表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

スペクタクル映画『釈迦』

5.



当時、映画界は、松竹が総天然色化カラーを、東映がシネマスコープ化(画面比の広角化)を実現し、外国からもたらされた技術革新を遂げていた。カラー化とシネマスコープ化で遅れをとった大映はより精細な画像を実現することを目標とし、二社に先駆けて70mm映画の制作に取り組むことにした。器材やプリント技術は国内になく、全てを国外に仰ぐほかなかったため、予算面や技術面で相当な苦労を強いられることが予想されたが、大映は70mm映画の制作を悲願とした。

世界では『ベン・ハー』や『スパルタカス』など70mmフィルムによるスペクタクル映画が度肝を抜くような圧倒的な迫力で観客を魅了していた。これらの作品はまた当時のスターが相まみえるオールキャスト映画としても話題をさらっていた。

このような世界的な趨勢にならって、大映が自社の抱えるスターを勢揃いさせて撮ったのが『釈迦』である。

大映社長の永田雅一は熱心な日蓮宗の信者であり、過去には『日蓮と蒙古大襲来』という作品を手がけている。同じ頃、同社のプロデューサー奥田久司が温めていた企画案『釈迦伝・光は東方より』に永田は着目し、仏教の開祖である釈迦の生涯を描くことに決めた。

デビューしたばかりの本郷功次郞を主演に、市川雷蔵、勝新太郎の大映の二枚看板が脇を固め、その他豪華俳優陣が出演し、単なる伝記映画ではなく、現実離れした伝承の場面を散りばめたファンタジックな装いの映画となっている。

『釈迦』は永田の個人的な願望もさることながら、松竹、東映にひけをとっていた大映にとっては命運を賭けた作品というべきものであった。そのような作品の監督を任されたのが三隅である。三隅にとっては勿論、光栄な一事であったろう。大映には 田中重雄、衣笠貞之助、溝口健二、渡辺邦男、伊藤大輔、森一生、松田定次ら優れた監督が居並ぶ中で、三隅が抜擢ばってきされた理由は定かではないが、登場人物の細かな描写にもましてストーリーの展開を支える背景画面を重視するスペクタクル映画には、それに長けた三隅の才能が必要とされたのであろう。三隅は、それぞれの場面において登場人物の動作や台詞回しも勿論、大切にしたが、その背景を重視していた。『大菩薩峠』の冒頭で机竜之介が通りがかりの巡礼の老人を理不尽に抜刀するシーンでは、殺風景な峠道を初めに映し、そこで出くわす机と老人の間には行きずりであるという以外、何の接点もないことを伺わせる。それは机の人間性とその後の展開を予感させるに十分なシーンであった。三隅は、シーンの切り取り方や背景の置き方が非情に巧みなのである。台詞や動作なしでも、背景だけでストーリーを展開させていく技量は当代一流と言っても過言ではない。

『釈迦』においても、三隅は場面構成を綿密に把握し、撮影に臨んだ。スペクタクル映画を標榜するだけあって、映画全体が大がかりなセットや仕掛けが組まれていて、予算も相当つぎ込んでいる。絶対にミスの許されない一発撮りのシーンもあり、特に雷鳴が轟き地面が割れるというクライマックスシーンはセットも壮大な規模であり、万一、撮り直しということにでもなれば、会社に莫大な損害を与えてしまう。三隅はそのシーンの撮影では携帯マイクを使って号令をかけ、5台のカメラを一斉に回した。

三隅は背景をどう描きとるかに細心の注意を払い、撮影に臨んでいたが、特撮シーンやアニメと実写の合成シーンは苦手だったようで、それらは全て専門のスタッフに任せていたようである。余談だが、これらのシーンは円谷英二の弟子であったうしおそうじと渡辺善夫が担当していた。完成後、円谷は「よくぞ動画と実写特撮を融合してくれた」と言ってうしおの仕事を絶賛したと言う。

総制作費5億円かけて完成した『釈迦』はわが国初の70mm映画として大きな反響を呼び、大勢の観客を動員することができ、興行的には大ヒットとなった。

三隅にとって、この作品は代表作と言えるものではないが、全編の撮影を通して、彼は確実に自身の活動領域を広げその手腕を伸ばしていったと言える。苦手としていた特撮についても、自身がその道のプロフェッショナルとなることは望まなかったが、映画の進行の中でその手法を巧みに取り入れることを学んだ。そして、『大魔神』第二作の『大魔神怒る』では自らメガホンを取っている。

『釈迦』は今、改めて見てみると、ストーリー展開が冗漫に堕して退屈に感じられるところもあり、また、アニメと実写の合成や特撮シーンは稚拙に思える。それにもまして、大映が総力を挙げて制作したスペクタクル巨編らしい重厚感を味わえる作品として仕上がっている。

後に大映は経営が傾いた頃、「夢よ、もう一度」とこの作品をリバイバル上映したが、その時には既に初映時の熱は冷めており、大コケに転けてしまっていた。動員数は予想を遙かに下回り、赤字を膨らませる結果となり、結局、大映倒産の引き金となってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ