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八 夜のカフェ
ケイコは袋から二冊のペーパーバックを取り出して、
「これ、わたしの宝物。」と言った。
手に取ってみるとピーナッツブックスだった。
「へぇ、スヌーピーが好きなんだ。」
「一緒にみよう。」ケイコが隣に座った。
「わたしライナスみたいな弟が欲しいな。」
「ぬけさく鳥も面白いよね。」
「ピーナッツブックスには大人が出てこないね。」
それから噴水ジュースやお菓子工場や夕方のオルゴールの話をした。
少しだけねむかったけど、夢中になって話した。
店の外は雨ににじんでいて、救急車のサイレンが響いていた。
ビリヤード屋のあたりだろうか、なぜか胸さわぎがする。
そして急に話が止んだ。
お互いにとてもこわれやすい家庭にいる。
家庭って、こわれるものなのかもしれない。
何かあったら、もう二度と会うこともなくて、
ピンクのフラミンゴやピーナッツブックス、
エックス山の事も忘れてしまうような気がした。
ふたりは絵のようにだまって水飲み鳥をみつめていた。