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こくぶんじのみずのみどり  作者: 豊洲 太郎
2/8

二 延命地蔵

昭和の国分寺シリーズ第二回は駅の連絡通路から北口の延命地蔵までです。


 「おう、どうせ馬の帰りだろ、長いツラしやがって。右も左も判らんのはてめえだ。」

 あのひとの左手は既に相手の襟首を掴んでいた。

 駅の南北を継ぐ通路は狭い高架でホームに降りる階段に支えられていた。

 東京競馬場前発のチョコ電がホームに着くと無数の靴が溢れ出した。

 「この通路はな、電車が着くと競馬野郎どもが一斉に駆けてくるんだ。皆お揃いで馬面してるから、不思議なもんだ。ほらな、」

 黒い靴の群れを見ていたら、急に目の前が活字だらけになって、新聞の匂いがした、顔にインクが付いたかな。

 「ちょっと待て、この野郎。」

 「ここは左側通行ですよ。」

 「子供を突き飛ばして規則がどうのと、つべこべ言うな、馬面野郎。」

 「馬面野郎?」

 「おう、どうせ馬の帰りだろ、長いツラしやがって。右も左も判らんのはてめえだ。」

 あのひとの左手は既に相手の襟首を掴んでいた。

 とっさにポケットからパチンコ玉を一つ取り出すと、掲げて訴えた。

 「ごめんなさい、おじさん、僕がパチンコ玉を拾おうとしてぶつかったんだ。」

 「これは、悪かったな、おじさん。

  俺はさ、タケシバオーよりはシンタロー派だよ。」

 あのひとは呆れるほど爽やかな笑顔で、握手を差し出した。

 危ない、その手に乗ったら、おじさんは右手を捕まれて、顔を連打されるはずだった。

 とりあえず何か叫んで止めなければ。

 「パチンコ玉ハ、錆ビテイルホウガ入ルヨネ。」

 あのひとは一瞬驚いた顔をしてからこちらを睨めつけて、笑った。

 「せがれがこれじゃ、馬がどうのといえないなぁ。都商事の社長が喜びそうだ。」

 と、いなくなった相手に言うと、見物人たちもお開きになった。

 「その錆玉、どうした?」

 「延命地蔵サンノ前デ拾ッタ。」

 「延命ってあの北向きの、、、よし、そのガセ玉一発で運試しをするか。」

 ポケットから残りの錆玉を一掴み取り出して差し出した。

 「それじゃ、ゴト師だ。」

 北口に出てチェリー文庫を右に、自転車だらけのはたまん前を通る。商店街には盛大な七夕飾りが垂れ下がっていた。

 「これだけ熱いと一雨来るな、七夕飾りが台無しになりそうだなぁ。お地蔵様に、願掛けするぞ。」

 お地蔵さんに手を合わせていたら鼻から熱いものが滴った、指で拭うと血だった。

 「お前が適当な嘘を付いたからバチが当たったんだ、そのガセ玉とお菓子もお供えしな。」


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