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「22話-遺された者たちの復讐 中後編-」

現在編は、先週分からの続きなのでありません。

そのまま颯雅さんが話し始めます。


喪に服さなきゃ、と異空間を魔法で作る純司に、

狂育で狂った男はどんな審判を下すのか。


また、雄平と颯雅の決着はいかに!?


※約2,700字です。

2018年4月1日 18時30分(事件当日)

片桐組 迷路途中

神崎颯雅



 話の続きをしよう。

後鳥羽潤が迷路の先から来て、沙也華さんを圧倒したとき。

意外にも彼は、ワープの出来そうな人ひとり通れる程の大きさの異空間を作り出している純司に目をつけた。

「何やってんの~?」

潤は今にもこの場から逃げそうな純司の肩を掴んで振り向かせると、満面の笑みを見せた。

「そいつ、兄の葬式の準備すんだってさ。……分かる?」

からすさんは今にも手を出しそうな潤の殺気を感じ取り、腕を掴もうとした瞬間だった。

「僕に背中を向けたら……怒るって言ったよね!?」

と、こちらにあどけない笑みを見せて、純司の肩を掴んでいる手に力を込めた。

「じゃあ俺は君の空気で息を吸うよ?」

純司は思い切り両手を伸ばし、グッと力強く拳を作ると少し離れている筈の俺達でも酸素が薄いと感じるようになった。

「……」

だが潤は全く動じない。もしや、こいつ……!?


 やがて痺れを切らした潤の幼いその手には一切筋が入っていないにも関わらず、肉付きもそれなりにある肩の骨が一瞬で外れたような鈍い音がした。

「……!?」

純司は少年のような笑みを浮かべる潤と、自分自身の制御が利かなくなった左腕を交互に見下し、数秒思考が停止したそのとき。

ゆっくりと潤の肩が上下し、

「止めちゃえば効かないね!」

と、高笑いをした潤を見た純司の顔は、絶望というよりも死を覚悟したような顔だった。


「あ……あぁ……ア……ァ……!!」

と、それからすぐに声にもならず裏返りきった声が僅かに唇の端から漏れ、涙が一筋頬を伝った刹那――

「<涙烏(なみだがらす)>……」

滅多に涙を見せないからすさんが、首を傾げて儚い表情を浮かべ右目から同じように零した。


 すると肩に止っていた烏たちが腹の前で組んだ腕に乗り、顎から零れた涙を1羽ずつ順番に並んで飲み始めたのだ。

「<(るい)-(つき)->!!」

それから潤がからすさんの方を振り向いたとき、一斉に潤の目を目掛けて近距離で飛び立った。

「わっ!! 邪魔しないで!」

潤は武器を構える前だった為、手当たり次第に掴んで潰しにかかってはきたが、からすさんの脳内で指令されている烏たちの動きの方が僅かに早い。


 その隙に涙を拭いたからすさんは潤の背後に回り込み、痛みから全く動けなくなった純司に華麗なるハイキックをして、異空間に追いやった。

……からすさんの脚があんなに上がるなんて、思いもしなかったぜ。

普段から片桐組の隊服着ねぇし、比較的大きめの服を好むからスタイルもよく分からなかったんだ。

だから尚更驚いたんだよな。

ただ沙也華さんは元から知ってたのか、全く驚いてなかったな。


 それからすぐに純司が魔法で作り上げた異空間は元の通り、人の感覚を惑わす迷路の壁に戻った。

「ほえ~……感動」

と、一時休戦していた雄平が雷を二刀に纏わせ直しながら言った同時に、俺は雄平に斬撃を飛ばした。

「<雷反撃(サン・カウンター)>」

雄平は二刀で斬撃をその場で斬り落とすと、斬撃を逆向きにし俺の方に飛ばしてきた。

流石は"空気を読む能力"者。

だが甘い。こいつはやはり天然過ぎる。

「ちゃんと周り見てんのか?」

と、身をかわしながら言うと、ちょうど真後ろに潤の華奢な背中が見え、沙也華さんも俺も行方を見守っていた。

「雷って美味しいのかなぁ?」

しかし潤は好奇心旺盛な子どもの目をしてマスクを外し、斬撃に喰らいつくとそのまま咀嚼し始めたのだ。

「ピリ辛だね! 雄平くん、ありがとう」

潤はふにゃりと笑みを浮かべると、残った斬撃を手に持ち沙也華さんを斬りつけようとしたのだ。

……本当にこいつは人間なのか?

斬撃を持つ、なんて離れ業……。本当は人外の存在なんじゃねぇのか。

それとも人間やゲテモノばかりを食べてきた"悪食"の狂育の覚醒なのか。

ペロリと舌なめずりをする潤にしか、この真相は分からねぇ。


「斬撃って持てるのか~……いったそうだな~」

ただ、雄平だけは自分の雷を持ってみようとしていたが、静電気でビクッとなった肩を押さえていた。

「静電気ってさぁ……いったそうだな~。そう思わね?」

からすさんは異空間のあった辺りで留まり、俺と雄平の戦況を見守っている。

おそらく相性の悪さからだろうな。

ただ、こうしてヒントをくれるということは、静電気が何かの鍵なのかもしれない。


 そういえば、さっきの涙のときに暴れた烏の羽根が落ちている。

俺は羽根を2枚拾うと、片手で擦り合わせながら再び雄平と間合いを詰めた。

「電気耐性ついてんのね~。これからどうすんの?」

雄平は相変わらず自分ペースで、感電死する気配のない俺の身体を不思議そうに見つつ、世間話を始めたのだ。

俺と鍔迫り合いをしているにも関わらず。


「お前に言うつもりはねぇな」

「そっかぁ」

雄平は鍔迫り合いに飽き始めたせいか、欠伸をしている。

「……」

「……」

「……」

「……」

長い沈黙と、金属の擦れる音。

時間は刻々と死んでいくのに、雄平はどこかぼうっとしている。


「……裾野を無事に家に送り届けるまでが俺の役割だ」

こいつは何も話さなければ、何も話さない。

いざ手の内を明かしてみても、雄平は首を傾げている。

「結局言ってんね? 俺は言う事聞かない紅平っていう兄に恩返ししないとね~」

雄平は更に電力を込めて俺と対峙するが、生憎許容範囲だ。

 なるほど。だから菅野が鎖骨辺りに刺した傷が残っている訳だ。

食堂から姿を消したのは、幽体になった兄の紅平が逃がしたからだろう。

「命は大事にしろよ?」

俺は持てる力を全て掛け、雄平を押し出し、よろけたところで押し倒した。

そのときにゴンという鈍い音が立てて雄平は頭を打った。

これ以上のチャンスは無い。

「いっ……一か七か、起きるか起きないか……<雷雷左右太刀(ツインサンダー)>!!」

しかし雄平は足で押さえていた筈の刀を俺の脇腹目掛け刺そうとしたのだ。


 ちょうどそこに沙也華さんの攻撃を避けた潤の真横を通りすぎた斬撃のおかげで、俺は体勢を低くし雄平に密着させた為二刀が俺の真上でカチンと音を立てた。

そこでそろそろ電力が溜まったであろう羽根を首筋に当てた。

「……!!」

雄平は一瞬俺の行動に目を見開いたが、すぐに力尽きたように脱力してしまった。

俺は気絶した事を確認し、二刀に当たらないように飛びのくと、沙也華さんと潤の流れ弾が当たらないように迷路の角に寝かせておいた。

「紳士だね~」

からすさんは回復体位で寝かせた俺にそんな言葉をかけてはいたが、沙也華さんの様子を見て顔をしかめ、

「俺と同じ匂いがする……」

と、肩に乗っている烏たちに目配せをしながら呟く声色は、獣の咆哮を彷彿とさせた。

次の瞬間、地面を蹴った時の足は……僅かにオレンジがかっていた。


 からすさんの正体は、恐らく優太さんと龍也以外誰も知らない。

だけど1つだけこの発言で推測の域を出そうな事はある。


――それは。

藤堂からすは、何かしらの方法で烏と人間の本能や身体能力を1つの身体に共存させている、ということだ。

作者です。


最近短くて申し訳ございません。

後編が長くなる予定なので、盛り立て役の前編~中後編が短くなってしまうんですよね。

さて、次のお話でついに!!

何かが動き出しそうですね!?


次回投稿日は、5月26日(土)or27日(日)ですよ!!

お見逃しなく!!


それでは良い一週間を!!


趙雲

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