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「13話-質疑応答-」

現在でも過去でも、誰かが質問攻めにあっているようです。

知りたい事は沢山あるが、訊かれる側も秘密にしたい事はある。

どこまで教えれば良いか、線引きも難しいでしょう。


※約8,400字です

※遅れてしまい、申し訳ございません。

2018年4月某日 14時頃

藍竜組 総長室



 目覚めれば裾野さんのベッドの上で、体液でも付いていたらマズイので慌てて飛び降りた。

というのも、かなりの綺麗好きだし……何より自分がされたら嫌だからだ。

 さてはて、昨日言われた通り質問するために総長室に入ったはいいが、どれから聞けばサッパリだ。

そのうえ総長は応接間で座って待っていただいていて、僕に座るよう促していただいている。

「はぁ……」

これ以上待たせるのも失礼だから、ため息をつきながらも重い足取りで着席した。

「…………総長。色々お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

僕は何度か座り直し、深呼吸を繰り返してから切り出すと、総長は腕を組んで首を関節音を鳴らしながらぐるりと回した。

「何でも訊いてくれて構わないが、弟から事前に言われている事は先に言う。昨日弟が首を刎ねた緑澤尊の事だ。あいつ基光明寺家が繋がっている海外組織の本拠地は英国にあるが、本国に居るのは一部の幹部と数十人の部下だそうだ」

そこまで話すと総長は膝を叩いて立ち上がり、「お茶淹れるから、気を遣うな」と、立ち上がろうとする僕を手で制し、奥の部屋へと行ってしまわれた。

なるほど、英国が本拠地なら……藍竜組を辞めた後海外拠点に出向したという裾野さんも、そこにいらっしゃったのだろうか?

総長が戻られたな……この話は今はいいか。

「申し訳ありません、僕の分まで用意させてしまって――」

と、僕が慌ててお盆を掴もうとすると、ひょいと総長に取り上げられてしまった。

「気を遣うなと言っただろう。続きを話すから」

総長は少し苛立たれた様子で早口に言うと、湯呑を滑らすように丁寧に置いた。

「はい、いただきます」

温かいお茶を啜り、ほっと一息つくと総長の表情がよりはっきりと見えてきた。

かなり疲弊していらっしゃるように見受けられるし、スマフォが懐にあるのかよく目線がそちらに行く。

「……」

でもここで指摘するのは違う。いくら僕でも分かることだ。



「部屋にあるユーカリを期限にする理由を訊きたいそうだな」

総長はただでさえ日に焼けていて威圧を感じる顔を上げ、僕の目を射るように見た。

「はい。どうして気にされるのか、どうしても気になります」

僕はそれに負けないように膝の上に置いた拳をぎゅっと握ると、

「あれは裾野が買ったもので、成長する日にちまでご丁寧に書いてあったのは言うまでもないな? それなら裾野が英国に居たことは?」

と、総長は湯呑を両手で擦りながら仰った。

「存じ上げております。2年ほどいらっしゃったと小耳に挟みました」

と、黒目の面積が少ない瞳を見つめて言うと、総長は顎髭を摘まみ黒目を左右に動かすと、

「それなら話は早いか。海外組織は人間オークションに大変興味を持っていて、その為に本国に幹部を送りこんだようなものだ。だが裾野は人間オークションを終わらせようと動いている人間だから、その情報を知るや否や単身で本拠地に乗り込んだと聞いた……」

と、途中までは淡々とお話になられたが、裾野さんの名前が出てくると言葉を若干詰まらせた。

それにしても裾野さんが1人で乗り込むとは、それほど人間オークションを消したいのだろう。

「結果から言うと、裾野は戦略的撤退を余儀なくされた。だが500人中250人程葬ったというから、文句は言わない。それで向こうの情報屋に身元が割れたのだろう、いや……割れさせた可能性もあるが」

総長は語尾を濁し、煙草を吸うジェスチャーをされたので僕は目を伏せて頷いた。

「す……裾野さんは……お金の為に人間オークションをしようとした海外組織が許せなかったんですよね……。この組織、英国でも本国でもそれなりに名が通っているとも聞きますし、自分が背負えるならって――」

僕がそこまで言葉にしてみれば、思わず口を覆う程声も喉も震えてしまい、口を噤んでしまった。

言いそびれていたが海外組織と先程から呼んでいる理由は、向こうが組織名に反応する高感度音感センサーを持っているからだ。

「そうだな。この海外組織はその一件もあり、裾野をかなり警戒している。それで藍竜組所属歴まで分かったから騅に目をつけ、緑澤尊に偽物の情報を発信させようとした。……大方の事情は分かっただろう」

総長は大きく窓側に向かって煙を吐き出すと、春の光に当てられたからか頬がこけているようにも見えた。

「はい。あの……ということは、裾野さんが戻ってくる日が5月5日だから、それまでに僕の手なり口なりを封じたいということですか? それとも裾野さんを……その――」

僕は目を頻りに泳がせ、最終的には言葉を失ってしまうと、総長は「みなまで言うな」と、湯呑を持ちながら首を横に振った。

それから口を付け、ふぅと息をつくと、

「向こうはどちらもするつもりだ。だから隊員を護りたい、と俺は弟に言った」

と、仰ったので、それで昨日の副総長の発言に繋がったのか、と自分に落とし込んだ。

そうでもしないと、裾野さんの身を案じる自分がじゃじゃ馬化しそうだったからだ。

でもまだ気になることがあった。それは相棒である菅野さんの居場所だ。

「なるほど……。そうだ、菅野さんはどちらに?」

僕は"BLACK"以来顔を合わせていない彼の所在が、裾野さん以上に気になっていた為、つい口をついて出てしまった。


 すると総長は意外にも目を丸くし、何度か瞬きをした。

「どうだろうな。俺も気にかけてはいるが、菅野には伴侶も居るうえに立派な大人だ。騅が心配しなくても、もう任せていいんじゃないか?」

そう仰る総長の表情にはどこか安堵も見られ、ほっと胸を撫でおろすと、

「肩の荷が下りたか? そうだな……緑澤尊も親の代から海外組織に縛られてきたんだから、楽になったも同然だろう」

と、煙草を灰皿に押し付けながら言うと、最後の紫煙を吐きだした。

言われてみればそうか……緑澤さんはずっと海外組織に縛られていたのだ。

それで誠も、となれば尚更板挟みだっただろう。それでも僕を殺していい訳でも、誠を奴隷にして良い理由にはならない。

太田紅平さんに対し、颯雅さんが「人を殺していい理由にはならない!」と、叫んだように。

「そうですね。そう言えば、緑澤さんの御遺体は……?」

回顧したことで何か吹っ切れたのか、彼のバックグラウンドに左右されなくなった自分に少しだけ誇りを持てた。

「遺体は火葬されたが、魂は鳩村が頂いている。安心していい、いつでも会える」

総長はそう仰いつつも、どこか引きつった笑顔を見せた。

「そ、そうですね。あと最後に1つだけ、政府の方々にはどんな評価を頂いているのでしょうか?」

と、これから書いていくうえで障害となり得る表社会の政府について訊くと、総長は湯呑の中を見ながら首を横に振り、

「問題無く会食に応じている」

と、深く何度か頷きながら仰るので、多少ご苦労もあるのだろうと眉尻を下げて微笑むと、総長は僕の分の湯呑も手に取られた。

「騅が心配する事は今のところ無い。ただ、助けが必要になれば必ず呼ぶ。そのときは最大限、自分の能力を信じてほしい」

総長は湯呑を持って奥の部屋へと歩を進められながらそう仰るので、もしかしたら裾野さんは僕が能力が云々と不平を言っていたのを心配してくださっていたのだろう。

申し訳ないことをしてしまった……。

つい、オーラが読める菅野さん、亡霊を扱える鳩村さんを羨ましく思ってしまうが、背を向けた瞬間から存在が消えるのは僕だけなのだから自信を持たないと。

このままでは……裾野さんに合わせる顔が無い。

さて、部屋に戻って水をあげたら真実を書こう。

僕にしか書けない史実を。



2018年4月1日 14時頃(事件当日)

片桐組 2階食堂



 紅平さんを倒し、連戦でも息があがらない菅野さん、1戦でも少し疲れ気味の鳩村さん、胃と肺が治ったことに驚きつつも地べたに座る夕紅さん、物陰から戦況を見守り続けた僕、そして本人よりも怒りを紅平さんにぶつけた颯雅さん。

戦闘が終わっても緊張の糸は緩められないまま、鳩村さんのジェスチャーにより自然と円形になって座り、4人で質問する形となった。

「先に言っとくが、冷泉湊、如月龍也、菅野の妻である龍勢淳、そして俺は義兄弟だ。本当は話すつもりはなかったんだが、さっきの事もあったからな。時間が無えから簡潔に話すぜ。こんな話をするのは、お前らを信じてるからだし、俺の事も信じてほしいからな」

颯雅さんは笑顔で埃を下に向かって払い立ち上がると、4人とそれぞれ数秒ずつ目を合わせた。

「俺達4人は生まれた時から妖刀の持ち主なんだ。俺の妖刀は今、他の人間に託してて手元に無えんだけどな。その4振りの妖刀は、持ち主である俺達に様々な能力を授ける代わりに、一生をかけて使命を全うしなければならねえ義務も課した。ちなみに俺は記憶と記録を司る能力で、この能力を使うと引き換えに体力が奪われる。普通に使う分にはさして影響は無えし、元々体力は非凡人並みにあるから問題無えけどな。皆が4人を義兄弟だと思わねぇのは俺が操作しているからなんだ。だから鳩村も疑問に思ってたとは思うが、どんな情報屋でも俺たちの情報は俺が操作している情報しか知り得ねえ。信頼している人達に関しては最低限しか操作しねえけどな。……そうでもしねぇと……このご時世だ、龍也みてえに強いと四方八方から狙われて殺されるし、欲がある奴程喉から手が出る位俺達の能力が欲しいから、すぐに狙われる可能性が大きいんだ。それに俺たち4人は藍竜組、片桐組などの組織に属してねぇから、尚更危険なんだ」

と、俯きつつも凛とした表情で語ってくださる颯雅さんは、僕たちに話すまでに物凄い覚悟を決めていらっしゃるんだろうな、と直感で思えた。


 するとそこまで聞いた菅野さんが、肩を回してからビシッと右手を挙げた。

「別に記憶操作されたって構わないんですけど、淳の能力って何です?」

それに対し、颯雅さんは菅野さんの目を見つつ膝を折り、

「淳に聞かなかったのか? ……お前の妻だろ。3人の能力に関しては俺が勝手に言う訳にはいかねえからな。悪いが本人に聞いてくれ」

と、優しく諭すように答えると、菅野さんは目を伏せて頷いた。

続きを話してください、という意思表示だろう。

「今は4人共能力を使いこなせてるから暴走は100%近い確率でしねえけど、たまに感情が昂るとさっきみてえに殺気が溢れ出たり、感情を抑えきれねえ事がある。ちなみに暴走すると飛躍的に強い力を扱う事が出来るんだが、力に溺れて我を失ってしまうんだ。その時に妖刀の負の性格が顕現する。例えば、俺の暴走だと生きる為には敵は皆殺しにしようとする性格だし、菅野と鳩村が見た淳の暴走だと、暴走させるきっかけを作った奴に執着して確実に自分自身の手で惨殺しようとする性格なんだ」

と、颯雅さんは一旦言葉を切ると、一度響くように手を叩き、

「余談だが、今まで一人だけ暴走してない人がいるんだ。誰だと思う?」

と、全員を見渡して言うので、譲り合いが面倒な菅野さんが「湊さんっぽい」と、口を挟んだ。

僕の予想は淳さんだ。女性が暴走するっていうのはあまり聞かないからだ。

「実は龍也なんだよ」

颯雅さんの一言に僕と鳩村さんは度肝を抜かれたが、夕紅さんはそこまで彼ら4人のことを知らないので、「ふぅん」と、結った赤髪の毛先を弄びながら言った。


「湊は小さい頃に一度だけ暴走しちまって、龍也に怪我を負わせた事があったらしいんだ。龍也は元々天才と名が知れてるだけあって精神力が半端無く強えのと、本人自身の能力も相まって一度も暴走せずに、15歳の頃には既に能力を使いこなせてたんだ」

颯雅さんが続けてそう言うと、菅野さんは胡坐から体育座りに体勢を変えて膝に顔を埋めた。

「そんな凄い人が死ぬなんて、やっぱり信じられない」

僕には、あことしさんとゆーひょんさんの前に倒れた彼の姿、光景そのものが信じられずに呟くと、

「ああ。だから俺も龍也が亡くなった事は信じられねえ」

と、複雑な表情で言い、また口を開くと、

「能力を使いこなせるようになってからは、能力解放で普段抑えている能力を解放する事でそれとは比べ物にならない程の力を使う事が出来る。ただ、3人は少しだけだが、俺に関しては見た目が別人並みに変わる。そして問題が、根本的には変わらねえけど、性格が結構変わるから、4人共あまり能力解放したがらねえんだ。……裾野と菅野の依頼を止めたときは、最終的にこの能力解放を使って、時間稼ぎをしてたんだ」

言葉に詰まりながら、声を震わせることもなく堂々と話した。

菅野さんは彼の言葉に眉が反射的にピクッと動いたが、質問を挟むことはしなかった。

説明が遅れてしまった。

彼が主なのか僕は知らないけど、理不尽な依頼に関しては阻止することがあるって裾野さんが仰っていた。物凄く困惑した表情をしていらっしゃったけど、それは……友情と組織、どちらかを取れ、という選択肢が迫ってくるからだろう。

颯雅さんと裾野さんは……幼馴染だから。


「あとは、淳の能力で4人共見た目がずっと25歳前後で変わらねぇんだ。それはさっきも言った通り、持ち主である限り使命を全うしないといけねぇからなんだ。その使命ってのは、“無実の人を護ること”、“使命を永遠に成し遂げなければならないこと”だ。戦闘以外で死ぬ事は許されてねえし、4人の能力自体がそれぞれの能力の欠点を補い合ってるから、誰か欠けてしまうと共倒れになる。だから俺たちの意思とは無関係に淳の能力で半永久的に肉体が年を取らねぇようにしなくちゃならねえんだ」

颯雅さんが話してくださる一言一言が、僕らには新鮮で夢のような事だけど……使命を妖刀――言い方は悪いけど、物に決められて義務付けられるのって窮屈だと僕は思う。

これはおそらく菅野さんも同じ事を思っていたのか、僕と目を合わせてゆっくりと深く頷いた。

「確かに、何で俺たちの運命を勝手に決められなきゃならねえんだ、って思った事はあった。それで一度湊に反抗的な態度を取った事があったんだが、湊は何て言ったと思う?」

颯雅さんは全員の反応を伺うと、

「『決められているなら決められているなりに、そこで足掻けばいいんじゃないか?』だってよ。少し窮屈だが、俺たちは操り人形じゃ無えから、普段は自由に生活出来る。それに例え恨まれ役になったとしても、今は無実の人を護る事に誇りを持ってるし、それが信念でもあるんだ」

と、笑いを交えながら言う姿に、菅野さんはまた膝に顔を埋めて笑い、夕紅さんは「面白(おもろ)いなぁ」と、膝に両手を置いて微笑んだ。


「それと妖刀はただの物じゃ無えんだ。信じられないかもしれねえが、妖刀にも人格みたいなもんがあるんだ。簡単に言うと、言葉を発せられねえ、持ち主と意思疎通だけ出来る動物みてえなイメージだな。さっきの暴走の話で言った性格もそれが影響してるんだ。他にも、妖刀の人格を俺自身の人格と入れ替える事も出来る。……俺たちの妖刀の性格はおっかねえから、まずそんな事は緊急事態以外でやらねえけどな」

と、続けた颯雅さんは、腕を組んで微笑んだ。

「へぇ……色んな能力があるんやねぇ」

夕紅さんは俯いているから表情は分からないが、口調から関心は持っているように思える。

「そ、そんな、漫画……あった、よう、な……」

鳩村さんは大きな鎌をジェスチャーで表して言うと、僕にはピンと来たので、

「ありましたね、鎌と一緒に冒険する漫画。でもあれは鎌の力を借りたんじゃなかったでした?」

と、助け舟を出すと、菅野さんは首を傾げていて、夕紅さんも肩をすくめていたので、この世界にはやはりアニメ・漫画好きは少ないのだと改めて実感した。


 それからしばらく沈黙が流れ、夕紅さんが左手を挙げた。

「う~ん、あてには分からへんことばかりや。せやなぁ、肉体が滅びへんのもあんましよお分からんけど……せやけど特に、戦闘で死ぬ……どうして戦闘でも死なへんように出来んかったんです? 今は無い言うてる妖刀はんの使命やらんとマズいんでしょ?」

夕紅さんは帽子越しに頭を掻きながら言い、胡坐を掻いている足を組み替えた。

「俺も使命を一方的に与えられた側だから分かんねえけど……完璧な存在はこの世に存在しねえからな。もし戦闘でも死なねえならそれこそ不老不死だし、神様の域だろ。それなら普通の人間である俺達じゃなく、神様でもなんでも違う存在がこの使命を担ってるんじゃねーのかな」

という颯雅さんの回答に、夕紅さんは2,3回ほど頷いた。

多分今彼女の頭の中に浮かんでいる質問は、きっと……誰にも答えられない質問なのだろう。

 続いては鳩村さんが遠慮がちに右手を挙げた。

「あ、あの……た、たまに思う、んです、けど……心、みす、かされ……てい、るよう、な……気が、気がする、んです……」

そう言う鳩村さんは、自身の心臓あたりを擦り不安そうに言葉を漏らした。

「さすが勘が鋭いな。それは妖刀に授けられた能力の一つで、相手の心を読める能力があるからなんだ。……情報屋らしい視点の質問、ありがとな」

颯雅さんは鳩村さんにこれ以上心配をさせないよう、さわり心地の良いシルクの口調で言った。

「い、いえ……」

鳩村さんは、正座を崩さずにぺこぺこと頭を下げると、地面を這うように目線を泳がせた。

「他にも大した能力じゃねえけど、様々な能力を授かってるんだ。例えば、さっき市長にも見せたけど……」

と、目を伏せつつ言うと、菅野さんの腕についた擦り傷程度の患部に手を当ててから放すと傷が治っていた。

「酷い怪我は無理だけど、ちょっとした傷なら治せ――」

と、続けて言い終える前に夕紅さんが前のめりになり、

「あて、鴨脚言います」

と、ツンとした表情で言うので、颯雅さんは「悪い悪い」と、表情をやわらげた。


 ここまで来たら僕も何か質問しないとだけど、全然思いつかない。

僕は今までの質問とお話を思い出し、どこか抜けている箇所は無いか探していると、誰もが気になるであろう事が明るみになっていないことに気付いた。

「颯雅さん、妖刀は今どちらに?」

この質問に対し颯雅さんは、

「裾野に託してる。俺の妖刀はあいつにとっては良薬になるからな」

と、即答してくださった。

「そうなんですね。って、良薬って何です?」

と、僕がすかさず突っ込むと、

「信頼してる人じゃねーと、持とうとした途端死ぬんだ。だが、信頼してる人が持っていると致命傷を受けても生き延びられるからだな」

と、ご丁寧に答えてくださったので、お礼を言っておいた。


 こうして一通り質問が終わると、颯雅さんは腕時計をしている菅野さんに時間を訊き、制限時間も残り20分であることを共有した。

「悪いな、思ったよりも長くなっちまった」

と、颯雅さんが謝罪されたが、全員首を横に振り、気にしていない事を伝えた。

菅野さんは伸びをしながら立ち上がり、ストレッチをし終えると、

「そろそろ行こか。ゆーひょんさんによれば、あとは謎の3人やったっけ? 3戦くらいなら全然平気やな」

と、最後に顔の筋肉のストレッチをし、2回両頬を叩いて地面に置いていた槍を拾い上げた。

「はい! すごいですね……あと3戦を乗り越えれば、本当に裾野さんに会えるんでしょうか?」

僕は俯いたまま立ち上がり、自分の耳にすら届かなさそうな声量で呟くと、鳩村さんは軽く肩を叩き、

「信じよう?」

と、頬のこけた顔で微笑みながら囁いた。

そうだ、鳩村さんは裾野さんの唯一の藍竜組での同期だ。

「はい! 次もしっかりサポート致しますよ!」

僕は鞭を打つように頬を叩いて喝を入れると、5人は食堂を後にした。


 先程よりも団結した5人の前に待ち受けていたのは、階段の前に立っている順路の看板。

それは3階に昇るように矢印が斜め上方向に描かれており、その字はやはり……震えていた。

それに1日程度経過した血が矢印あたりにべったりと付いていた。

この様子だと……書いているところを後ろから蹴られでもしないと付かないから、相当痛い思いをしていらっしゃることだろう。

「絶対許さんで」

菅野さんは看板を指差しながら声のトーンを落としてそう言うと、深呼吸を2,3回して心を落ち着けていらっしゃった。

「まぁ気張るなよ」

と、颯雅さんのお兄さんらしい言葉が背後から聞こえると、菅野さんは階段に足を掛けたまま振り返り、満面の笑みを見せた。

「あれなら大丈夫だな」

颯雅さんは肩の荷が下りたのか、先程よりも吹っ切れた表情で僕らを見回した。


 そうして僕らは3階を目指したが、3階には既に看板が立っており、もう1階上がるように指示が出ていた。それはいつも通りの裾野さんの字で書かれていたので、一同胸を撫でおろしつつ4階へと歩を進めた。

やがて4階の床が見えてきたであろう所で男性2人の話し声が聞こえてきたが、ここから遠い所に居るのか内容までは聞き取れなかった。

だがしばらくすると声が近づいてきて、最初に聞き取れた言葉は――

「またお前か!!」

と、恨みの籠った声色で叫ぶ、男性の声だった。

その声は数年前までの記憶の中からふっと湧き上がる程懐かしい、あの人の声だった。

作者の趙雲です。

何度も遅れてしまって、申し訳ございません。

書きだめはしていたのですが、現在編にて急遽変更箇所が数箇所発生したため遅れてしまいました。


次週も書きだめしてから投稿致しますので、何卒宜しくお願い致します。

それでは良い一週間を!



作者 趙雲

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