三 大黒湯
三番目の舞台は銭湯です。
「三三のゾロ目、カブじゃないけど縁起がいいや。」
と、あのひとが言った。
2足の履物を下駄箱に収めてから木の鍵を引き抜く。
「大人と中人。」
「47円。」
番台で小銭を払う。
着物は一緒の藤籠に入れてゆく。
靴にだけ鍵をかけるのは何だか変だ。
糊の効いた空色の国分寺サウナの名入りの下着を誇らしげに自慢するあのひと。
分銅式の体重計は金属の冷たさで、濡れた縄敷はじめじめした汗の冷たさだった。
かけ湯、桶とタイルがぶつかる音、子供の数える声、いろいろな音声が湯気に溶けている。
風呂では話をしないで済むのがありがたかった。
熱い湯で、なんだか朦朧感。
「うぉーぅ。」
どうして大人は湯につかるときにうめくのだろう。
「ほら、面白いぞ。」
湯の中で、あのひとの体から黄色い光線が発射されていた。あわててとなりの浴槽に逃げた。
道化顔も、青尻の大人もいなかったが、背中に青い模様なら十人に一人はいた。
あれは悪い人だと聞いてたけれど、あのひとの背中に模様がないのは不思議だった。
脱衣場には郵便番号制度のポスターが貼ってあった。逓信省のTの字をした顔マークが無気力で空々しい顔をしていた。
結局のところ、青ケツは自分だったのだろう。