「33話-赤と紫の水彩画パズル-」
知らん裾野から知っている裾野になったのか。
菅野さんがずっと憧れ慕い続けてきた彼の姿はそこにあったが……?
※約7,400字です。
※若干BL注意報。
2018年4月28日 10時頃
神崎医院
菅野
今日は淳と一緒に、俺の知ってる裾野に会いに行く。
花束も準備したし、花言葉とかよう分からんかってんから淳に選んでもらってん。
それにしても、99本の向日葵って豪華やなぁ。
全部過去に……戻ってほしい姿になったんなら、見舞客を押しのけても怒りたい。
それ程俺って、裾野を相棒として大好きやったんやなって気づいたんやし!
毎日しつこいくらいに話しかけていた事も、感謝して欲しいくらいやからな!
「裾野にやっと会える」
胸がいっぱいいっぱいでつい言葉を零した俺に、淳は微笑みながら頷いてくれてん。
「せやな……」
笑顔で俺を見上げて嬉しそうに言ってるんやけど、複雑に何色も折り重なった色のオーラが見えて首を傾げてん。
どうしてなんやろう? 俺にとってはすっごく嬉しすぎて飛び跳ねたいくらいなのになぁ。
「うん」
せやから俺はこのとき、考え事しながら適当に返事してん。
だけど。
淳は見えてたんかな。
この先の俺を。
廊下に漏れる笑い声、感嘆の声、嬉しそうに話す声、明るいオーラ。
よっし、ほんまなんやな。
ちょっと中の様子でも見てから走って抱き着こうかな。
ベッドの周りを囲む見舞客たちは実家の家族、弓削子さんに空くん、次男坊の――海未くん。
名前の由来を聞こうとしたら、恥ずかしそうに首を横に振って煙草に火を付けた裾野。
せやからすっごく気になる!! 顔に出すなんて中々無いし!
しかも裾野の表情がいつも通りほぼ無表情に戻っているやん!!
――おかえりって言わんと。
俺の知ってる裾野やから。
聞きたい事、沢山あるんやで。
「龍くんが戻ってきてくれた感じで嬉しいな」
淳は肩をポンポンと叩いて微笑んでくれてん。
せやけど複雑な色のオーラは消えてへん。
「うん! そろそろええかな? ええかな?」
俺の目がめっちゃ輝いていたから、言いにくかったんかな。
ま、とりあえずそろそろクラウチングスタートの体勢に入ろかな。
「そうだぁ」
裾野の名家友達の後醍醐純司が、手をポンと叩いて見舞客たちを静まらせるとベッドサイドに行って、
「相棒の菅野とはもう会ったのー?」
って、若干嫉妬のオーラを出しながら悔しそうな笑顔で言ってん。
その言葉に準備していた俺はガクッてなってんけど、話題に上がる思ってへんかったから得意げにフフンって笑ってやってん。
「……」
でもなかなか話し始めへんから、少し顔を上げてんけど裾野……首捻ってる?
――なんで?
1番に思い出してほしいんやけど!!
全部思い出したんとちゃうの?
「……?」
嫌や。
耳が拒絶する。
口パクでスロー再生されているみたいに口がゆっくり、何度も何度も動くんや。
これ、壊れてるんかな?
白黒やし、きっと壊れてる。
そんな訳ないやんか……!
「誰だ?」
いつもの無表情で言う裾野なんて、信じたくない!!
見舞客たちもきょろきょろしていて、驚いているみたいやってん……俺の記憶ではな?
「どうして……」
俺は言葉では言えへんくらいのショックで、胸に抱えていた花束を落としてん。
「?」
その音に裾野がこっち見てんけど、死角に居ったおかげか見えずに済んでてん。
それから花束に落ちていく悔し涙なんか、寂しさからの涙なんかよう分からん液体。
立ちつくしたまま、腕をだらんと垂らして何も出来へん俺に、淳は肩を叩こうとしてくれてんけど、首を横に振ってん。
今はあかん。
「え? 菅野だよ? 殺し屋だった時の相棒だって!」
純司は相当慌てているんか、俺の事を忘れた事が嬉しかったんか、ベッドを揺らして何度も声を上擦らせて言ってん。
「……? 俺が殺し屋……? 弓削子からは経営コンサルタントと聞いていたが」
裾野は冗談では言ってへん。でも事実って受け止めてくれているかな。
ほんまに困った顔してはるし、声色も純司を疑っている感じがする……。
「そうよ? この人は殺し屋なんかじゃないわよ。失礼しちゃう」
弓削子さんは純司を押しのけて腕を組んで口を膨らませて言っててん。
せやけど周りの人たちは、殺し屋やった裾野を知っているから、首を傾げたり周りの人同士で話し込んでてん。
「じゃあ今、龍にナイフを突き立てたら防御出来ないのかな?」
2つ上のお兄さんの透理さんは、"嫉妬"の大罪を背負う人やったかな?
ミルクティー色の髪でうさぎみたいに可愛らしい眼をしているんやけど、裾野の事めっちゃ嫌いな人。
「……? すまないが、頭が混乱しているから全員病室から出て行ってもらえるか?」
裾野は見舞いに来てくれた事への感謝も言いながら、全員に目配せをしててん。
見舞客たちが全員出て行ったところでハッと我に返ってんけど、花束はいつの間にか無くなっていてん。
「素敵な花束が台無しやなぁ……」
淳は涙痕の強い俺の腕を握って言ってんけど、声震えてんかな?
そう言えば見舞客にも気付かれへんかったし、影になってくれたんかな。
「……ごめん」
俺は袖で涙を拭ってから、頭を下げて謝ってん。
「気にせんとって。誰だってそうなるよ」
淳は花束を整えてながらいつもより優しい声色で言ってん。
「……」
せやけど俺は1人になった裾野を見て、そのオーラに思わず目を見開いてん。
"何か大事な人を忘れている気がする"
水色を薄くしたような、淡い灰色がそのうえに重なっているような、よう分からへん色のオーラ。
寂しい色、後悔の色……ノート見て何度も頭を抱えて唸っている裾野。
「……」
俺が行かんと。
そう思いはするんやけど、抱きしめて欲しい、頭撫でて欲しいから妻である淳の前では出来へん。
俺はこのまま裾野に忘れられた方がええんかな。
今まで依存しすぎたんかな。
自立しろ思ってんかな。
もう……一緒に居ったらあかんのかな。
じゃあせめて、感謝だけさせてほしい。
何にも分からへん、お前誰やって顔したってええから、一言だけ。
「……!!」
そんな事考えていたら、裾野は突然側に置いてあった荷物を持って靴を履き替えて走って――
――脇目も振らずに風と残り香だけを残して走って行ってん。
「待って……!!」
俺は殺し屋界で1番足の速い裾野の後を必死で追ってん。
その途中で颯雅さんと龍也さんも見かけたから、一緒に追うように頼んでん。
でも……いつの間にか見失ってて、病院の外に出てしばらくしたところから引き返してん。
「なんでなん……」
俺は肩を落としてはおったんやけど、早う知りたい気持ちの方が上やったから絶望とか全く無かってん。
「もしかしたら」
そしたら颯雅さんは何か思い当たる事でもあったんか、一旦裾野の病室に戻ろうと提案してくれてん。
「……」
こんな我儘にも付き合うてくれる颯雅さんと龍也さんって、ほんま優しいやんな。
「ありがとう」
せやから俺も自然と2人に頭を下げられたんやと思う。
今回の事でよう分かった事があってん。
それはまず、敵の数も味方も数も思った以上に居るって事。
月道は絶対敵やと思ってたのに味方やし、純司や弓削子さんは思った以上に敵やったから。
それと颯雅さんと龍也さんはやっぱええ人って事。
裾野の病室に行くと、やっぱりええ香りが漂っててん。
俺がずっと好きやった香り、ずっと近くに居るって安心感がある香り。
途中で藍竜組を出て淳と住んでいる家に移ったんは、裾野の残り香が消えてしまったから……。
「懐かしい……」
大変な仕事の後は充電言うて抱きしめてきたり、俺がええ仕事すると撫でてくれた裾野の香り。
せやけど今は、これから先ももしかしたら言われる事は無いかもしれへん。
だから今は――
「諦めるのはまだ早ぇよ」
颯雅さんが頭をコツンと叩いて言ってくれた表情は、自信に満ち溢れた満面の笑みやってん。
しかもサイドテーブルを指差しているって事は、何か残していったんかな?
一歩ずつベッドに近づいていくと、裾野の香りが強くなるんと一緒に見えてくるものがあってん。
俺があげた万年筆と割れたマカライトのブレスレット、俺のサイン入りの結婚式の時に一緒に撮った写真、そして過去の事が書かれたノート。
「よく捨てられんかったな……弓削子さんに」
って、1つ1つ手に取って見ると、ほんの少しなんやけど涙痕が遺っててん。
裾野……泣いていたん?
「乖離性遁走。家庭や職場、病室から突然いなくなって、どこかへ行っちまう現象だ。竜斗、落ち着いて聞いてくれ。俺と親父の見立てなら」
颯雅さんはそこまで言うと、サイドテーブルに置かれたノートの背表紙をめくって白紙のページにペンを走らせてん。
「龍は系統的健忘。ある特定の領域――「家族」や「恋人」、「親友」についての情報を思い出せなくなってしまう症状の可能性が高い」
それから言われた言葉に、俺は力なく頷く事しか出来へんかってん。
だってそんなん、残酷過ぎひん?
「それで過去の事が書かれたノートを見直して、頭が混乱したってとこだろうな。……読むか?」
颯雅さんは遠慮がちに訊くと、背表紙を閉じて表紙に戻してくれてん。『後鳥羽龍のテープ』って何や?
「うん……せやけど裾野を探さんと!!」
って、俺が周りを見渡して言うと、既に龍也さんの姿は無かってん。
「大分前に龍也が行ってくれてる」
颯雅さんはウィンクをして言うと、いつでも連絡を取れる状態にしてるんか時々話し声が聞こえてん。
「後鳥羽龍のテープ……」
俺は表紙に書かれた達筆の字をなぞりながら読むと、ペラペラ飛ばしながら読んでん。
まぁ適当な場所から読もうかな、そういう気持ちでめくっていたんやけど、突然書きなぐったような文字が現れたページには不思議な事が書かれててん。
『何で俺は自ら断ち切ったんだ!?』
『毎日来てくれた彼の事を、どうして思い出せないんだ!?』
『奈落の底に落ちる途中で何故、俺は薬を飲んだ!?』
『彼の事は分からない、分からないのに好きだった? 恋情? 親子? 日が暮れる度に彼が立ち去るのが恋しい、引き止めたくなる』
『初めて会った気がしない。俺はきっと……彼に何度でも恋をする』
『もしかして俺は……彼に助けられた?』
バラバラな事言うてるんやけど、でも俺の事を思い出そうとしてくれているのが伝わって嬉しかってん。
てことは、俺に会いに行ったんとちゃう?
菅野はって純司が訊いていたやんか? あれ? じゃあ意外と遠く行ってないんとちゃう?
「もしかしてなんやけど、俺の病室かもしれへん」
顎に手当てて言う俺に、颯雅さんは安心したみたいな顔をして頷いてくれてん。
せやけど走り出しそうな俺を腕を引き止めると、
「殺し屋だった裾野が好きなんだろ? なら、ちょっとやって欲しい事があるんだけど……」
って、耳元で言われた事に俺は大きく頷いて親指をビシッと立ててウィンクをしてん。
――そないな事なら、容易いわ。
俺の病室に戻ると、裾野はサイドテーブルに置いてあったお揃いの写真を手に目を瞑って震えててん。
「……」
隙だらけやな。
そこまで殺し屋やった事否定したくなる気持ちは分かるけど……裾野は特に酷い経験してはるし。
でも俺の事を忘れてええって許可は出してへん!!
よっしそんなら作戦通り、お前を殺すで。
俺は殺気を友好のオーラで包んで隠すと、足音を立てへんように走って殴りかかってん。
――いつもの裾野なら、俺が走り出した瞬間に振り向く。
振り向かへん。
――わざとそうする時もあるから、殴る直前で避けるかな。
首にクリーンヒットする1秒前なのに避ける気配がない!!
よし、そんならこの不意打ち貰ったで!!
――パシッ……
せやけど項目掛けて放った拳は裾野の左手に包まれててん。
「……!」
もちろん、押し込んでも全然ビクともせえへん。
しかもそのまま受け流してベッドの上に放り投げられてん。
お得意の合気道やな!
「うっ……!」
俺は反撃態勢を取ろうとしたんやけど、すぐに馬乗りになった裾野に両腕をガッチリと抑え込まれてん。
「……君が菅野、か?」
裾野はいつの間にかベッドサイドテーブルに置かれた写真に目を遣って言うんやけど、いつ置いたんや?
「……」
俺はゆっくり頷いてんけど、裾野に最後に押し倒されたのって――
「すまなかった。君と俺が相棒――親友という存在なのは理解した。だがそこに恋愛感情はあったのだろうか? 今こうしていて俺は――」
裾野は少しだけ緊張しているんか、目を逸らしながらも頬を撫でてきてん。せやけど俺は一気に嫌悪感が身体を支配してん。
嫌だ。気持ち悪い。
俺の顔や体目当ての人はいくらでも居ったけど、裾野は性格から入ってくれたから体に触れたいっていうのも許せてん。
もちろん、口づけやベッドの上での事抜きのレベルやで?
でも目の前でほんの少しなんやけど熱っぽいオーラを出す裾野は違う。
「ごめん……」
でも話し方も表情も裾野のままやから、強く押し返せんくて唯々弱々しい声で頬を撫でる手を退かす事しか出来へんかってん。
「そうだよな。痛い思いをさせてしまって、すまなかった」
裾野は申し訳なさそうに言うとベッドから下りて、頭を深々と下げてん。
それ、俺が契約の時に変な声出してしまった時にも……やってたやんか。
「取り込み中に悪いな。龍……今のは殺し屋じゃなけりゃ出来ない事だ。何せ菅野も組織で幹部をやってる程強いからな」
颯雅さんは俯く俺の代わりに話題を変えてくれて、しかも段々頭を上げる裾野の目の前に立ってくれてん。
「え……」
裾野は俺の顔と颯雅さんの顔を交互に見比べて、心底疑問そうに呟いてん。
まぁよう言われるで、強そうに見えへんとか、殺し屋に見えへんとか!
「龍も同じ組織の幹部だから、菅野に殴り掛からせたんだ」
って、両肩に手置いて諭すように言う颯雅さんは、時折俺にも目線を遣ってくれてん。
心配オーラでな。
「彼と俺は一体……。だが俺は人を傷つけ過ぎているうえに、何か大事な人を忘れているのだが……」
裾野は病室に駆け付けた龍也さんたちに目線を向けながらポツリポツリ零すと、ゆっくり顔を上げた俺と目が合ってん。
何か疑っていて、信じたくないって否定していて、迷っているオーラ。
この感じやと、裾野にとって俺は無垢な子どもにしか見えへんのかもしれへんな。
巻き込んだ自分が悪いとか、また責任感じてんとちゃう? 知らん裾野やそんなん。
「もう目ぇ合ってんだろ。龍を助けてくれた茶髪の男性は……菅野だ」
颯雅さんにそう言われて、切れ長の真っ黒の瞳が少し揺れる。
せやけど目を閉じて顎を擦り始めてん。こりゃ結構疑ってんやんな?
てか……え? ほんまに!?
橋本さんやなかったん!? 素直に嬉しいけど、俺でええの?
「そう……顔に書いてるぜ」
確信させるように静かに呟いた颯雅さんの言葉に、裾野は大きく息を吐いてん。
「……」
それから目を開いて俺の目をじっと見つめてん。
あれ……? オーラが読めない?
「……おいで」
でも微笑みながら差し出された甘い蜜に、俺は自然とベッドから下りて裾野の胸に体を預けてん。
大人っぽくて艶があって、少しだけ甘い香り。
12年前から変わらへんいつもの香水の香り。俺の好きな香り……ずっと、ずっと一緒に――
「ありがとう」
裾野は俺の頭に顎を擦り寄せていつもより低い声で呟いたんやけど、
「ただ……」
って、いつもの無の声色で言いながら俺を離すと、
「今日で菅野とはお別れだ。ここまで傷ついた俺では、菅野を受け止めきれない」
って、身勝手な事言ってんけど、頭の撫で方はいつものそれで……だったら尚更嫌やってん。
「嫌や! 12年も殺し屋の事も人間的な事も色々教えてくれたのに、俺の事ちゃんと思い出せへんからってさよならなん!? そんなん……!!」
俺は歩き出そうとする裾野の腕を掴んで、歯食いしばって言ってんけど、裾野は目を瞑って首を横に振ってん。
「菅野にとって最低な事をしているのは分かっている。だが分かってほしい……このままでは俺は菅野を傷つけてしまいそうだ」
裾野は髪に唇を落とすと、髪をわしゃわしゃ撫でてくれてん。
……我慢のオーラ。
てことは傷付けるって、俺に手出してしまいそうって事やんな。
せやからさっきも……あの時の裾野やないのに、俺にまた恋してくれたんか……?
――俺はきっと……彼に何度でも恋をする。
それなら俺はきっと……彼を何度でも待ってやるわ!
「分かった」
俺は腕から手を離すと、裾野の背中を見送ってん。
でも……でも、どこかで野垂れ死んだら嫌や。
そう思ったらいつの間にか、裾野の背中に抱きついててん。
「?」
裾野は困惑した顔で首だけ振り返ってんけど、体許した訳とちゃうからな。
「い、今までありがとう。気付けて行くんやで」
俺は背中に顔を付けたまま、口ごもって言ってん。
顔熱い……耳も熱い。俺、緊張してたんやな。
「あぁ、いつか菅野を迎えに行く」
裾野は前見据えて言うと、最初の一歩だけはゆっくり踏み出してそこからは大股で歩いて行ってん。
抱き着いた俺が倒れへんように。
遠くなる背中、大きな背中、リーチ長くてうっざい脚、後ろからこっそり忍び寄る俺を蹴った足、子どもくらいはある剣を振り回していた屈強な腕、俺を片手で投げた腕。
いくら料理の邪魔しても怒らへんかったあの顔。社会の厳しさ教えてくれた時の怖い顔。契約した時の……俺が達した後に見せたちょっと興奮した顔。
他にも沢山書きたい事あるのに、ほんまにもう会えへんの?
せや! スマフォ!
「……あれ?」
スマフォ変えたら真っ先に言ってくれるのに、電話しても繋がらへんやんか。
「あぁ、片桐副総長に封印されて壊されてたんだってよ。あの日に」
颯雅さんが何度も電話を掛ける俺の腕を突いて言ってくれてんけど、その時にはもう裾野の姿は無かってん。
「……」
せめて、せめてのものやけど……感謝は出来た。
でも二度と殺し屋としての裾野には会えへんかもしれへんやんか。
迎えに行くっていつやねん。
今度は俺が居なくなるかもしれへんのに、どうして俺がずっとここに居るなんて思ってんのやアホ!
それとも、戻ったら……なんかな?
「私に出来る事あれば協力するで?」
頬を伝う涙掬って見上げてくれたのは淳で、ほんまに俺って泣き虫なんやなって改めて思ってん。
「うん……ちょっとタバコ買ってくる」
俺は病院内のコンビニに向かって走りながら言うと、淳は「えぇ!?」って叫びながら言ってん。
ごめん、今はあいつが側に居らんと泣いてしまうらしいわ。
それと……めっちゃ口寂しいんやわ。
毒言う相手も、何でも相談できる相手も、仕事を一緒にする相手もいっぺんに失ったから。
――な? 俺って失った事から考えるやろ? せやから逆の相手が居らんとダメ人間になってしまうんやわ!!
せやから絶対迎えに来い! 俺からは絶対逃げられへんで!!
そう思いながら、髪の毛が乱れるくらいの風が吹く中快晴の空を見上げてん。
お疲れ様!
菅野やで!
次で騅編最終話って聞いてんけど、後半俺やん。
ほんで文が賢い騅と比べてアホっぽ! ほんまごめんな。
ま、それも次で最後やから許してや~。
裾野が迎えに行く言うてどっか行った後戻ったかどうか、それは次のお楽しみ!
次回投稿日は、8月11日(土)か8月12日(日)やて!
山の日には短編も更新するんやって。どんな話は知らんけど。
ほんじゃ、1週間頑張ろな!
菅野




