「21話-遺された者たちの復讐 中編-」
人として大事なもの。
戦うこと? 守ること?
それよりももっと身近に、やらなければならない事ってありませんか。
※約3,100字です。
2018年4月某日 午後15時30分頃
喫茶「ふるよし」
騅
昨日颯雅さんに話していただいた話は、僕にとって……実はそこまで驚くような展開ではなかった。
というのも、前々から純司さんは研究を熱心にされていたし、傑さんにいつもくっついていたのだ。
……言いたい事、分かっていただけるだろうか?
純司さんはきっと……ブラコンなんだと思う。
考えてもみてほしい。
どうしてその場に居ない筈の純司さんが、傑さんの死に方まで知っているのだろう。
誰も見かけていないのに……おかしい。
今はちょうどそれを颯雅さんに相談しているところだ。
「颯雅さんも気配を感じなかったんですよね……」
僕がアールグレイを口に含ませ、徐々に喉に流し込んでいると、ゆっくりと頷かれた。
「あぁ。兄の傑ですら気付かなかったんだ。どこで見ていたのか、それとも能力を使って悟らせねぇようにしてたのか……。あいつだけは最後まで、よく分からなかったな」
颯雅さんは窓の外を見ながら言い終え、コーヒーを一気に飲み干すと、右手を挙げて店員さんを呼んだ。
「そうですね……。僕も後醍醐家に居たのに、全く掴めませんでした。イジワルなのか優しいのか、無慈悲なのか気が遣えるのか……正体は何だったんでしょうね」
僕が店員さんに聞こえないように、机に声を落として言うと、颯雅さんは膝に目線を落として微笑んだ。
「……」
そして何も言わずに僕の目を見つめると、また視線を落とした。
う~ん、何か言いたそうだったけど、僕の事を気遣ってか口を噤んでしまったのかな。
それなら僕も少し心を整理整頓してみよう。
「……あいつのあのときの言葉が、未だに忘れられねぇ」
と、長い沈黙の後に溜息混じりに切り出され、更に颯雅さんはマグカップをカタンと置くと複雑そうな笑みを浮かべ、
「あの言葉を名家の集会とかで言えば、あいつが次期当主に相応しいって声高に叫ぶ連中がもっと増えるだろうけどな」
と、そっと安堵感のある笑顔を向けられると、僕も落ち着いている訳ではないけど安心してしまう。
そうだ。今日は……。
いつもなら菅野さんの希望通り全員戦闘不能にしてきたけど、純司さんのあのときの言葉を聞いた颯雅さんが思わぬ方向に舵を切ったお話をしてくださったんだった。
純司さんの底なしの心の闇と、光への僅かな憧憬が……その場に居た誰をも動かす力になったんだ。
今回は颯雅さんの視点で臨場感を意識しました。
2018年4月1日 18時20分(事件当日)
片桐組 迷路途中
神崎颯雅
傑にあって俺たちにないもの。
血縁、銃、女好き…………そんな話じゃねぇな。
戦い方において、俺達に真似できる事がある筈だ。
からすさんも沙也華さんも俺を見て、何回も頷いている。
だけどその答えは、純司が俺達に向かってバスケットボールぐらいの氷の塊を数百発投げてきたことで遮られた。
「許せない……」
純司は自分の周りで風を起こして竜巻にすると、氷の塊をそこに巻き込ませ、俺達に目にも留まらないスピードで向かわせた。
「何が許せないのか知らないけど――」
からすさんがそう言いかけたとき一筋の電撃が目の前を掠め、体勢を崩しかけつつも横目に映ったのは、
「あれ? 人違いだ!」
と、とぼけた顔で電撃を引っ込める太田雄平だった。
それで上手く竜巻を避けられたからすは、面倒そうに欠伸をしながら純司に烏たちを向かわせ竜巻を逆回転させると、
「〈烏縛り〉」
技宣言し、氷の塊を減らして竜巻自体の威力を削ぎ落した。
烏たちは途中まで竜巻に乗り、純司の背後に回った瞬間に羽根で視界を奪い、ロープに見立てた烏色の翼で腕に絡みついた。
「ん~……!!」
純司は口も封じられているのか、じたばたと手足を動かそうとしている。
だが詳細は竜巻せの所為で視界が遮られている為、よく見えない。
それよりも俺は雄平の相手をしなければ。
「太田雄平、お前の相手は俺だ!」
分かりやすく、あくまでも天然トリガーを引き起こさせねぇように言うと、雄平は俺を指差して笑みを浮かべた。
「は~い、ご丁寧にどうも!」
雄平は指先を電撃で青白く光らせると、二刀を腰に下げた鞘から抜いた。
「……あれ、俺の二刀どこやったかな」
結局、天然発言が繰り出された為、
「両手に持ってんだろ」
と、流石に指摘してしまった。
「あぁ! どうも」
雄平は手元に目線を遣り、安堵の表情で俺を見るとスッと顔を引き締めた。
それは俺も同じで、次々と繰り出される雄平の電撃を伴った技を受け流していった。
それから隙があれば純司とからすさんの様子を見ていたが、どうやらからすさんの術を解いたらしい。
自分の周りのみに地震や地割れを起こそうとしていたが、やっぱり地面が割れねぇ。
このフロア……炎に焼かれても焦げ目すら付かず、地震や地割れを起こしても本当に割れることがない。
一体何で出来てるんだ。
「余所見」
そのとき、雄平の右腕から繰り出されたフェイントに気を取られ、足元の静電気に気がつかなかった。
「……!」
マズイ。
このままでは足が縺れる。悪くて足首損傷だ。
「〈烏鳥〉」
これもからすさんの技だ。竜巻を利用し、雄平の方に流れていっているように見えさせ、真横から風下に居た烏の大群に足元を掬わせてくれた。
人の心配をしすぎたな。
「ありがとな! からすさん!」
俺は眠そうに目元を指で掻くからすさんに言葉を送ったが、からすさんは頬を膨らませて不機嫌そうにする純司に軽く頭を下げた。
そのときだ。
「藤堂からす……許せないと思わない……?」
純司の地を這うような恨みの籠った声に、思わず全員が振り向いたその瞬間だった。
「喪に服さなきゃいけない俺が、誰かを殺そうとしている……。まずは傑 兄の葬儀の準備をしなきゃいけない俺が、今ここで戦わされているのが――従っている自分が!! こんなにも……こんなにも……許せない!!」
無慈悲で、虫を殺すのと人間を殺すことの差も分からないようなどこか感覚のズレた純司が。
研究一筋で、傑にしか負けたことの――そうか!!
「どうして今、人を……。早く帰らなきゃ」
純司は戦意を喪失したのか、魔法を使い異空間移動装置を準備し始めている。
からすさんは特に止めもせずに、沙也華さんと目配せをしていた。
傑にあって俺たちに無いもの。
そもそも今この世に居ない傑という存在を、純司に気付かせる事……。
そう思い、至って落ち着いている沙也華さんに目を遣れば、俺に気付いて少し微笑んだ。
――あんたの仕業か。
と、俺も彼女に微笑み返した。
――が。
沙也華さんの顔が苦痛に歪んだ瞬間、甲高い笑い声がフロア中に響き合った。
「お姉さん、綺麗だね!!」
そう笑いながら下衆顔をする小柄の男。
白髪で茶色目の吊り目、顔面蒼白といっても過言ではない程の不健康そうな顔つき。
一回り大きい気のする黒いマスクは鼻から顎下までを覆う程の大きさだ。
そして何より特徴的なのは、2サイズほど大きく白いYシャツだけしか着ていないという大胆な格好。
こいつは間違いない。
「一緒に遊ぼうよ……お兄ちゃんが来るまで!!」
と、カッと目を見開いて喉を鳴らすように笑い、沙也華に追撃を加える彼……。
一撃一撃は重く、象が比較にならない程の重さをあの華奢な腕から炸裂させるというのだ。
その証拠にあの沙也華さんですら手を焼いている。
「いいでしょう」
だが沙也華さんは頬についた傷を袖で拭き取り、バク宙して距離を取ってから衣装を軽く整えた。
最恐にして最狂の男……裾野聖の実の弟にして"悪食"の狂育を施された後鳥羽潤が、今まさに猛威を振るおうとしていた。
作者です。
諸事情により、予定を変更したことお詫び申し上げます。
Twitterではご連絡していたのですが、フォローされていない方々からすれば驚きもあったかもしれません。
理由は申し上げられませんが、ご心配は不要です。
今週、来週の土日からは定期更新できますので、ご安心を。
ですので、次回投稿日は5月19日(土)または20日(日)でございます。
毎日少しずつ乗り越えていきましょう。
それでは良い一週間を!!
趙雲




