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「16話-内部侵攻-」

現在編ではこれからに繋がるエピソード、過去編では片桐組本部の内部へと入り込もうとしますが……?


※約3,800字です。

2018年4月某日 午後15時

藍竜組 裾野、菅野と騅の部屋


 ユーカリに水をあげないと。

危うく忘れるところだったので、水を汲む段階から内心焦っていたのだが、パーテーションを潜る前には心も落ち着いていて、考え事の世界に浸る事が出来た。

 そうだ、裾野さんと菅野さん……どうしているのかな。

僕はまだ知らないけど、きっと仲良く暮らしているのだろうか。

それとも、別々の道で幸せに…………それは嫌だな。

折角……いや、この話はまたしないと。驚いてしまうだろう。

それにしても、どうして裾野さんはあそこまで優しいのだろうか?

人に優しくする前に、自分の事を何とかしないととは思わないのか。

いや違う、既に人間が出来上がっているからこそ優しく出来るのだ。

そう考えると、2年後に僕の人間が出来上がっているのかが不安になる。

2つしか年が違わないのに、それともされど2年なのだろうか……それにしても水の音が聞こえ――

 僕としたことが!!

如雨露(ジョウロ)の水を床にばら撒いてしまっていた。

「裾野さんに怒られる!」

直感でそう思った僕は、洗面所に置いてある雑巾を持ってくることにした。

だが拭くときに膝をついた際に、無意識に葉を見上げていて、そこには赤いレーザーポインターのようなものが付いていて、僕はつい手を伸ばしてしまっていた。

しかし近づいたと思う度にそれは上へ上へと弄ぶように登っていき、もどかしくなった僕は一気に差を縮めようと植木鉢に近づいたが、今度は太腿がゴツンと当たってしまい視線も手も下へと落としてしまった。

そして再び見上げたときにはもう赤いポインターのようなものは消えていた。


 僕は今のような出来事から、まるで"BLACK"のようだったなとしみじみと回顧してしまっていたが、そのとき体を突き抜けるような稲光が見え、そそくさと立ち上がった。

これは早く書かないと! そう思い視線を落とせば雑巾が目に入ったが、片付けは後にしようと雑巾をそのままにしてノートパソコンを立ち上げた。

しかし電源を付けるまでは良かったが手が濡れていることに気付き、今度は電源をつけたまま雑巾を洗い台の上で絞りつつ背後を振り返る。

……そうだ、僕はいつも後手後手だから……裾野さんや菅野さんのようにはいかないのだ。



2018年4月1日 16時前

片桐組本部 屋上扉前



「皆さん……月道に何をしたんですか?」

声のトーンを落とし、ナイフを懐から出し力なく腕をだらんと垂らして言う僕は、どんな風に映るのだろう?

そうだ、僕はこれまで協力してきていただいた御恩に報いる為にも、皆さんに付いて来た。

だが月道が絡めば事情は大きく変わって来る。

裾野さんに敵意を抱いていてもおかしくないと思われている月道のことだから、きっと……菅野さんだって嫌いだし……。

鳩村さんだって分からない……月道をよく思わない人かもしれない。

夕紅さんだって、藤堂さんだって皆……。月道をよく見ていない人ばかりだ。

そんな人たちに僕の腹違いの弟の事なんて分かる筈が――

「分かるよ」

僕の左手からそっとナイフを取り上げ、見上げてくださったのは颯雅さんで、その声色は蝋燭の炎のように優しくも温かかった。

「……」

分かっている? そうだ、心が読めるから僕の考えも筒抜けなんだけど、そうだとしても疑ってしまう。

「疑うのも分かるぜ、ごめんな。でも俺たちは月道を親父の居る医務室に送っただけだ。安心してくれていい」

颯雅さんは俯いてナイフを向けた事を後悔する僕の肩に手を伸ばし、そっと一度だけ撫でた。

心が読めるのは時に人の心配事をいち早く察知でき、適切に対応することができる。

普段は嫌がられる事があったとしても、理不尽に狙われるターゲットを救う為には必須の能力だろう。

「はい……信じます」

僕はだからこそ許そうと、もう一度信じようと思えた。

颯雅さんだって今までもご苦労されている筈だ。

心が読めなければよかったと思うことだって……。

でもきっと、こうやって人を助ける事に喜び、生きがいを感じてるんだ。

僕はそれを信じないと、彼にも一度ナイフの刃先を向けてしまった皆さんにも……。

「本当に、本当にごめんなさい」

頭を下げたときに、刃先を向けられた時は豆鉄砲を食らった顔をしていた鳩村さんが表情を和らげたのが見え、僕のした事は間違っていないのだと確信した。

菅野さんは鳩村さんの隣にいらしたが、不思議そうな顔をしていらっしゃった。

「あてはぜんっぜん気にしてないで。さ、若干陽も傾き始めましたし、早う行きまひょ」

夕紅さんはダブルセイバーの具合を確かめながら帽子を調整し、空を見上げながら言った。

すると菅野さんは僕の隣に立ち、顔を覗き込むと、

「せやな。騅? 黒河はしぶとい奴やから、後醍醐の攻撃食ろうてもすぐに倒れんかったやろ? 大丈夫……大丈夫やから」

と、背中を擦ってくださったので、僕は裾野さんに似てきて丸くなったと思った事もあって嬉しくなり、肩を何回もぽんぽんと優しく叩いてしまった。

でも大きくなりましたね、だとか裾野さんに似てきましたね、などとは言わずにただ黙って目を合わせて微笑めば十分だった。

夕陽に照らされた菅野さんの健康的に微笑む顔には、連戦の疲れは然程無かったが、精神的な疲れが見え隠れしていた。

「す、騅、くん……」

そこに鳩村さんが歩み寄り、小刻みに震える手でスマフォの画面を見せてくださった。

画面には『後醍醐傑の情報は要らないと思うから書かないけど、颯雅さんが言った事は本当だよ。写真を亡霊に撮ってきてもらったから、スクロールして写真を見てみて』

と、書かれていたので、会釈してから画面をスクロールすると、そこには病院にある柵付きベッドに横たわる月道の写真があった。

酸素マスクに点滴、それに幾つもの機械も映り込んでいることから、颯雅さん側も適切な処置を行っているのだろうと安堵した。

「ありがとうございます」

不安そうに見上げる鳩村さんの目を見て、迷惑を掛けた事を許していただいたのを含めたお礼を言うと、鳩村さんは遠慮がちに首を横に振った。

それから何かを言いかけていたが、夕紅さんに話しかけられた事で遮られてしまった

「ねぇねぇ、りーちゃんも付いてって良いんだよね?」

石河さんはこの状況から何かを察したのか、1人屋上の柵付近で立ちながら足を組んで自分を指差している。


 ええと、ここは僕が返事をした方が良いのだろうか。

それ程突然水面が全く揺れない程の静寂が訪れてしまい、石河さんも気まずそうな顔で全員の顔を見渡している。

「あの、僕は良いと思います、けど……」

と、これ以上見ていられない程の沈黙だったので発言してみれば、全員が頷き屋上の扉をくぐって階段を下り始めたのだ。

僕はあまりの驚きに足が竦んでしまったが、石河さんが笑顔でお礼を言って追い抜いていったので、心を入れ替えて後を付いて行った。

「……」

それからというものの、下る階段ばかりが続いていて一向にどこの階にも着く気配がない。

先頭を行く藤堂からすさんも途中から欠伸ばかりしていて、内部を熟知しているだろうに慌てる様子が見られない。

いや、逆を取ればここは元から長いということだろう。

だから面倒で欠伸をするのか……たしかに、そう考えれば理に適うというか何というか。

それよりも面白いのは、隣を歩く沙也華さんとの態度の差だ。

沙也華さんは冷静に堂々と歩いているのに、藤堂さんは面倒そうにしているうえに正面しか見ていない。と言っても、肩や頭に乗る烏が見ているのかもしれないが。

とはいえ今は藤堂さんに付いて行くのが正解というものだろうし、夕紅さんも何も仰らないから平気なのだろう。


 やがて冗談抜きに100段程下りたところで、階段の照明が天井付近の豆電球だけの為色は不明だが重厚で僕の身長の倍はある扉が立ちはだかった。

ふと背後に目をやると、まだ下にも階段が延びており、更に下の階まで下りられるようだ。

「藤堂からす~!」

藤堂さんは間延びした声で自身の名前を半ば叫ぶと、ギィィィィと傷みかけた扉が向こうに向かって開く音が聞こえた。

そうして数分掛けてようやっと開いた扉の先には、無機質で埃1つ無い真っ白な廊下、天井が姿を現し、僕含め片桐所属でない面々は気味悪さを察知したのか、肩を震わせた。

だが夕紅さん、藤堂さんは表情を一切変えずに歩を進めた。

「ここはね~近道なんだよね~」

そして後ろを振り返って言う藤堂さんは、まだ下の階へと続く階段の方を見据えているのか、まただるそうな欠伸をした。

「総長室にはこっからが近いんや。多分あんたらが探してはる裾野さんは、そこに居るんと思います」

夕紅さんは帽子を外しながら言うと、福耳の大きなたぶが軽く揺れた。

「は、はぁ……」

僕は薄気味悪い廊下の壁を見ながら歩いていると、何度か塗装の跡が見て取れた為、全く人が立ち入ってない訳でもないのかと胸を撫でおろした。

何というか、病院を歩いている時の不思議な感覚よりも更に神経に障るような……描写がしづらい感情が僕の中で渦巻いていた。

「あ~早う終わらんかな、この廊下」

菅野さんも嫌気が差しているのか、目を閉じながら歩こうとしたりとかなり居心地が悪いご様子。

そう言いたくなるのも分かるし、実際まだまだ先が長い。

これからどうなっていくのかも、作戦も立てないままで良いのかも分からないが、沙也華さんが側にいるのだから無鉄砲に突入ということは無い筈だ。

それに総長室に近いということは、副総長室を飛ばして乗り込むということになる。

それまでに御手洗か何かで歩いてくる裾野さんと鉢合わせにならない事を願いながら、僕らは白く長い廊下の先を見据えてはため息をついていた。

作者の趙雲です。


遅刻ゼロ宣言通り、しっかり更新させていただきました。

明日から一週間、頑張っていきましょう!!

朝が早い、早い……明日から1週間頑張れば、土曜ですよ。

頑張りましょうもう(語彙力)


趙雲

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