赤ずきん
ねぇ、狼人間君……教えてよ。
どうして貴方なの。
どうして…………お婆ちゃんを食べてしまったのが貴方なの……ッ。
血の色が染み込んで鮮やかに染まった頭巾を被り、私は今日も貴方に会いに木々に隠れて待っている。フードを深くかぶっている貴方、顔が見えない分表情が何も分からないけれど、ひしひしと伝わってくるのは私に対する《愛情》だった。
計画通り
独りで寂しい貴方の心につけ込んで全てを裏切り失わせて……最後は殺す──
私から全てを奪った貴方。貴方が私にしたように、今度は私が貴方にするの。
見てるだけで愉快だった。私の他愛のない話を聞く貴方から伝わってくる感情が私の身体に染み渡り気分が良かった。
ざまあみろと、貴方は私に殺されるのに……と。
なのに……
時間が経つにつれ、一緒の時間が増えれば増えるほど、、いつの間にか貴方といる時間が心地よいと感じていた。
いつからだろうか。いつしか私は復讐の事など忘れてしまっていた。
ただただ、貴方に会いたくて待ち伏せをするようになっていた。
───「ねぇねぇ!花は好き??この花びら綺麗な色してない??うふふ」
「貴方、顔が見られるのが嫌なのね?だから昨日逃げたんでしょ?大丈夫よ!私絶対見ないから!」
「見て?この綺麗な羽をした蝶!家の近くを飛び回っていたの!貴方に見せたくて連れてきちゃった!ふふっ」───
貴方はフードの下でいつも嬉しそうな感情を出して聞いてくれていた。
私も……自然と笑顔になっていた。
ある日、頑なに喋らなかった貴方が喋ってくれた。
その瞬間。私の中にある何かが満たされた。キラキラと、シュワシュワと煌めく何かが胸の中に溢れこんできた。
……この感情に気付いてはいけない……そう本能が私に警告をしてきた。無視をしなければ……
それなのに、貴方との時間が増えれば増えるほど、その“何か”が溢れこんでは満たされていった……
いつしか、私は、この時が永遠に続けばいいのにと思ってしまっていた──
ダメよ。何のために私は長年の月日を掛けてこの森で過ごしてきたの。
私には、もう誰も居ない……街に降り立って誰も居ない……
あぁ、狼人間君。私も貴方と一緒なのね。
独りぼっちは、嫌だよ……
でも、殺さなきゃ。貴方に対する恨みは消えることは無い。貴方のせいなの。貴方さえいなければ私はきっと、幸せに暮らしていた。
貴方さえいなければ───────
早くこの時間を終わらせなければならない。
溢れた思いは無視したまま─
「……貴方の顔が見たいな……ッ」
震え混じりに、絞り出すようにして放ったコトバ。それは、この物語を本当の意味で終わらせる始まりの言葉だった。
長い長い序盤は、終わりだ。やっと、進む……進んでしまう。
『急にどうしたのだろか』
握っている手から、貴方の戸惑いが伝わってきた。
そうでしょうね。貴方はどれほど私に対して心を開いても顔を見せたがらなかったし、私にも伝えていた。それなのに、私がこんなお願いをすれば混乱するに決まっている。
もし
過去に起こってしまったことが貴方と全く関係なかったら……貴方と木を挟みあわず、憎しむこと無く、目を合わせて話すことが出来たらどれだけ幸せだったんだろう。
その繊細そうな頬に触れ、その真っ直ぐ純真な瞳に私が映り込み、手を絡め合い、この森でいつまでも一緒にいられたら、一体どれだけ幸せだったんだろうか。
「ゴッメンッ……」
カチッ……
運命の時は終焉へと向かっていく───
森で貴方と話す日々は、陽だまりのように温かく宝物のようだった。
触れたかったよ。見つめ合いたかったよ。だけどもう出来ないんだよ。
壊したのは……離れたのは……私だった。
忘れなければならない
この淡い気持ちを────
さて、クライマックスの準備をしなければ。
「ありがとう……さようなら」
例え、私が貴方を愛してしまっていても