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Lip's Red - 姫様と緋色の守護者  作者: kouzi3
第1章 異世界との邂逅
8/39

(7) 不思議な力

・・・


 「ちっ。仕方ないな。説明してやる」


 筆頭従者さまは、やっとその気になってくれたようだ。俺は何だか緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 「最初に、これだけは言っておく。姫様も私も、お前を騙して喜んでいたわけじゃない。むしろ、お前を巻き込んでしまって申し訳ないと思っているし、できることなら、同志として信頼を得たいとも願っている」


 俺の呼び名が「小僧」から「お前」に変わった。俺は、黙って話しを聴くことにする。


 「私たちの話は、全くの嘘というワケでもないんだが、お前が混乱しないように偽りが混じっていることも、お前の言うとおり事実だ。ちなみに、マスコミの『取材』ってのがどういうものか確かに、調査不足だったようだな。お前の指摘が本当なのか、ただのハッタリなのか、それすらも分からぬ。分からぬ以上、私の負けだ。お前には、何としても、姫様の願いに『うん』と言って貰わねば困るからな。何もかも正直に話すとしよう」


 筆頭従者は、そこまで言うと、おもむろに左腕を肩の高さに上げて、真っ直ぐ伸ばす。何を?と聴く間もなく、俺は辺りの空気が急激に変容したのを感じた。そして、次の瞬間、間抜けに口をあけて固まった。

 筆頭従者の左の人差し指の先が、闇色に染まったからだ。黒と表現すべきかもしれないが、それは光と同じように、指先に灯っていた。黒い光なんて、どう表現していいかわからないから、無意識に闇色と表現してしまったのだ。

 次の瞬間。反対側のベッドの頭部側の壁が弾けた。音もなく。


 「なっ?」


 何を?と言ったつもりだが、俺の口からは間抜けにも「なっ?」という馬鹿で阿呆な声しかでなかった。何?今の?

 弾けた壁と筆頭従者の指先を交互に見る。端から見たら卓球の試合を真横で見ているみたいで、きっとさぞ間抜けなことだろうけど、そのぐらいビックリしたんだから仕方ない。もちろん筆頭従者は、西部劇のガンマンではないから、指先を口に持っていき、「ふぅ~っ」っと息を吹きかけたりはしない。が、確かに、これは銃のような武器だと言われるのが一番、しっくりくるな。でも、絶対、こんな武器はありえないと思うけど。だって、既に、筆頭従者の指先の闇色の光は消え去って、よく見てみろ…と言わんばかりに、俺の目の前に指先が差し出されているが、武器のようなものは何も見あたらない。極めて普通の…オッサンの指の割には、不思議と繊細そうな綺麗な…指だ。


 「お前の記憶に残っている相手が、やったのはこんな感じの技で間違いないか?」


 改めて声をかけられて、俺はやっと言葉を発した。


 「いっ!?今の何?…わ、技っていうより、もはや魔法に近いよね?」

 「ほう。手品だと言われるかと思ったが、そこで魔法と言ってくれるとは。話が早くて助かる」


 まてまてまてまて待て!何言ってんのオッサン!もう、オッサンに逆戻りだオッサン。そんな危ない手品は嫌だけど、さも普通に、「魔法は、ご存じのとおり実在するわけですが~」的なことを、当然のような顔しておっしゃってるんですか!?俺は、当然、本当に魔法だと思ったわけじゃなくて、比喩的に魔法みたいだっていう意味で言ったんだけど?正気ですかい?あんた。


 「もちろん、私が今やったのは魔法ではないがな」


 …そ、そうだよね。良かった。


 「まず、私たちの世界の言葉を使って説明させてもらうと、今の一連の行為は、まず、私の指先に因子(ファラクル)を発現させるための要素(ルリミナル)を集める」


 そう言って、筆頭従者は再度、指先に闇色の光を灯し始める。さっきと同じように、やはり何だか空気がざわつくように変わった。


 「そして、要素(ルリミナル)により励起された因子(ファラクル)能力(パーランス)を解放する」


 また、病室の壁が弾け散った。


 「な?」


 なじゃねえよ。俺は説明を求めたけど、こんな非現実的な力を見せてくれとは、一言も言ってないんだけど。


 「何だよ?今の?っていうか、そんなの見せてどういうつもり?『逆らったら、命は無いぞ』的な警告?」

 「いや。まず、お前達の知らない力が、私たちにあることを知ってもらいたかったのだ」


 ふと気が付くと、いつのまにか立ち上がった姫様が、弾け散った跡の残る壁のそばにまで移動し、その壁に手をかざしている。俺が姫様に気づいて、そちらに目線を映したことを、チラッと振り返って確認してから、姫様は筆頭従者と目を見合わせ、軽く頷いてから、目をとじて、眉根に力をこめた。

 すると、姫様の手のひらから紅玉色の光があふれ出す。先ほどの筆頭従者の時よりも、より強い空気のざわつきを俺は感じて、俺は思わずブルッと身震いをした。

 次の瞬間。壁は、何事も無かったように、元の状態に戻っていた。


 「ということで、私たちは、この世界の住人では無いのだ。理解してくれたか?」


 俺は、考えた。筆頭従者が、今言った「この世界」ってどの世界なんだろう?と。そもそも、異国の姫様だと思っていたわけだから、この世界が、この街やこの国ってことなら、何も驚くセリフではない。「それは最初から分かってるから、早く先を説明して!」とかツッコミを入れられるんだけど…いくら国外にでも、今みたいなことができる人間は居ないよね?あ、中国剣法の達人とか、気功で「はっ!」とかやると、離れた場所のものを破壊できるとか、なんとか聴いたことあるけど…。今のは、そういうのでは無いよね。あと、テレビの画面越しなら、今みたいに、例えばガラスを割って、それをまた元に戻すとか、そういうの見たことあるけど…それとも違うよな。そもそも、俺一人のために、わざわざ、そんな仕掛けを用意して手品を見せる意味がわからないし。

 ということは、地球上の人間では無いっていう意味で間違いないんだろうな。そこでまで、考えて、俺はやっと頷いた。


 「あぁ…。ビックリしたよ。あなたたちは宇宙人だったんですね」


 ガタッ。


 音がしたので、そちらを見ると、何故か姫様がよろけてベッドの手すりにしがみついている。


 「何故、そうなる?」


 あまり表情を変えない筆頭従者も、意表を突かれたという顔をしている。


 「え?だって、この世界の住人じゃないってことは…世界って言えば、この地球、この星のことでしょ?ということは、宇宙船に乗って、余所の星からやってきたっていうことになるでしょ?。俺、いつか宇宙旅行してみたいと思ってたけど、実現するのは、俺が生きている間には無理だと思っていたよ。でも、そうか宇宙人と仲良くなれたら、宇宙旅行もできちゃうんだ。でも、家族が居るし…そんなに長いこと地球を留守にはできないんだけど…」


 話している途中から、彼らの表情を見ていれば「あぁ、宇宙人では無いんだ…」と気づいた俺だが、でも、この世界とは別の世界なんて想像しようがないので、一気にまくしたててしまった。


 「この世界とは、この星だけでなく、この星の空から見える全ての空間を含んで全ての場所だ。その何処にも、我が祖国は存在しない。全く、別の世界から私たちは来たのだ」


 あまりの現実感の薄い話に、もっと惚けてやろうかとも思ったけれど、ライトノベルの愛読者である俺の脳裏には、今の話にピッタリの概念が思い浮かんでしまったのと、俺の方を見つめて思いの外、大きなダメージを負ったような肩をおとしてヨロヨロと俺のベッドの方へと戻ってくる姫様が気の毒で、俺は、しかたなく、おそらくは正解であろう言葉を返してやった。


 「異世界ってコト?」


 その瞬間、俺は、ファンタジーの世界に足を一歩踏み入れてしまったのだった。


・・・

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