あんたと飛ぶ空
この小説は、東方プロジェクトの二次創作物です!友人に懇願されて書きました。百合って正直苦手なんですけどね…
「魔法使いを…やめる?」
ある晴れた日の正午、博麗神社には霊夢と魔理沙がいた。今ここで、魔理沙の重大発表がされたところだ。
「そうだ」
霊夢の問いに対し、魔理沙の答えは簡潔だった。
「でも、どうして?魔法使いをやめたら空が飛べなくなるし、弾幕ごっこも出来ないし、何より生活が不便よ。あんたは生活の大半を魔法に頼っていたじゃない」
「だから…それも考えたって言っただろ?私の周りには、私よりももっと強力な魔法使いがいっぱいいる。アリスもパチュリーも…。弱い自分に嫌気が差しただけだ」
「そんな…」
事の起こりは、数十分前にさかのぼる。
霊夢がいつも通り神社でまったりとお茶を飲んでいると、これまたいつも通り急に魔理沙が訪ねてきたのだ。だが、そこからはいつも通りではなかった。魔理沙は、霊夢が用意した座布団に座るなり、先ほどの重大発表をしたのだ。
「私、魔法使いをやめようと思う」
と。
そしてこうなった。
霊夢は泣きそうな顔になり、魔理沙は黙りこくっている。この気まずい沈黙を破ったのは、突然開いた空間からの声だった。
「霊夢、あなたの気持ちはよくわかりますわ。弾幕ごっこだってしたいでしょうし、一緒に出かけるときには空が飛べないと困りますわよね」
その話が終わったかと思うと、そこからは紫が現れた。
「でも、魔理沙が魔法使いをやめるか否かはあなたの一存では決められませんことよ?判断は、魔理沙に委ねるべきですわ」
それを聞いた霊夢は、涙ながらに言った。
「わかった…わかったわよ。というか、そんなのわかってたわよ。私の言葉なんかで、魔理沙が止まるはずがないなんて」
魔理沙はかすかに頷いて霊夢の顔を覗き込んだ。
「…ありがとう。明日、魔法使いをやめる儀式をするから、お前だけで来てくれ。約束だぜ…」
次の日。
魔理沙の家には、泣きはらした顔の霊夢と、おそらく使うのは最後であろう、魔法使いをやめるための魔法を記した紙を握っている魔理沙がいた。魔理沙が沈黙を破る。
「それじゃ、始めるぜ」
短い言葉で儀式が始まろうとしたその時、霊夢が急に立ち上がった。
「ねえ、魔理沙」
「なんだ?」
紙を見つめたまま、魔理沙が答える。
「もう、魔理沙の弾幕ごっこは見れないの?」
「そう…だな」
「…じゃあ、私と最後の弾幕ごっこをしない?私、あんた相手に本気出したことなんてほとんど無いもの。なんとなく、歯痒い感じがして…」
魔理沙はしばらく黙ったあと、ニヤッと笑って紙を退けた。
「いいぜ。その代わり、私も本気でいくぞ」
「…望むところよ」
星屑を模した魔理沙の弾幕を避けながら、霊夢は考え込んでいた。
(魔理沙…楽しそうに弾幕ごっこをやってるじゃない。どうして魔法使いをやめたいの?私には理解出来ない。魔理沙は、私のずっと向こうにいる人…。どんなに手を伸ばしても、届かない存在で)
ぼんやりとしていた霊夢は、魔理沙の動きに気づかなかった。
「後ろががら空きだぜ、霊夢!」
いきなり背中に魔理沙が回り込んで弾を撃ったので、霊夢はとっさにスペルカードを発動させた。
「霊符…夢想封印‼︎」
手から飛び出したお札が、青色や黄色の弾を打ち消していく。魔理沙は面白そうに笑って言った。
「さすが、最後の勝負だな…。簡単には終わらせないってわけか。だが、こっちにもスペルカードがあるんだぜ!」
「警醒陣ッ!」
「マスタァァァ・スパーク‼︎」
霊夢が結界を張るのと、魔理沙がスペルカードを使うのは同時だった。
「はあ…はあ…」
息が切れた霊夢と魔理沙が、草の上に横たわっている。霊夢の結界に魔理沙のマスター・スパークが跳ね返され、結局は二人ともダメージを受けたのだった。
「やるわね、魔理沙…」
「お前も、前よりかは強くなったじゃないか」
「じゃあおあいこね」
霊夢が言うと、魔理沙は立ち上がってスカートをはたいた。
「それじゃ、行くか」
そのまま家に向かっていこうとする魔理沙の背中に、霊夢は何かを呼びかけようとしたが、口を閉じた。何を言えばいいのかわからなかったのだ。それでも、魔理沙に魔法使いはやめてほしくない。さっきの弾幕ごっこがすごく楽しかったから。あの楽しさはもう味わえないことが寂しかったから。それに…
「……いわよ」
蚊のなくような声で言った霊夢を魔理沙は見つめた。
「何か言ったか?」
霊夢は服の裾をつかんでうつむき、もう一度言った。
「ずるいわよ!」
「は?」
霊夢は思いの丈を全部ぶちまけるように叫んだ。
「ずるいわよ魔理沙!あんたは魔法使いで、私は博麗の巫女…。私はね?知ってると思うけど、周りにどんな強い巫女がいたって、博麗の巫女はやめられないの!いくら嫌気がさしてもやめられないの!あんたみたいに自由じゃないから…。縛られてるから!だけど、あんたはいつでも魔法使いをやめられる。そんなのずるいじゃない!馬鹿!魔法使いじゃなくなった自分勝手な魔理沙なんて私はいらないの!早苗のところにでも咲夜のところにでもどこへでも行ったらどう⁉︎それに、私は…」
そこまで吐きすてるように言い、泣きじゃくる霊夢の両手を、近づいていった魔理沙がそっとすくった。
「…ごめん、霊夢…」
霊夢が泣きながら続ける。
「私は、あんたと一緒に飛ぶ空が好きなの。あんたがいなかったら、“空を飛ぶ不思議な巫女”の肩書きも意味無いわよ…」
しばらくの沈黙を、魔理沙が破った。
「霊夢…。私、やっぱり魔法使いやめないよ」
涙を目に浮かべたまま、霊夢がにっこり笑って頷いた。
「魔理沙、大好きよ」
「私もだ」
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