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Lip's Red - 姫様と緋色の守護者  作者: kouzi3
第1章 異世界との邂逅
7/39

(6) 筆頭従者の嘘

・・・


 抜かれた後って、ちょっとヒリヒリというか痛いよね。

 もちろん、カテーテルの話だけどさ。体はまだ痛むけど、術後の体力低下を防止するためにも、できるだけ早めに立ち上がって歩いた方がいいんだって。寝たきりだと、足なんかすぐに細くなっちゃうらしい。で、アレの先っちょに違和感と若干の痛みを覚えながら、姫様が「ラサ」とか言う奴を連れに行っている間に、点滴をお供に、立ち上がってトイレをすませておくことにした。さっきカテーテルを抜いたばっかりだし、寝ている間に水分をとったりはしてないんだけど、点滴してると、トイレ近くなったりするのかな。ま、もともと、少しトイレ近いんですよ俺。


 トイレへの行き帰り、なんだか黒い服を着た人が多いなぁ…なんて思いながら、自分の病室へ戻ると、姫様と一緒に見覚えのある壮年の黒服がベッドサイドに腰掛けていた。二人が何か言い合っているようなので、俺は病室へ入らずに中の様子をうかがった。


 「だから言ったではありませんか。もう少し、よくお考えになってから、選定の儀を行うようにと」

 「だが…私は…」

 「姫様は、守護者(ガルディオン)を持つということの意味を、どのようにお考えなのでしょうか。従者(ヴァレッツ)達も、かなり動揺しているようですので、筆頭従者(ヘッダテンド)として、私も姫様に確認をしなければなりません」

 「…すまないと思っている」

 「いえ。詫びていただく必要はございません。我々は、全員、自ら姫様の従者となることを選んだ者ばかりですから。姫様のご決定には黙って従うのが務め。しかし…忘れないで下さい。だからこそ、従者達は…」

 「わかっている。ジン達にも、後で直接、私の口から説明をする。ラサも、その時まで待ってくれるか」

 「・・・待ちます。我々は、姫様が物心つく以前から、ずっと待っていたのですから。その日を」


 何だか分からないが、とても真剣な話なんだということは俺にもわかった。昨日からの話には、おかしな点も多く、先ほど姫様も嘘をついているということを半ば認めたのだけれど、今の会話を聞いた限りでの判断だけれど、それでも彼らが悪人では無いんだなとは感じた。まぁ、大人しく理由を聞こうかな。まだ、被害にあったわけでもないしね。ラサと呼ばれている黒い服の壮年の男は、少しだけ口調を軟らかくして、姫様に背を向けて話を続けた。


 「悔しいですが、選択の儀は効力を発しました。微かにですが、姫様とあの小僧をつなぐ要素(ルリミナル)の道が繋がったのを感じます。どんなに、従者達が嘆こうと、もう切り離すことはできません」

 「うん。私も感じているよ」

 「…となれば、姫様のお命をお守りするのと、あの小僧の命を消さぬよう立ち回ることは、我ら従者にとって、当然の仕事です」

 「頼む」

 「だから、そこで盗み聴いている小僧。今から、私が全てを話してやるから、こっちへ来て座れ」


 あ。気が付いてたのね。バツが悪くて、愛想笑いを浮かべながら病室に入る俺。


 「えーと、初めましてじゃないよね?あんた、昨日の人でしょ?」

 「ふん。憶えているのか。そうだ。我が名はラサ。ラサ=クロノ=ロストだ。姫様の筆頭従者を務めている」

 「俺は、緋宮 護(ひみや まもる)。小僧でもいいけどさ。できたらマモルって呼んでくれよ」


 片眉を上げながら嫌そうに俺を睨んで、オッサンは話を続けた。


 「マ…小僧。貴様、姫様の話を嘘だと言ったそうだな」


 ちぇっ、小僧のままかよ。と思いながら「ああ、だって嘘なんだろう?」と俺は返す。

 「嘘が少しも無いとは言わないが…姫様の話の多くは真実で構成したハズなのだがな。どこを嘘だと思ったのだ。説明をするにしても、まずは逆にそこを確認しておきたい」


 え?まさかの逆質問?黙っていれば、普通に説明を聞かされてスッキリできると思い込んでいた俺は、ちょっと戸惑った。というか、点滴の棒を支えに立ったままってのは、とても疲れるんですけど、俺のベッドに寝ちゃだめなのかな?

 俺の様子を黙って見ていた姫様が、「ラサ」と声をかけ、俺がベッドに戻れるようにはからってくれた。話しやすいように、ベッドの枕の側を、ハンドルを回して斜めに持ち上げながら、オッサンは俺に、答えを早く言えと目線で促す。

 えっと、まず、姫様が暗殺されそうになってたことは間違いないよな。白いワゴン車が突っ込んできてたのも、関係あるのかな?…俺が銃で撃たれたってのは、こうして今、手術を受けて病院にいるわけだから、これも間違いないし。

 いや、待てよ…。相手の男達、銃なんか持ってたか?なんか、指鉄砲みたいに手の形をして、その指先が光ってなかったっけ?


 「えっと、まず、俺…銃に撃たれたんじゃないよね?」

 「ほう。どうして、そう思う」

 「いや、一瞬だけだったけど、相手の男達の手元、見たような記憶があるんだよね。それに、銃声を聞いた憶えもないし。体に傷を負ったことは、すんげぇ体が痛いから間違いないって分かってるけど…銃じゃ…ないよね?」

 「ふん。あの一瞬に、偶然落ちてきたと主張している割には、冷静に状況を確認していたみたいなことを言うじゃないか。これは、少し、小僧のことを見誤っていたかな?」

 「あ。いや、ハッキリ憶えているわけじゃなくて、なんか、断片的に、そういう映像が思い出されるって言うだけなんだけど」

 「アレは、この国ではあまり知られていない、指先用の武器だ。小僧、貴様が理解しやすいように銃と表現しただけだ。それだけか?」


 嘘だな。と思いながらも、不安そうに見ている姫様と、必死で嘘を繕おうとしているオッサンの顔を立てて、俺は「へぇ。すごいね」と気のない返事をしながら、考える。

 最初に、嘘だと思ったのは、まだ俺の先っちょにカテーテルが繋がっていたときに話していた時の会話のとおり、「マスコミが大々的に報道」という部分の白々しさだ。テレビっ子の俺は、テレビのワイドショーとかモーニングワイドとか、その手の番組で何度も見てる。あのタレントとこのタレントがくっついたの離れたのとかいう下らないネタから、善人を絵に描いたような誠実そうな政治家が裏で巨額の献金を受け取っていたなんていう「またかよ…」という事件まで、いろいろな事件が「大々的に」なんていうレベルで報道される時には、かならず新聞記者やテレビのレポーター、雑誌のライターなんかが、勢揃いで当事者の所へ詰め寄るはずなのだ。


 「取材…来てないよね?」

 「来たぞ」


 え?即答かよ?神経図太いな、このオッサン。


 「嘘だよね。オッサンも『取材』の意味、分かってないよね。今、オッサンや姫様が、こうして俺と、普通にこの病室にいる時点で、もう不自然なんだよ」

 「小僧が重症だから遠慮してもらってるって説明じゃダメなのか?あと、他の従者達に足止めさせてる」

 「おぉ。オッサン、頭良いな。何だか、納得しちゃいそうだよ」

 「大人しく納得しとけ」

 「でもさ、あの業種の人たち、そんな大々的にネタになるような事件で、遠慮なんかしないよ。仮に、従者のみなさんが、どんなに優秀でも、窓の外が騒がしくないなんてことは、ないと思うんだ」


 チェックメイトかな?


 オッサンは、左の口の端を、ちょっとだけ持ち上げて鼻から息を吐くと、姫様に振り返り、肩をすくめて頷いた。


 さて、真実とやらを聴かせてもらおうかな?暗殺が事実だとしたら、逆に、大々的に報道されてないことが不思議なんだ。

 俺は、オッサンの重そうな口が開くのを黙って待った。


・・・

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