(8) 異世界
※いよいよ、異世界について、その一部が明かされます。
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異世界。異国。異世界。異国。異世界人。異国人。異世界人。異世界人。宇宙人…異世界人。
やや戸惑いながら、頭の中の二人への認識スロットマシーンの絵柄を何とか「異世界人」で揃えて止めて、取りあえず、俺は二人を異世界人であると認めることにした。
正直、昨日や今日、初めてあった人間に、「私たち、実は、異世界から来たんです」って真面目な顔で自己紹介される日が来るとは、生まれてこの方、想像すらしたこともなかったから、どうリアクションをとって良いかわからないんですよ。俺。
っていうか、イジメられるわ、二階から飛び降りさせられるわ、銃?みたいな不思議な技で大怪我負わされるわ、綺麗な姫様に看病されちゃうわ…そんで、極めつけは、変な壮年のオッサンに真面目な顔して「俺たちはこの世界の住人では無い。全く別の世界から来た」とか言われちゃうわ・・・何て目に会ってんだ突然、俺?
いつか人生の転機が訪れて、負け犬人生から成功者へ大転身!とか、そりゃあ夢には見ていたけれど、俺が望んでいたのは、こんな不思議ちゃんな人生の転機じゃないぞ…。ははははは。
「私たちは、異世界から来たのではないぞ」
はい?異世界でもないの?姫様?俺もう想像力がついていかないです。
「私たちが、異世界に来たのだ」
あー。そりゃぁ~、そうかぁ~。自分で自分を異世界人っていうヤツは居ないよなぁ~。もう、さっきから感情を弄ばれすぎて、少し変なテンションになりつつある俺だけど、もう、いちいちリアクションを取る気力もなくなってきたので、黙ってそのまま二人の言い分を聞くことにする。
だいたい、不思議な魔法っぽい技を見せられたからといって、それだけで異世界の存在を信じられるかっていうと、実際、無理なわけで、でも、取りあえず認めておかないと話が前に進みそうもない。
そもそも、嘘をついている相手から、真実を話すと言われて話を聞いているのに、嘘どころかおとぎ話やファンタジーのストーリーを聞かされるハメになるなんて、何て俺は不幸なんだ。
「姫様。我々からすれば、仰るとおり我々が異世界へ送られたということに確かになるのですが、この者からすれば、我々が異世界から来たということになるのです」
俺の心の中の混乱を知ってか知らぬか、筆頭従者のオッサンは、姫様をたしなめている。俺が何も言わずに二人をじっと見ている…実際には混乱して放心中に近い状態なのだが…のを、先を話せと促しているものと受け取って、筆頭従者は説明を続ける。
「お前たちは、この世界のことを地球と呼んでいるな?そして、この地球の外に、宇宙という、より広い世界を意識しているようだ。お前たちの世界は球の形をしていて…だから真っ直ぐ進んでいくと、やがて自分の元居た場所へ戻ってくる。この世界でいうところの2週間の間に、私がこの世界の書物で学んだことだが、間違いないな?」
うん…と、俺は頷く。
「我々は世界の名など普段はあまり意識していないが…それと同じような意味合いで表現するならば、我々の世界の名は基盤ということになる。
そして、お前たちの宇宙と呼ぶ世界に対応するものは、我々の世界には無い」
宇宙がない?
「お前たちの言う、星という概念が我々には無いのだ。右へ進めば、左へ戻ってくるなどという、こんな不思議な世界が存在するとは、まったく驚くべき事だ」
おいおいおいおい。中国とかインドとか、古代の地球観には確かに「地球平面説」と呼ばれる考え方があったけど、そもそも「地球」と「平面」って言葉自体が「間違ってますよぉ~」って自己主張してる説だし。…え~と。亀とか象とかの背中の上に乗ってるとか言い出さないよな?まさか。
「…あのさ、黙って聞く気はあるんだけどさ…さすがに『空』とか『太陽』とか、『昼』とか『夜』は有るでしょ?『星』っていう概念がないのは…まぁ、自分たちの住む大地が丸くないって信じてるなら、空に光る星への解釈も違っても仕方ないかなって思わなくは無いけど…宇宙に対応するものが無いって?」
俺の質問に、姫様と筆頭従者は顔を見合わせて首を傾げている。無いのかよ?さすがにラノベを読みあさって異世界への抵抗感が普通の人よりは少ないだろうと自負する俺でも、不安になってくる。
それでも、黙っていては話が進まないと気持ちを切り替えたのか、筆頭従者は説明を続ける。
「『空』というのが、頭上の遙か上の空間のことを言うのであれば、『空』はある。それから、『昼』と『夜』というのは、この2週間の間に十数回繰り返された、『闇の刻』と『光の刻』のことをいうのであれば、それも有る。が…『太陽』というものは、無い。頭上の上に、どこまでも空間が広がっているというこの世界とは、我々の世界の上方の空間は全く違うのだ。上には、下がある」
上には、下がある?なんか哲学的な表現に聞こえるけど?意味がわかんねぇ~。よく、自分が最高だと思っているものより、さらに良いものに出会ったりすると、しみじみと「上には、上があるねぇ」なんてため息が出ちゃったりするけど、そういう比喩では無いよね?
「お前たちは、飛行機という非生物の乗り物を利用して『空』を飛行するらしいが、我々は、飛行能力を有する者は自ら飛行し、そうでない者は飛行する能力をもつ生物の背に乗り飛行する。かなり高い空間にまで登ることができるが、その先には限りがある。どこまでも行けるワケではないのだ」
「いや、俺たちの世界だって、飛行機で行ける高度には限界があるよ」
「そういう意味ではないのだ。お前が先ほど言った『宇宙船』のように、仮にどこまでも高く登れるような乗り物があったとしても、我々の世界では、その限界より上には登れない」
「天井があって、ぶつかっちゃうってこと?洞窟世界?」
「『洞窟世界』などというものが、この世界にはあるのか?それが、どんなものか私が調査した資料の中には記述が無かったから、それについては分かりかねるが、おそらく違うのではないかな」
「いや、まぁ洞窟世界って言葉は、いま俺が適当に口走っただけだから、調べた中に書いてあったらむしろ驚きだけどさ。地底人とかそういうのが住むSF小説とかは、結構沢山あるから、そういうのかなって思って」
「上に登ると、下に出てしまうのだ」
姫様が、同じように不思議なことを言う。
「お前たちの前に進むと、いつか後ろから同じ場所に現れるのと少し似ているのだが、上に登ると、その登った時の『刻』によって場所は異なるが、基盤にたゆたう泉や湖などの水面下に出てしまうのだ。お前たちの世界の今、この『昼』と呼ばれる刻の『空』に近いのは、我々の『光の刻』にあたるのだが、『光の刻』の『空』の色は、『光の泉』の水の輝きを水中からみているのと同じなのだ。因みに、逆に『光の泉』に深く潜ったらどうなるか?という問いには答えられないから聴かないでくれ」
「どうなるんだ?」…そんなこと言われて聴かないでいられるワケがないから、当然、即、聴いてみた。
「…この世界にもあるだろう?浮力というのか?…深く沈もうと願っても、ある程度の深さまでしか沈むことができないのだ。生者にはな。死する覚悟があれば、叶うのかもしれないが」
なんというトンデモ世界!…上下で空間が閉じているのか?でも、『刻』とかいうのによって、繋がっている場所が異なるってことは、上下が座標的に一対一で対応して繋がっているんじゃないってことか?
「ということで…私が『この世界の何処にも我が祖国は存在しない』と言った理由が分かってくれたか?」
いやいやいやいや分かれって無理でしょ?説明としては、確かに、そんな世界と、俺たちのこの世界とが、仮に宇宙を隔てたとしても空間的に繋がることが不可能だってことは仕組み上、無理だって理解できるけど…。そもそも、そんな世界の存在自体が、俺の脳内でイメージ化できないもの。
嘘だ!…と叫びたいけど…そもそも、こんなトンデモ世界を、俺に真実を話し、俺から信じてもらおうとする人間が話す意味が無いってことが分かるだけに…なんというか、認めたくないけど、妙にリアルな感覚も覚えたりしちゃうんだよな。
「ま。今は、信じてくれなくても仕方ないと理解している。が、最終的には、姫様のガーディアンである限り、お前にも、実際、私たちの祖国に伴に帰って貰うのだから…嫌でも、その時には信じることになる」
怖いこと言った。今、このオッサン、すんげぇ怖いこと言った。
でも、今の一言で、俺は、異世界が実際にあるんだと、心の奥深いところで、何故か妙に納得してしまったんだ。
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そして、ますます、俺は異世界へと誘われることになる。
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