「11話-奴隷-」(前編)
ついに現れる裾野に敵対する人物。
その人は実はどこかで見たことが合って……?
現在編では新キャラ登場!
彼はどうして、「賭け事は好き?」と、訊いたのでしょう?
※30分遅刻しました、申し訳ございません。
※約7,600字です
2018年4月某日
貸倉庫
騅
「金髪のお兄さん。そんな顔したら、皺が出来てしまいますよ」
彼は打って変わって穏やかな表情にコロりと変えてしまうと、ライトグリーンの鍔広帽子を取って紳士のように挨拶をした。
作法も美しいが、帽子をよく見るとリボンの代わりに真っ白なキャンパスのような生地のスカーフが巻かれていた。
年齢は……裾野さんと変わらなさそうか? 身長は10cm程僕より低そうなので、180cm程度だろう。
髪色はダークブラウン、帽子を被っているのにハネず潰れずの綺麗な髪をしていて天使の輪もある。
おまけにクセ毛も無く、襟足までかからない印象の良い髪の長さ……それと耳の後ろあたりに編み込みが見えるが、長さから考えると偽物だろう。
髪と同じ色の眉毛は極端に上がっていてキツそうに見えるが、目の色も同じで大きめのジト目で涙袋が発達しているせいか、穏やかに見える。
鼻はかなり小さめで鼻の穴も見えない、唇は上下共に薄い。
人中は狭く、顎との距離も近い。輪郭は逆三角形だ。
肌の色は白い方……という表現が的確だろう。
……先程の礼で揺れたからか、右耳に光っているピアスに目がいった。
帽子と同じ色のそれは、ステンドグラスを三日月形にしたもので大きさは揺れると目が自然とそちらを見てしまう程のものだ。
「は……はぁ」
思わず緊張の糸が解けそうになる僕の背中をトントンと叩いた副総長は、僕の耳元でこう囁いた。
「これが厄介な能力者」
と。
僕には誠実そうな人にしか見えず、この人こそ間違えて帰ってきた天然さんではないかと思っていたが……。
「しかも……腹黒い」
そのうえ、ここまで言われたら流石に納得せざるを得ない気もしてきた。
そんな冷や汗で夏並みの汗を掻く僕を見かねたのか、
「こしょこしょ話は止めてください。ぼくは緑澤尊、先程一緒だった光明寺誠はどこに行きました?」
彼改め緑澤さんは口元でバツ印を作ると、帽子の鍔に手を乗せてきょろきょろと辺りを見回した。
「あ……体調悪そうだったので、病院に連れて行きました」
僕は咄嗟に外を指差して答えると、緑澤さんは目を細めて副総長をじっと見つめ、しばらくするとそのまま目を細めきり、
「ありがとうございます!」
と、また帽子を取って挨拶をした。
「いえ……えっと、緑澤さんはどうしてここに?」
と、挨拶し終え僕に目線を上げるタイミングで話しかけると、
「そうですね……誠と一緒に、悪党を倒そうとしていたんですけど……。病院に行ったのならいいです」
と、優しそうな笑顔で心配そうに言うので、てっきり諦めるものだと思い、「ですよね!」と、相槌を打つと、
「ぼく1人で」
緑澤さんは笑顔のまま扉を軽い下段蹴りで壊してしまうと、その裏に隠されていた武器を手に取った。
鎌……だ。刃の錆びがかなり進行していて、柄も木製で折れそうな程古い。
ただ、緑澤さんと同じ180cm程度まである為、かなり威圧感がある。
よく見ると柄には名前と思しきイニシャルが大量に手書きで書かれていて、刃には何か刻まれている。
「ぼくの鎌……2度と見ることは無いですよ」
緑澤さんは軽々と薙ぎ払ってしまうと、軌跡が錆色で空気中に弧を描いて残り、1秒もしないうちに消えてしまった。
何とか間一髪で避けられたものの、身長程あって刃の割合の方が多いのに何故あんなに軽々と……。
「騅さん、仲間を警察に突き出してくれてどうもありがとうございました」
と、笑顔を崩さないままで口調も攻撃的じゃないのに、耳の中で響いてくる恐ろしい言霊に一歩引いた。
だけど仲間……どの人のことだろう?
「ごめんなさい、仲間って?」
「はぁ……喫茶店通りで外国人に攻撃されませんでしたか? "BLACK"の素人って」
それでも緑澤さんの仏のような笑顔は気味が悪い程変わらず、むしろ狂気よりも幸せオーラが見えるような気がする。
その人なら、片桐組の藤堂からすさんと会うときに襲われた。
あのときは能力のおかげで助かったが、あの人は緑澤さんの仲間だったのか。
「そうだったんですね……ですがあれは正当防衛で――」
「何をおっしゃいますか」
と、笑顔のままとはいえ表情筋が硬くなった緑澤さんの表情は、少なからず動揺しているのが分かる。
「光明寺尊。海外に手を出していたのか、まだ……」
副総長は僕たちのやり取りを聞き、廊下から部屋の安全が確保出来たというハンドサインを僕にだけ見えるようにした。
「流石、藍竜組副総長さん。今は緑澤ですけどね」
緑澤さんはきゅっと表情を引き締めると、肩をすくめてみせた。
「とにかく……ぼくの事を邪魔しないでいただきたいのです。今日のところはもう、戦いたくありませんから……」
続けてそう言うと、鎌を脇に挟んで部屋の中に入れた。
「…………」
副総長は何も顔に出さずに彼を目で追い送り出したので、僕も特に彼に攻撃を加えなかった。
そうしてしばらく1階を調べさせてもらうと、緑澤さんが2階に続く階段から顔を覗かせ、
「明日また来てください、今度はお相手しますし……この家を自由に調べていただいても結構ですから」
と、仏の顔でまた言うので、僕も副総長も引き下がることにした。
望まない、無益で強制的な争いは止めよう……。
とにかく、明日また来くれば相手してくださる。
そのときに、どうして僕を狙うのか訊こう。
何も知らない方からすれば、隙をつけばいいと思うかもしれないが、そうしない哲学と理由が"BLACK"にはある。
2018年4月1日 13:30過ぎ(事件当日)
片桐組 狼階2階
騅
ゆーひょんさんを見送った僕たちが部屋を出ると、入る時に見た順路の看板の矢印はすぐそばの階段を指していた。
この上には……一体誰が待っているのだろうか?
ふと隣を歩く菅野さんの表情を伺うと、槍を勢いよく一回転させて気合を入れていた。
自分の相棒を良く思わないどころか、彼の考えそのものをこの先も邪魔されるとなれば……相棒として出来ることは1つ。
そういうことなのだろうか?
「菅野さん」
僕は花開いた疑問を解決する為呼び掛けると、菅野さんは僕を揺るがない瞳で見上げて頷き、
「当たり前やんか、そんなん。裾野は俺のこと……今も待っているんや。せやけど事情知ったらこいつら無視して行けへんやろ」
と、歯を見せて自信満々に笑ってみせる菅野さんは、とっても力強く頼もしく見えた。
こんなに強くなったんですよって……早く裾野さんに見せてあげたい。
それで一緒にまた戦えばいい。それまでの辛抱。
……ちょうど階段も上り終えた。もうすぐそこだろう。
「そうですね!」
僕は自分の想いを言葉に乗せて鼻の穴を膨らませて言うと、後ろを歩いていた3人も大きく頷いた。
「次……あ、順路あったなぁ。この方向やとなぁ、食堂やね」
夕紅さんがキャップの鍔をクイと上げて指差す先には、裾野さんの震えた字で左斜めを指す矢印と順路……それを目で追うと、夕紅さんの言う通り食堂らしき2枚扉が見えた。
オフホワイトのそれは僕の身長よりも高く、2mは軽く超えているものだった。
素材は……木製に見せかけた大理石製。触ると分かるようにはなっている。
左右それぞれにあるドアノブは黄金そのもの。握るとほのかに人肌を感じる……ということは、これから戦う人が入ったのはつい先程!?
「どないし……待ってや騅、気配は2人や。ドアを開けるんは颯雅さんと俺でやる。バックアップ頼むわ」
菅野さんはノブを握ったままなかなか離れなかったのを見かねて、僕の手を握り退けてくださった。
それからいつの間にかもう1つのノブを握っていた颯雅さんと目を合わせ、捻った瞬間足蹴りで扉を開けた。
すると双子のように顔が似ている男性2人が同時に二刀で菅野さん、颯雅さんに飛び上がってから斬りかかった。
菅野さんは攻撃を刃がギリギリ当たるか当たらないか、という微妙な距離感で敢えて躱し、槍を横にし柄で脇腹を薙ぎ払ったが、蜃気楼のようにボヤッとすると男性の人影は消えてしまった。
一方颯雅さんは、正面から攻撃を受け相手の力量をある程度計ってから流した、ように僕は見えた。
だがそちらも攻撃した後は空気中に消えてしまった。
「ん? あれ見て」
僕の隣に立ち、事態を静観していた夕紅さんは、真正面に見える全面防弾ガラスの高窓を指差すと、何枚か取り外されているのかやけに景色がハッキリと見える箇所があった。
「不自然ですね……」
どうしてそこだけ外されているのだろうか? 僕は砕けたガラス破片も無いことから尚更疑問に思った。
だが菅野さん、颯雅さんが辺りを見回しているということは……気配すら消しているのか。
背後を振り返ってみても、鳩村さんがスマフォと向き合っているのみで人影も敵意も感じない。
「2人って蜃気楼やったんか……せやけどあいつ、見た事ある顔やったな」
菅野さんはコンコンと自身のこめかみ辺りを指で小突きながら呟いている。
「俺らなら……大丈夫だ」
颯雅さんは菅野さんの太ももに一度目を遣ると、軽く肩を抱き寄せた。
突然の行動に驚いた様子を見せた菅野さんだったが、すぐに安堵の表情に変わり、
「せやな! おっと、セッパレートしよか!」
菅野さんはジェスチャーで僕らに下がるように言うと、2人はそれぞれ逆方向に飛び上がって突如現れた雷鳴を伴った青白い閃光を避けた。
「へ~チョッコレートが好きなの?」
CMソングのようなリズムで男性が春物の薄手のみかん色のマフラーを翻し、細い刃の澄んだ夜明けの星空色の二刀を大道芸のようにお手玉しながら訊いてきた。
肩口が大きく開いたアイボリーのTシャツ、下は二刀と同じ色でグラデーションになっているパンツを足首で折り返し、健康的な肌を覗かせている。
くるぶしソックス、バランスボールが靴底にあるタイプの靴の色までグラデーションで繋がっていて、とても今風な人だと思う。
髪色は染め直したような黒い髪で、長さはマフラーでよく見えないがそこまで長くはないだろう。
眉毛は平坦だが眉尻が僅かに下がっている。
目は大きいがどことなく天然そう、というかボケが得意そうな……目尻が下がっていて垂れ目気味だからだろうか。
涙袋が発達していて、頬がふっくらしている。鼻に特徴はなく、唇は小さくて上下共々そこまで大きくない。
輪郭は卵型で近づきやすい印象だ。
「チョコレートは何たらってやつやんな!」
菅野さんは先程まで攻撃されていたのに、何事も無かったように槍を右肩に乗せて目の前の男性に話しかける。
「何たらって何が?」
だが男性は悪気も無さそうにサラッと聞き返す。
この人、自分で話題を振ったのに……天然、なのか?
「……ま、ええわ。お前も裾野のこと悪思てんのやろ? それなら容赦せんで?」
菅野さんは呆れたような顔を一瞬見せたが、すぐに表情を引き締めて今度は男性に矛先を向ける。
「お~っと、話が早い。こっちだけ知ってるのも変だし言った方がいい? 言わない方がいい? 俺、太田雄平」
男性改め雄平さんは二刀の切っ先を疑問と共に2人に向けたと思えば、コンクリートの床にいとも簡単に刺してしまった。
「神崎颯雅だ。冥土の土産に持っていくといいぜ」
颯雅さんは肩をすくめて言うと、刀を下段に構えた。
「土産ってどこにあるの? 物を見せてくれないの? 不親切だなぁ」
雄平さんは食堂の机の下を見ながら二刀から離れ、窓の近くに歩いていくと菅野さんは地面を蹴った。
「ボケたらツッコむのが性分なんやで!」
そしてその勢いのまま雄平さんの体を上半身と下半身で真っ二つに薙ぎ払えそうな勢いで槍を振ると、不思議な事に風圧か何かで菅野さんの動きが止まり雄平さんに近づけず、そのまま地面に着地してしまった。
「は……?」
菅野さんはイマイチ理解出来ておらず、もう一度地面を蹴る。……が、何か水のようなものを蹴る不穏な音がした気がした。
しかし雄平さんが突進してくる菅野さんの槍に向けて掌を向けると、あっという間に槍に電流が走り、
「いっ……! 槍が……!」
防衛本能から槍から手を離してしまい、床に落ちた槍……その電流はいつの間にか出来ていた水たまりを勢いよく伝わっていく。
だが菅野さんは痺れから手首を振ったり、槍を持とうとしたりしていて、意識が向いていない。
「菅野!!」
颯雅さんがそう叫びながら机の上に放り投げたとき、菅野さんは不平を言ったが状況に気が付くと正座して感謝した。
「チョコレートは年号、じゃなかったかな……」
それでも雄平さんは電流が迸る中、普通に水たまりの上に立っている。
何か特殊加工でもしてあるのだろうか?
「お前、さっきからボケすぎや! こっちが追いつけへんやんか!」
菅野さんは殺されかけたのに、正座から立膝に姿勢を変え指差して怒鳴っている。
すると颯雅さんは慌てた様子で菅野さんの肩を叩き、
「まさか……忘れたのか!? 人間オークションを牛耳っていて、お前の事を攫ったことも!?」
と、血相を変えて両肩を揺すって矢継ぎ早に言う。
そうか、この人が……太田雄平。いや、人間オークションを違法に牛耳る輩だ。
流石にそこまで聞くと菅野さんも思い出したのか、というかツッコミに夢中で気づかなかったのか、目を丸くし雷鳴の中青白く顔を光らせる彼の顔を睨んだ。
「すっかり忘れとったわ、そんなこと」
そう言ってゆっくりと机の上で立ち上がる菅野さんは、恐ろしい程自信に満ちていた。
……"商品"として人間オークションに出された事のある菅野さんが。
あれ程攫われてから売られるまでの出来事がトラウマだと言っていたのに……。どうしてそこまで強く居られるのだろう?
「覚えてる? 俺、商品の"印"がある太ももに触れたこと。服で隠れたその"印"には触れただけでもう半分俺の奴隷なこと」
雄平さんも同様に自信に満ちた表情に変え、刺してあった二刀を指で呼び寄せる途中で、
「"俺の盾になーれ"」
と、反抗的な菅野さんの目を揺るぎない瞳で射、動物に命令するような口調で言った。
僕はこのとき、菅野さんが命令に突き動かされたかのように机から降りようとしたため、虚勢だったのではと思っていた。
だから力の限りこう叫んだ。
「その人は裾野さんじゃないです!!」
と。
今になっても何故裾野さんの名前を出したのか、さっぱり分からない。
だが……その言葉に振り向き、人差し指を唇の前に立てた辺りからこれは仕組まれたことだと悟った。
その証拠に彼は机の縁に座り、床からようやく抜けて飛んでくる二刀越しに僕に目を遣ったのだ。
「せやで? こいつは裾野やない。せやからお前がこの電流と二刀の盾にならんとな? 自分のなんやから」
菅野さんは雄平さんを見下すように顔を上に向けると、雄平さんは困惑の表情を見せた。
「何で……触れておけば命令は通じる筈じゃなかったの?」
雄平さんは空しくも飛んでくる二刀を両手でしっかり握りしめると、机の上に立つ颯雅さんに切っ先を向けた。
「この空気は……! チョコレートの先が分かりそう!」
そう続けると、二刀を構えた腕をいっぱいに広げ、
「〈逆転現象〉!」
と、技宣言すると、床から雷が二刀目掛けて落ち、電気が彼に集まってきた。
そしてそれから1秒もしないうちに回転しながら颯雅さんに斬りかかった。
それはまさに、雷が地面から空へと貫き、閃光が雲ごと地面から這いずり回るような逆転現象が目の前に起きているようだった。
「早い!」
颯雅さんはひと言叫ぶと同時に刀で防ぐと、不思議と雷が天井や机に逸れていった。
「ありがとう、チョコレートは昭和だ!」
雄平さんは褒められたと思ったのか、そのまま回転し続け机の上から颯雅さんを落とそうとしたが、その寸手で菅野さんが背中を右手だけで支え、
「ちゃうで、大正や」
と、裾野さんが格好つけたときのような言い方を真似し、脚を組んで目を徐に閉じた。
それと同時に颯雅さんがわざと大きく脇を上げ、敵にも味方にも背を向けたまま二刀の切れ目に槍を刺しこみ雷鳴が鳴りやんだ。
「あ……くっ……」
雄平さんは右鎖骨付近をかなり深く刺されているにも関わらず僅かに息があるのか、腕がピクピクと動いている。
「お前の疑問は解けたやろ」
菅野さんは脚を揃えて座り直すと、ようやく虫の息になった敵の姿を見た。
颯雅さんは特にトドメを刺すこともなく、刀の切っ先を彼の首元に当てている。
「……なぜ…………"印"がっ……はっ……」
雄平さんは力なく血を吐きだし、悔しいのか颯雅さんの剣先を握りしめた。
溢れだす血は彼の涙のようにも見え、どことなく目を逸らしたくなった。
だが菅野さんは彼の方に向き直り、颯雅さんの刀を避けさせると辛うじて菅野さんの目を見たタイミングで、
「せやなぁ、地獄に行くやろし教えとくわ。今の俺のマスターは……裾野やからな」
と、心底嬉しそうな笑顔で言い切った。
……だからあそこまで強気で、それと同時に精神的に不安定だったのか。
その言葉を聞いた雄平さんは、中指と薬指でVサインを作り、
「悪、い……空気……」
と、無理に笑顔を見せたところで白目を剥いた。
彼の敗因はいたって明確だ。
"印"を過信し過ぎたのだ。彼が新たなマスターを探さないとでも思ったのだろうか?
それは少し甘すぎる気もする。
……って、僕でもきっとそうしただろうけど。
「裾野に頼んどいて正解やったな、危なかったでほんまに」
菅野さんは遺体から槍を引き抜くと、血を懐紙で丁寧に拭いた。
「そ、そうだよ……」
鳩村さんは咳をしながら走ってきてくださり、スマフォの画面を見せてくださった。
そこには太田雄平の情報が載っていた。
『太田雄平。空気を読み、雷や風を操る。ド天然で一度引っかかった疑問が解けない限り戦いを挑んでくる。好戦的だが疑問に9割思考回路が持っていかれる為、本当に能力を発揮できる日の方が少ない。〈逆転現象〉は本気のときは上からも雷が降る為、電力が倍増する。チョコレートが好物』
……最後の情報は余計だった気もするが、そのおかげでこうして勝てた気もする。
「鳩村は~ん? このままやと勝ったんチョコレートのおかげやん、これ!」
菅野さんは少々苛立っているのか、スマフォの液晶に指でぐるぐる円を書きまくっている。
「ちゃうと思う。菅野の実力もせやけど、颯雅なんとかさんの助けやとあては思う」
夕紅さんは冷静に腕を組み、落ち着いた口調で言った。
それでも名前は覚えないのかな?
「そうか? 俺は菅野のおかげだと思うけど……ありがとな!」
颯雅さんは爽やかに笑ってみせ、食堂に飾られていた花瓶を雄平の手元に置いた。
「ほら! めっちゃ優しい!」
菅野さんは花瓶に気付かず、鳩村さんと僕の肩を抱き寄せてバシバシと叩くが、すぐに僕は解放された。
身長が10cm以上も離れているから、疲れてしまうのだろう。
しかし楽しい時間は束の間で、くりぬかれた窓の先……枯れた雑草が生い茂った中庭に人影が見えた。
「……」
「……」
「……来たで」
「……」
「あれは……」
それぞれ反応を示し、そちらに目を遣る中現れたのは太田雄平と顔がとてもよく似た和服の男性だった。
お待たせしました、30分とはいえ遅刻です。
申し訳ございません。
趙雲です。
今回も予定より大幅に量が増えましたが、自然と増えていったので故意にはやっていません。
次回更新日は、10日(土)か11日(日)です。
それでは良い一週間を!
趙雲




