【クローン人間】
ことは19歳
夕暮れの公園
「あー つまんない。どこ見てもカップルばっかり」
「あーあー何?あれイチャイチャして、絶対見せつけてるよね。」
ことはは、公園のベンチに座り1人ビールを飲んでいた。
ことはは高校の時に男子と付き合ったが、パッとしない男で何を言っても「あーあー。うん。どこでも。何でも良いよ。」しか言わない男だった。
ことはも、どちらかというとおとなしめな性格だったから特に気にもしてなかったが1年もしないうちに別れた。
それから2年が経ち、ことはの友達は結婚する子や男アソビをしてる子、ちゃんと将来の事を考えて真面目に、お付き合いしてる子、とみんな彼氏がいた。
「もー こんな所でイチャイチャするなよ!」とビールの缶をゴミ箱に投げつけたがカランカランとゴミ箱を乗り越えて草むらへ落ちた。
「あーもームカつく…」と言いながらゴミ箱の先に落ちたビールの缶を拾いに行った。
「あーツイてないな。」ビールの缶を拾おうと手を伸ばした横にキラキラ光る物が落ちていた。
「ん?何これ」ことははキラキラ光る物を手に取り手のひらに乗せて見ると、それは青く光ったり赤く光ったり色々な色を放たれていた。
「落し物?届けるのも、面倒だしなぁ」
「でも、これどう見てもただの石だよね?」
ことはは気にも止めず、ポトっと石を落として、ビールの缶を拾いゴミ箱へ投げた。
「さて 帰ろ。ボッチにはこんな所にいるのは辛いわ。」と笑いながら帰ろうとした時…
足元でピカピカ光るのに気付いた。
「えっ…これさっきの…」「ゴミ箱の所に落としたのにな。」ことははブツブツ言いながら光る石を横目で見て通り過ぎたが、何かに吸い付けられるように光る石の所へ行き、しゃがみこみ光る石を手のひらに乗せると石に話しかけた。
「ねぇ。アナタはどこから来たの?私に拾ってって言ってるの?」ことはは石に話しかけながらニコリとして光る石を持ち帰った。
ことはは石をドレッサーの上に置いてシャワーを浴びた。
シャワーから出てきた、ことはは冷蔵庫からビールを取り出しプシュと開けゴクゴクと飲みほした。
「プハー。やっぱりシャワーの後のビールは旨い。私は男より1人 こうやって飲むのが一番だな。アハハ…」
ことはは虚しさを、堪えて 無理に笑った。
「さて、寝るか。」と寝室へ行きドレッサーの石を見た。
「なんだ。その辺に転がってる石と変わんないな。」
「ん?あれー光ってないな。あの時は輝いてたのに…」
ことはは、首を傾げるとベッドへ入った。
電気をカチャと消して
「なんだか今日は疲れたな 」と呟きながら、ことはは深い眠りに落ちた。
あれから何時間、寝たのか ことはは喉が乾き目が覚めた。
すると、ことはの視界に、あの石がまた輝いていた。
「えっ…」ことはは目を擦り石を手に取った。
「もしかして、この石、暗闇だと光るんだ。」
ことはは電気をつけ、また石を見た。
すると石はなんのへんてつもない、ただの石になった。
ことはは石に話しかけた。
「あなたは暗闇でしか光らないのね?そうでしょ?」
ことはは、とりあえず冷蔵庫から水を取りゴクゴクと飲みながら寝室へ入った。
「不思議な石だな。でも見てると、なんだか落ち着く…」
ことはは石を握りしめたまま、また深い眠りに落ちた。
気がつくと外は明るくなっていた。
「わー大変。また遅刻しちゃう」
ことはは石の事を忘れ慌てて会社に向かった。
「みゆき、おはよう」「ことは、おはよう。また遅刻だと思ったよ。」と、みゆきは笑いながら、ことはに言った。
みゆきとは同期で入社1年目。
みゆきは賢くて社内では人気者。
私は… ドジで、おっちょこちょいで何をするにもノロマ
そんな私を、いつも みゆきはフォローしてくれてた。
「あ。そうそう、聞いてよ、みゆき。」
「どうした?ことは彼氏でもできた?」
みゆきは茶化すようにニヤニヤと笑いながら、ことはに聞いた。
「もー。みゆきったら…」ことははほっぺを膨らまし、みゆきを睨んだ。
「ごめん、ごめん。で…どうしたの?」
ことはの言葉に耳を傾けた。
「昨日ね…夕方、公園で1人でビールを飲んでたのよ。」
みゆきは、いきなり大声で
「アンタねー男がいないからって女の子が公園で1人ビールなんか飲んでて恥ずかしくないの?」
ことはは「だから、ちょっと人の話を聞いてよ。」
みゆきは呆れたように「はい。はい。わかりました。で?」と、ことはの続きの話を聞いた。
「ことは、アンタ酔っ払ってたんじゃないの?」
「と…思うでしょう?それを気付かないうちに私、持って帰ってきちゃったのよ。」
「みゆき、今日うちこない?」ことはは、みゆきを誘った。
仕事が終わり「ねぇ。みゆきどうする?夕飯、食べてから、うちに来る?」
「ん… 疲れたから、何か買って、ゆっくり食べよう。」
「じゃーそうしょうか!」
ふたりは買い物をしに行った。
「重ーい…ことは何、買ったのよ!」
「ごめーん、色々、足りない物とかあったから…
1人じゃ思いでしょ?だから、みゆきがいるし、と思って…つい買いすぎちゃった。」
ことははニコニコしながら舌をペロっと出し笑った。
「もー、ことはったら…」
みゆきはテーブルの上に買い物袋をドンと置いた。
「みゆき、それより、こっちこっち…」
ことはは、みゆきを寝室へ連れて行った。
「あー石ね。どこ?」
ことはは石を探したが、どこにも無かった。
「あれーどこへ置いたのかな…」
みゆきが、ことはを睨みながら
「ことは、アンタまさか…」「えっ?何よ。」
「まさか、私を荷物運びさせるつもりで誘ったとか?」
みゆきは腕を組、怖い顔で、ことはを睨んだ。
「またまた…私が嘘までついて買い物、付き合わせたと思ってんの?」
ことはは少し涙目で、みゆきを見つめた。
「嘘じゃないよ。本当に光ってたんだってば。」
「明るいと普通の石だけど暗闇だとキラキラと光ってたんだよ」
ことはは思い出したように
「あ…」と言い、部屋の灯りを消した。
すると、ベッドの下からピカピカと光がもれた。
「あ。いた!」「ほら、見て…みゆき、これ。」
みゆきは驚いて、その輝く石を手にとった。
「えーっ 何?…これ」「綺麗だけど、なんか不気味じゃない?」
みゆきはキラキラ輝く石を、ことはに渡した。
「そう?私には綺麗で素敵な石なんだけどな。」
ことはは、素直な気持ちを口にした。
その時、石は、もっと輝き始めた。
「ことはの話は信じたから。早く食べよう。」
みゆきは、ちょっと気持ち悪くなって、その石から離れた。
ことはと、みゆきはキッチンに行き、食事をしながらたわいのない話に花を咲かせた。
翌日…
ことはは会社に行き、いつものようにディスクに座り書類を整理していた。
突然、大きな声がオフィスに響いた。
「おい 神藤…なんだこれは」
ことはは名前を呼ばれビクっとした。
課長のディスクへ向かい
「何か?」
「何か?じゃないだろ!昨日、この書類を〇〇社へ渡しといてくれと頼んでただろ!それを俺の机に置きっぱなしとは、どういう事だ!!」
ことはは泣きそうな顔をしてうつむいていた。
「これは昨日中に届けないといけない大切な書類なんだぞ!!」
課長は、ことはに、怒鳴り
「今すぐ渡してこい。向こうには俺から伝えておくから。」
課長は大切な書類を、ことはに渡した。
ことはは慌てて鞄を取り「すみません…直ぐ伺います。」と言って会社を飛び出した。
ことは頭の中が真っ白のままタクシーに飛び乗った。
相手の会社に着き急いでエレベーターに乗ろうとした時…
ドン
「キャー…」
ことはは思い切りコケた。
「大丈夫か?」
ことはは、鞄の中身を全部散らばしていた。
「すみません…ごめんなさい。大丈夫ですか?」
ことはは散らばった物を拾いながらぶつかった相手を見上げた。
そこには長身のイケメンな男性が立っていた。
「失礼。」
その男性も、ことはの散らばした物を拾ってくれてた。
すると男性が…
書類を拾い「お前…」
いきなり、お前呼ばわりしてきた。
「お前か?俺の大事な書類を忘れた奴は…」
「あ…は、はい」
ことはは申し訳なさそうにうつむき頭を下げた。
「すみません…大切な書類を忘れてて」
男性は、いきなり大きな声で笑い出した。
「お前のドジな、お陰で、うちの会社は助かった。礼を言う。」
ことははキョトンと首をかしげた。
「えっ?どうしたんですか?」
「いゃーお前がこの大事な?じゃないなー このしょーもない書類を忘れたお陰で、俺の会社が潰れずに済んだんだよ。」
ことはは、理由がわからなかった。
「ありがとな」と一言、言い残し去って行こうとした時
男性は振り向き「あ…今度、お礼をさせてくれ。」
と言い ことはに名刺を渡した。
ことはは、名刺を見ながら男性を見送った。
「はーっ…いったい何がどうしたのか、わからないわ。」
「まーいっか。」
ことはは疲れた様子で会社へ戻るタクシーの中で寝てしまった。
ことはは夢を見ていた。
その夢は…
どこかの薄暗い工事で、機械の中から、ことは自身が次から次へと出てきていた。
ことはは本当の自分がどれなのか、わからなくなり泣きじゃくっていた。
「お客さん?お客さん、どうしました?大丈夫ですか?」
ことはは運転手さんの声でハッと目が覚めた。
「えっ?夢?… あれは夢だったの?」
「でも、なんだか変な夢だったな…」
ことはは会社へには戻らず、そのまま帰宅した。
ことはは、ソファーへ腰掛け今日の出来事を思い出していた。
すると、寝室からゴトっと大きな音がした。
「えっ?何?泥棒?」
ことはは、恐る恐る寝室へ入り灯りをつけた。
すると床に、ことはが拾ってきた光る石が大きくなって転がっていた。
「え?どうして?あの小さかった石が…」
大きくなっていたのだった。
ことはは呆然としてカーテンの外を見た。
どのくらい時間が過ぎたのだろう…
窓の外は薄らと明るくなっていた。
「私…いままで何してたんだろう。」
昨日の出来事が夢なのか現実なのか、わからなくなっていた。
ことはは、とりあえず会社へ向かった。
「みゆき、おはよう。私さぁーなんか変なんだよね?」
いきなり、みゆきが怒鳴ってきた。
「ことは、アンタいったい、今まで何処へ行ってたのよ。」
「えっ?どういう事?」「何が、起こってたの?」
すると課長が、ことはを呼び出した。
「おい。神藤くん、ちょっと…」
「きみ、今まで、どこで何をしていたんだね?」
課長は、なんだか、いつもの課長とは違っていた。
「えっと…課長から大切な書類を〇〇社へ届けるように言われて…届けに行って。それから…それから…」
「それから、なんだね?どうしたんだね?」
「えっと…それから記憶がないんです。」
「どうやって自分の家に戻ったのかさえ覚えてないんです。」
ことはは何が起こってるのか、わからなくなり泣きそうな顔をしていた。
課長が「何も覚えてないんだね?」
「〇〇社の大石くんから連絡があったぞ。」
「しばらく君は、休暇が欲しいと…」
「えっ?どういう事?私、そんな事、言った覚えないんだけど。ましてや会社じゃなくて、〇〇社の人がどうして?」
ことはは、その場から逃げるように
「すみません…ちょっと、御手洗に。」と言ってトイレへ駆け込んだ。
「もー、いったい どーなってるのよ。私にも、わかんないわよ。」
「あ…そうだ。」
ことはは、あの男性から名刺を頂いたのを思い出しバックの中を探した。
「あ。これだ。確か大石って…課長が言ってたし。」
ことはは、名刺に書いてある電話番号に電話した。
何回かコールがなった後に
「はい…大石です。」と声がした。
「あ…あのーすみませんが大石さんですか?私、大切な書類を届けに伺った、神藤と言います。」
すると「あー君か。無事だったんだね。」
ことはは、何の事なのか、わからないまま、彼の話を聞いた。
「電話じゃ話が長くなるから、お茶でもしながら説明するよ。」
「あ。はい… わかりました。何処へ行けば良いですか?」
ことはは、場所を聞くと、課長に早退すると伝えて会社を出た。
タクシーを止め「〇〇駅まで、お願いします。」
〇〇駅に着くと、大石さんは、すでに待っていた。
「やぁ…えーっと…名前を聞いてなかったな。」
「あ、はい…神藤ことはといいます。」
「じゃー、お茶でも飲みながら説明しようか。」
と、大石は言いながらスタスタ歩き出した。
大石は、どんどん商店街から離れて人けのない場所へ向かって行く。
ことはは、心配そうに大石について行くが不安でたまらない。と…
ある、場所に着いた。
「えっ?この工場…ここって。」
「思い出したかい?」と、大石は言って「あははは」と笑い出した。
「えーっと…この場所、夢で見た事あります。」
「はぁ?あれは夢じゃなくて現実なんだよ。」と、言って、また笑い出した。
ことはは、大石を見て、ちょっと怖くなった。
「ねえ、あの光る石、まだ持ってる?」
大石は、ことはに訪ねる。
ことはは、心の中で『えっ?ちょっと待って…なんで、この人が光る石の事、知ってるの?』『まさか、みゆきが?いや。そんなはずない。でも、どうして…』
「あのー大石さん、どうして光る石の事、知ってるんですか?」
「んーどうしてかなー」また大石は笑い出した。
「あのー私、真面目に聞いてるんです。どうして私が光る石を持ってる事を知ってるんですか?教えて下さい。そして、ここは何処なんですか?」
ことはは、怖いのを我慢して大石に怒鳴った。
「はい!はい!わかりました。ことはさん…」
大石は真面目な顔をして話し出した。
「実話ね。あの石、俺なんだ。」
『えっ?』ことははドキっとした。
「あの時、俺を見つけてくれて、ありがとう。」
「綺麗と言って君の家まで大事そうに連れて行ってくれて、俺、すごく嬉しかったよ。」
「いつも、あの場所にいて、みんな最初は綺麗と言ってくれるけど、つい俺が嬉しくて輝かせると、みんな気味が悪いみたいで、いつも捨てられてた。」
「でも、君は俺の事を綺麗と言ってくれて大切にしてくれた。」
「だから、俺はお前の希望を叶えてあげた。」
「えっ?希望?私、希望なんてないですよ!」
「嘘つけ。お前は鏡の前で、いつも望んでいた。」
『こんな自分、大嫌い。意気地無しで… あー色んな私がたくさん居れば良いのに…』って…
「だから、あのたくさん居る自分を、あの中から選べ。」
「じゃー今いる私は、どうなるの?」
「それは、お前が、あの中から選んだ時点で本当の、お前は消えてしまう。」
「えー?そんなの嫌だ!絶対、嫌だよ!!」
「私は私…今ここにいるのが本当の自分なんだから。」
そう叫んだ瞬間、ハッと気がついた。
「ことは…ことは大丈夫?私、誰だか、わかる?」
ことはは、目をクリクリしながら
「ここは?ねえーみゆき…私…」
「良かった。ことは、私の事わかるのね?」
「あなた、課長に大切な書類、頼まれて届けに行く途中タクシーに乗ってて事故にあったのよ。」
「ねえーみゆき、今、何月?」
「もー今は7月だよ。ことはは半年も意識がなかったのよ。」
ことはは、病室を見渡した。
「あ、みゆき、私のバック取って。」
「あ、うん!はい…」
ことはは、カバンの中身を全部、取り出し何かを探し始めた。
「あ…あった!あった!」
「みゆき、これ見て。」ことはは、みゆきに名刺を渡した。
「えっ?大石輝?誰?この人」
「私が書類を渡しに行った〇〇社の人よ。」
「あーあの書類ね…」
「ことは、疲れたでしょ?もーすこし、ゆっくり休みなよ。」
と言って、みゆきは病室から出て行った。
数ヶ月後
ことはは、すっかり元気になって職場に復帰した。
オフィスに入った途端、ことはは、不気味な感じがした。
「なんか変…何かが違う。」
そう、ことはは、あの時、本当の自分は私です。私は私ひとりしかいません。と叫んだ事を思い出した。
「え?まさか、ここに居る課長や、みゆきは?」
「もしかして…」
そうです。みんなも同じように大石から言われてあの工場へ行き、見栄をはった、みんなはクローン人間になってしまったのです。
そう!自分は1人しかいない。いくらのドン臭くても、自分は自分。人は、それぞれ違うけど本当の自分は1人しかいない。と、ことはは気付いた。
やっぱり自分は自分で良いや!!
自分を大切に…
終わり。