「20話-遺された者たちの復讐 前編-」
三人称視点も交え、いよいよ語られる別視点!!
迷路で別れた仲間たちは無事なのか!?
※約2,600字です。
2018年4月某日 15時頃
喫茶「ふるよし」
騅
もう二度と連絡が取れないと思っていた人たちから、突然会いたいと言われたら会いに行きますか?
……僕なら会いに行く。罠でもいいから。
そうした思いで、喫茶「ふるよし」の個室に呼び出された相手は……裾野さんの幼馴染でもある神崎颯雅さんであった。
颯雅さんは既にコーヒーを飲んで待っていてくださっていて、僕に気付くとコトンとカップをソーサーに置いた。
「急に呼び出して悪いな。騅の小説読んでたら、役に立てそうだと思ったんだ」
と、はにかんで言う颯雅さんは、"BLACK"が終わった後でも変わらず笑顔を絶やさなかった印象しかない。
それに僕は裾野さん側しか見ていなかったから、颯雅さんたちがどうしていたか、物凄く気になっていたのだ。
「あ、ありがとうございます……! ちょうどお聞きしようと思っていたんですけど、連絡をどう取っていいのか分からなかったんです。あの日以来、どうしても……」
僕はそこまで言うと、どうしてもフラッシュバックが起こり言葉に詰まる。
あの日……そう、"BLACK"そのもの。
あんな事、起こらなきゃよかったのに。もう何度思ってきたのだろう。
「確かに連絡先交換してなかったもんな。これからはしつけーくらい連絡くれても大丈夫だぜ!」
颯雅さんは微笑みながら冗談を飛ばすと、僕の分のコーヒーが丁度運ばれてきた。
何故だろう、いつも大好きなアールグレイを頼み損ねる。
それを知ってか、颯雅さんはコーヒーを指差し、
「アールグレイにしなかったのか?」
と、心にグサッと刺さるような一言を仰るので、僕は愛想笑いではぐらかしておいた。
「あぁそうでした! 今日は小説にする為のエピソードをお伺い出来れば、と思っております!」
それから話題を180度変えると、颯雅さんは店員さんに追加のコーヒーを頼んでから優しい笑顔で頷かれた。
「長くなると思うから、前編と後編にするか、前編、中編と後編にするかは任せるぜ」
颯雅さんは空間と化した檜色の机の下で足を組み、僕に軽くウィンクを飛ばした。
――これは颯雅さんのお話をまとめ、僕がもし天井あたりから見下してみたら、という想定で書いたお話である。
2018年4月1日 18時前(事件当日)
片桐組 迷路
妖精(騅)
颯雅が沙也華、からすと共に迷路を進んでいくと、子供騙しのような安物感溢れる罠に何度も出くわした。
例えば、踏むと音が鳴るもの、座るとおもちゃの剣で後ろから攻撃される、押すと変な匂いが漂ってくる装置など……。
とても殺し屋がまともに考えた罠などではなかった。
その中でも颯雅が驚いたのは、全ての玩具が手作りという点だったという。
木製のものやブリキのおもちゃなど、多種多様な素材にも関わらず、全てが手作り。
一同が感動すら覚えたというから、余程の事であっただろう。
それから一同が迷路を進んでいくと、教室1つ分はある広場に出たのだ。
だがそこには誰も居らず、気配すら感じなかったという。
そのうえ、それまでは真っ白な空間だった筈なのに、所々天井まで掛かる程の血飛沫が見受けられたのだ。
それなのに一切気配が無い。
一同は自分の事すらも疑ったという。
だが真後ろから肩を叩かれた颯雅はその僅か一歩手前で、気配をキャッチすることが出来たのだ。
というのも、その人が僅かな隙をついたつもりで息継ぎをしたからだった。
こういう時に、人間というものはかくも面倒なものだと思うのだろうか。
ちなみに背後を取られたうえに、気付かなかったという能力……これは筆者である騅の能力を研究したものだろう。
「誰だ」
颯雅は相手が口を開くよりも先に背後を取らせたまま話しかけた。
すると向こうは口の端を上げ、こう答えたという。
「さぁ? こっちこそ、訊きたいことがあるんだ~」
と。ここで、一同はその声の主が誰か気付いた。
――無慈悲、生への関心がまるで無い、兄想い。
それでいて、世間を常に騒がせる研究者でもある。
そのうえ、"魔法"の能力の籠った球体を飲み込んでいる、僕らが戦った裾野さんと同系統の特殊能力者。
能力名は彼自身が何度も色んな人に言っているとのことなので言うが、"魔法を使って研究ができる"だそうだ。
「傑兄さんはどこ? 答えないと食べちゃうぞ」
彼は笑顔でこう言い、振り向いたからすに対しあっかんべーをしたという。
そして言い終えると、ガラッと表情を変え、
「ま、食べるの俺じゃないけどね」
と、手元で火の球を弄びながら呟き、何の躊躇いも無く一同を横切った。
「藤堂からす、神崎颯雅……知らない女の人。誰かに似ているね? あぁ、あの人は違うや。兄さんにフラれたとかうるさかったから、チャックしてもらったんだったね」
それから片桐組の情報を事前に調べ、ほぼ家のある森を出ないという彼が知る筈のない颯雅の名を平然と口にした。
そのときからすは多少驚いたという。
「あ~……これはご苦労様。魔法使いが俺ら戦士に何の用~?」
からすは剣を振る真似をし、白衣を翻す彼の姿を目で追った。
だが彼は最も答えてほしい疑問に、一向に答えようとしない一同に痺れを切らしたのか、
「魔法使い……。傑兄さんをどこにやったの……?」
と、今度は背中を向けたまま肩を震わせて言った。
このとき、彼は本当に涙を流しており、悲愴感も漂っていたという。
「彼なら貴方の為を思い、お亡くなりになりました」
そう答えたのは意外にも沙也華で、からすは「面倒な答え」と、烏の羽を撫でながら言った。
「そうなんだ……ぐちゃぐちゃになってまで俺の事を? へぇ……そっか」
彼は納得したように自身の髪を撫でつけると、次の瞬間こちらを目にも留まらぬスピードで振り返り、
「じゃあ、黒河月道を俺のコレクションにさせてよ!!」
と、何のモーションも無く火の玉をこちらに向かって撃ってきた。
一同は辺りが焼野原になっているにも関わらず、床が全く焦げていない事からある事を確信した。
それならこちらがむしろ有利ではないのか、と。
そして目の前で呪文も唱えずに隙無く撃つ彼を見て、颯雅はこう思った。
「恨みや疑問、好奇心があいつの攻撃力になるのか……?」
と。
するとからすは烏たちに様子を見させ、自分は腕にくくりつけたパソコンを起動させると、
「後醍醐純司。職業は研究者。"魔法を使って研究が出来る"特殊能力者。1000戦999勝1敗。敗北相手は兄である傑……へ~」
と、ほぼ棒読みで言い、すぐに空中に出た液晶画面を閉じてしまった。
そのときこうも確信できた。
――傑にあって自分たちに出来ない事に、答えはあるのだと。
13分遅刻は悔しいですね。
大変申し訳ございません。
趙雲です。
GW、いかがでしたか?
私は満喫できたのかな、と自負しております。
割かし外に出ていたような気がするので、体調もすこぶる良いです。
次回投稿日は、5月12日(土)or 13日(日)です。
それでは良い一週間を!!
趙雲




