表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
If The World  作者: リコ
2/7

remain muted/Blindness

身体が涙に溶けていく。どんどんどんどん溶けていく。形のなくなった手を必死に空に向かって伸ばしても、其処には誰も居ない。底にユラユラ落ちていく。もう何もかも忘れてしまおう─────




皆が寝静まった夜。貴方の寝室に忍び込みベッドで眠る貴方に馬乗りになる。


血が滲むくらい強く握り締めたナイフを頭の上から振り降ろした。




終わる終わる終わる。これで全部終わる。



忘れてしまえば良い。全部全部。貴方への想いも、想い出も今宵ナイフとともに切り刻み捨ててしまえばいい。


初めて貴方を見たあの瞬間からずっと今まで忘れることは無かった。ただただもう一度会いたい一心で私は貴方と再会した。


貴方の私の好きなものを全て代償として捧げて来た。



ねぇ?何がダメだったの?全部全部貴方に会うために捨てたのよ?どうして私を愛してくれないの?私はこんなにも貴方にしているのに貴方は私に何をしてくれたの?


少しでも気持ちが揺らぐ事は無かったの?

たったキス1回。それすらもしてくれない貴方の目に私はどう映っていましたか??


想いを伝える術を知らない私はただ傍に居ることしかできなくて、そんな時貴方の婚約者と会わされた時の気持ちが分かりませんか?



何がいけなかったの?何が私と彼女で違ったの?こんなにも犠牲を払ってきたのに……どうして私を見てくれないの?


憎い。嫌い。悔しい。


だけど貴方の胸が真っ赤に染まる事は無い。どれだけ力を入れても貴方の前で手が震えて止まってしまう。


涙がボロボロ止まらない。


こんなにも


憎くて、



辛くて、



忘れたいのに、




どうしてまだ好きなのだろう。


どうしてこんなにも…………



愛しているのだろう。



愛した分は返ってこないのに。貴方の目が私に向けられる事は無いのに……どうして嫌いになれないのだろうか。


こんなにも辛いなら……この気持ちを知らずにいれば良かったのに。胸が張り裂けそうになって痛い。


早く楽になりたい──────










夢の中で誰かの声が聞こえた。泣き叫ぶようなその声が頭から離れてくれない。


──たった一度で良いの──


何度も何度も誰かは“愛”を求めていた。




海辺で、助けてくれた“あの人”の声とよく似ている声。あの時は意識が朦朧としていたから声しか覚えていない──




ある日、海辺で1人の少女と出会った。歩く度脚が震えていた少女。まるで産まれたての小鹿のようだった。


その瞳は、全てを失った憂いを秘めていて儚く消えてしまいそうだった少女を匿う事にした。


少女は声を出すことができなかった。

それでも笑顔を絶やすことなく人に優しく、癒しを皆にもたらしていた。


妹のように可愛らしい少女。少女が微笑むと心に華が咲いた。


少女と出会った翌日、明日に控えた結婚式の相手である隣の国の王女様に少女を紹介した。


例え結婚したとしても少女を手放す気は無くいつまでも一緒に住む気でいて、王女様も少女を気に入り妹のように可愛がることを決めていた。


少女と出会って3日たった日、結婚式を挙げた。少女は、いつもと変わらぬ微笑みで周りにいる全ての人を癒していたが、哀しそうにも見えた。



……そして今、夢に出てきた泣き叫ぶような声により意識がうっすらと戻りまだ日が開けていない夜に目が覚めてしまった。


驚いた。



左胸目前のナイフの刃。馬乗りに乗っている少女。





いつも笑っていた少女が…………泣いていた。


ナイフを握りしめている手は強く握りしめすぎて手のひらの色が変色してしまっていた。


胸元には少女が流した涙が湿っていた。


何故ナイフを持っているのか。


……これではまるで暗殺ではないか。


驚いたせいか声が喉につまり動けなくなっていた。


やがて少女はナイフをベッドの外に捨て去り私の頬を撫でた。


起きていることがバレないよううっすら開けた目から見えたのは────





今まで生きていた中で1番儚く、美しい微笑みだった。


突然ベッドから降り走り去る少女を捕まえるため追いかけた。


少女は船の甲板、船の端、あと1歩踏み出せば海に落ちてしまう危険な場所に立っていた。


危ない……!と必死に手を伸ばしたその時



少女は海に溶けていった────────



痛い


いたい


イタイ



心が張り裂けそうなくらい痛い




どうして大切なものほどいとも簡単に私の手をすり抜けていくのだろうか。


あの日、海から助けてくれたあの人


妹のように可愛らしい少女


大切にしようとすればするほど失っていく。


大切にすればするほど目は盲目となり本当に大切なものが見えなくなっていく。


どうして見落としてしまったんだ


ポッカリ空いた穴が虚しくて涙が止まらない。


もう誰も離れないでくれ─────

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ