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「17話-紛いモノ-」

嘘だと疑いたくなったり、紛いモノであると信じたくなるときはきっと誰にでもあるでしょう。

そう思う側と、思わせたい側。

複雑な感情が入り乱れる。


※約4,300字です

2018年4月某日 夕方

藍竜組 騅、裾野さんと菅野さんの部屋


 全部紛い物だったのではないか?

2人が優しかっただけでは? ユーカリが枯れないように僕を置いているだけで……今日もこうして水をあげているんだ。

だってそうだろう? 帰って来ないんだから。

そうぽつりと呟いた言葉に返り血と桜の花びらまみれの副総長が目の前に現れ、

「違う」

と、万が一零れた時の為に置いてあったタオルを拾いあげ、元に戻しながら言った。

「ありがとうございます……」

僕は綺麗なタオルを洗面所から持ち出し手渡すと、舞い落ちる桜の花びらを床に置いてあったタオルで拭いた。

「騅」

暁副総長はタオルを何度も折り返して床を拭く僕を見下して話しかけると、体に付いた血や花びらを拭きとったタオルを手渡した。

「あ……ありがとうございます。その、どうしてこちらに?」

僕はタオルを受け取って腹に抱え込むように持ち、慎重に立ち上がりながら言うと、副総長は俯きつつ瞳を左右にゆっくりと動かした。

「光明寺家が肩入れしてたマフィアのアジト、潰してきた。季節が外れた桜の名所になる」

副総長は誇らしそうに言っているのに、表情は何だか曇っていて僕は何だか話しかけづらくなってしまい自分の膝を見るのが限界だった。

多分……咲いた桜は自分が人工的に咲かせたから、本物じゃない。

それで悩んでいるのではないのか。

「副総長。貴方が咲かせる桜はどれも美しくて、僕に分からないだけなのかもしれませんけど……ずっと見ていたいんです」

僕は最大限自分が出来る事。総長にも言われたから、今やらなければ。

そう思い、膝から副総長の目へと視線を上げて言うと、表情が僅かに柔らかくなったので肩を撫でおろした。

「そう……」

副総長はタオルを置いてくると言い、その場を後にする僕の背中を見ていたのか、洗面所に入る間際に振り返るとバチッと目が合った。

「……」

僕はしばらく見つめ合い、微笑みながら部屋に入りタオルに付いた桜の花びらを濯ぐ為に洗面所に入れて手洗していると、ふと裾野さんの顔が思い浮かんだ。

裾野さん……本当は僕の事あまり好きじゃなかったのかな。

それともただ、殺し屋において素人だから相手にしたくなかったのかな。

それで優しくしていたのなら、僕はもう菅野さんと組み直す事も諦めようか。

でもそれでは、淳さんはどうなるのだろう?

 いや、最早これは僕がどうしようと悩むべき問題なのかもしれない。


2018年4月1日 17時前(事件当日)

片桐組本部 長い廊下



 白の蛍光灯が間隔的に並んだ廊下を歩き続けてもう10分が経とうとしている。

藤堂からすさんが首を傾げるくらいなのだから、いくら何でも長すぎる。

そのうえ天井も気持ち低くなってきて僕の頭との距離が、進むに連れてどんどん近くなってきている。

これは……本物の廊下なのか? それとも誰かの能力で廊下が伸びているのか。

味方陣営には伸ばす系の能力は居ない……強いて言うなら、鴨脚夕紅さんの能力が分からないけど。

「あの、皆さん」

そこで僕は進み続ける全員に聞こえるように声を張ると、藤堂さんが間延びした声でこう言った。

「出口の扉が見えたよ~。急に出てきた感じもするけどね~」

と。

これはやはり誰かの能力では。

そうでもしないと急に廊下が伸びる訳も、扉が現れる訳もないのだ。

「待ちなさい」

すると沙也華さんが急に歩み寄ろうとする僕たちを手で制し、

「この扉は開きませんよ」

と、言うと颯雅さんが確かめるようにドアノブを捻り押したり引いたりした。

「んだよ~、じゃあ引き返す?」

藤堂さんは面倒そうに首の関節を鳴らしながら言うと、皆扉に背を向けた。

そのときであった――


"Ladies and Gentlemen!!"

と、叫ぶ流暢な英語が耳に入った瞬間、背を向けた扉から白かった廊下全体に宇宙が広がった。

"It's a FAKE corridor!"

そしてまたしても同一人物の男性の叫ぶ声がどこかから聞こえ、相手にするのも面倒になった藤堂さんが扉から離れていった次の瞬間。

ミシミシと痛んだ音を立て、勢いよくガタッと扉側に廊下が傾いたのだ。

あまりの突然の事に対応できず、開かない扉に背中なり臀部なりをぶつけた僕たちだったが、斜めになった廊下の頂点には人影が見えた。

マジシャンを彷彿とさせる赤いスパンコールスーツに黒髪短髪、背格好は斜めだからか僕よりも高く見えた。

表情は逆光で見えないが、大きく体を反らせると、

「"死魔マジック"はこれからだ!!」

と、大根役者顔負けのわざとっぽい大声をあげると、ピキピキとヒビが入り廊下を覆っていた宇宙が剥がれ落ち始め、数万枚の破片が一斉にこちらを向いた。

……これは。凄くマズイのではないのか。

そう思いはするのだが、何故か本能が警鐘を鳴らさない。

一体何故なのか。

それは皆さんも同じようで、破片がこちらを向いているのにも関わらず誰も武器を構えようとしない。

この人はそういった類の能力なのか、それとも?

「大崎、演技下手すぎるよ~」

だがこの緊張感の無さの正体は藤堂さんが既に見破っていたようで、肩をすくめて呆れたように言ったのだ。

そのことに言われた本人が1番驚いており、昔の漫画にありがちな両手を斜め左に仰け反らせるような動きをし、

「こ、これは演技じゃ……!」

と、明らかに取り乱しはしたものの、それは本当だったようで破片は彼の元に集められていった。

「片桐組所属のエンジニア・大崎月光(おおさき るこう)から、是非頼みたいことがある!」

大崎さんは知らない僕らの為に自己紹介までしてくれたうえで、腰に手を当てて叫んだ。

 すると徐々にミシミシと音を立てながら出口の扉が開き、そこから宇宙へと転がり落ちているときに、

「幼い頃の後醍醐傑の左目をくり抜いた能力者がこの先に居る。そいつを地獄のあいつと同じ目に遭わせてやってくれ!!」

と、必死な思いで叫ぶ大崎さんは、きっと傑さんが亡くなった事を知って僕らに頼んでいるのだろう。

自分では出来ない、いや倒した僕らに頼む事で可能性を上げたい友情からだろうか。

「はい! 必ず!」

と、僕は返事をしようと叫んだが既に違う部屋に立った状態で扉を開けて入っており、思わず全員が入ってきた扉を凝視した。

「あーあ、あの人藍竜組に内定してたのに拉致られて酷い目に遭ったからねぇ~。後醍醐傑の銃の仕掛け作った張本人だし、救いたかったんだろうね~」

と、扉を凝視したまま呟いた藤堂さんは、どこか何かの思い出と重ね合わせているように見えて背中が寂しく見えた。

「なんだか知らんけど、とりあえず前に進めばええんやろ? 目をくり抜いた奴の事はどうでもええけど」

菅野さんは隊服のネクタイを若干緩めると、腕時計を見て目を丸くした。

それを察知した颯雅さんは顎に手を添えると、

「3時間をとうに過ぎているのに追い出されねぇ……。殺されもしねぇ」

と、何か思い当たる節があるのか関東ホール1つ分はありそうな広い真っ白な部屋を見渡し、何度か頷いた。


 そう言えばこの部屋も廊下同様不思議過ぎる。

真っ白なのも照明がしっかりしているのも変だけど、僕らの足元には「START」と血文字で書かれていて、その先は僕の身長でも先が見えない壁と通路――即ち迷路が続いているからだ。

それに血文字なのに、いくら足で擦っても字がよれないのもおかしい気がする。

本当にここは総長室への近道なのか、いや……これを見越して総長側が用意したものかもしれない。

一同はしばらく迷路を見渡していたが、全てが見えない事に気付くと自然と円形になった。

「迷路といえば岐路だ。戦いやすいペアか3人組で別れようぜ」

そう言い出したのは颯雅さんだったが、特に誰も反対はせずに戦いやすい相手と組むことになった。

僕は菅野さん、颯雅さんは沙也華さんと藤堂さん、鳩村さんは夕紅さんだ。石河さんは人を殺したくないとのことなので、誰とも組まないということになった。

「りーちゃん、裾野お兄ちゃんと会いたいから菅野に付いてく~!」

と、手を挙げ屈託のない笑顔で言われ、僕が渋々了承すると、菅野さんは不満そうに口を尖らせた。

それもそうだろう……ほぼ戦力が自分だけなのだから。

だけど僕には裾野さんに教えていただいたマインドもある。いざという時は動く。

「それじゃあ、岐路までは一緒に行動しよか」

菅野さんは槍を大きく振り回してから先頭に立つと、僕らも後に続いた。

真っ白で目印すらもない迷路……。

ここで迷ってしまったら、一生出られない自信がある。

そのうえ、3分歩いたところでちょうど3本の分かれ道と出会ってしまうとは。

実はこの間にも迷路が入れ替わっているのではないか。

真っ白だから気づかれないからと……あな恐ろしや。

「また後でな。間違ってたら引き返す。自分を信じろ」

颯雅さんに肩を叩かれてニッと笑われた僕は、引きつった笑顔で頷くのが限界であった。

これから途中で入れ替えられているかもしれない迷路で3人だけになるなんて……。

万が一トラップでもあって菅野さんの動きが封じられでも――

「むぐっ!?」

だが次に言おうとしていた言葉は、振り返って僕の頬をぎゅっと潰した菅野さんによって封じられてしまった。

「真っ白って不安になるけど、そこまで心配オーラ出されるんは辛いわ。自分の事も信じて欲しいけど、俺の事も信じてや?」

菅野さんは眉を下げて心配そうに言うと、両肩をポンと叩いてくださった。

「は、はい!」

だからこそ僕は自信を持って頷けた。

早くこれだけ成長した菅野さんを裾野さんに見せてあげたい。

だけどあまりソワソワしてしまえば菅野さんに察されてしまうし、裾野さんだって鳩村さんの平和のコンタクトをしていない。

トラウマを見せられてしまえば終わり……。きっとこれから会う裾野さんに慈悲の心は無い。

どうしよう、今度は緊張してきた……だけど菅野さんを信じて、信じて――

「わっ!」

ドンとぶつかったのは壁ではなく菅野さんの背中。

だがそれに驚くことも怒ることもなくただ立ちつくすその姿に僕は、オーラを読み取れない筈なのに嫌な予感がした。

それは石河さんも同じようで、立ち止まった菅野さんに文句を言うことなく生唾を呑んでレールガンを構えている。

「……どうして」

そうして1分程した頃に震えた声で紡がれた菅野さんの言葉は、辛うじて聞き取れる程怯えていた。

ここは行き止まりでも何でもない。ただ、かなり歩いたので出口付近かもしれない。

地形は引きかえす道といくつか行き止まりの通路があった筈だ。

上手く使えば戦闘も有利になる筈だが、欠点としては通路の壁の上に人が乗れる程の幅が無いことぐらいだ。

「大きくなったな……」

そう呟いた人物が誰かだなんて、僕にも石河さんにも一瞬で分かる程安心できるが、今聞くにはあまりにも恐ろしい声であった。

そして菅野さんの脇の隙間から姿を覗き見れば、そこには既に抜刀し臨戦態勢の裾野さんが覇気と返り血を魅せつけるように立っていたのだった。

作者です。


最近すっかり忙しくなってしまいましたが、小説を書いているときだけは素の自分になれますね。

ペルソナと素。

素で居られたら楽なのに、と誰もが思うのでしょうがペルソナだからこそ楽な時もありますね……。

さて、明日からまた一週間頑張りますか!


次回投稿日は、4月22日(日)です!

21日は予定が入っていて厳しいので、22日です。

それでは良い一週間を!!


趙雲

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