくノ一が下敷きとなり内臓の破裂する音が耳に木霊した。

 そう……この感覚よね。

仲間が殺されたことに驚く表情も、見飽きてもおかしくないのに見飽きない。


「いいわよ、プチプチ潰してあげる」

と、武器を構え直しながら言うと、くノ一たちは戦意を喪失したのか、飛び跳ねながら帰っていった。

あの子たちの背中の紋章、藍竜組のものね。

ということは、彼女たちが淳のイジメっ子。それか、イジメっ子たちの依頼か。

 どちらにせよ、なかなか大きな所を相手にしているのね。

この後も何回か相談してくれているけど、もしかしてこの子たちの事も言っていたのかもしれないわね。



 さてと! これからも、役に立たせなさいよね!




2018年3月27日 昼過ぎ(事件5日前)

4人の家前

ゆーひょん(木田優飛(きだ ゆうひ)



 ずっと話せなかった事だったから、ようやく荷物を下ろせた。

そんな気持ちだったから、何だか複雑だったのよね。

「笑わないで聞いていられるなんて、あんたやっぱ普通じゃないわ」

と、嫌味たっぷりに聖を睨むと、聖は目を伏せ鼻で笑った。

「何よ。急に笑ったりして」

彼は真意の読めない行動を常にしているから、何で今笑ったのかすら理解できない。


 すると聖は私に微笑みかけて、

「産まれてこの方、普通だった事がないからな」

と、声を震わせながら言う姿は、どこか呆れているような雰囲気があったが、よくよく考えてみればその通りだった。

所謂レールの上に乗った人生、という要素はゼロだ。

「それもそうだったわね」

と、皮肉めいた事を言ってみれば、聖は「その通り」と、艶めいたウィンクをしてみせるのだった。


 その様子を見ていた龍也さんは、私たちに背中を見せると、

「俺はゆーひょんの勇気を褒めたいけどな」

と、片手をあげながら言い、そのまま振り返らずに歩いて行った。



 本当に良かったわ、それだけで。

普通じゃない聖なら受け入れられる事くらい分かりきっていたけど、龍也さんは私の事なんて受け入れられないと思っていたのよね。

「……」

今まで変な心配していたからかしらね。

こんなに溜息が止まらないなんて。


「温泉に入ってから帰ろう」

だから聖のこの一言で、心が躍っちゃったのよ。

「そうしましょう!!」

なんて家の中まで響くような大声で返事して。

作者です。

さくさく書く内容の筈が、ゆーひょんの武器よろしく重々しくなりまして候。

地味に日付を跨ぎましたが、今日も一日よろしくお願い致します。


では皆様、私のように体調を崩さないように気をつけてくださいませ。

それでは良い一週間を!!


趙雲

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