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「23話-遺された者たちの復讐 後編-」

からすさんの秘密と、後鳥羽潤との戦闘。

最狂と言われている男との決着とは!?


※戦闘パート

※約5,700字です。

2018年4月1日 19時(事件当日)

片桐組 迷路途中

神崎颯雅



 僅かに橙色がかった脚部が針を左へ左へと進む度、獣の色のような黒みのある橙色に染まっていった。

俺の知っている"藤堂からす"とは違う獣の姿に(いささ)か目を見開いたが、1つ納得のいったことがあった。

からすさんは元相棒である光明寺優太さん以外の人間を、心から信用しなかった理由だ。

俺ら兄妹がいくら近づいても、からすさんは軽くあしらっていた。それは裾野に対しても同じで、上司である片桐兄弟にも……。

決して慕ったり、仲良くなろうとしたりするようなことはしなかった。

それは単に人間関係の構築が面倒な訳ではなく、自分が心から許せる人間を優太さん以外に作りたくなかったからだろう。

だからプライベートで会おうとしても……こちらが全て設定し、且つからすさんの気が向かなければ実現しなかった。

……彼の根底に――俺に事情は分からねぇけど、人間に深く傷つけられた憎しみや不信があるのかもしれない。


 潤はみるみる内に人間から動物へと変わっていくからすさんの姿を見て、無垢な子どものように目を輝かせた。

「僕の攻撃でも壊れないモノだ!!」

そして感嘆の声と共に両手にそれぞれ6本ずつの刃渡り30cm程の刃のついたクローを構えると、一気に間合いを詰めた。

「それはどうだろうね」

からすさんは自身の身長、目も垂れ目で面倒臭がりなまま、全身を毛で覆い、光が当たる度に黒光りする身長と同程度の羽を広げた。

「お~にさんこ~ちらっ、手~のな~る……地獄(ほう)へ!!」

潤が吊り上がった目をカッと見開き、語気を強めた瞬間振り下ろされたクローに、からすさんは右回転しながら羽で攻撃を防いだ。


 鈍い金属音が鳴ったことで、からすさんの羽が本物の烏とは違う事に気付いた潤は、更に口を大きく開けて目をキラキラとさせる。

「すごいね!! 壊れない……!! どうやったら壊れるの……!? 楽しいよ!!」

潤は嬉し涙を流し、腕を目一杯伸ばしてクローを地面に突き刺した。すると先程の純司の地震・地割れ魔法でもビクともしなかった地面にヒビが入った。

「この姿で壊れた事、ないなぁ……」

ヒビがどんどん波紋上に広がっていく中、からすさんは羽の先で顎付近を掻き、

「俺ね~、烏と人間のハーフだからね」

と、大きく羽を広げて飛び立つと、まるで天井全てがこの烏色の羽に覆われていると錯覚してしまう程周囲の視界が遮られた。

その中でからすさんの金色に輝く目と目が合った。

つまり、やることは1つという訳だ。

「行きましょう」

連携を確かめるように沙也華さんが呟いた。


 俺はその場で意識を集中し剣を中段に構え、潤が居る辺りに狙いを定め、

山紫(さんし)……水明(すいめい)

と、呟き、刀を真っ直ぐに振り下ろした。

この剣技は、簡単に言うと"見えない斬撃"だ。

どんな物をも斬ることができる。


 その後に続き、沙也華さんが薄い桃色に輝く斬撃を飛ばし、迷路の壁にも当たったのか爆発音と共に粉塵が舞い上がった。

からすさんはそれを聞くなり地上に降り立ち、

「ゲテモノばかり食ってっと、俺と同じ匂いしちゃうんだね~」

と、欠伸しながら言った。

獣化してても1番人間らしいな。


 それからすぐに建物解体時のような埃っぽい臭いが周囲に立ち込め、その先からぐらりと立ち上がる1人の華奢な男の子を視認できた。

「だ~るまさ~んがこ~ろんだ……」

潤の目は、少し遠いところから見ているにも関わらず、こちらが無意識に動きを止めてしまう程の覇気を纏っていた。


「あれだけの攻撃を受けて、まだ立ち上がれんのかよ。俺もそこそこ本気出したつもりだったんだけどな」

「そりゃあ俺と戦っているようなもんだからね~」

からすさんは周りに居る烏たちに餌を遣り、目元を軽く擦った。

それに対し、沙也華はふふっと笑った。

俺も挑発的な笑みを称え、「ここにいる全員がバケモノ呼ばわりされてるメンバーだもんな」と、肩を震わせて笑った。


 すると1歩ずつ近づいていた潤は、俺達の1m先で不意に足を止め、

「動 い た な!?」

と、喉が張り裂けそうな程の声量で叫ぶと、肩口から大きく血を噴き出しながら沙也華さん目掛けて飛び掛かってきた。

だが沙也華さんはあまり力強い方ではないのに、一撃貰えば骨が粉砕してしまう程の重い攻撃を受けようとしている。

俺はその行動を見て咄嗟に庇いに行こうとしたが、からすさんがサッと前に出て反対側の羽で沙也華さんを覆い、厚い羽で跳ね返すと、

「無理しないで頼ればいいじゃん、面倒だなぁ」

と、声を押し殺して微笑みながら言うので、沙也華さんは一瞬目を丸くしたが、

「お言葉に甘えて」

と、心底嬉しそうにふふっと笑いながら言った。

……本当に仲が良いな。



「どうして戦うのか分っかんないけど、人間卒業してんね~。裾野聖の弟くん」

からすさんは俺に沙也華さんを託すときに軽くウィンクをすると、左腕の二の腕あたりを痒そうに掻き、

「だけど……沙也華のもだと思うけど、それ以上に神崎の一撃は痛かったんじゃないの」

と、埃も晴れて見えてきた潤の痛ましい姿を見下して皮肉混じりに言った。


 潤の肩口は両方とも大きく引き裂かれ、生々しい刀傷の断面まで見えてしまっている。

片方は沙也華さんの斬撃、もう片方が俺だろう。

そのうえ埃と攻撃を食らった際の火傷のせいか、真っ白だった筈のYシャツも煤けてしまっている。

「痛かったよ! でもね……僕もバカじゃないんだよ? 褒めてくれる? 壊れちゃったおもちゃくん」

そう潤に言われ、からすさんの様子がおかしい事に気付いた。

「僕が戦うのはね……お兄ちゃんが褒めてくれるからだよ!! 早く会いたいんだ……だからお前はここで堕ちろ!!」

潤は更に殺気の充満した目つきでからすさんを見上げて、何百人もの人間を食い殺した狂気を含んだ笑みを浮かべた。


 左腕が痒い……まさか!?

「へぇ……思ったよりすごいねぇ。すごいすごい」

からすさんが大根役者のように無感情でそう言い終える前に、あんなに頑丈そうだった羽がどさりと力なく地面に落ちたのだ。

腕に付いていた肉片もその場にボトボトと落ち、周囲は血生臭くなったため俺は鼻を摘まんだ。

その光景に沙也華さんは目を見開く。

「何故そこまでして、私を庇うのですか……?」

と、左目から涙を零しながら言った。その震えから涙から、動揺を隠せないことを容易に察することができる。

このとき、沙也華さんとしてではなく、親友としての友愛が出てしまっていたのだろう。

沙也華さんはからすさんを護るのは当たり前だと思っているけど、自分はからすさんに迷惑を掛けているから護られるべき存在ではない、と思い込んでいるから。


 だからこそ、俺は沙也華さんとからすさんは会って間もない筈なのに、なんで親友と言っているのか疑念を隠せない。


 そしてふと目を遣ると……



 ……何故血が出てない!?



 それでもからすさんは片翼の姿で、むしろ血が噴き出してしまって床を汚し始めている潤に向かって――

「だけど言ったよね? 俺は烏と人間のハーフだって」

と、面倒そうに呟きながら飛び上がったと思った次の瞬間には、ニヤついている顔に向かって"人間の腕"を振り下ろしていたのだ。

その一撃を見事に食らった潤は、床に上から潰されるように頽れたが、すぐに首筋に向かってクローを突き上げた。

それを仰け反りながら避けたからすさんが、周囲の烏たちを左腕に纏わせて全身を包むと、潤は腹を抱えて笑い出した。

「僕と……かくれんぼしたい?」

潤は何度も羽をクローで傷つけ、防戦一方になるからすさん。

何故だ……既に100回は食らっているのに反撃をしない。


 俺は獣となってしまった、心の読めないからすさんを見守ることしかできない。

だが沙也華さんは首を横に振り、「行くな」と、目で訴えてくる。

一体、どういうことなんだよ。



「遅かったねぇ……」

からすさんが含み笑顔でそう呟き刀で防いだ鈍い音が耳に入った瞬間、目の前にいつの間にか居たのは太田紅平さんの幽霊だった。

右手に大剣を構え、幽霊の姿だからか問題無さそうに攻撃を受けている。

「値段分の働きはする」

紅平さんが口ごもって言い終えた瞬間、潤は攻撃を止め肩を上下させながらニィと口の端を裂ける程上げると、

「おいしそうな幽霊さんだぁ……」

と、舌なめずりをし紅平さんの右腕を目にも留まらないスピードで掴むと、グイと引っ張り口を大きく開いたところで、

「口"腔"……いや、"腕"が良いか」

と、利き腕である左腕に構え直した大剣を右腕に振り下ろそうとすると、潤は顔をバッと上げて紅平さんを睨み上げ、

「いやだよ、右腕(そっち)がいいな」

勢いに任せて紅平さんの右腕を引っ張ると、背筋が粟立つ音とともに骨が抜けたのかそのまま齧り付いた。

だが貪っている割には、あまり嬉しそうに食べていない。

幽霊だから不味いって訳じゃねえらしい。

まさか作戦か……!?


 すると紅平さんは自らの腕を斬り、潤に食わしてしまうと刀の向きを峰打ちから変え、

「バケモノはスクラップ逝きと相場が決まっている。二度と光を見るな」

と、首を落とそうと薙ぎ払ったとき、俺は確信した。

――このときを、潤は狙っていたのだ、と。

「やめろ!!」

と、叫びつつ紅平さんの左側から体当たりをすると、ちょうど俺が倒れ込んだのとほぼ同時にクローが地面を切り裂いていたのだ。


 ヒビ割れた床は更に不安定になり、気を付けないと突っかかって転んでしまう程になっていた。

「やめろと言われるとやりたくなる……」

紅平さんがそこまで淡々と言うので、俺は若干苛立ちながら、

「天邪鬼だからだろ。それなら1つ協力してくれれば、夢ん中を旅してる弟を無事に返すけど、どうする?」

と、言うと、紅平さんは降参したように肩をすくめた。


 それから俺は計画をざっと伝えた。

紅平さんは若干顔はしかめたものの納得はしてもらえたようだが、

「それで。お前は裾野聖の何なんだ……親か?」

と、皮肉を言われてしまった。バカにするための皮肉ではないが、耳障りの良いものではない。



「お話大好きなんだね! 僕も混ぜて? てるてる坊主、てる坊主……あ~した血祭り(てんき)にしておくれ」

潤は幽霊とはいえ人肉を食べたせいか、先程よりも動きがよくなっている。

それに歌声にも恨みが込められ始めている。

ということは調査の通り、潤の能力は……。

「"ゲテモノを食べる程、破壊してしまう能力"だよ。だから太田(兄)(おおたかっこあに)の腕でも食べさせないと、応用能力使われて厄介だったからね~」

と、俺らの背後で策を講じていたからすさんが、隣に居る沙也華さんを自分の背後に隠しながら言った。


 声色は比較的落ち着いてはいるが、その応用能力を見た事があるのか若干声に怯えが見受けられた。

それもそうだ。

俺も実際に見た事はないが、二度と人としての感情や記憶を取り戻せなくなると聞いたことがある。

それは龍にとって……最悪の結末だ。

「……」

からすさんは潤が左右に寄り道しながらこちらに歩いてくる速度から考えていたのか、俺と紅平さんに目で合図を送ると凛とした表情で左手で拳を作り右胸を2回叩いた。

 ……"後は任せた"か。

大丈夫だ、策に不足はない。

落ち着け。絶対に潤を殺すな。


「お前の首をちょん切るぞ~」

潤がちょうどてるてる坊主を歌い終えたところで、俺と紅平さんは地を蹴った。

この戦いに決着をつける為に。

「2人ともまとめて……遊んであげるよ!!」

潤は俺と紅平さんに向け、クローの刃を舐めて叫ぶと口の端が僅かに切れ、黒く大きいマスクが床に音もたてずに落ちた。

それで若干目の逸れた隙を狙い、紅平さんは左側に行き、俺は右側に方向転換し、わざとヒビ割れに足を突っかける振りをした。


 そのおかげで倒れ込みながら胃の辺りを真っ二つに斬った紅平さんには目もくれず、俺の首元に手を掛けようとしたが一瞬で目の色を血が支配したのだ。

「あ……ぐぁっ……!! 胃が……あぁ……!!」

そしてその場に頽れ、胃の辺りを押さえ血と紅平さんの腕の肉片を吐き出した瞬間、俺は逆手に持ち替え刀の(かしら)で潤の胃付近を目一杯の力を込めて攻撃した。

「う゛ぅ゛!!」

潤は白黒させながらもクローで俺の顎の辺りを突き上げようとしたが、その腕を掴んだのはからすさんだった。


 その目、姿は既に人間に戻っていたが、潤を見下す目には勝者の自信が満ち溢れていた。

「お前の負けだよ~……壊れたおもちゃさん?」

そう目を細めて言うからすさんは、烏たちで口と鼻を押さえさせ気を失わせた。

 やがて烏たちが元の場所に戻ったときには、潤の姿は既に無く俺と目を合わせると小さく頷いた。

裾野聖、いや後鳥羽龍は弟を殺して欲しくない筈。

この意向をどこかでからすさんが汲み取ったのか、医者である俺の父親の所まで送っていってくれたのだろう。


「……ッ!!」

紅平さんは急に顔をしかめると、俺たちには何も言わずに壁をすり抜けて鳩村さんの元へ戻って行った。

もしかしたら、稼働限界時間が来たのか……それとも。

「2人の計画は何となく分かったから。あれで良かったんだよね~?」

からすさんは服に付いた羽根を払い落としながら言うと、俺を面倒そうに且つ疲労の見える表情で見据えた。

「だから太田雄平も烏に連れていかせたんですね」

沙也華さんは気配の無い迷路のコーナー辺りを指差して言った。

「ま……目を覚まされても――」

と、からすさんが迷路の進路方向に向き直ったそのとき……何かが迷路の壁を走ってこちらに向かっている感覚がした。


 誰か居る……だが場所がまるで分からねぇ。

でも俺には――いや沙也華さんも、からすさんにも見えてたのかもしれねぇが……。

気付いたときにはもうスタンガンの音が、このフロア全体に響いてしまっていた。

「総長、藤堂からすを始末しました」

からすさんよりも10cm程背の低い細身の女性の肩に、力なく寄り掛かるからすさんを慈しむように見下すと右耳のワイヤレスマイクを切り、

「あなたをずっと信じていたのに……」

と、肩から背中にかけて時間を掛けてゆっくりと撫で、膝枕をさせてから唇に触れた。

「光明寺優太によろしく言っておいてちょうだいね……」

長く艶のある黒髪を後れ毛無しに一本に縛り、凛とした細い眉からは力強さ、平均よりも更に黒い、影のような色の垂れ目。

鼻筋は綺麗に整っていて、少々高めのせいか外国人にも見える。唇は薄く桃色に近い色で色気がある。

頬は多少こけてはいるが、あまりに細すぎる身体だからかバランスが良い。肌の色は人形のように白い。


 どことなく雰囲気は、からすさんの最初で最後の相棒……光明寺優太さんに似ている。

それから上下共に片桐組の隊服ではあるが、この女性どこかで――

会ったことはないが、何かで見た事がある。


 そうだ。以前、からすさんが婚活パーティーに行った際に出会った女性が、優太さんに似ていたと言っていた。

腹黒そうで良い人の仮面を被ってそうで――まさか!?

「大人しく死ななかったあなたたちのせいで、私の恋人を殺さざるを得なかったじゃない。絶対に……許さないんだから」

そう恨みの籠った低い声で唸るように言った女性はすぐさま迷路中に消え、次に姿を現したときには俺の目の前で笑みを浮かべていた。

作者です。


からすさんどうなったの!? 颯雅さん大丈夫!?

とても気になるかと思いますが、ここで颯雅さんたちパートは一旦終了です。

次からは鳩村さん、鴨脚夕紅さんペアの同時刻の動きを見ていきましょう。

安心してください、このパート後にまたメインの騅パートに戻ります。


次回投稿日は、6月2日(土)or 6月3日(日)です。

乞うご期待!!


それでは良い一週間を!!


趙雲


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