仲間
遺跡のダンジョン化から九年が経った。
現在俺は十五歳だ。
あの後、いつの間にそんなに強くなったのかやら、どんな特訓をしたやら、色々聞かれた。
それからガイアに、「もしも冒険者になる気があるなら、王都のギルドに来て俺の名前を出せ」と言われた。
その事を父に話したら、十五歳になるまでは町で過ごせと言われ、今に至る。
三つ上の兄であるカイルは、父と同じ騎士になるため、俺と同じく十五歳、つまり三年前に町を出て王都の騎士団養成所へと行った。
年に数回しか帰った来ない兄だが、会うたびにどんどん強くなっている。
今度会う時が楽しみだ。
あと、リィナ、レンジ、ライラの三人だが、リィナとライラは二年前から王都の学園に行き、レンジは兄と同じく三年前に町を出て行き冒険者になった。
「んじゃ父さん、母さん。俺行くよ」
今は町の門の所で別れの挨拶の途中だ。
「ああ。家の事は考えなくていいから俺らの分も世界を見てきてくれ」
「うん、任せといて」
「年に数回はちゃんと帰ってくるのよ?」
「わかってるって。じゃあ、行ってきます」
「ああ」
「いってらっしゃい」
最後に二人とハグをして俺は旅だった。
◇◆◇◆◇◆◇
街道に沿って歩いていく。
両親には馬車を使えって言われたけど、歩いて回りたいからと断った。
【マスターの場合、馬車より走った方が速いですもんね】
それもあるけど、歩いて見て回った方が楽しいんだよ。
【そうですか。あ、二百メートル先の森に何かが潜んでます】
盗賊だろ。
「そこのお前っ! 金目の物を全て置いていけ!」
ほら、やっぱり。
【数は十人です。前に居るのが五人、森に五人隠れます】
了解。
「おい聞いてるのかッ!!」
一番前に居る盗賊が叫ぶ。
俺は地面からトゲが出るのをイメージし、魔力を解放する。
すると、俺の前で道を塞いでいた五人の足元から土で出来たトゲが飛び出し、五人を貫いた。
「ち、魔法使いかっ……! 撃てっ!」
森に隠れていた奴の一人の号令で、他の四人が矢を放ってくる。
俺は土で壁を作り矢を防ぐ。
「くそっ!」
悪態をつく盗賊たちに向けて水筒の中身をぶちまけ、魔法を行使する。
「‘水の針’」
魔法名の通り、水で出来た針が盗賊たちを突き刺し絶命させた。
魔法についてだが、イメージが出来てさえいれば発動の際に言う魔法名はなんでも良いらしく、今回はこの世界では使われていない日本語をしようしてみた。
まあ、魔法名は言わなくても発動できるんだけどね。
【盗賊がステータスカードを持ってないか確認してください。後で討伐報酬が貰えるかもしれませんので】
あいよ。
盗賊に近づき服をあさる。
十人中四人だけがカードを持っていた。
カードの裏面を見ると、罪と書かれた項目に殺人、盗みと書かれていた。
【カードは随時更新されるようで、犯罪を犯したらカードを見ればすぐにわかるそうです】
便利だなぁ。
【ですね】
◇◆◇◆◇◆◇
盗賊を倒した後歩き続け、日が沈み始めたので野宿をすることになった。
現在は街道から外れ、森の中で夕食のために狩りをしている。
だが、三十分位探しても魔物の一匹すら出てこない。
「おかしいな」
【ですね。静かすぎます】
「サーシャ、索敵」
【了解です】
こう言う時って大抵森に居たらおかしい生物がいるんだよな。
魔物が出てこないのは、その生物に怯えて巣に引きこもっちゃってるからとかそんな感じだろ。
【大正解です。正面五百メートル先に強大な生命反応があります】
やっぱりかぁ。
「夕飯はそいつにしよう。食べられたらだけど」
サーシャの言う方向に歩いていく。
七分ちょっと進むと、いました。
全身が硬そうな赤い鱗で覆われている巨大なトカゲ、もとい食物連鎖のトップで有名なドラゴンさんだ。
今はお食事中のようで、口を地面に近づけむしゃむしゃと動かしていた。
念のために聞くけど、ここってドラゴンが住んでるん?
【住んでません。住処を追い出されたか何かでしょう】
そうか。
一歩踏み出すと、ドラゴンは気配に気づいたのか、俺の方を向いた。
俺を目視したドラゴンは、
「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
と、咆哮し、ブレスで攻撃してきた。
属性は火。
熱の塊が俺を燃やそうと迫ってくる。
「森が燃えるからやめい」
瞬時に魔法で水で包み込み作り鎮火する。
ドラゴンって食える?
【高級食材です】
夕飯にけてーい。
◇◆◇◆◇◆◇
無傷でドラゴンを倒し、テントまで戻って解体し、現在食事中である。
「うめぇ。ドラゴンの肉なんて何年ぶりだろ」
【前回食べたのは確か、マスターが魔族の姫の時で誕生パーティーの時ですから、千年位前だと思います。正確には覚えてませんが】
「もう、そんな前なのかー」
生きた全ての記憶はあるけど、何時の記憶かわからないからなぁ。
まあ、久々に食べれてラッキーだわ。
【肉の匂いに釣られてウルフ種が一匹来ましたよ】
「一匹?」
【ええ、はぐれ狼のようです】
「そうか」
【今マスターの真後ろの茂みに潜んでます】
「ふむ」
俺は焼いている肉の一つを手に取り、狼の元へ行く。
茂みの前に置き、離れると、狼はのそのそと姿を現し、俺をチラチラと警戒しながら肉に口を付けた。
狼は全身を黒い毛で覆われており、火の光が無ければ暗闇に溶け込み見つけることは困難だろう。
すぐに食い終わった狼は立ち去らず、その場でお座りしてこちらを見ている。
「もう食い終わったのか。もう一個やるからこっちに来いよ」
「ウォン」
狼は吠えると俺の横までやって来た。
人の言葉がわかるのかコイツ。
「ほれ」
肉はまだまだたくさんあるので分けてやる。
「ウォン」
礼でも言ったのか、狼は一鳴きして肉を食べ始めた。
綺麗でさぞモフモフであろうその毛並み。
触らせてくれるか試しに手を伸ばしてみた。
俺の手が毛に触れると、狼は一瞬ビクッとするが、嫌がらずに触らせてくれた。
心地よいモフモフ加減だ。
【ダークウォルフと言う種族だそうです】
見たまんまだな。
食べ終わり満足したのか、狼はその場で伏せて眠ってしまった。
警戒心なさすぎだろ。
「まぁいいか。俺も寝よ」
戦闘やら解体やらで色々疲れたので今日は寝ることにした。
テント内に寝袋を出し、火を消して眠りについた。
あまりの暑さと重さに目を覚ますと、視界は何やら黒い物体で覆われていた。
「お前……」
どうにか押しのけ正体を確認すると、夜に現れた狼だった。
こんなモフモフが覆いかぶさってれば暑いし重いわけだ。
【おはようございます、マスター】
おはよう、サーシャ。
なんでこいつが俺の上に?
【夜中、マスターが眠りについた後ですかね? 寒かったようで、彼はマスターを湯たんぽ代わりにしたようです】
なるほどな。
確かにこの辺りは夜になると寒いからな。
一通り片づけを終え、出発の準備が完了した。
ドラゴンは素材と肉を別にした後、この世界特有の魔法である‘ボックス’を使い収納した。
この魔法は、使用者の魔力量に伴い収納出来る量が決まる魔法で、俺が使うとほぼ無限に入ると言うある意味チート魔法だ。
「さて、行くか。じゃあな」
「ウォン」
狼と別れを済ませ、王都への旅を再開した。
【マスター、彼付いてきてますよ】
「ああ」
しばらく歩いてきたのだが、先ほど別れたと思っていた狼が付いてきていた。
【どうするんですか?】
「どうするって言われてもなぁ……」
俺は振り返り狼を見る。
狼は俺が振り返ったのと同時にお座りをした。
「お前どこまで付いてくるつもりだ?」
「ウォン」
【ずっと。だそうですよ】
「つまり俺の仲間になりたいと?」
「ウォン」
【ああ。だそうです】
「そうか。……まあ、旅は道連れって言うしな。一緒に行くか」
「ウォンッ!」
「うわっ!?」
俺はいきなり狼に飛びつかれ尻もちをつく。
狼は俺の額に前足を押し付け魔力を流してきた。
魔力を流し終わると、狼は俺の上から退く。
「……なにした?」
「ウォン」
【契約。だそうです】
「主従契約か?」
【ああ。だそうです】
「勝手なことを……」
「ウォンウォン」
【だから名前を付けてくれ。との事です】
「ノワールでいいだろ」
【安直な名前ですね】
「そんな直ぐに思いつかんわ」
「ウォン!」
【気に入った。だそうです】
「ほら見ろ」
【否定はしてませんよ】
「はいはい」
「ウォン」
こうして旅の仲間が一匹増えましたとさ。